9月17日の午後3時半頃、レバノンとシリアで、複数のボケベルが爆発しました。ヒズボラのメンバーを対象にしたテロ攻撃と見られています。
17日付『ニューヨーク・タイムズ』によると、レバノンの犠牲者は、日本時間で18日13時の時点で、少女1人を含む11人が死亡、2700人以上が負傷したとされます。
また、シリアでも、同時に、ポケベルが爆発しており、英国に拠点を置く監視団体、シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)によると、シリアでも、少なくとも14人が、ヒズボラに対する攻撃によるポケベルの爆発で負傷しました。
犯人は、イスラエルである可能性がもっとも高いと見られます。
17日の『ニューヨーク・タイムズ』は、「米国とその他の関係者によると、イスラエルは火曜日(17日)、レバノンに輸入された台湾製ポケベルの新しいバッチに爆発物を隠し、ヒズボラに対する作戦を実行した」と報じ、米国政府関係者が、あらかじめ、この作戦の手口まで、知っていたことを示唆しています。
18日付の『ロイター』は、「米国防総省のパトリック・ライダー報道官は17日、レバノンで17日に起きた親イラン武装組織ヒズボラ戦闘員の通信機器爆発に米国は関与していないと発表した」と報じ、米国が関与している可能性を否定してみせました。しかし、否定するには米国の軍部や諜報機関、民間軍事会社に至るまで、国内を調査してからでなければ、結論は出せないはずです。
逆に、事前に、イスラエルの作戦についての情報を得ていて、ポケベルが爆発したら、シラをきろうと、あらかじめ予定稿すら作成していたのではないか、とすら思われます。直接、関与していなくても、情報は得ていて、黙認していたことを、認めたようにも受け取れます。
実は、『ミドル・イースト・アイ』が、6月13日時点で、アラブの高官の話として、「米国の特使アモス・ホックスタインは、火曜日(6月11日)にベイルートでレバノンの当局者と会談し、イスラエルがヒズボラに対する限定的な攻撃を準備しており、外交的な解決が見つからない場合、米国がその行動を支持するとの『厳しい』警告を伝えた」と報じているのです。
6月13日付『ミドル・イースト・アイ』は、米国のアモス・ホックスタイン特使のメッセージをこう伝えています。
「ホックスタイン氏は、ヒズボラへのメッセージとして、米国は同盟国であるイスラエルを完全に支持し、次の5週間で戦闘が止まらない場合、イスラエルの攻撃を公には非難しないだろうとレバノン当局者に警告した」。
次の5週間とは、7月16日頃です。
さらに、9月18日付『タイム・オブ・イスラエル』は、米国が、イスラエルのヒズボラへの大規模攻撃をあらかじめ知っていたことを次のように報じています。
「月曜日(16日)には、バイデン政権の特使アモス・ホックスタインがイスラエルでネタニヤフ首相およびガラント国防相と会談し、ヒズボラに対する大規模な攻撃を行わないよう警告した。
ある米国政府高官によると、ホックスタイン氏は、大規模なIDF(イスラエル国防軍)の攻撃は地域戦争のリスクを高め、北部国境近くから避難した約6万人のイスラエル市民が自宅に戻るための安全を回復することにはならないと主張した」。
9月17日の『ニューヨーク・タイムズ』と、6月13日付『ミドル・イースト・アイ』、そして、9月18日付『タイム・オブ・イスラエル』を読むと、米国が、この作戦をあらかじめ知っていたのは確実で、作戦の内容まで関与した可能性が浮上します。
ほぼ100%犯人はイスラエルで、共犯者が米国なのです。
被害者は、元米国防副次官のスティーブン・ブライアン氏によると、「少なくとも2800人が負傷し、ヒズボラとイラン関係者8人が死亡、その中にはレバノン駐在イラン大使(モジタバ・アマニ氏)も含まれ、彼も負傷した」といいます。
犠牲者の大半が、レバノンとシリアの一般市民なのです。
元国連主任査察官のスコット・リッター氏は、18日にXにこうポストしています。
「100%テロです。
米国だったら、そのような作戦を実行したかどうか自問自答してみてほしい。
答えはノーです。
それはテロ行為に該当するからです。
イスラエルはテロ国家だ。
テロリストが主導している」
元CIA職員のエドワード・スノーデン氏も、17日のXへのポストで、次のように、テロだと断定しています。
「イスラエルが今やったことは、どのような方法であれ無謀だ。車を運転していた人(これは車が制御不能になる)、買い物をしていた人(レジの列で後ろに並んでいるベビーカーに子供が乗っている)など、数え切れないほどの人々を吹き飛ばしたのだ。テロと区別がつかない」。
さらに、スノーデン氏は、こう警告しています。
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「もしiPhoneが爆発物とともに工場から出荷されたのだとしたら、メディアは今日の恐ろしい前例に気づくのがもっと早かっただろう。これを正当化することはできない。これは犯罪だ。犯罪だ。そして、世界中の誰もがそのために安全でなくなっている」。
ところが、日本の大手メディアは、加害者=イスラエル、共犯=米国、被害者=レバノンとシリアの一般市民という、ほぼ確実な構図を明確に報道しません。
たとえば、18日付『NHK』は、この事件を伝える記事の冒頭で、「中東レバノンの各地で『ポケットベル』タイプの通信機器が爆発し、これまでに9人が死亡し、2700人以上がけがをしました。アメリカのメディアは、爆発した通信機器は台湾メーカーが製造し、レバノンに輸入される前にイスラエルが爆発物を埋め込んだと伝えています」と報じるだけです。
また、18日付『朝日新聞』は、次のように報じています。
「レバノンなどで17日、イスラム教シーア派組織ヒズボラのメンバーらが使っているポケットベルのような通信機器が相次いで爆発しました。レバノン国営通信によると、9人が死亡し、約2800人が負傷しました。陸上総隊司令官を務めた高田克樹元陸将は『通信機器を出荷の段階からコントロールして火薬を仕込んだうえで、サイバー攻撃をかけたのではないか』との見方を示します」。
この記事では、それでは誰が、サイバー攻撃を仕掛けたのか、という肝心な点が、完全に脱落しています。
さらに、18日付『日本経済新聞』は、次のように報じています。
「レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの戦闘員らが所持するポケットベルが17日に一斉爆発し、多数の死傷者が出た。イスラエル側が端末の製造・流通過程で爆発物を組み込み、通信によって遠隔操作した可能性が指摘されている。情報端末のサプライチェーン(供給網)への侵入が安全保障上のリスクとして浮上してきた」。
こんな報じ方では、被害者すべてがヒズボラ戦闘員であるかのようで、無差別テロによって、一般市民にも被害者が出ている事実が読者に届きません。
さらに、この攻撃がイスラエルの攻撃だと確実に判明しても、戦闘員だけをターゲットにしたスマートな作戦であるかのようで、これが、非人道的な、無差別テロであることがまったく伝わりません。
また、すべての日本の大手メディアに欠けている視点は、米国が、この攻撃を事前に知っており、「月曜日(16日)には、バイデン政権の特使アモス・ホックスタインがイスラエルでネタニヤフ首相およびガラント国防相と会談し、ヒズボラに対する大規模な攻撃を行わないよう警告した」という点です。
米国は、明らかにイスラエルの攻撃の前日には知っており、紛れもなく共犯なのです。
2001年9月11日、ニューヨークの同時多発テロ以来、米国は対テロ戦争と称して、イスラエルを取り巻く、イスラム諸国、特に原理主義的で、ジハード戦士を生むような国々を破壊し、多くの人々を無慈悲に殺してきました。
あの四半世紀に渡る暴力と破壊と殺戮は、なんだったのでしょうか。テロとの戦いではなかったのでしょうか?
今、ガザでも、ヨルダン川西岸でも、毎日、イスラエルによる、理不尽なテロ攻撃で、たくさんのパレスチナ人が命を落としています。米軍の目の前で行われている、イスラエルによるテロは、戦うべきテロではなく、幇助すべきオペレーションであり、イスラム教徒が行う自爆攻撃のようなものだけが、テロと呼ばれ、米軍による殲滅の対象とされてきました。この二重基準(ダブルスタンダード)を、米国はもはや取り繕おうともしません。
イスラエルと敵対するヒズボラのいるレバノンでは、ヒズボラと無関係な一般市民までも巻き込む無差別テロを起こしたのです。
これはもちろん、戦時国際法に違反した犯罪であり、正当な戦争行為とは認められません。
米国が、対テロ戦争を起こすのだったならば、イスラエルのような恒常的にテロを行い続けている犯罪的国家に対してこそ、起こすべきだったのです。
では、はたして、イスラエル諜報特務庁「モサド」が、17日に起きたポケベル爆発テロを仕込んだとしたら、どんな手法でそれを実現したのでしょうか?
現時点では、埋め込まれたマルウェアの遠隔操作によってポケベルのリチウム電池を「熱暴走」を起こさせて爆発させた、とする仮説と、ポケベルに埋め込まれたマルウェアと爆発物を遠隔操作によって爆発させたとする仮説の二つの仮説が有力視されています。
18日付『BBC』は、「ヒズボラはポケベルが爆発した原因について何も語らなかった」とした上で、ヒズボラ関係者は、爆発前にポケベルが熱くなるのを感じた人もいたと報じました。
『BBC』が取材した専門家らは、「過熱したリチウムイオン電池は発火する可能性があるが、ポケベルをハッキングして過熱させても通常はそのような爆発は起こらない」と述べています。単に電池を加熱させたのではなく、爆発性の物質が仕込まれていた、ということでしょう。
「匿名を条件に取材に応じた元英国陸軍の軍需専門家」は、「ポケベルには、偽の電子部品の中に隠された軍用高性能爆薬10~20グラムが詰め込まれていた可能性が高い」と『BBC』に述べています。
『CTVニュース』は17日、「専門家ら」の談話として、「ポケベルの爆発は、長期にわたって計画されていた作戦」であり、「おそらくサプライチェーンに侵入し、ポケベルがレバノンに届けられる前に、ポケベルに爆発物を仕掛けて実行されたとみられる」と、報じました。
『スプートニク日本』は18日、『スカイ・ニュース・アラビア』の記事を引き、『X』に「イスラエル諜報特務庁「モサド」は、レバノンのイスラム主義組織『ヒズボラ』で使用されている通信機器のバッテリーに爆発性物質を塗り付けていた」と投稿しました。
『スカイ・ニュース・アラビア』は、モサドは、通信機器の引き渡し前に、爆薬のPETN(ペンタエリスリトール四硝酸塩、ニトログリセリンによく似た爆薬)を通信機器のバッテリーに塗り付け、今回、サイバー攻撃でバッテリーの温度を上げて危機を爆発させた、という仮説を示しています。
また、『アルジャジーラTV』は、爆発したポケベルには「約20グラムの爆発物が含まれていた」と爆薬が仕込まれたと報じ、ポケベルはおよそ5ヶ月前にレバノンに持ち込まれた模様だと伝えています。
同『スプートニク日本』は、ヒズボラの報道官は「爆発はマルウェアによって引き起こされた模様。通信機器が熱くなっていることに気づいたメンバーの何人かは爆発前に機器を投げ捨て、被害を免れた」と述べた、と報じています。
- イスラエル当局がサイバー攻撃でヒズボラの通信機器を過熱させて爆発か、20gの爆発物が検出(Sputnik 日本@sputnik_jp、最終更新 午前10:51・2024年9月18日)
『AP通信』は18日、より詳しい情報を発表しました。
「ブリュッセルを拠点とする上級政治リスクアナリスト、エリヤ・J・マグニエ氏は、爆発しなかったポケベルを調べたヒズボラのメンバーと話をしたと述べた。
すべてのポケベルにエラーメッセージが送信され、振動を引き起こしたため、ユーザーは振動を止めるためにボタンをクリックせざるを得なかった。それが爆発を引き起こしたようだと同氏は述べた。
この組み合わせ(エラーメッセージの受信とボタンクリック)により、内部に隠されていた少量の爆発物が爆発し、爆発時にユーザーが確実にその場にいることになったと同氏は述べた」
マグニエ氏の分析が正しければ、確実にそのユーザーを傷つけることができる手法です。
では、このイスラエルのテロ攻撃は、何を目的とした攻撃だったのでしょうか?
18日付『タイムズ・オブ・イスラエル』の報道を、引用します。
「ある米国政府高官によると、ホックスタイン氏は、大規模なIDF(イスラエル国防軍)の攻撃は地域戦争のリスクを高め、北部国境近くから避難した約6万人のイスラエル市民が自宅に戻るための安全を回復することにはならないと主張した」。
イスラエル国防軍が、北部地域で攻撃を強めれば、北部の国境周辺から避難してきた6万人のイスラエル市民が安全に自宅に帰ることが困難になる、という意見が、イスラエル政府や軍のトップには届かない様子がわかります。
17日付『AFP』は、この点を次のように報じています。
「イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は17日、イスラム組織ハマス(Hamas)との紛争における達成目標を拡大し、ハマスと同盟するレバノンのイスラム教シーア派(Shiite)組織ヒズボラ(Hezbollah)との交戦が続いているイスラエル北部に、避難住民を無事に帰還させることを含める方針を示した。
イスラエル首相府は声明で『政治・安全保障内閣は今夜、戦争の目標を更新し、北部住民の安全な帰還を含める』と発表した」。
ヒズボラとの戦闘が、イスラエル北部のイスラエル市民の避難を招いたわけですが、今度は、この約6万人の北部からの避難市民を無事に、イスラエル国境へ帰還させるために、「戦争の目標を更新」して、ヒズボラと戦うというのです。
これは、誰が見ても、倒錯した話で、戦えば戦うほど、ますます、国境地帯の安全性は脅かされるでしょう。避難した市民を安全に帰宅させるのは難しくなる、と考えるのが普通の考え方ではないかと思います。
イスラエルはこうは考えていないようです。9月18日付『タイムズ・オブ・イスラエル』は、イスラエル戦争内閣の考えを次のように報じています。
「ガラント国防相は、ホックスタイン米特使に対し『イスラエル北部の住民が自宅に戻れるようにするには、軍事行動しか手段がない』と述べたと、彼の事務所の声明が伝えていいる。
また、ネタニヤフ首相は、イスラエルは米国の支援に感謝しているが、自国民の安全を回復するために必要な行動を取ると、バイデン大統領の特使に伝えた。
これらの会談から数時間後、イスラエルの安全保障内閣は、新たに『北部住民の安全な帰還』をガザでの戦争の目的の一つに加えた」。
これは、明らかな、イスラエルによるヒズボラへの宣戦布告です。
中東のガザから、ヒズボラが活動するレバノン、シリアへ、戦争が拡大するということです。6万人の市民を無事に帰還させるため、というのは、口実にすぎないでしょう。
このヒズボラ潰しは、最終的にはヒズボラの背後にいるイランとの対決まで見据えている、と考えていいでしょう。イスラエルとイランの全面戦争も、秒読みの段階に入った、と見る見方も、必ずしも大袈裟なものではないと思います。
ただし、イランとの全面対決となると、イランとの同盟関係を急速に強化しつつあるロシアの介入の可能性も出てきます。これまで、ロシアとの関係が深いシリアで、米国等の工作によって、内戦が引き起こされても、ロシアは、慎重に、粘り強い外交交渉でことに当たり、軍事力を全面に出して、イスラエルと同国を支える米国や欧州と軍事的な対立に陥ることを避けてきました。
しかし、今や、ロシアは自らが西側諸国との直接の戦争の瀬戸際に立っています。これまでのような、西側との武力衝突は回避しようとする忍耐強さは、もはや持ち合わせないでしょう。
そして、ここにきて、国家の統治理念も宗教も伝統文化も違うイランとロシアが手を組もうとするのは、両国にとっての共通の敵と戦うためだと考えて間違いありません。
当然、イスラエル側には、米国と欧州がつくでしょう。イランとロシアの石油や天然ガスを必要とする中国が、どの程度、関与するかは、今はまだ見通せません。
イスラエルによるポケベル・テロの爆発音は、イスラエルが、こじつけのような「新しい戦争目的」を得て、中東においても、世界戦争が始まる「合図の音」となってしまったのかもしれません。