9月8日、午後6時半から、「日本の防衛はウクライナ紛争を『教訓』とすべき!(1)『敵基地攻撃能力』の保有は愚策!『穴だらけの専守防衛』を鍛えなおすべき!」と題して、岩上安身による東アジア共同体研究所・須川清司上級研究員インタビューをお送りした。
冒頭、岩上安身が、2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから、「ロシア=悪、ウクライナ=善」という図式に、保守層だけではなく、日本のリベラルメディアも全部持っていかれてしまう、という尋常ではない状況が起きた、と述べた。
岩上は、ウクライナ紛争が長期化し、膠着状態にあるように見える今こそ、もっと巨視的に、米国とNATOによる「代理戦争」モデルとして、ウクライナ紛争を把握することが必要ではないか、と問題提起した。
岩上が7月21日にインタビューした、現役経産省キャリア官僚の藤和彦氏は「(ウクライナでの)『代理戦争』モデルがロシアに対して成功すれば、アメリカは2匹目のドジョウ(対中国)を狙うと思います」と指摘、「今回、『代理戦争』モデルが(ウクライナで)失敗するっていうことは結果的には、安全保障上、アジア(諸国)にとっては有利じゃないか」と述べた。
- 「米国によるウクライナでの『代理戦争』モデルの失敗はアジアに有利」~岩上安身によるインタビュー 第1082回 ゲスト 現役経産官僚、経済産業研究所コンサルティングフェロー 藤和彦氏 2022.7.21
岩上は、最近、ウクライナ紛争が膠着化しているように見えるが、実は今、欧州で潮目が変わりつつある、と指摘した。
8月末から9月上旬にかけて、ロンドン、プラハ、パリ、そしてドイツの各地で、インフレに対する抗議、NATOの「代理戦争」に反対する声、「ウクライナよりもロシア産の天然ガスを!」といった、草の根の民衆デモが起きている。日本のマスメディアは、ほとんど報じていない現実だ。
詳しくは、日刊IWJガイドを御覧ください。
- はじめに~潮目が変わった! ウクライナでの「代理戦争」より、ロシアからの天然ガスを!! 欧州各地から続々上がる民衆の声! もう対ロ制裁は限界! 英国でチェコでフランスでドイツでNATO「代理戦争」への抗議と対ロ制裁・エネルギー価格高騰に抗議する大規模デモが発生!(日刊IWJガイド、2022年9月8日)
須川氏は、秋冬に向けて、欧州は非常に厳しい状況を迎えるのではないかと述べた。
須川氏「戦争が長引くと、結局は生活ですよね。短期であれば、自分のところが直接攻められるわけじゃないと、単にエールを送るということで、すんでいた部分があり。
しかし、戦争が長引くと、生活に影響が出ますから。欧州は本当に冬寒いですから。凍死者が出るような事態になると。
僕も欧州の知人から、政府レベルでは、まだ、反ロシア、親ウクライナで揺るぎはなさそうですが、民衆レベル、国民レベルでは確実に分かれてきているということは、耳にしてます。
これから秋、冬に向けて、東欧もそうですけれども、ドイツ、フランスでさえも、あるいは、イギリスでさえも非常に厳しい局面がくるんだろうな、と。
日本が一番ふわっとしていますよね」
岩上「ごまかし続けていますよね」
日本政府は、対露制裁に参加して「非友好国」扱いされながら、一方で、サハリン1、2の権益を確保しようとするなど、ロシアとの貿易を完全には断ち切ってはいない。アジアで対露制裁に参加している国は、日本以外では、韓国が部分的に参加している程度である。他のアジア諸国は、中国、インド、ASEAN諸国も含めて、どこも参加していない。
須川氏は、米国も秋の中間選挙を控えており、今の反ロシアの連合体がこの冬以降、かなり揺らぐ可能性がある、その時日本にどのように波及してくるかと危惧した。
しかし、草の根レベルから上がってきている「(紛争を長期化し続ける)NATOはもう嫌、アメリカはもう嫌」という声を、まったく無視する形で米国とNATOはさらに強力な武器をウクライナに供与していく方針である。
岩上「ウクライナ紛争の長期化の要因は、西側、特にアメリカからの武器提供、ハイマースなどの長射程のミサイルなど。米国は紛争の長期化を強く望んでいる、と。軍事支援のトップ3は、アメリカ、イギリス、ポーランド」
キール研究所のまとめによると、米国のウクライナへの軍事支援は、武器提供などの直接支援で1.2兆円、輸送などの間接支援が2.3兆円に上り、突出しています。
米国は8月24日、約30億ドル相当のウクライナへの軍事支援を発表しました。支援の中には、今回初めて供与される対無人機システム「バンパイア」も含まれています。
須川氏はこの「バンパイア」については知らないが、ウクライナ紛争は、両軍がそれぞれドローンを使って攻撃しあう、これまでにないハイエンド戦争が行われていると指摘した。
須川「両軍がここまで無人機を使うという戦争も初めてに近いんじゃないかな。
今までは、アメリカという圧倒的な、近代化された兵器を持っている国と、イラクにせよ、アフガニスタンにせよ、どこにせよ、全部、完全な格差があるところと、無人機でも、結局、アメリカだけが使って、相手はもう何やってるか分からないっていう状態でやってたんですけども。
今回は両方が、無人機を使うと。なおかつ、民生機、民生用も含めて、いろんな国から買ったものを両方が使うとか。そういった形になっている」
岩上「(バンパイアという兵器は)ドローンを撃ち落とす、というんですから(中略)、ロシアはロシアで、『バンパイア』に相当する対無人機システムを投入してくるでしょうね」
米国だけではなく、NATO軍の元最高司令官も、さらに戦闘を高度化し、紛争を長期化させる、ウクライナへの「より高度な武器」の提供を求めています。
岩上は、NATO軍の元最高司令官フィリップ・ブリードラブ氏が「プーチンが核兵器を使うとは思えない」と楽観的な前提に立ち、「ウクライナへの優れた軍事システムの提供にもっと積極的になるべき」として空軍力、防衛能力、対地攻撃能力が必要だと述べた、とする報道を紹介した。
岩上「ブリードラブ氏は、『プーチンが核兵器を使うとは思わない』と。これは重要なところですね。『使うとは思わない』、こういう認識でいいのか、ということも、須川さんにお聞きしたいですね。
『ウクライナへの優れた軍事システムの提供にもっと積極的になるべき』というのは、『(核兵器をロシアが)使わない』と思うからこそ、もっと提供しろというセットになっているように感じます」
岩上は、米国もNATOも、核戦争にいたることを懸念せずに、ハイエンド戦争に見境なく、提供できるものは全部提供しろ、と言ってるように見えると述べた。
須川氏「結局、アメリカでも、あるいはイギリスでも、ヨーロッパでも、もっとウクライナを応援しろと、軍事的にですね。
もっとロシアを打ち負かせるようなものをどんどんやれ、という声はかなりあるのはあるんですけれども、バイデンも最初に、ウクライナでロシアと米軍が戦うことはないと、早々に言ってますね。
それに対して、日本の保守派がかなり批判してますけど。ナンセンスなんですけど、そんなものをやってもらったら、核戦争になるから困るんですけれども。彼ら(保守派)、何にも分かってないからそういうこと言うんですけどね。
バイデンにしても、アメリカがあんまりやりすぎて、ロシアを追い詰めすぎると、プーチンが核兵器を使う、と。だから、支援するといっても限度があるんだということを、ずっと言ってます。それで強硬派の人たちがイライラしているんですよね。
プーチンが核兵器を使うかもしれない、という前提だと、(兵器の)提供は積極的になれない。限界がある。
逆に、『もっと応援しろ』という情緒の部分、感情の部分が先に立って、支援するためにはどうするかと、『プーチンは核兵器を使おうとは思わない』という風に言わないと、(もっと武器支援を、と煽ることは)できない。
(ブリードラブ氏については)、僕はあまり知りませんが、たしか、NATOの最高司令官をやってたのが、2014年のクリミア併合の時。その時に、併合されたことに対して何もできなかったということが、この人のトラウマになっているんじゃないかな、と。それで、ロシアに対して強硬に行けと」
英語版ウィキペディアによると、ブリードラブ氏は、2013年5月から2016年5月まで、NATOの最高司令官であった。
- Philip M. Breedlove(Wikipedia、2022年9月8日閲覧)
バイデン政権は、8月上旬のナンシー・ペロシ氏の台湾訪問のあとも、台湾への武器売却を発表するなど、台湾海峡の緊張を高める動きを強めている。
台湾海峡の緊張が高まる中で、麻生太郎・自民党副総裁が、8月31日、「台湾情勢を巡り『戦争が起きる可能性が十分に考えられる』との見解を示した」と報じられた。
麻生氏「与那国島(沖縄県)にしても与論島(鹿児島県)にしても、台湾でドンパチ始まることになったら戦闘区域外とは言い切れない状況になる」
- 麻生氏、台湾情勢で「戦争起きる可能性、十分考えられる」(毎日新聞、2022年9月1日)
岩上「麻生さんのこの発言、何というか無責任な言い方に腹を立てるものの、現実を直視しなければならない部分もある、と。その辺をお話いただけますか?」
須川氏「安倍さんが、『台湾有事は日本有事』という有名な言葉が残されて。それに通じるところがあるかと思うんですが、安倍さん、特にこの麻生さんの発言も、中国と台湾が戦争になって、その火の粉が降りかかる形で、日本が巻き込まれる、というようなニュアンスの言い方が多いわけですね。
中国と台湾がもしも、武力衝突が起こるとすれば、現実的に考えると、台湾が独立宣言、独立への動きを強めて、中国がもうそれを止めないと、国がひっくり返るという状況になって、はじめて起こることです。
その時は、多分、中国側は、もうアメリカに対して勝ち負けの問題じゃなくて、武力行使をしないといけないという状況になった上でするんだと思いますけど。
そのとき、万が一、時のアメリカ大統領が『俺は知らん』と言ったら、自衛隊の基地も、米軍基地も使われないし、当然、麻生だの安倍だのっていう連中が、『アメリカはやらなくても俺たちは台湾助けるぞ』と言って、『自衛隊行け!』みたいな話にはならないですよ、絶対。そんな根性なんかないですから。あの人たちは、ただただ、言ってるだけですから。
だけどそうじゃなくて、アメリカが『行く』ということになった時は、米軍基地が使われる訳ですから。
そうすると、まさに孫崎(享)さんが言った通り、中国とアメリカの力関係を見ると、やっぱり米軍基地が自由に使われちゃったら、もう、中国は勝ち目、まったくなくなっちゃうんで。
これも、昔のアメリカのシンクタンクでやっているシミュレーションだと、中国は、在日米軍基地にはなかなか手を出さないだろう、というシミュレーションが多かったんですね。
ところが最近は、最初の段階から、中国の方から(在日米軍基地を)叩きに来るというシナリオもかなり増えてきています。米軍基地が攻撃されるというシナリオが増えてきてるんですが。
いずれにしても、在日米軍基地が攻撃されるということは、日本が攻撃されるということですから。アメリカを止めない限りは、絶対にそうなるということです。
あるいは、日本が基地を使わせないと明言するとか。それでも安保条約に絡めて、(米国側が米軍基地を)無理やり使ってくる可能性もあるんですが。
いずれにしても、日本が、ただ単に近いから、飛び火するということではなくて。
日米間に安保条約があり、在日米軍基地があるという中で、アメリカが参加するとか、あるいは日本がそれをサポートするからということで、主体的に参加してしまう、ということになるわけですよね」
岩上「集団的自衛権がありますからね。距離的な問題ではなくて」
須川氏「『火の粉が降りかかったからしょうがないんだ』というのではないんですね。
『中国が』って言いますけども、場合によったら、台湾軍機が、あえて中国と交戦中に、沖縄にあえて着陸をすると。で、それで中国軍機を呼び込むとか。そういったことも想定しておいた方がいいと思いますね。
岩上「それは、アメリカと日本を巻き込むために有効だからってことですね?」
須川氏「それぐらい、ちょっと意地悪く、性格を悪く考えないと。戦争だから。『台湾だから可哀想、助けてあげなきゃ』じゃなくて、台湾がそうやって、悪気を持って(日米を)巻き込むことだってある、ということを日本人は考えておかないと。それがリアリストですよね」
岩上「台湾の独立派の立場に立って考えるってことが大事すね。台湾の独立を諦められないという人がいたら、アメリカと日本を道連れにするしかないな、ということになりますから、今のような戦法は、確かにリアリティーありますね」
須川氏「だって、ゼレンスキーを見てたら分かるじゃないですか」
岩上「人を引きずり込んでいきますからね。あれと同じですよね。だから台湾の独立派が出てくるとしたら、台湾にゼレンスキーみたいな奴が現れるというふうにイメージするとわかりやすいですね」
須川氏「それは悪夢のシナリオですね。ペロシが(台湾に)行ったことが、何が罪深いと言って、台湾独立派に、長い目で見て、火をつけているんですよね。焚き付けているんです。
蔡英文さんの発言も、ウクライナの前ぐらい、去年ぐらいまでは、まだわりと、独立派と言いながら、すごく抑えていたんですよね。総統になって1期目も2期目になっても。ところが最近、だんだん過激になり始めてます。
また自民党の議員とか、自民党に限らないだろうけど、日本の国会議員とかも何かヘラヘラ言ってますよね。正義の味方だ、みたいな感じで言ってますけども、全部おかしな方向に、台湾の独立を煽ることに影響を与えているんだっていう意識がまったくないから、怖いですね。売国奴ですよね」
台湾の総統に「ゼレンスキーみたいな人物」が座り、ひたすら中国に敵意を剥き出し、「自由と民主主義」を看板にして、中国を「専制国家」だと言って、中国を挑発し、軍事支援を要請したらどうなるのだろうか。日本の国会議員は、ゼレンスキー演説に拍手を送ったように、台湾の「ゼレンスキーもどき総統」に拍手喝采するのだろうか。まさに悪夢である。
インタビューでは、さらに、北朝鮮と統一教会の関係、ウクライナ紛争から学ぶべき教訓について、詳しくお話をうかがった。おうかがいしきれなかったトピックスについては、9月12日月曜日に続編となるインタビューを行う予定である。
ぜひIWJの会員となって、これまでのインタビューとあわせて全編を御覧ください。
2021年に岩上安身が須川清司氏に「台湾有事」についてインタビューした動画は以下です。