2023年6月4日に始まった、ウクライナ軍による『反転攻勢』。欧米から供与された最新鋭の武器と、NATO加盟国各国の将校団によって鍛え抜かれたウクライナ将兵が、ロシア軍打倒の戦術も授けられ、万全を期してロシア軍を蹴散らすはずだった。
実際、6月4日以降、日本を含む西側メディアは、連日、その「戦果」を報じ続けた。
ところが、約半年間にわたる『反転攻勢』の「戦果」は、ウクライナ政府と西側メディアの合作プロパガンダによる白昼の幻でしかなかった。
実際にはロシア軍は、1000kmにおよぶ東南部の防衛線の最終的な突破を、一度も許さなかった。11月に入って、突然、ウクライナ軍の敗色濃厚を、日本のメインストリームメディアが手の平返しを始め、報じ始めた。説明のない、唐突な報道姿勢の「転進(退却の否認としての言い換え)」である。
日本のテレビに出ている自衛隊元幹部や「専門家」らが、ウクライナ軍の「健闘」を大げさに伝えている間に、ウクライナ軍は人的にも大きく損耗し、戦術的にも破れていたのである。
IWJは、この半年間、メインストリームメディアがウクライナ優勢を唱えている間、一貫して、戦況の現実を伝え、ロシア軍の守備の固さ、ウクライナ軍の損失の大きさを伝え続けてきた。この6月から11月までの報道姿勢と内容を比べて見れば、IWJと、日本のすべての新聞・テレビというメインストリームメディアの差は歴然だったとわかるはずである。
ウクライナ戦線がそのようなプロパガンダまみれになっていた時、10月7日早朝、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を、合法的選挙によって選ばれて統治するするイスラム組織ハマスが、ガザのフェンスの外へ出て、その周辺地区を奇襲攻撃した。
すると、これに対してイスラエル軍は、激しい空爆によるパレスチナ人の無差別殺戮を開始し、国際社会の注目は一気にウクライナ情勢から中東情勢へと移った。
米国のバイデン政権は、一方的なイスラエル支持と支援を表明。イスラエル軍がガザ地区への地上侵攻を開始して、世界中から非難を浴びても、イスラエルへの巨額支援を続ける意思を示し、国連でのイスラエル非難にも、拒否権を行使して、イスラエルを異常なまでに擁護した。
一方、ウクライナ紛争は、ウクライナ軍の劣勢が、誰の目にも明らかになってきた。ウクライナ紛争は、いつ、どのようにして決着がつけられるのか。あるいは、決着をつけないまま長期戦に入って、さらにウクライナは疲弊してゆくのだろうか。
2023年9月1日、岩上安身は桃山学院大学法学部教授の松村昌廣氏に2回目のZoomインタビューを行なった。8月20日の「ロシア弱体化と孤立化は米国の大誤算!『米国の覇権は確実に破綻する! 外部要因ではなく「自壊」によって崩壊する!』」と題するインタビューの続編である。
「戦争がないということは、非常に困ったことなんです」と、松村氏は困惑を招くような言葉をも口にする。「戦争がない」とは、「核の出現」によって、人類は「大きな覇権をかけた戦争」ができなくなった、ということを意味する。軍事的な覇権システムを維持していくためには、経済的な覇権システムの構築が重要だが、核兵器の出現によって世界には大きな戦争がなくなり、戦争による大きな破壊もないので、大きな需要も生まれてこない。米国の覇権システムを支える経済力が弱くなり、覇権が衰退し、多様化しても、次の覇権国家が出現するわけではない、覇権国家不在の時代がやってくる。
「米国の覇権は早晩、崩れるのだから、日本はいつまでも寄りかかっているのではなく、早く自立しなくてはいけない」と説く松村氏に、岩上安身は「おとなしく老いてくれる人と、そうではない人がいるじゃないですか」と前置きし、次のように問いかけた。
「経営者でも老害になっていく人がいる。(アメリカは衰退する過程で)そういう暴れっぷりをするのではないか。世界を面倒なことに巻き込んでいくのではないか。その一例がウクライナ紛争じゃないんですか?」
松村氏は、「実際に今、アメリカという国家の中では政治的な葛藤・対立があって、政治的な内戦状態になっている。我々はそれを注視しながらも、傍観しているしかない」と述べた。
さらに話題は、台湾有事の可能性、そこに日本がどう関わることになるのか、日本が選択できるシナリオなどについて広がっていった。