グローバル・ファシズム研究会主催による「『21世紀のグローバル・ファシズム―侵略戦争と暗黒社会を許さないために―』出版記念シンポジウムの2日目が、1月19日、東京都港区の港勤労福祉会館で開かれた。スピーカーの顔ぶれは、前日の大阪集会の時とは大幅に入れ替わっており、2日続けてマイクを握ったのは、前田朗氏(東京造形大教授)と木村朗氏(鹿児島大教授)だけ。いずれも、昨年12月に耕文社から発刊された同書の編・著者である。
最初に前田氏が、「昨年早春に、急きょ企画が持ち上がったにもかかわらず、23人もの執筆者が集まったことを喜んでいる」とした上で、前日と同様に、自分たちのメッセージが読者に届きやすくなることを狙って「グローバル・ファシズム」という言葉を使ったことなどを話した。一方の木村氏も、安倍政権による「改憲」の動きを止めるには、海外民意の動員を図ることが大事などと、前日同様の発言を行った。
東京集会のみの登壇者によるスピーチでは、「韓国や沖縄の住民パワーを、自分たちの市民運動に生かそうとしてきた」とした、ピースボート共同代表の野平晋作氏が「行き詰まり感」を表明したのに対し、上原公子氏(元国立市長)が「それは、他人のふんどしで相撲を取ろうとするからだ」と辛らつな言葉を口にする一幕もあった。
- 登壇者
野平晋作氏(ピースボート共同代表)/川内博史氏(前衆議院議員)/上原公子氏(元国立市長、執筆者)/清水雅彦氏(日本体育大学准教授、執筆者)/西野瑠美子氏(バウラック共同代表、執筆者)/木村朗氏(鹿児島大学教授、編者)/前田朗氏(東京造形大学教授、編者)
■21世紀のグローバル・ファシズム 大阪
- 登壇者
前田朗氏(東京造形大学教授、編者)/梅田章二氏(弁護士)/徐勝氏(立命館大学教授、執筆者)/崔勝久氏(原発体制を問うキリスト者ネットワーク共同代表)/下地真樹氏(阪南大学准教授、執筆者)/木村朗氏(鹿児島大学教授、編者)
東京集会のみの登壇者のうち、本の著者は3人。残る2人は、読者の立場でコメンテーターとして出席した。
コメンテーターとしてマイクを握った野平晋作氏(ピースボート共同代表)は、「ファシズムをいかに乗り越えるかという点では、自分の立ち位置を自覚することが大切」と切り出し、前田氏が同書の自分のプロフィール欄に「大和民族」と記したことを高く評価した。
「ピースボートは『地球市民』になることの重要性を訴えているが、それには、われわれ日本人が日本政府に対し、アジアへの過去の清算を強く求め、その清算を実現させることが前提だ。また、アイヌや沖縄の人たちにとって、私たちは、それぞれ大和民族と大和人(やまとんちゅう)であることも忘れてはならない」。
無関心ゆえの「似非リベラル」
その上で、こんなエピソードを披露した。遡ること約20年前。ピースボートで香港を訪れた折に、現地の高校生とピースボートの若い日本人たちが意見交換をした。そこで「尖閣諸島」が話題になり、司会者が「中国の領土であると思う人」と挙手を求めたところ、香港側のほぼ全員がこれに応じた。対して日本人側の大半は「どちらのものでも、かまわない」だった──。
野平氏は、その折の日本側の反応は「リベラル精神」に由来するものではない、と強調。「その時の日本の若者たちは、過去の歴史を知らなかっただけだ。石原慎太郎氏(維新の会共同代表)が、都知事時代に『三国人』と発言しても、国内に退陣を求める声が高まらなかったことの理由も同種だと思う」と指摘した。
野平氏は、福島原発事故や特定秘密保護法の成立といった、広く日本人が影響を受ける悪材料が存在している今、国民の間に「社会を正そう」とする機運が、いつになく高まっていることは認めている。しかしながら、「それでも、日本は変わっていない」と言明。「やはり、大多数の日本人は、今の暮らしに特に不都合を感じておらず、社会の問題には、それほど強い関心を抱いていないのだろう」とした。
野平氏は「これまで、韓国の民主化運動や、沖縄の米軍基地反対運動の力を、自分たちの市民運動に生かすことを信条にしてきた」と振り返った。「沖縄でいえば、やむにやまれず決起した県民パワーを、われわれの運動に活用して、本土の責任追及を行おうとしたのだ」。
しかし、今の韓国は、朴槿恵大統領の下で労働組合を弾圧するなど、とても手本になる存在ではなく、一方の沖縄も、「一昨年末の衆院選で、本土が安倍政権を誕生させてしまったがために、沖縄の民意は無視されている」とし、自分たちの運動の力不足が反映された形になってしまった、と表情を曇らせる。野平氏は「私の運動スタイルは、壁にぶち当たっている」と暗中模索の心境を吐露して、マイクを置いた。
真の「積極的平和主義」とは何か
本の著者である清水雅彦氏(日本体育大准教授)は、「日本国憲法の平和主義というと、たいていは9条の存在が指摘されるが、『憲法前文』が示す平和主義も非常に重要」と主張した。清水氏が指す前文の文言は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」だ。
清水氏は、9条平和主義は、日本が「戦争をしない」ことによって得られるものであるとし、これを「消極的平和主義」と呼ぶとした。一方の、前文平和主義については、「国内外の社会構造に根ざす貧困、飢餓、抑圧、差別などをなくすという意味で、これは『積極的平和主義』に当たる」という。
その上で、安倍晋三首相がしきりに口にする「積極的平和主義」は、これは前文平和主義とは、別次元のもの、と強調。「安倍首相と同じく、軍事力を使って行動を起こすことが『積極的平和主義』である、と主張する保守系団体は存在するが、平和学で言われている平和主義とは明らかに違う」と強調した。
無知を恥じることもない安倍首相
「安倍首相は、こうした違いを国民に対し、きちんと説明すべきだ」と語気を強める清水氏。「残念なことに、安倍首相は、昨年、民主党の議員から憲法に関する質問をぶつけられた時、『私は憲法の専門家ではない』と開き直っている」と指摘し、「あの年齢には珍しく、知らないということ に恥じらいを感じていないようだが、一国の総理大臣であるからには『憲法』に無知であってはいけない」と述べた。
清水氏は、日本はすでに、前文平和主義を無視した行動に出ており、これは「改憲」の先取りだと指摘した。「国連の人権理事会では『平和への権利』について議論されている。具体的には、2008年から(「平和への権利」を世界人権宣言的な国際法典にするための)促進決議が採択されているが、日本は決議に反対している。これは、明らかに憲法違反に相当する。憲法の前文では『平和的生存権』が記されているからだ。日本政府は、国際社会の流れに背を向けている」。
その上で清水氏は、一昨年4月に発表された、自民党の改憲草案は「憲法前文にある『平和的生存権』が削り落とされている」と指摘。草案では、集団的自衛権の行使容認と、国防軍の設置が明記されていることにも触れ、「自民党草案は、今の憲法を、まるで違うものに変える内容だ」と警鐘を鳴らした。
改憲への「地ならし」は静かに進められた
最後に清水氏は、この日の朝日新聞に掲載された、秘密保護法を巡る長谷部恭男氏(東大)と杉田敦氏(法政大)の両教授による対談を紹介。「長谷部氏は憲法の先生(杉田氏は政治倫理)なのに、『秘密保護法は必要』との立場で議論している。私は、国家権力制限規範である『憲法』を研究する者は、国民の権利を守ることを立ち位置にすべき、と信じている」とし、「自分は、今の憲法が、未来永劫このままでいいとは考えていない」と言葉を足しつつも、「国が、国民の知る権利に縛りをかけることに加担する憲法学者を、これからも批判していく」と宣言した。
「ファシズムは静かに舞い降りてくる」──。同じく本の著者である、上原公子氏(元国立市長)はこう話し、権力者は一般市民の日常の中に、巧みに「ファシズム」を注入する、と力説した。そして、安倍政権による「改憲」が現実味を帯びつつある今の日本の状況は、対米従属の国家権力が、何年も前から、静かに目立たないように、手を打ってきたことの結果だとした。
「安心安全」キャンペーンが日常の相互監視へ
上原氏は、出発点は小泉政権時代にある、と指摘した。「2001年の9.11の同時多発テロを大きなチャンスととらえ、憲法9条があるにもかかわらず、戦争法(有事関連3法)を成立させてしてしまった」。
その上で、2004年に成立した有事法制関連法のひとつである、自治体に住民を守るための国民保護計画づくりを義務づける、「国民保護法」に言及。「戦争も災害だと見なせば、自治体が行う防災訓練にも『有事の際、国民を機動的に動かす訓練』の性格を、併せ持たせることが可能」と力を込めた。
さらに上原氏は、「昨今の日本で、耳にしない日はない『安心安全』という言葉がくせものだ」とも。東京都千代田区で2002年に、いわゆる「タバコのポイ捨て禁止条例」が制定されたのを皮切りに、「生活環境条例」が全国に広がったが、これは、国家権力が国民の間に「監視意識」を埋め込むために行った──というのである。上原氏は「(クリーンで)安心安全な地域づくりには、国民に警察の肩代わりをさせる下地づくりの側面がある」と話した。
「石破発言」が示す日本の将来
上原氏は、この日のスピーチの中で何度も、小泉政権時代に内閣参事官として有事法制を担当した「磯崎陽輔氏(参院議員)」の名を口にした。
「有事法制の中には、基本的人権の侵害を意味するような文章が目立ったため、『これは憲法違反ではないか』と磯崎氏に質問状を送ったところ、『高度の公共福祉のためには、基本的人権の侵害もあり得る』との回答があった」という。上原氏は「高度の公共福祉とは、ずばり戦争のこと」とし、次のように述べた。「この回答は、あとで問題になった。今、自民党の改憲草案では『高度の公共福祉』という言葉は使われず、『公益および社会の秩序』とされている」。
そして、自民党草案については、「テロにも対応するとの理由で、98条と99条で『緊急事態条項』を定めている点も要注意」とし、「つまり、総理大臣が『緊急事態』を宣言すれば、戦争が起こっていなくても、戦争法が発動されてしまう」と訴えた。上原氏は、「デモはテロと同じ」とした自民党の石破幹事長の発言を踏まえながら、「その対象には市民運動も含まれており、首相がそのデモをテロ並みのリスクと見なせば、デモ制圧のために国防軍が出動することもあり得る」と懸念を表明した。
巧妙な「保護」という言葉
上原氏同様、「国民保護法」を話題にしたのは、この集会に、コメンテーターとして鹿児島から駆けつけた川内博史氏(前衆院議員)だ。「一見、耳障りのいいネーミングだが、有事の際に国民を動員する目的が隠されている」と同法を評し、「この国の1パーセントの人たちは、残りの99パーセントの人たちをだますために、巧妙に言葉を選んでいる」と強調。大手メディアが、その1パーセントの人たちのために力を貸している、とも発言した。
その上で、「昨年末に強行可決された秘密保護法も、『保護』といえば聞こえはいいが、あの法律の中身は『国家権力にとって不都合な人を逮捕する』というものだ」と指摘した。
川内氏は「米国への従属から逃れられない大勢の政治家・官僚と、ワシントンの日本大使館員の話を聞いて『米国はこう言っている』とニュースを流す日本の新聞記者らによって、日本の政治・行政の方向性が決められている。沖縄の人たちは、今日の名護市長選の結果に、そういった対米従属の構図から、沖縄が開放される瞬間を期待している」と力を込めた。
慰安婦問題と情報操作
同じく本の著者である西野瑠美子氏(バウラック共同代表)も、メディアによる情報操作についてスピーチした。「国家権力が、一党独裁の下で国家体制を変えていこうとする時、実行されるのは国民統制。メディアや教育による狙いを定めた情報提供は、国民に過度の愛国心や、国家にとって好都合な歴史認識を刷り込むのに有効だ。今は、その傾向が鮮明で、まさにファシズムと言うべき状況」。
このように懸念を表明した西野氏は、自身の研究テーマである「慰安婦問題」を巡り、安倍政権とその周辺が叫ぶ「強制連行否定論」が「わが国の名誉」とセットで語られることを問題視した。「安倍首相は(軍による)強制連行は否定したものの、『広義での強制というなら、実施したのは業者である』と発言している。橋下大阪市長の慰安婦発言でも、悪いのは(日本ではなく)あくまでも日本兵士である、という主張だ」と語り、慰安婦問題においても、国家の名誉のために、兵士も含めた個人が切り捨てられる構造がある、と指摘した。
西野氏は「日本軍の強制連行への関与を否定できない証拠史料は、たくさんある」とした上で、「しかし、強制連行否定派は、NHKを巻き込んで、軍の関与は強制連行を止めさせるための、いわば『いい関与』だったという言説を流布している」と強調。さらにまた、秘密保護法を巡る、NHKの一連の報道にも、「保護法の問題点を浮き彫りにする姿勢が、あまりにも欠けていた」と批判を展開し、「昨年11月、NHKの経営委員会のメンバーが刷新されたが、作家の百田尚樹氏ら新委員4人が全員、安倍首相の友人だ」と発言を重ねた。
無知、不勉強な輩は総理大臣はもちろん、代議士になれないように、「代議士資格検定」にようなものが必要かも。