2025年7月15日、「岩上安身によるインタビュー第1199回ゲスト 放送大学名誉教授・高橋和夫氏(後編)」を初配信した。
多民族・他宗教国家であるイランについて、高橋氏は「9000万人ぐらいいるイランの人口の、およそ半分ぐらいはペルシャ系の人で、ペルシャ語をしゃべっていますが、あとの半分ぐらいは、(北部に居住していて、国境をへだててアゼルバイジャンと隣接している)アゼルバイジャン人(アゼリー人)だったり、トルコ系の人もいるし、アラブ系の人もいるし、クルド系の人もいる、(南部に集住している)バローチ人もいる」と指摘し、以下のように述べた。
「だから、マイノリティがたくさんいるんです。
ただ、マイノリティだから抑圧されているということもなくて、例えば、最高指導者のハメネイさんはアゼリー人ですし、大統領のペゼシュキアンさんも、お父さんがアゼリー人です」。
一方で高橋氏は、人口の9割がシーア派のイランの中で、「クルド人とバローチ人はスンニ派が多い」と述べ、「自分達は少数民族だし、宗派も違う、という意識がある」とした上で、次のように明らかにした。
「イランを、少数民族を使ってひっくり返そうという人達(米国とイスラエルとその従属国)は、このクルド人とバローチ人に期待してるわけです。
クルド人は、伝統的に、イスラエルと近いんです。
で、実は、イスラエルが、クルド人を使って(イランの体制を)引っかき回そうとすると、トルコと対峙することになるわけですね(※トルコは自国内にクルド人を抱えていて、独立を志向するクルド人に対して厳しい政策をとっている)。
(イスラエルは)トルコとは既に、(アサド政権崩壊後の)シリア内で今、陣取りゲームをやっていますが、これから、トルコとイスラエルが、どういう関係を結ぶのか、その中で、クルド人をどう利用するのか、ということです」。
高橋氏によると、「トルコとイスラエルが対立する可能性がある」一方、イランとトルコは、対峙する局面もありながら、「対クルド人問題に関しては、協力的」だとのこと。
中東地域のクルド人について、高橋氏は、次のように解説した。
「クルド人の問題は、クルド人という意識はあるんですけど、盆地ごと、部族ごとに、意識が強い。(中略)
だから、イランから支援を受けているクルド人もいれば、トルコから支援を受けてるクルド人、イスラエルから支援を受けているクルド人など、いろいろな人がいるという状況です。
でも、どちらにしろ、クルド人の力が伸びることは、トルコが望んでいないので、イスラエル(がイラン国内のクルド人を使ってイランの分裂を図ろうとする)と、トルコとの大きな対立要因になります」。
イランの体制転覆について、高橋氏は、現在米国に亡命中の、元パフラヴィー朝イランの皇太子、レザー・パフラヴィー氏が、「現体制を倒し、民主的(=米国追従的)なイランを建設しようと訴えて、米国とイスラエルの支持を受けている」と、明らかにしている。
しかし高橋氏は、「今回の戦争で、1000人以上が殺されて、数千人が傷つけられて、そのイスラエルに『ありがとう』と言ってる人(レザー・パフラヴィー氏)が帰ってきて、イラン国民が本当に歓迎するだろうか」と、疑問を呈した。
また、ヨーロッパを拠点に活動する、モジャヘディーネ・ハルク(人民の聖戦士・MKO)という組織も、現体制崩壊後の新政権の候補者としてあげた上で、高橋氏は、次のように解説した。
「この組織は、そもそもシャア(パフラヴィー朝の君主で、米国の傀儡、モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー)の時代、1960年代に、イランの大学生の間で広まった運動で、地方から来て、テヘランで社会の矛盾を感じるような、真面目な人達が、都市ゲリラを始めたんですね。
彼らが一番人気を博したのは、アメリカの軍事顧問団を暗殺した時です。
弾圧されても、弾圧されても、組織は生き続けて、イラン革命の時に浮上してきて、今の権力の中枢を握った宗教勢力と、血で血を洗う権力闘争をやって、結局敗れて、イラクに逃げるということになったんですね。
(MKOは)爆弾テロで知られていまして、今の最高指導者のハメネイさんは、よく見ると、右手が効かないんですね。それで、左手で挨拶するんですけど、それは、爆弾テロのせいですね。
ですから、最初はすごく尊敬されている組織だったんですけど、イラクに移って、サダム・フセインの手下になってしまったので、イラン人としては、裏切り者ということになりますよね」。
このMKOは、ヨーロッパで大きな大会を開き、多額の講演料を支払って、ジョン・ボルトン元国家安全保障問題補佐官や、マイク・ポンペオ元国務長官(いずれも、第1次トランプ政権)を招いている。
高橋氏は、MKOの資金の出所について、「サウジの諜報機関とか、イスラエルかなって、みんなが疑ってる」と指摘し、次のように続けた。
「もともと、アメリカ人を殺していますから、テロ組織に指定されていたんですけど、途中でそれが解除になってるんです。
それも、アメリカの政治家に、すごいお金を使ったんですよね」。
高橋氏は、「仮にイランの現体制を転覆できたとしても、国家の統一を維持できる新たな政権が生まれない可能性もある」と指摘した上で、しかし「イランの分裂・混乱は、イスラエルにとっては脅威ではなくなり、悪くはない展開」であるとして、次のように語った。
「シリアやイラクが、今、そうですよね。
今の体制が倒れるという前提自体が、難しい前提ですけど、代わりの政権ができてこなければ、そうなる。
ただ、そうなると、周辺の国は、難民が来るとか、迷惑ですよね。そして、イランの、例えばバローチ人が独立、みたいなことになると、やはり多民族国家である隣のパキスタンが、自分の国のバローチ人が騒ぎ出すんじゃないかという(懸念を持つ)」。
イランとパキスタンは、(南部で)国境を接して隣国同士である。バローチ人は、南部イランと、パキスタン西南部に、国境をまたいで居住しているが、クルド人と同じく、独自の国をもっていない。クルド人ナショナリズムと同様に、バローチ人ナショナリズムに火がつくと、イランもパキスタンも困るのである。
「今、(隣国同士である)インドとパキスタンが対立していて、その裏では、パキスタンと(国境を接する)アフガニスタンも、国境紛争がある」と述べた高橋氏は、英国が19世紀に引いた国境線をめぐって、「もうアフガニスタンとパキスタンは、恒常的に関係が悪い」と解説した。
その上で、高橋氏は、以下のように指摘した。
「もし、イランがひっくり返って、親米とか、親イスラエル国家になったら、パキスタンは、インドと、アフガニスタンと、親米イランに囲まれるわけです。
だから、絶対に、イランの体制がひっくり返るなんて、受け入れられない」。

































