【岩上安身のニュースのトリセツ】東部ウクライナ避難民の大多数が「侵略者」扱いされているロシアへ逃げこむ!――黙殺を決め込む西側各国の政府・主要メディア(IWJウィークリー67号より) 2014.10.3

記事公開日:2014.10.3 テキスト
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 ウクライナの停戦は、9月5日から始まった。この停戦が、恒久的な和平への第一歩となるのか、あるいは、「停戦」後にいつもそうされてきたように、一方、あるいは双方によって破られるのか、まだわからない。

 ウクライナ東部での戦闘は、今年4月から、約5ヶ月間に渡って続いた。国連の発表によると、戦闘での死者は3000人を超えた。そこにはもちろん多数の非戦闘員、女性や子供、老人が含まれている。ウクライナ軍による空爆は、無差別的に住宅地や学校に対しても行われたからだ。自国の政府が、自国民に対して無差別爆撃を加えてきたというこの「異常」を、まず直視することから始めなくては、この問題についての議論はスタートを切れない。

米国政府からも抑制を求められるに至った、ウクライナ政府軍による常軌を逸した攻撃

 ウクライナ軍は、※白燐弾を使って住宅地を攻撃したとも言われている。白燐弾は、人体に深刻な被害を与える「非人道的兵器」とみなされている。2004年のイラク戦争でアメリカが使用したほか、2009年のイスラエルによるガザ攻撃の際にも使われた。

※デジタル大辞泉参照より

 白燐弾は国際条約等で明確に禁止されているわけではないが、非戦闘員である一般市民に対して使われたとなると、許しがたい行為である。

 常軌を逸したウクライナ政府軍による住宅地に対する爆撃行為は、これまでバックアップし続けてきたアメリカ政府からも抑制を求められるレベルに至った。

 それまでアメリカ政府はウクライナ軍による空爆を「国家防衛」として擁護し続けてきたが、8月15日、ドネツクでの大規模な爆撃で少なくとも70人の民間人が死亡したことを受けて、アメリカ国務省のマリー・ハーフ副報道官は、ウクライナ軍に軍事行動を抑制するよう呼びかけたという。ハーフ副報道官は次のように述べた。

 「市民、地元住民たちの死傷者を最小限にするために自制することが大事だと、私たちは強調しました。ウクライナの人々に、分離主義者から都市を解放しようとする際に地元住民を避けるようあらゆる手段を講じるよう呼びかけました」。

 だが、ハーフ副報道官は、同時に、ウクライナ周辺のNATO軍が増えていることも強調した。評判が一挙に悪化するような、あまりにも非人道的な無差別爆撃は控えるべきだと米国は一応、ウクライナをたしなめる。しかし、NATOによるロシア包囲は解がない。臨戦体制は継続する、という。

100万人を超える東部ウクライナの避難民は、どこへ向かって逃げているか

 9月2日の国連難民高等弁務官事務所の発表によると、ウクライナ東部から国内外へ避難した住民は100万人を超えた。難民登録をしていない人もいるため、実際にはもっと多くの人が避難しているとみられる。

 注目すべきことは、先述したように、その避難民の行き先である。ウクライナのキエフ政権は、ドネツク、ルガンスクの分離独立派住民を「敵視」するだけでなく、隣接するロシアに対して、「ロシアはウクライナを侵略している」と口をきわめて非難してきた。

 それが事実なら、外国の侵略にさらされている国境近辺の住民は、ロシアとの国境線からひたすら遠ざかる方向へ、すなわち、ウクライナ国内の西方へと、逃げるだろう。

 だが、実際に起きていることはまったく違う。100万人を超える避難民のうち、その大多数は東方へ、すなわちロシアへ向かって避難しているのだ。国境を超え、ロシアへと逃れる人の数は、今年に入ってから73万人を数えた。ロシアには585の避難施設があり、ウクライナ人はビザなしで滞在できる。

 ウクライナ東部の住民は、キエフの自国政府の軍隊に空爆され、国際的には「侵略者」扱いされているロシアへと逃げこんでいる。この現実をウクライナ政府はもちろん、西側各国の政府も主要メディアも直視して、伝えようとしない。誰が誰を追いたて、誰が受け入れているのか、一目瞭然であるにもかかわらず、である。

 さらに、ロシアへ逃れたのは一般市民だけではない。8月4日、ウクライナ軍の兵士約438人がロシアに向かった。ウクライナ軍兵士の逃亡ははじめてのことではないが、人数としてはこれまでで最大規模だった。

 ロシアに逃亡した兵士たちは、口々にこれまでの境遇のみすぼらしさについて語った。

 「あちら(ウクライナ)では非常に悪い状況だった。暑く、多くの人が死に、多くの悪いことが起こった。皆ここでは休める。彼らは私たちに身体を洗わせてくれるし、新しい服もくれる。感謝している」。

 「我々は6ヶ月以上闘ってきて、とても疲れたんだ」。

 「穏やかに過ごしたい。私の契約は4ヶ月も前に切れていた」。

 以前も伝えたとおり、ウクライナ軍では物資は極端に不足しており、石けんまでもが不足していて国民に寄付が呼びかけられていたほどだった。

 こうした基本的な物資の不足は相変わらずで、前線では、燃料も、食糧や水も足りていなかった。さらには、司令官からの明確な指示さえ欠如していた。そうしたなかで兵士たちが士気を失うのは当然のことであると思われる。

 彼らには闘う理由があるだろうか? ある兵士はこう語る。

 「ウクライナ国民は、はっきりした理由もなしに、殺し合っている。どちらの側も同じ国の国民なのに」。

「侵略者」扱いしていたロシアの人道支援を、ウクライナが公式に人道支援と認める

 ウクライナはこれまでロシアから天然ガスを輸入し、エネルギー面で全面的にロシアの天然ガスに依存してきた。だが、料金の未払いが続き、ロシアは前払い方式を提案した。ウクライナはこれに合意せず、今年6月にガスの供給は停止された。

 8月に入ってからは、首都キエフでさえ、ガスを節約するために半数の住民がお湯なしの生活をしているという。また、東部のマリウポリでもお湯が止まっていた。

 問題はこれからだ。夏が終わった。秋は短く、すぐ冬がやってくる。厳寒のウクライナで、暖房なしでどうやって人々は過ごすのだろう?

 好戦的なキエフ政権によって、結局のところ苦しめられているのは、ウクライナ国民ではないのか? ユーロマイダン以降、ウクライナ国民の暮らしは少しでもよくなっただろうか?

 こうした状況のなか、8月12日、ロシアからウクライナに食糧や衣料品などの支援物資を届けるためのトラック280台が派遣された。しかし、これらのトラックが軍用なのではないかという疑いをキエフ政府や西側諸国・メディアからかけられ、当初、入国許可が保留された。

 ロシアのラブロフ外相は、「住民たちが人道支援を強く求めている」ことを強調し、「違法行為はないと考えている」と述べた。 

 これらのトラックには、医療品、食料品、乳幼児のための食料、寝袋、暖かい衣類、その他の日用必需品が積みこまれていた。12種類の物資で、合計1856.3トンの重さである。

 トラックが国境を越えた際、「ロシア軍の装甲車両が越境した」「戦闘が始まった」などと、キエフ政府も西側も大騒ぎを繰り広げたが、ふたを開ければ「空騒ぎ」で、8月16日になってウクライナの社会政策担当大臣は、トラックの積荷が人道的支援物資であることを認める公式文書を発表した。

 しかし、「ロシアの侵略」についての「幻影」の情報は騒々しく大々的に報じられたにもかかわらず、それを訂正する、今回のような発表は、世界のどこでもほとんどまともに報じられない。

 支援物資は8月下旬に住民たちに届けられた。そして、9月13日に第二弾の支援トラック約200台がウクライナに入り、ルガンスクに向かった。ルガンスクにトラックが到着したときの様子を、イタルタス通信は次のように伝えている。

 「ルガンスクの住民たちは、朝から人道支援のトラックの到着を待っていた。彼らは外に出て、ロシア緊急事態省のトラックを歓迎した。多くの人々が泣いていた」。

 さらに、そのレポートは、身動きのできない住民の状況について、こうレポートしている。

 「一ヶ月以上水がなかった住民にとって、5リットル容器に入った飲料水はとりわけ喜ばしかった。この街では、電気も通信手段もない。電話は市内通話のみが可能な状態である」。

 第二弾のトラックには、食料の他に、発電装置、浄水装置なども積まれていた。ウクライナ安全保障委員会のリセンコ報道官はロシアのトラックが国境で検査を受けなかったと述べたが、ロシア保安局はそれを否定し、ウクライナ側から十分な協力が得られたと言っている。いずれにしても、物資は無事に住民のもとに届き、トラックは無事にロシアへと帰って行った。

 さらに9月20日には、第三弾の約200台の支援トラックがドネツクに到着した。だが、今回は無事ではなかった。支援物資の荷下ろしの最中にミサイル攻撃を受け、死傷者が出たと報じられている。

プーチン大統領が描いた「平和プラン」

 ポロシェンコ大統領が「停戦宣言」を出す少し前、プーチン大統領はウクライナの平和のための7つのプランを素描し提示した。移動中に手書きで書いたというメモには、次のプランが示されていた。

1.ウクライナ南東部、ドネツク、ルガンスク地域における軍隊、戦闘員、国民軍による戦闘行為を終わらせること

2.大砲や様々なロケット弾によって居住地を攻撃することがないよう、ウクライナ軍を遠方に撤退させること

3.全面的で国際的なモニタリングによって、停戦に従っているかを監視し、停戦によって安全が実現しているか状況を確認すること

4.戦闘地域での市民や居住地域に対する戦闘機の使用をやめること

5.軍によって拘留された個人について、無条件で「全面的な」交換を行うこと

6.ドンバス地域[注:ドネツクとルガンスク地域のこと]の居住地域や街への人道支援物資輸送や避難民のため人道的交通路を開くこと

7.社会的設備や人命維持のインフラを修理し再構築するため、そして冬に備えるため、損傷の修復のための修理団をドンバス地域に送ること

 一般的で常識的なプランに見えるが、ウクライナのヤツェニュク首相はこれを、「NATOサミットを前にして国際社会をごまかそうとするものであり、ロシアに対するあらたな制裁についてEUが行う決定を避けようとするものだ」と激しく非難した。

 さらに、「ロシアが狙う真のプランはウクライナを破壊してソビエト連邦を復活させることだ」と、妄想としか思えない発言をした上で、ポロッと、うかつにも「本当のこと」を口にしてしまった。

 「われわれは、どのようにして侵略国を止めるのかについて、NATOとEUの決定を待っているところだ」

 まかりなりにも主権国家の首相であることをまるで自覚していない、指示待ち発言である。彼が誰の操り人形か、およそ推察がつく。

 しかし、おそまつなヤツェニュク首相の反発にもかかわらず、この7つのプランが提示された直後の9月3日にプーチン大統領とポロシェンコ大統領との電話会談が行われ、ウクライナは停戦に向けて動き始めた。

真の「停戦」ではなく、あくまで「停戦状態」

 キエフ政府は、9月3日、停戦に関する声明を発表した。だが、その後、表現が訂正された。あらたな発表では「停戦体制」という表現が用いられている。これは停戦が永続的なものではないことを示している。

 また、「ウクライナとロシアとの間」で「停戦合意」がなされたという報道がされたが、これも正しくはない。ロシアは一貫してウクライナの戦闘に関わっていることを否定してきたからであり、戦闘の「当事者」ではないからだ。

 プーチン大統領自身が、「率直に言って、われわれは、キエフとドネツクとルガンスクの交渉に関わる停戦について議論を組み立てることはできない。これはわれわれの問題ではなく、ウクライナの問題だからだ」と述べている。

 9月5日に停戦が開始された。停戦後も東部のいくつかの地域で砲撃が行われたが、概ね停戦は遵守されている。捕虜の解放も進んでいると報じられている。

NATOサミットの開催

 さて、ウクライナの停戦合意の協議と同時期の9月4日と5日に、イギリスのウェールズではNATOサミットが開催されていた。ウクライナはNATO加盟国ではないが、会議にはポロシェンコ大統領が「お呼ばれ」し、わざわざその場で停戦を発表したのである。NATO首脳はこの発表を歓迎した。停戦の発表は、手土産だったのだろう。

 NATOはこれまで、ウクライナの紛争に対して直接的な軍事介入は行っていない。ロシアを「威嚇」するためにバルト海近辺で軍事演習をしたり、増兵したりするのにとどまっている。

 だが、ポロシェンコ大統領は、NATOサミットで重要なことを漏らした。NATOの加盟国がウクライナ軍に高性能兵器を提供していると述べたのである。彼は、その国がどこかは言及しなかったが、ガーディアン紙は、それがアメリカやイギリスやポーランドだと暗に述べている。

 ガーディアン紙は次のように書いている。

 「ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領と親ロシア派分離主義者のリーダーの一人が金曜日に停戦命令に合意したことを受けて、NATOの首脳陣は、慎重にだが、5ヶ月に渡る紛争の明確な進展を歓迎した。だが、休戦について慎重な楽観主義を表明したポロシェンコは、NATO関係者の不意をつき、暴露を行った。それは、NATOはウクライナに武器提供していないが、少なくとも一国(どの国かは言わなかった)がキエフ政府に高性能兵器を提供しているという暴露だった」。

 「彼は関わっている国の名前は言わなかったが、比較的少ない数の国々だと述べた。アメリカ、ポーランド、そしてイギリスでさえも、必要な武器を持っており、またウクライナに対してシンパシーも示している」。

 NATO諸国はこれまで、ロシアがウクライナの親ロシア派勢力に加担していると非難し続けてきたが(ロシアはそれを否定し続けている)、NATOはNATOでウクライナ軍にひそかに協力し、高性能な兵器の提供まで行ってきたことが、明らかになったわけである。

 暴露におよんだポロシェンコの真実は不明である。十分な武器や経済的支援が行なわれなければ、西側諸国が裏側で何をしてきたか、明るみに出すぞ、という脅しのつもりだったのかもしれないし、ヤツェニュクと同じく、うっかり「本当のこと」を口にしてしまったのかもしれない。

 ポロシェンコのアピール(?)が功を奏したのかどうか、わからないが、NATOのアナス・フォー・ラスムセン事務総長は、ウクライナの軍事改革のために1500万ユーロを援助すると述べた。邦貨にしてである。

 重ねて言うが、ウクライナはNATO加盟国ではない。ロシアが人道支援物資を提供したり停戦のプランを提案しているあいだに、NATOは「軍事改革」のために莫大な資金を提供しようというのだ。そもそも、なぜウクライナに「軍事改革」が必要なのだろうか? 紛争を終わらせるのではなく、なぜいつまでも自国政府が自国民を空爆し、殺し、隣国との緊張を高め続けるつもりなのだろうか?

 ポロシェンコ大統領は、サミット後の9月8日、次のように述べた。

「われわれが防衛し勝利するために、NATOの数カ国から近代兵器の直接的な供給を受けることで合意した。われわれは、我々自身だけを頼りにしているのだが、資金面や軍事技術面の援助は非常に重要だ。それを手にすることになる」。

 ポロシェンコ大統領は得意気にこのように語ったが、アメリカ、ポーランド、カナダは慌ててこれを否定し、フランスはコメントを控えた。ポロシェンコ大統領はまだNATOのマナーは知らないのかもしれない。

NATO即応部隊の発足、ウクライナのNATO演習参加

 また、NATOサミットでは、「即応部隊」の新設が決まった。イギリスのキャメロン首相の「われわれはもっと迅速に行動できなければならない」という呼びかけにより、「2日から5日の期間で世界中どこにでも多国籍軍の配備ができる」、4000人規模の部隊がつくられることとなった。4000人のうち1000人はイギリスから派遣される。まずはバルト海に配備される予定になっている。

 ガーディアン紙が「ロシアの侵攻が起きた場合はバルト諸国を強化するために48時間以内に軍隊を配備することができる」と書いているとおり、当面はロシア対策であると考えられる。

 わけがわからないのは、なぜロシアがバルト三国に「侵攻」しなくてはならないのか、その理由である。ソ連の崩壊にともない、バルト三国が独立してすでに四半世紀近く経つ。バルトとロシアの「離縁」もずい分前のことで、とっくに落ち着いた話だ。欧露はあらたな安定的関係をこれまでに築いてきたはずである。何を急に大あわてで、騒いでいるのか。

 さらに、米国が主導するNATOは加盟各国に軍事費負担を増加させるよう要求した。各国のGDPの最低2%を防衛費にあてるよう求めたのである。これもまた、ロシア対抗策のためとみなされている。だが、ドイツはそれに不満を示した。ドイツのウルズラ・フォン・デア・ライエン防衛大臣は9月8日、ドイツはその要求に従わないとはっきりと述べた。

 NATOサミットの直後、9月8日には黒海でアメリカ軍とスペイン、カナダ、ルーマニア、トルコ、そしてウクライナの共同演習が行われた。つまり、ウクライナ軍は停戦の合間に、NATOの演習に参加させてもらったのである。演習を指揮するジェームズ・エイクン大佐は「われわれは地域の安定と海上の安全を促進し、国際的な海軍パートナーシップを強化し、パートナーや同盟国のあいだの信頼を醸成することにフォーカスしている」と述べた。

 米国のこうした積極的な態度を見ていると、ロシアが自らの「勢力圏」とみなしてきた黒海で、米軍は一戦まじえてでも、ロシア軍が南へ、つまりは中東へおよぼす影響力をそぎ落とそうと狙っているように思えてならない。

ロシアへの経済制裁は何を生み出すのか

 ウクライナの停戦開始後、EUはロシアへの追加制裁を決めた。欧州理事会のヘルマン・ファン・ロンバイ議長の言葉によると、この追加制裁は、ロシアのウクライナに対する行動を改めさせることが目的であるという。あらたな制裁は、ロシアの国営石油企業がターゲットになるとみられている。これに対し、ロシアのメドヴェージェフ首相は、そのような制裁がなされるのであれば、ロシアはヨーロッパ向けエアラインの空路を閉鎖すると宣言した。現実になれば、ユーラシア大陸上空の飛行機の運航は大混乱に陥るだろう。

 前回の経済制裁は、マレーシア機撃墜事件が起きた前日の7月16日に始められた。エネルギー企業、防衛産業部門の企業の金融活動を制限するという内容だった。

 これに対し、プーチン大統領は対抗策を発令した。8月6日、欧米や日本に対する農産品の輸入を禁止あるいは制限する大統領令に署名したのである。期間は1年間である。

  • 共同通信 2014/8/6 「ロシア、農産物輸入を1年制限 対ロ経済制裁国、日本も対象か」(該当記事削除)

 この大統領令にかぎらず、ロシアは、世界経済から締め出されないための手を着々と進めている。中国との関係を深めつつあるほか、イランとも協力体制を作り出そうとしている。ロシアはイランで計画されている20基の新しい原子力発電所の建設事業に参画する準備を進めている。

 ロシアは、原発輸出に精を出そうとする日本の原子力産業のライバルとなってゆくのだろう。片やチェルノブイリ、片や福島で破滅的な原発事故を引き起こしておきながら全世界に厚かましくもその「事故の元」を売りつけてゆくわけである。

ロシアと中国による「非ドル化」計画にイギリスが加わった

 世界が2つの陣営に分かれるとしたら、原発の輸出先マーケットも二分され、日本とロシアのそれぞれの原子力産業は、バッティングすることはないかもしれない。しかし、基軸通貨の覇権をめぐっても争うとなると、「西側」へも影響は避けられない。

 ロシアは、貿易取引をドル以外の通貨で行う「非ドル化」計画を進めつつある。例えばロシアの大きな輸出品目である天然ガスの取引はこれまでドルで行われてきたが、その通貨をルーブル建てなどに変更するというものである。すでにロシアの銀行などは、その準備を整えている。

 この「非ドル化」計画は、春頃には空想の話のように思われていたが、すでに実行に移されようとしている。6月末、ロシア産業貿易省のカラマノフ次官は、ロシアと中国の取引をルーブルと人民元の決済に移行すると発表した。ロシアと中国は今年5月に、30年間の天然ガスの輸出の契約を締結している。総額は4000億ドル、約40兆円と見込まれている。この取引もルーブルと人民元が使われることになる。これまで不動の基軸通貨だったドルが、貿易決済の一角から締め出されることになるわけだ。

 さらに、8月8日には、ロシア中央銀行と中国人民銀行が通貨スワップ協定案で合意したことが発表された。

 ここ10年あまり世界経済を牽引してきたBRICsの二国が、経済面で手を組んだ。これは輸出制限などの短期的な「経済制裁」とは異なり、今後の世界経済に大きな影響を与える可能性がある。アメリカやEUによるロシアの封じ込めの「代償」として、これは十分すぎる重みをもつだろう。

 ドルは、1944年のブレトンウッズ協定によって基軸通貨となり、今日でも世界中の取引でドルが使用されている。アメリカの財政が赤字となっても、ドルが基軸通貨であることによって、アメリカは常に世界経済の中心にいた。だが、貿易におけるドル離れはアメリカの基軸通貨国としての優位性を危うくさせる可能性がある。

 世界がドル圏と非ドル圏に二分されていくとどうなるのだろうか。その地図はすでに見えている。ドル圏としてとどまるのは、現在協議中のTPPとTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)に加わる国々だろう。さらには、ドル圏/非ドル圏は、NATO加盟国と日本、そしてロシアや中国からなる上海協力機構という軍事同盟とも重なり合っている。

 これは世界のブロック化に見える。だが、グローバル化した世界経済はそれほど単純ではない。

 意外なことに、「西側」で最初の「裏切り者」が早々に現れた。それも驚くべきことに、イギリスである。イギリス政府は西側諸国で初めて、人民元建ての国債を発行することを決定し、この9月に発表した。第6回中英経済財政金融対話の閉会後に記者会見した英国のオズボーン財務相は、「2011年には、わが国を西側諸国における人民元取引の拠点にすることを個人的な優先課題に設定していた」と発言した。

ロシア制裁に対するEU内部からの反発

 EUのロシアに対する経済制裁に対する反発も出ている。ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は、ロシアに対する経済制裁は「自分の足下を撃っている」ようなものだと述べ、見直しを求めた。フィンランドのニーニスト大統領も、制裁が自国にインパクトを与えていることを認めている。また、イタリアの政党「北部同盟」のマッテオ・サルヴィーニ党首は、経済制裁の撤回を求め、自身のFacebookに次のように書いた。

「ブリュッセルとローマでロシアに対して経済制裁を課すと決められるのは、馬鹿だけだ。10億ユーロ以上のイタリアの農作物を送り返されることになる。誰がわれわれの農家に支払うのか? レンツィか、メルケルか?」

 サルヴィーニ氏は、イタリアのレンツィ首相が、オバマ大統領とドイツのメルケル首相を喜ばせるために自国の経済を破壊しようとしていると言うのだ。

 一方で、ロシア人は、ロシアに対する制裁でさして影響を受けていない様子である。8月中旬に行われたアンケート調査に対して、92%が何の影響も感じていないと回答した。さらには45%の人々は、制裁の具体的な内容を知らなかった。

EUとの連合協定

 9月16日、ウクライナ議会は、EUとの連合協定を批准した。因縁の協定である。昨年11月に当時のヤヌコヴィッチ大統領がこの連合協定への署名を延期させたことによって、キエフでは激しいデモがおき、それがヤヌコヴィッチ政権の転覆へとつながっていった。

 したがって、親EUの現キエフ政府にとって、連合協定の批准は非常に重要なものとして考えられているはずだ。多くの人々が、これをウクライナがヨーロッパに含まれる第一歩としてとらえている。だが、実際は少し事情が違うようだ。

 今回批准が行われたが、実際に適用されるのは2016年はじめからである。これはロシアによって「大きな外交的成果」だという見方がある。

 EUの貿易担当カレル・デ・ヒュフト氏は、次のように述べた。「来年末まで暫定的な適用を遅らせること、および、自主的貿易方策を延期することで合意した。これによって、あらゆる起こりうる問題について議論する余地が与えられ、2016年1月1日以降にどうするかは、関係三者次第となる。そのときまでに、われわれが解決策を見出だすことを望む」。

 今後、ウクライナからEU市場への輸出には関税が掛からなくなる。また、2016年までの延期の期間、ロシアはウクライナに対して輸出関税を設定しないと約束した。

 ウクライナはEUに近づいているように見えながら、連合協定適用の延期によって、ロシアとの関係を維持するという選択肢もまだ残していることになる。

ウクライナ東部に自治が与えられる

 さらに、EUとの連合協定批准と同時に、ウクライナ議会で、ドネツクとルガンスクに制限付きの自治を三年間与える法案が通過した。また、反政府勢力として闘った親ロシア派に恩赦が与えられた。これは親ロシア派に対する大きな譲歩であると考えられる。

 これに反発しているのが、右派である。極右政党であるスヴォボダ党のオレフ・チャフニボク党首は、「今日、降伏が発表された」と述べた。また、「祖国」党の一人は「議会の恥」だと言った。

 議会の外の右派グループはもっと率直に怒りを示した。18日に、抗議の集会を開いたり、約300人の右派グループが大統領官邸を囲んで脅迫したりした。その脅迫というのは、ポロシェンコ大統領が「ヤヌコヴィッチ大統領と同じ運命になる」というものだ。つまり、大統領の座から引きずり下ろされ、国外追放されるということだ。

 右派セクターのリーダー、ディミトリ・ヤロシュ氏は、こう吠えた。

 「ポロシェンコが目を覚まさないかぎり、われわれはウクライナの新しい大統領、司令官を選ぶ。それが可能なのかと疑う者がいるならば、ヤヌコヴィッチに聞いてみろ。不可能なことが起きうるのだと証明してくれるだろう」。

ポロシェンコ大統領のアメリカ訪問

 さて、EUとの連合協定批准と東部への自治法可決を終えたポロシェンコ大統領は、アメリカへと向かった。

 ポロシェンコ大統領はアメリカ議会で演説を行い、次のように述べた。

 「われわれはもっと多くの軍事装備を必要としている。致死的兵器も非致死的兵器も、両方が必要だ。早急に」。

 この発言をアメリカの議員たちは温かく受け入れた。大きな拍手が起こり、スタンディング・オベーションまで起きたのである。ポロシェンコ大統領はこう続けた。

 「毛布や夜用ゴーグルも必要だが、毛布で戦争には勝てない。さらには、毛布で平和は維持できない。平和を維持するために、われわれは十分に強くなければならない。あなたたちのおかげで、われわれの連帯のおかげで、われわれが強くなることは、間違いない」。

 だが、議会による「歓待」にもかかわらず、オバマ大統領は、ウクライナ政府に武器を与えることは公式には認めなかった。ポロシェンコ大統領は、アメリカ訪問の成果はあげられなかったことになる。

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