IWJ代表の岩上安身です。
10月30日付の『ウィキリークス』がスクープです!
- WikiLeaks@wikileaks(2023年10月30日)
10月30日付の『ウィキリークス』は、2010年2月22日付で、米国務長官から、発信された電報を暴露しています。この電報の現在の分類は「非機密、公用のみ」となっています。
- PUBLIC LIBRARY OF US DIPLOMACY(ウィキリークス、2023年11月2日閲覧)
そして、そのあて先は、以下の国の首都です。これは、各国にある米国の大使館あるいは領事館に向けた電報だったのです。
アンゴラ(ルアンダ)、ブルキナファソ(ワガドゥグー)、カメルーン(ヤウンデ)、コスタリカ(サンホセ)、ミクロネシア連邦(コロニア)、フィジー( スバ)、ケニア(ナイロビ)、リベリア(モンロビア)、マジュロ(マジュロ)、 モーリシャス(ポートルイス)、メキシコ (メキシコシティ)、パラオ(コロール)、 カーボベルデ共和国 (プライア)、ルワンダ(キガリ)、サモア(アピア)、ウガンダ(カンパラ)。
この電報の趣旨は、第3項に明記されています。
「3. (SBU)行動要請: 第14段および第15から第17段で述べられた論点を活用し、適切な場合、行動の宛先国に対して、迫る国連総会の決議およびイスラエル関連の決議に関して、できるだけ早く、高官レベルでホスト国政府に働きかけるよう要請する。EUの拠点については、報道によれば欧州閣僚は2月22日月曜日にブリュッセルで『ゴールドストーン報告書』について協議する。EUの拠点には、そのイベントの前に働きかけを行うよう要請されている。
ホスト国に対して次のように奨励されるべきである。
(i) 2009年11月に投票する場合、国連総会に提出された決議に反対票を投じるか、棄権すること
(ii) この問題に関する国連総会と人権理事会において一方的または生産的でない決議を支持しないこと
(iii) 国連安全保障理事会からこの問題を遠ざけること
(iv) イスラエルとパレスチナ自治政府に国内での説明責任を追求し続けるよう促すこと。
米国国連ニューヨーク代表部、米国ジュネーブ代表部、米国EU代表部は、行動の対象として含まれる国の代表団に対するメッセージを強化し、適切な場合、他の国の代表団に働きかけを行う権限を行使できる。情報の宛先国は、必要に応じて適切と思われる点を活用できる」。
この米国務長官の行動要請とは、上記の電報の宛先となっている大使館や領事館のホスト国に対して、米国大使館の働きかけを通じて行動するよう要請する電報だったのです。
問題は、その行動が何に関わるものだったか、ということです。
<ここから特別公開中>
それは、『ゴールドストーン報告書』の内容に関する国連決議だったのです。『ゴールドストーン報告書』は、2008年から2009年にかけてのガザ紛争中のイスラエルによる国際人道法および人権法の違反を調査するためにジュネーブの国連人権理事会(HRC)が委嘱したものでした。調査団を指揮したのは、南アフリカのリチャード・ゴールドストーン判事でした。
この『ゴールドストーン報告書』は、イスラエルの戦争犯罪の疑いを国際刑事裁判所(ICC)に告発することを呼びかけていたのです。
『ゴールドストーン報告書』は、この点を422頁の第1966項で次のようにはっきりと述べています。
「1966. ミッションは、この報告書に記載されている国際人道法の重大な違反が、国際刑事裁判所の対象の管轄に該当すると考えています。
ミッションは、国際連合安全保障理事会が長い間、中東地域、特にパレスチナ問題が国際平和と安全保障に与える影響を認識し、この状況を定期的に検討し続けていることを指摘します。
ミッションは、長期にわたる紛争の性格、すべての当事者に対する国際人道法違反の頻繁で一貫した主張、最近の軍事作戦でのその違反の明らかな激化、さらなる暴力への遺憾な可能性を考慮に入れ、このような違反に対する不罰を終わらせるための実質的かつ実用的な措置は、将来におけるこのような違反の再発を抑止する効果的な方法を提供すると確信しています。
ミッションは、国際人道法の重大な違反に責任のある者の起訴が、そのような違反の終結、市民の保護、平和の回復と維持に貢献するとの見解です」。
- The Goldstone Report – Report of the United Nations Fact Finding Mission on the Gaza Conflict(INTERNET ARCHIVE、2023年11月2日閲覧)
米国国務長官は、行動要請で「第14段および第15から第17段で述べられた論点を活用し」とわざわざ断っています。
ちなみに、2008年時点の米国大統領は、共和党のジョージ・W・ブッシュ、国務長官は、コンドリーザ・ライスでした。2009年から2010年までの期間の米国大統領は、民主党のバラク・オバマ、国務長官はヒラリー・クリントンでした。このとき、電報を発信したのは、ヒラリー・クリントン国務長官だったことになります。
この電報の第14段から17段には、ヒラリー・クリントン国務長官の次のような記述があります。
「この決議が行うように、安全保障理事会にこの問題を取り上げるよう圧力をかける試みは同様に建設的でない。安全保障理事会はすでに中東の状況に関与し、そのトピックについて毎月の会議を開催しており、理事会の議題全体でこのように頻繁に議論される唯一の対象である」。
つまり、『ゴールドストーン報告書』を、安保理で取り上げさせるな、と言っているのです。
さらに、
「もしこの問題が提起された場合、 我々(米国)は、『ゴールドストーン報告書』の主張が国際刑事裁判所に付託されることに強く反対する。米国は、『ゴールドストーン報告書』で提起された問題が国連の行動を通じてではなく、徹底的かつ信頼性のある国内の調査およびその後の措置を通じて解決されることを希望している」。
- PUBLIC LIBRARY OF US DIPLOMACY(ウィキリークス、2023年11月2日閲覧)
要するに、米国は、『ゴールドストーン報告書』で、取り上げられたイスラエルによる国際人道法違反の数々を、安保理で議題にさせず、さらに、国際刑事裁判所に告発することにも断固反対する、という論点なのです。
これを踏まえて、各米国大使館は、当該国に働きかけよ、と電報で指示しているのです。
この結果、どうなったのでしょうか。
2010年10月16日の国連人権員会決議と、11月5日の国連総会決議での、クリントン国務長官が圧力をかけた国の投票結果は、次のとおりです。
「N/A」は該当なし、つまりその日の投票に関する情報が提供されていないことを示し、「Absent」は不在、つまりその日の投票に参加しなかったことを示しています。「Y」は賛成、つまりその日の投票で賛成したことを示し、「A」は棄権、つまりその日の投票で棄権したことを示します。「N」は反対、つまりその日の投票で反対したことを示します。
アンゴラ(ルアンダ)、(N/A、A)
ブルキナファソ(ワガドゥグー)、 (A, A)
カメルーン(ヤウンデ)、(A, A)
コスタリカ(サンホセ)、 (N/A, A)
ミクロネシア連邦(コロニア)、不明
フィジー( スバ)、 (N/A, A)
ケニア(ナイロビ)、 (N/A, A)
リベリア(モンロビア)、(N/A, A)
マジュロ(マジュロ)、 不明
モーリシャス(ポートルイス)、(Y, Y)
メキシコ (メキシコシティ)、 (A, Y)
パラオ(コロール)、(N/A, N)
カーボベルデ共和国 (プライア)、不明
ルワンダ(キガリ)、 (N/A, Absent)
サモア(アピア)、 (N/A, A)
ウガンダ(カンパラ)、(N/A, A)
どうでしょうか、特に、国連総会での投票は、ものの見事に米国の圧力が効いて、モールシャスとメキシコが賛成に回った以外は、棄権か欠席となったのです。
これが、経済力と軍事力を背景にして、国連を舞台にして、米国が行ってきたイスラエル支持工作の具体的な中身なのです。
米国という国家こそが、完全に、暴力による国際人道法違反の共犯者、あるいは、イスラエルにそれをそそのかした首謀者、頭脳と言ってもいいかもしれません。
イスラエルが、これほど、暴力によって国際法と人権を何度も何度も踏みにじっておいて平然としていられるのは、「双子の兄弟」である米国が、国連において、安保理では、「棄権」カードを切り、国連総会では、このような多数派工作を行ってきたからに他なりません。
2023年10月7日にハマスの「アルアクサの洪水」作戦から始まったイスラエルのガザ空爆と攻撃における国際人道法違反についても、これとまったく同じことが繰り返される可能性があると言って過言ではありません。

























