10月10日夜7時過ぎより、「急速な円安は『アベノミクス』の経済的帰結!? 黒田日銀総裁の任期は残り半年! 円安、株安、国債売りの『トリプル安』に陥った日本の出口戦略は?」と題して、岩上安身によるエコノミスト・田代秀敏氏インタビュー第3弾を生中継配信した。
冒頭、岩上安身が、2022年の急激な円安の状況を振り返った。
アベノミクスの帰結として急激な円安が起きており、円の実力は1972年レベルまで下落していること。
エネルギー資源高などによる輸入インフレに、円安が拍車をかけて、輸入価格が高騰し、物価が上昇しつつあること。
ウクライナ紛争と対露制裁の影響が大きくなっていること。特に対露制裁に参加している欧米や日本で過酷なインフレが起きるなどの影響が強く出ている。対露制裁に参加していない国々は、割安のロシア産資源を購入して国内需要を賄い、エネルギー資源不足に悩む欧州に転売して大きな利益を得ている。
米国がインフレ抑制のために利上げを次々と行なっているために日米の金利差が拡大し、巨額財政赤字を抱えているために金利をあげられない日本は打つ手なく、円安が止まらないこと。
田代氏は、「日本は欧米諸国に比べると物価がそれほど上がっていない、さすが日銀、黒田総裁」という声もあるが、それはあくまでも消費者物価の話に過ぎない、と指摘した。
田代氏「『まだ日本は、アメリカや欧州、イギリスに比べて、物価がそれほど上がってないじゃないか』。消費者物価のところですね。『さすが黒田総裁だ』という意見もあるんですが。これはどうしてかというと。
もう既に、企業卸売物価指数は、もう空前の上昇をしているんです。私が調べた限りだと、戦後5番目に高い上昇をしているわけです。大体、前年同月に対して20%くらい上昇してるわけですよ」
岩上「これは、戦後直後のインフレ、それから第1次、第2次オイルショックによるインフレ」
田代氏「第1次、第2次もそうですけど、それらを含めて、戦後5番目の高さにまで、企業物価は押し上げられている。それがまだ消費者物価に届いていないというのは、要するに、企業がコストの増加分を価格に転嫁できないでいると。
これは、いろんな調査があるんですけど、大体、価格転嫁が完全にできたと言っている企業は全体の8%ぐらいです。残りはなかなかできないでいます。怖くて。
もし、価格転嫁が起きれば、戦後5番目クラスか、それ以上のインフレーションが起きる。それが起きないとすると、企業がものすごい赤字を抱えているわけだから、今度は企業の倒産とか、それに伴う失業が発生するか。
今のところ、消費者物価はそれほど上がってないから、『日銀はさすがだ』と思っていると、いずれ。時間の問題なんですね。どっちかなんです。最終的にインフレーションをやるか、あるいは企業を倒産させるか」
岩上「いや、もう、どっちに行っても…」
田代氏「あともうひとつ、金利をあげる、それもあるんですね。金利を上げると、おそらく相当な赤字を今抱えてる、価格転嫁できないで大変な赤字を抱えている企業に、最後の刺激になるわけですね」
岩上「借り入れがあるところが大半ですから、借りているお金の返済の金利が上がってしまうと(苦しいと)いうことですよね? 毎月の返済負担が上昇して、それはそれで、もう、にっちもさっちもいかなくなるということですね」
田代氏「それがあるので。金利はあげられない。そうすると、円安を止める基本的な手段がない。2.8兆円突っ込んで為替介入しても、効き目があったのは休みの間だけで、連休明けになると、押し戻されてしまったから、わずか数日で、2.8兆円の効果は消えたということですよね」
ここで、田代氏が、日本の商品が日本と中国で売られている値段の比較を紹介した。
田代氏「どれくらい円安が進行してるか、というのを別の見方をしようと。日本でよく見かける商品が、中国ではいくらで売られているかを調べてみたんですね」
・「サントリーほろよい」…日本の楽天で119円、中国通販サイトで240~260円
・「獺祭純米大吟醸磨き3割9分 720ml」…日本の蔵元で2640円、中国の通販サイトで1万135円
・「日本まぐろ大トロ(冷凍)250g」…豊洲市場直卸通販で4800円、中国の通販サイトで7881円
田代氏「日本で1本119円の『サントリーほろよい』が、中国では1本240円から260円。関税も入ってるし、輸送コストも入ってるんだけど、でもすごいプレミアが付いているのが分かりますよね。みんな欲しいわけです」
田代氏は、3つの商品を例に、中国では、日本の人気のある商品が2倍から3倍といったプレミア値段で売られていると指摘した。
田代氏「簡単に言うと、これぐらい日本のものが中国でこんなに高く売れてるのは、もちろんひとつは、中国で人気がある。もうひとつはやはり円安で、元のコストはかなり抑えられているわけです」
岩上「日本から中国に持っていけば、日本の業者の場合、あるいは中国の業者の場合でも、向こうでかなり儲かる、ということが分かりますね」
田代氏「いかに円安が起きてるかと、こういう風に見てくると、(おいしいものは全部海外に持っていかれてしまい)、日本からおいしいものがなくなります。
銀座の有名なバーのバーテンダーさんで新潟出身の方にうかがったことがあるんですが、実は新潟ではお酒というと、アルコール添加の醸造酒しか飲まない。大吟醸は、東京大阪出荷用だと、高級だから。最初からそういう高級品は地元民は飲んだことはない、私も東京に来て初めて飲んだとおっしゃったんですよね。
多分それが今後は日本でも、マグロの大トロなんて東京で食ったことはない、上海で食べたことあるけど、中国人におごってもらいました、ということになりますよね」
田代氏はこれだけ価格差があれば、販売業者は、日本で売って円をもらうよりも、中国に売って人民弊で代金をもらった方がいいということになるから、と説明した。まさに「買い負け」である。
9月22日、政府・日銀は、1日の介入額としては過去最大となる円買い・ドル売り介入を行った。8月30日から9月28日の間までに行われた介入の総額は2兆8382億円だったとされている。この介入によって円は一時1ドル142円まで戻しましたが、週が明けると再び円安に転じ、10日間で145円まで下落しまた。
田代氏は、この介入は「藪蛇だったのではないか」と指摘した。
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