IWJ代表の岩上安身です。
米国の国際政治学者で、元空軍の軍人でもあり、スティーブン・ウォルト教授との共著で米国内のタブーに挑戦した『イスラエル・ロビー』の著者でもある、シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授が、11月9日、YouTube番組「ナポリターノ判事のジャッジング・フリーダム』に出演し、ウクライナ紛争とイスラエルによるガザでのパレスチナ人虐殺について語りました。
- Prof. John J. Mearsheimer: Ukraine/Israel: How China benefits.(Judge Napolitano-Judging Freedom、2023年11月10日)
前半のウクライナ紛争について、ミアシャイマー教授は、「10月7日のハマスによるイスラエル襲撃以前から、西側諸国は、ロシアに負けつつあるウクライナへの関心を失いつつあり、これまでと同じように支援する意味はないと考え始めていた」との見方を示しています。
さらにミアシャイマー教授は、「戦争を引き起こし、戦争を長引かせた最大の責任は米国にあると、私は信じています」と、断言しています。
一方、インタビューの後半でイスラエル軍によるパレスチナ人虐殺について「戦争犯罪だ」と断じたミアシャイマー教授は、「歴史上類を見ない特別な関係」であり、「世界史上前例のない緊密さである」米国とイスラエルの関係について、次のように語りました。
「私たちは、何があってもイスラエルを支持します。だから、その関係について、戦略的に論じることはできません。
また、道徳的な関係も成り立たないと思います。道徳的な議論をすることはできますが、イスラエルがパレスチナ人をどのように扱ってきたかという点においては、その議論を一部修正しなければなりません。占領という状況を考えれば、この信じられないほど緊密な関係を説明できるような、道徳的論拠を見出すのは難しいのです」。
ミアシャイマー教授は、国際政治学者でハーバード大学ケネディ行政大学院教授のスティーヴン・ウォルト氏との共著で『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』という2巻組の本を出版しています。この著書は、副島隆彦氏の翻訳で、2007年に講談社から日本語版も出版されています。
それまでタブー中のタブーであった、在米ユダヤ人の、米国の政治権力への影響力の仕組みを解き明かした、重要な著作です。この本の出版によって、ミアシャイマー氏の名前は世界に知られるようになったと言っても過言ではありません。
そのイスラエル・ロビーの、米国内政治に対する強大な影響力について、ミアシャイマー教授は「(歴代大統領は)もしイスラエル・ロビーに逆らえば、政治的な代償を払うことになることも、十分に理解している」と指摘しました。思い切って踏み込んだ表現です。
IWJは、11月9日に配信された、この『ナポリターノ判事のジャッジング・フリーダム』を文字起こしし、仮訳・粗訳しました。
以下はその全文です。
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ナポリターノ判事「皆さん、こんにちは。自由をジャッジするアンドリュー・ナポリターノ判事です。
今日は2023年11月9日、木曜日です。ジョン・ミアシャイマー教授のご登場です。ミアシャイマー教授、貴重なお時間とご意見をどうもありがとうございます。
西側諸国は、10月7日に起きたこと(※ハマスによるイスラエル襲撃)や、その後の展開(※イスラエルによるガザでのパレスチナ人虐殺)を踏まえて、それ以降、ウクライナに見切りをつけたのでしょうか?」
ミアシャイマー教授「それは(※言い方が)強すぎると思います。
10月7日以前には、ウクライナ人が戦争に負け、ロシア人が勝つことが明らかになりつつあり、したがって米国と欧州の同盟国は、ウクライナへの関心を失いつつあったと思います。
彼らは10月7日以前から、ウクライナをこれまでの1年半と同じレベルで支援し続けることは意味がないと考え始めていました。
そして10月7日がやってくると、私たちは本当に深刻な形で中東に再び注目せざるを得なくなり、2022年2月以来続けてきた、ウクライナへ焦点を当てることから離れてしまいました。
現時点では、疑問の余地のない一番目のこととして、ウクライナが深刻な問題に直面しており、戦争に勝つことはできないと、私たちは考えています。
そして私たちは、中東にはもっと重要な、取り組むべき問題があると考えています。だから、ウクライナへの関与を大幅に減らしているのだと思います」
ナポリターノ判事「そうですね、ウクライナに680億ドル(約10兆円)の追加支援を要求しているホワイトハウスの要求からは、そんなことはわからないでしょうね。私はそれ(※議会への追加予算の承認要請)が得られるとは思いません。
下院共和党は応じないでしょうが、大統領はすでに(※ウクライナに)供与した1130億ドル(約17兆720億円)に加えて、さらに680億ドルを要求しています(※IWJ注)。インフラの再建に着手するのでしょうか、それともロシアと戦おうとしているのでしょうか?
そして今、世界中が知っているのは、このベンチャー(※事業、ウクライナでのロシアとの戦争)が失敗だということです」
(※IWJ注)大統領はすでに(※ウクライナに)供与した1130億ドル(約17兆720億円)に加えて、さらに680億ドルを要求しています:
ナポリターノ氏の言う「680億ドル」の根拠は確認できない。
10月18日付け『ロイター』は、「バイデン米政権はウクライナに対する600億ドルの追加支援とイスラエルへの100億ドルの支援を検討しており、20日にも米議会に追加予算の承認を要請する見通し」と報じている。
一方、11月1日付け『ディフェンス・エアロスペース』は、10月31日の上院歳出委員会公聴会で、オースティン国防長官とブリンケン国務長官が「イスラエルとウクライナを支援するための資金」として、イスラエルに106億ドル、ウクライナに444億ドルなど、そのほかもあわせて「683億ドルの追加資金の提供を求めた」と報じている。
また、11月18日付け『CSIS』は、「米国のウクライナへの援助総額は680億ドルで、ホワイトハウスは議会にさらに377億ドルを要請したところだ」との報告書を掲載している。
他方、これまでの支援総額については、9月27日付け『CNN』が「国務省の監察総監室(OIG)および超党派の民間団体『責任ある連邦財政のための委員会(CRFB)』が算出した数字によると、これまで米国議会が承認したウクライナへの資金援助は総額およそ1130億ドル(約16兆8360億円:9月時点でのレート)」として、その内訳を「国防総省経由が620億ドル(9兆2370億円)以上、国務省および国際開発庁経由が460億ドル(6兆8530億円)以上」と報じている。
参照:
- 米支援案、ウクライナ600億ドル・イスラエル100億ドル=関係筋(ロイター、2023年10月19日)
- Austin, Blinken Ask for Funds to Defend Embattled Democracies(defense-aerospace.com、2023年11月1日)
- Aid to Ukraine Explained in Six Charts(CSIS、2023年11月18日)
- 米国のウクライナ支援、16.8兆円の資金の行方は(CNN、2023年9月27日)
ミアシャイマー教授「そうですね、彼らは、ロシア側があまり大きな勝利を収めないようにしたいし、ウクライナ側が失った領土すべてを完全に奪還できるわけではないことを、(※ウクライナに)十分に理解させたいのです。
しかし同時に、彼らはウクライナ軍が崩壊せず、そしてロシア軍がウクライナで今以上の範囲を制圧することがないようにしたいのです。
それが、ここで実際に起こっていることだと思います」
ナポリターノ判事「10月7日よりあとに、ウクライナ軍の総司令官(※ワレリー・ザルジニー)は、『エコノミスト』誌に、『戦争は膠着状態だ』と、(※ゼレンスキー大統領とは異なる)自身の見解を語りました。
ゼレンスキー大統領の関係者らは、その2日後に陸軍参謀総長のスタッフが、誕生日プレゼントのブービートラップで暗殺された(※IWJ注)ことを非難しました。そしてゼレンスキー大統領は、2024年の大統領選挙を中止しました。
これらはどれも、良い兆候ではない感じです」
- Ukraine’s commander-in-chief on the breakthrough he needs to beat Russia(The Economist、2023年11月1日)
・ウクライナは内部分裂! ザルジニー司令官とゼレンスキー大統領が対立!「一体、将軍とは国家の助け役である。助け役が(君主と)親密であれば国家は必ず強くなるが、助け役が(主君と)すきがあるのでは国家は必ず弱くなる」(孫子)ウクライナ国家敗戦の最後の決定打か! さらに、ウクライナ優勢であるかのような偏向報道を続けてきて、ここへきて急に報道姿勢を掌返ししたTBS『報道1930』が無意識のうちに自衛隊の重要な真実を暴露!
会員版:(日刊IWJガイド、2023年11月16日)
非会員版 :(日刊IWJガイド、2023年11月16日)
(※IWJ注)その2日後に陸軍参謀総長のスタッフが、誕生日プレゼントのブービートラップで暗殺された:
11月6日、ザルジニー総司令官の側近ヘンナジー・チャスチャコフ少佐が、キーウ西郊の自宅で、誕生日プレゼントの手投げ弾の爆発によって死亡した。
11月8日付け『BBC』は、「同僚からプレゼントを受け取り、自宅に持ち帰って息子(13)と一緒に開けたところ、中にあった手投げ弾が爆発した」「少佐は死亡し、息子は重傷を負った」と報じている。
『エコノミスト』がザルジニー司令官の発言を掲載したのが11月1日、チャスチャコフ少佐が死亡したのは11月6日なので、ナポリターノ判事の「その2日後」という発言は、正確ではない。
参照:
- ウクライナ軍総司令官の側近、手投げ弾で死亡 誕生日の贈り物(BBC、2023年11月8日)
ミアシャイマー教授「そうですね、ウクライナ人は深刻な状況に陥っています。それは避けられません。
彼(※ザルジニー総司令官)は口では『膠着状態だ』と言いましたが、実際には膠着状態ではないと(※『エコノミスト』の記事で)認めています。
しかし戦場は膠着状態です。この数ヶ月で、ロシア側とウクライナ側のどちらかが占領した領土の量に注目すると、どちらの側もそれほど多くの領土を占領していないようです。
そして、人々はこれを膠着状態だと言います。
しかし、それは考え方が間違っています。消耗戦で本当に重要なのは、死傷者の比率です。そして、ウクライナ側がロシア側よりもはるかに多くの死傷者を出していることは、疑いの余地がありません。さらに、この紛争が始まった当初、ウクライナ軍には、ロシア軍に匹敵する人材がいませんでした。
つまり、ここで起きているのは、ウクライナ人がロシア人に『白く血を流させられ』(※徐々に疲弊させられ、人材が枯渇していくこと)ているということであり、これがウクライナ人がこの戦争に勝てない理由であり、ロシア人が勝つ可能性が高い理由なのです。
そして、ゼレンスキーは、そのことを知っています。彼が言っていることを見れば、ロシア軍に勝つためには、魔法のような武器か、あるいは魔法のような兵器が必要だと言っているのです。
しかし、魔法の武器や兵器があるわけでもなく、これは昔ながらの消耗戦であり、長く激しい戦いであり、ウクライナ人は絶望的です」
ナポリターノ判事「これはすべて私の見解であり、異論があれば反論してほしいのですが、教授、これは欧米のせいであり、主に米国のせいです。
ミンスク合意(※IWJ注)がありましたが、米国は基本的にウクライナに『もう忘れろ』と言いました。プーチン大統領の懸念を、平和的に解決するための合意でした。ウクライナがNAITOに参加しないので、米国と英国は『そんなことはもう忘れろ』と言ったのです。
そして彼ら(米英)は、『我々はあなたたちを応援する。それについては心配いらない』と言ったのです。
そしてその後、50万人がここで死んでいます」
(※IWJ注)ミンスク合意:
ミンスク合意(Minsk agreements)は、ウクライナ東部の紛争(ドンバス紛争)に関連する和平合意。
2014年からウクライナ東部のドンバス地域で激化した紛争を収拾するため、2014年9月5日と2015年2月11日に、ベラルーシの首都ミンスクで行われた2回の合意および協定を指す。
これらの合意は、ウクライナ政府、ロシア、ウクライナ東部の分離派勢力(ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国)との間で交わされ、停戦、軍の撤退、武器の引き離し、政治的解決策の実施などの措置を含んでいる。
しかし、ミンスク合意は完全に実行されず、紛争は継続し、停戦違反が繰り返された。
参照:
・はじめに~<スクープ!>ミンスク合意を破っていたのはウクライナ軍だった! ロシア軍の侵攻直前、ドネツク・ルガンスク両州におけるウクライナ軍の攻撃はほぼ5倍に激増! IWJは2月24日のロシア軍侵攻直前の数日間のOSCE(欧州安全保障協力機構)ウクライナ特別監視ミッション(SMM)の正式報告書を検証!
会員版:(日刊IWJガイド、2022年6月1日)
非会員版:(日刊IWJガイド、2022年6月1日)
ミアシャイマー教授「そうですね、あなたの意見に反対するつもりはありません。我々がウクライナへのNATO進出を進めなければ、この戦争は起こらなかった可能性が高いことは、間違いないと思います。
しかし我々は、ウクライナをNATOに引き入れることに固執し、その結果、2022年2月24日に戦争が勃発しました。
そして忘れてはならないのは、戦争が始まった直後、つまり翌月の3月に、ウクライナとロシアがイスタンブールで和平交渉を始めたということです。
誰がみても、両者が協定を結び、戦争を終結させることができる合理的な可能性は、十分にあったのです。そこに米国と英国がやってきて、『我々はロシアを倒すことができる』と、ウクライナ側に交渉を離脱するように言ったのです。
そして2022年のうちは、ウクライナはかなりうまくやっていました。思い出してください。彼らは、2022年の夏の終わりから秋の初めにかけて、重要な戦術的勝利を2つ獲得しました。
その時点でミリー将軍(※マーク・ミリー米統合参謀本部議長)は、『これがウクライナ人にとっての最高水準であり、時間をかけてもこれ以上状況が好転することはないため、ウクライナ側はこの時点で交渉を試み、合意を結ぶべきだ』と述べたのです。
そして実際、時間が経てば経つほど、状況は悪化する一方だと、ミリー将軍は理解していたはずです。
すると再び米国が介入し、『ミリーは間違っている。ウクライナ側は交渉せず、戦いを続けるべきだ』と主張したのです。そして我々の予想は、ウクライナ側が2023年か2024年に戦争に勝つだろうというものでした。
しかし、これはすべて裏目に出て、ウクライナ側は戦争に負けることになりました。しかし、戦争を引き起こし、戦争を長引かせた最大の責任は米国にあると、私は信じています」
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ナポリターノ判事「米国人が戦争に負けて、ジョー・バイデンが(※大統領)職を失うということですか? 彼が他にも多くの問題を抱えていることは承知しています。彼には個人的な問題もあれば、経済的な問題もあります。しかし、この戦争に関して言えば、『バイデン~ブリンケン~ジェイク・サリバン(大統領補佐官・安全保障担当)政策』にとって、非難されるべき、記念碑的な敗北でしかないのでは?」
ミアシャイマー教授「その通りです。
そして、もう一つの戦争が進行中であることも忘れてはなりません。そうでしょう?」
ナポリターノ判事「もちろんです。
その別の戦争における国連について、話したいと思います。イスラエル政府は、戦争犯罪を犯しているのでしょうか?」
ミアシャイマー教授「そうですね、10月7日のハマスによるイスラエルへの攻撃を見ると、ハマスが戦争犯罪を犯したことは、ほとんど誰もが認めるところでしょう」
ナポリターノ判事「もちろんです」
ミアシャイマー教授「民間人を殺したことで。
さて、ハマスがやったことに対してイスラエルがどう反応したかを見てみると、彼らはガザで懲罰作戦を繰り広げています。彼ら(イスラエル)は民間人を罰しているのです。
IDF(イスラエル国防軍)の報道官は、これが精密な標的を狙った作戦ではないことを明らかにしています。IDF報道官は、イスラエル軍がガザで大量破壊を引き起こすことに関心があると、明言しました。
そして、その過程で、彼らは大量の民間人を殺そうとしています。イスラエル軍によって殺された市民、特に、子どもを含む火傷患者の数が、驚くほど多いのです。私から見れば、そのようなことは、戦争犯罪にあたると思います。
もし、イスラエル軍が、ハマスだけを標的にし、民間人の犠牲を避けるために多大な努力を払っているのであれば、イスラエル軍が戦争犯罪を犯しているということにはならないという、首尾一貫した主張ができるでしょうが、彼らはそんなことをしていません。
彼らは、わざとこの場所を破壊しているのです。これは、大規模な懲罰キャンペーンです。
さらに同時に、ガザへの食料、水、ガスをすべて遮断しました。これは、事実上、ガザの市民を飢えさせるか、飢えさせようとしていることを意味します。私の国際法の理解では、これも戦争犯罪です。
そうですね。この場合、ハマスが戦争犯罪を犯したのは明らかだと思います。そして同時に、イスラエルも戦争犯罪を犯している」
ナポリターノ判事「イスラエル人は、米国からの軍事装備と弾薬を使っています。しかし、米国は、彼らを止めるために何もしていません。米国が提供する装備品や現金、弾薬には、縛りをかけられることが、しばしばあるのにです。
米国は、イスラエル国防軍が犯している戦争犯罪に、加担しているのでしょうか?」
ミアシャイマー教授「米国は、我々がイスラエルに提供した兵器を使って、イスラエルができることに、何の制約も加えていないと思います。
どうやら、一部の報道によると、ガザの標的を攻撃する際には、より小型の爆弾を使用するよう(米国がイスラエルに)求めているようです。しかし、我々は間違いなく加担しています。つまり、米国とイスラエルは、この軍事作戦に、全面的に参加しているということです」
ナポリターノ判事「イスラエルは、ハマスの指導者1人を殺すために、難民キャンプに2000ポンドの爆弾を6発投下しました。つまり、絶望的で無力な一般市民に囲まれた一人の人間を狙うには、並外れた量の弾薬なのです」
ミアシャイマー教授「それは間違いありません。つまり、戦争犯罪を防ぐことに興味があるなら、これは絶対にやってはいけないことなのです。これについては、疑問の余地はありません。
しかしご承知のように、イスラエルのケースを見ると、イスラエルは9.11のあとに私たちがとった行動と、よく似た行動をとっています。9.11の後、我々が行ったあらゆる拷問を覚えているでしょう。
このようなことが米国で起きたのは、9.11で起きたことによって、ある程度動揺していたからです。あの出来事(9.11)のあと、私たちはショックを受けました。イスラエルが10月7日に衝撃を受けたように。そして、9.11のあと、私たちは暴行を加えました。
攻撃の激しさと市民への衝撃的な影響を考えれば、彼らが反撃しているのは理解できます。
もし米国人が賢明であったなら、判事、彼らは、イスラエルに対し、実際に一歩下がって、どのように対応するべきか、よく考えるようにと言ったでしょう。私たちはイスラエル人に自制をうながし、ガザに対してより賢明な戦略を採用させるべきでした。
しかしその代わりに、私たちは基本的に彼らにフリーパスを与えたのです」
ナポリターノ判事「これをイスラエルの国内政治に当てはめると、ネタニヤフ首相は連日、10万人規模の大規模な反政府デモに見舞われ、支持率はジョー・バイデン首相よりも低かったのです。
そのネタニヤフ首相が今、イスラエル国民を結束させることに成功しました。さて、これがいつまで続くかはわかりません。彼が首相の職に留まることができるかどうかも、わかりません。しかし、彼には戦争を継続させる動機があるのは、確かですよね?」
ミアシャイマー教授「まず第一に、彼がイスラエル国民を団結させたとは思いません。ハマスがやったのだと思います」
ナポリターノ判事「この場合、あなたの言葉の方が正確ですね」
ミアシャイマー教授「そして、ハマスが10月7日にイスラエルを攻撃した時に、彼がいわば最高司令官であったことを考えると、イスラエル国民は、少なくとも短期間は、彼に付き従うしか選択肢はなかったのだと思います。
つまり、今後数週間から数ヶ月にわたって、彼の運命がどうなるかは、何とも言えません。ほとんどの人が言っているように、そして私も過去にあなたの番組で言ったことがあると思いますが、状況が落ち着けば、一巻の終わりで、彼は政権から追い出されるでしょう。
しかし、当分の間は、彼は権力の座に留まると思います」
ナポリターノ判事「ここで、1992年のテープをお聞かせしましょう。このテープの中では、ふたりの人物が話していることがわかります。
ミアシャイマー教授が、イスラエルとアメリカの独特な関係について、どのように考えているか、このテープを足がかりにお話ししましょう」
再生A「あなたは著書の中で、このような見解を述べています。また、あなたが米国大統領だった時に、何度も言ってきたことです。『イスラエルを見捨てるような大統領はいない』と。そうですよね?」
再生B(ニクソン元大統領)「その通り。私はもっと単刀直入に言いました。私は、1973年のヨム・キプール戦争(※第4次中東戦争)の時に、議会の指導者たちに言ったように、米国の大統領は、イスラエルを悲惨な状況に追い込むことはできない、と言ったのです」
再生A「わかりました。民主党か、共和党か、はっきりしたカテゴリーで述べられる問題ではありません。
しかし、あなたの著書では、イスラエルはもはや米国にとって戦略的に大きな価値を持たないことも、同時に明らかにしていますね?」
再生B「その通りです」
再生A「それなのになぜ、戦略的な価値が少ないか、またはほとんどないにもかかわらず、米国はイスラエルに巨額の融資を負担し続け、場合によっては、完全な無償提供を続け、若い米兵を危険にさらすのでしょうか?
再生B「それは、米国は戦略的な価値以上の理由を、重視しているからです。それは弱点かもしれませんが、それが我々のやり方です。道徳的な問題もあります。
ご存知のように、イスラエルとは同盟関係を結んでいません。技術的な意味で、彼らは米国の同盟国ではありません。
しかし、我々は、イスラエルとはもっと強い絆で結ばれています。それは道徳的な義務です。ホロコーストで起こったことに対する道徳的なコミットメントであり、民主主義国家であること、その地域で唯一の民主主義国家であることに対する道徳的なコミットメントです」
ナポリターノ判事「思い出が甦りますね」
ミアシャイマー教授「ええ。スティーヴン・ウォルトと私は、ご存知のように、この問題を明確に扱った『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』という本を書きました。
そうですね。そしてもちろん、『イスラエルは米国にとって、重要な戦略的資産ではない』という、ニクソンの指摘は正しいのです。かつて、イスラエルが米国戦略的な資産であった時期もありましたが、それほど重要なものではありませんでした。
米国とイスラエルの特別な関係は、歴史上類を見ないものであり、米国とイスラエルの関係は、世界史上前例のない緊密さであることを理解することが、非常に重要です。
私たちは、何があってもイスラエルを支持します。だから、その関係について、戦略的に論じることはできません。
また、道徳的な関係も成り立たないと思います。道徳的な議論をすることはできますが、イスラエルがパレスチナ人をどのように扱ってきたかという点においては、その議論を一部修正しなければなりません。占領という状況を考えれば、この信じられないほど緊密な関係を説明できるような、道徳的論拠を見出すのは難しいのです。
そして、スティーヴンと私は、この本の中で、この関係は主に国内政治によるものだと主張しています。
それは、強力なロビーがある、という事実です。このロビーは、違法でも、不道徳でも、非倫理的でも、まったくありません。米国の政治システムは、ロビーが大きな影響力を持つことができるように設定されています。私たちは皆、全米ライフル協会について知っています」
ナポリターノ判事「そう、そう、その通りですね。そしてもちろん、外国のためにロビー活動をする場合は、イスラエルのためにロビー活動をする場合を除き、FARA(※外国代理人登録法、Foreign Agents Registration Act)の下で外国代理人として登録する必要があります」
ミアシャイマー教授「まあ、そのような議論はされていて、AIPAC(※アメリカ・イスラエル公共問題委員会、American Israel Public Affairs Committee)のような組織が、そのような基準のもとに置かれる可能性があることに、疑問の余地はありませんが、実際はそうはなりません。
いずれにせよ、法律がどのようなものであるかを考えると、イスラエル・ロビーは、違法でも不道徳でも非倫理的でもありません。全米ライフル協会のような、古き良き時代のロビー団体なのです」
ナポリターノ判事「なぜ米国は、停戦や和平、暴力の一時停止を求める国連安保理決議に、拒否権を行使するのでしょうか?」
ミアシャイマー教授「イスラエルがそれを望まず、米国がイスラエルを支援することを約束しているからでしょうか。
今のような状況では、ジョー・バイデンや他の大統領が、イスラエルから離れることはあり得ません。それは間違いありません。それは、ジョー・バイデンに限ったことではありません。
ジョー・バイデンは、イスラエルに対して非常に強い愛着を持っていると思います。彼は、イスラエルを支持するために、道徳的な主張をするでしょう。
しかし同時に、バラク・オバマやジミー・カーター、ジョージ・H・W・ブッシュがそうであったように、もしイスラエル・ロビーに逆らえば、政治的な代償を払うことになることも、十分に理解しているのです。
私は最近、バラク・オバマが、イスラエルとパレスチナの紛争を解決するために、どれほど努力したかについて話しているのを見ました。そして彼は、『私の体の傷跡を見ればわかる』と言ったのです。彼は、つい最近、そう言ったのです。
私はそれを読んだ時に、自分にこう言いました。『その傷跡はどこから来たと思う? 彼はロビーと対立したが、そのロビーは手強い敵だ』。
繰り返しますが、私は、ロビーが合法的に振る舞っていると主張しているわけではありません。しかし、ロビーと対立した大統領は誰であれ、傷を負うことになりますし、傷を負わずに済むことはありません」
ナポリターノ判事「2国家解決は、あなたや私が生きている間に実現するのでしょうか?」
ミアシャイマー教授「私はショックを受けるでしょう。私が間違っていることを祈りますが、もしそうだとしたら、本当にショックです。
私は、まず第一に、最近の中東で起こったことについて話しています。ここで話しているのは、10月7日、およびそのあとの出来事です。
イスラエル人は非常に怒っており、非常に恐れているため、近いうちに彼らが静まることは、ほとんど想像できません。2国家解決策を容認することさえ、考えられないほどです。
さらに、イスラエル国内の政治に目を向けると、政治的な重心は、あなたや私が若かった頃よりずっと右側に移動してきました。そして、どちらかといえば、今後はさらに右傾化が進むでしょう。
そして、そうはならない(2国家解決は実現しない)でしょう。イスラエルの多くの人々は、10月7日の出来事とは関係なく、2国家解決策に関心を持つことはないでしょう」
ナポリターノ判事「ネタニヤフ首相は、ガザで誰が生きるか死ぬかを決めることができるのは、自分だけだと信じているのでしょうか? 果たして彼は、道徳的、法的、政治的、歴史的、哲学的な観点から、1万人もの罪のない人々を虐殺することが、どうしてイスラエルを守り、その主権を正当化することになると主張できるのでしょうか?」
ミアシャイマー教授「つまり、彼がやろうとしていることは、ハマスの排除です。
そして彼は、パレスチナ人がイスラエルに対して蜂起することが、パレスチナ人がその代償を払うに値しないことだと理解させるような方法で、パレスチナ人を懲罰しようとしているのです。
これが鉄の壁です。これは深刻です。ジャボチンスキーの『鉄の壁』(※IWJ注)という考え方、つまりパレスチナ人を服従させるために、彼らを打ち負かすことができる、という考え方です。
ネタニヤフ首相が、パレスチナ人への対応について、そのようなアプローチを信じていることは間違いありません。そして繰り返しますが、彼はハマスの打倒にも尽力しています。彼はハマスが根絶できると考えています。
そして、鉄の壁について話しているにせよ、ハマスの打倒について話しているにせよ、どちらの場合も、事実上、『この問題には軍事的な解決策があると考えている』と言っていることになります。
私は、軍事的な解決策はないと思います。戦場でハマスに勝てるとは思いません。仮に勝てたとしても、他のグループが、その座を奪いに来るでしょう。そして私は、パレスチナ人を服従させることができるとは思いません。政治的解決策を考え出す必要があります。
ジミー・カーター以来、米国のすべての大統領は、政治的解決策が2国家による解決策であることを十分に理解していたと思います。しかしイスラエルは、あるときを除いては、2国家による解決策を実現しようと本気で興味を持ったことが、まったくありませんでした。それにはあまり関心がないのです。
結果として、彼らは大きな力(※軍事力)に頼ってきました」
(※IWJ注)ジャボチンスキーの『鉄の壁』:
『鉄の壁』は、1923年にロシア生まれのシオニスト、ゼエフ・ジャボチンスキーによって書かれたエッセイ。
ジャボチンスキーは、英国植民地長官ウィンストン・チャーチルが、ヨルダン川東岸へのシオニスト入植を禁止した後にこのエッセイを書き、執筆後にシオニスト修正主義党を結成した。
ジャボチンスキーは、パレスチナのアラブ人は、パレスチナにおけるユダヤ人の多数派には同意しないだろうと主張し、「シオニストの植民地化を止めるか、さもなければ先住民に関係なく進めなければならない。つまり、シオニストの植民地化は、先住民から独立した権力の保護のもとでのみ、先住民が突破できない『鉄の壁』の向こう側でのみ進行し、発展することができる」と主張した。
イスラエルの地に、平和とユダヤ人国家を達成する唯一の解決策は、まずユダヤ人が強力なユダヤ人国家を樹立することであり、そうすればやがてアラブ人は「『絶対反対!』を合言葉とする過激派の指導者を降ろし、穏健派に指導権を渡す」と主張した。
ナポリターノ判事「あなたが今言ったことは、トニー・ブリンケン(※米国務長官)や彼の前任者、ジェイク・サリバン(国家安全保障担当大統領補佐官)や彼の前任者が、よく理解しているはずです。
バイデン大統領や、彼の前任者たちも、これらのことを理解していると仮定します。
そうすると、彼らが2国家解決策を求めたところで、それは政治的な口実に過ぎず、実際にはそれを推し進めるつもりはないのです」
ミアシャイマー教授「私は、彼ら(※バイデン政権)が本気で2国家解決策を実現しようと考えているとは信じられません。
10月7日以前の、バイデン政権のこの問題への取り組みを見ると、ジミー・カーター政権以来、2国家解決の実現に一定の関心を寄せてきたすべての政権の中で、最も関心がなかったのが、バイデン政権でした。彼らは本当に、2国家解決を実現するために力を尽くすことに、興味がなかったのです。
バラク・オバマは、興味がありました。そしてもちろん、だからこそ、バラク・オバマは、先ほど話したように、傷を負ったのです。いいですか。
しかし、バイデン政権は、そうではありませんでした。そしてそれは、彼らが理解していたからだと思います。ジェイク・サリバンも、トニー・ブリンケンも、バイデン大統領も、みんな理解していました。
そんなことは、実現しそうにありませんでした。イスラエルの政治は、米国のロビーの力と相まって、イスラエルを2国家解決に向かわせるために、圧力をかけることを不可能にしました」
ナポリターノ判事「ミアシャイマー教授、私は午後いっぱいあなたの話を聞くことができました。そして、今、何千人もの視聴者も、同様に聞くことができたと思います。
お時間をいただき、ありがとうございました。あなたの知性と洞察力に深く感謝し、来週またお会いできるのを楽しみにしています」
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