IWJ代表の岩上安身です。
10月7日に、イスラム主義の政治・軍事組織ハマスが、イスラエルに奇襲攻撃をかけて以来、15日で8日目に突入しました。イスラエル軍はハマスの根絶を掲げて、パレスチナ自治区ガザへの地上侵攻を表明、北部の住民に退避勧告を出しました。最新の動きをまとめます。
イスラエルは奇襲攻撃を受けた日以来、1週間以上に及ぶガザ空襲と砲撃を続け、戦闘員だけではなくガザの住民や人質にも犠牲者が出ています。
米国防総省は、最新鋭原子力空母ジェラルド・フォードに続き、第2空母打撃群「USSドワイト・D・アイゼンハワー打撃群」も東地中海へ派遣する指示を出しました。英国防省も戦闘艦船と偵察機の派遣を表明しました。
イスラエルはハマスだけではなく、レバノンのヒズボラとも砲撃を交わし、ハマスへの物資を供給しているとしてシリアのアレッポ空港も空爆しました。戦線が拡大する可能性があります。
ハマスを支援してきたイランは、イスラエルに対して、ガザ攻撃を中止するよう求め、ヒズボラが戦闘に参加参戦すれば、戦争が中東の他の地域に拡大する可能性があると警告、イラン自身の参戦も辞さない姿勢です。
レバノンのヒズボラ、シリア、イランだけではなく、アルカイダや、スンニ派が多数を占めるパキスタンの宗教政党も、ハマスを支持する声明を出しました。シーア派とスンニ派を超えて、アラブ世界が動く可能性があります。
今回お送りする「ハマスの奇襲攻撃から8日!(その1)」では、以上を報告します。
続く「ハマスの奇襲攻撃から8日!(その2)」では、以下を報告します。
イスラエル軍は「ハマスの根絶」を掲げて、ガザ地区での地上戦突入への準備を進めています。イスラエルはガザの住民に退却を指示しましたが、ハマスは市民に退避しないよう呼びかけ、パレスチナのアッバース大統領は「第2のナクバ」になるとして、立ち退きを拒否しました。バイデン大統領は、ハマスがガザ市民を「人間の盾」として利用していると非難しています。
中国の王毅外相は14日、サウジアラビア外相と電話会談し、「独立したパレスチナ国家樹立」を求めることで一致しました。
ロシアのプーチン大統領は、イスラエルに「自制」を呼びかけ、ロシアは国連安全保障理事会に人道的停戦の決議案を提出、16日の採択を求めています。
国連やアムネスティもガザ市民の退避は不可能であり、イスラエル軍のこれ以上の攻撃・地上侵攻は「戦争犯罪」、「民族浄化」になるとして、撤回を要請しました。
イスラエルが提示した、パレスチナ自治区ガザ北部の住民に出した退避勧告は、14日午後4時(現地時間)が期限でした。15日夕方現在、イスラエル軍は、限定的なガザ地区への地上侵攻を始めたものの、まだ本格的な地上侵攻は開始していません。
仮に、イスラエル軍がガザ地区にこれ以上の攻撃をかけ、侵攻すれば、仮に現存するハマスを「根絶」できたとしても、ガザから退避できないパレスチナの市民に膨大な犠牲者が生じて、アラブ諸国の怒りを買い、次のテロ組織が生まれ、西側諸国でもテロの連鎖が再燃し、イスラエルは西側諸国の一部の支持を失うかもしれません。
以下に詳細を報告します。
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イスラエル軍は13日、ガザ北部の住民に対し、24時間以内に南部に退避するよう警告しました。
イスラエル軍は14日午後4時を退避の起源とし、「軍は現在、陸、海、空からの連携した攻撃を含む幅広い軍事作戦を実行する準備を進めている。兵士たちは地上作戦に重点を置き、次の段階の作戦を実行する態勢を強化している」と表明しています。イスラエル軍は、退避勧告を出した後も、ガザ地区全域への激しい空爆を続けています。
『NHK』によると、これまでにガザ地区で2215人、イスラエル側で少なくとも1300人が死亡し、双方の死者は3500人を超えています。ガザ地区保健当局は、14日だけで300人が犠牲になったと発表しています。
- 双方の死者 計3500人超に(NHK、2023年10月15日 ライブ更新)
『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』は12日、イスラエル軍による白リンの使用を「民間人への危険を増大させ、国際人道法に違反している」と、非難しました。
10日と11日にそれぞれレバノンとガザで撮影されたビデオを検証した『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』によると、ガザ市の港とイスラエルとレバノン国境沿いの田園地域の2か所が、白リン弾で複数回砲撃されました。
『ヒューマン・ライツ・ウォッチ』の中東・北アフリカ局長であるラマ・ファキ氏は、次のように白リン弾の危険性を説明しています。
ファキ氏「密集した住宅地域で、白リンが使用されれば、常に、ひどい火傷や生涯にわたる苦しみをもたらす高いリスクがある。白リン弾によって、無差別に人口密集都市部が爆撃されれば、家屋を全焼させ、民間人に甚大な被害を与える可能性がある」
- Israel: White Phosphorus Used in Gaza, Lebanon(HRW、2023年10月12日)
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15日付『RT』によると、ガザ地区保健当局は、13日、イスラエル軍の空爆により、3か所で民間車両が直撃され、70人が死亡、最大150人が負傷したと、発表しています。国連の人道支援機関OCHAは、「これらの事件により、多くの人々が避難活動を断念し、帰国することになった」と述べました。
イスラエル軍の報道官は、これをハマスによる情報操作であり、攻撃は「車両を狙ったものはなく、民間人を狙ったものでもない」、攻撃が空爆によるものか地上に設置された爆発物であるかどうかはわからないが、「私たちが自信を持って言えるのは、イスラエル軍はその地域を意図的に攻撃したわけではないということである」と反論しています。
- IDF denies striking Gaza evacuation convoys ‘on purpose’(RT、2023年10月15日)
14日付『ロイター』は同日、米国務省報道官が、イスラエルでのハマスの攻撃で米国国民29人が死亡したと認めた、と報じました。米国務省報道官は、さらに米国の「15人の国民と1人の合法的永住者」が行方不明であることを明らかにしました。
- US State Dept. aware of 29 citizens dead and 15 missing in Hamas attacks(Reuter、2023年10月14日)
イスラエル側は、ハマスが民間人を最大150人、人質に取り、「人間の盾」として利用している、と非難しています。
13日付『AFP』によると同日、ハマス側が、「イスラエル軍機による空爆で、ガザ地区北部で拘束されていたイスラエル人と外国人のあわせて13人が死亡した」と発表しました。
- 外国人含む人質13人、イスラエル軍の空爆で死亡 ハマス軍事部門(AFP、2023年10月13日)
- Israel Orders Mass Evacuation of Northern Gaza(Foreign Policy、2023年10月13日)
15日付『タイムズ・オブ・イスラエル』は、ロイド・オースティン米国防長官が14日夜、「イスラエルに対する敵対行為や、ハマスの攻撃を受けてこの戦争を拡大しようとするあらゆる動きを阻止するため」、東地中海に第2空母打撃群を配備するよう命令した、と報じました。
先日派遣されたフォード空母打撃群に続く派遣となります。フォード空母打撃群はすでに先週、東地中海のイスラエル沖に到着しています。
第2空母打撃群「USSドワイト・D・アイゼンハワー打撃群」は13日、バージニア州ノーフォークを出発し、東地中海に向かっています。第2空母打撃群は、当初、米国欧州軍の海域に向けて航行する予定だったと、『CNN』は報じました。
15日付『RT』は、米国の空母打撃群の派遣は、イラン、レバノンの親イラン民兵組織・ヒズボラ、その他の親パレスチナ勢力が、イスラエル・ガザ戦争に参加しないよう圧力をかけることが目的だと報じました。
オースティン長官「9つの航空飛行隊、2隻のミサイル駆逐艦と1隻の誘導ミサイル巡洋艦を搭載した空母ドワイト・D・アイゼンハワーが、間もなく、この地域の空母ジェラルド・R・フォード空母群に加わる。
米軍態勢の強化は、イスラエルの安全保障に対する米国の断固たる決意と、この戦争をエスカレートさせようとする、あらゆる国家または非国家主体を阻止するという我々の決意を示している」。
上記『CNN』によると、国家安全保障会議の戦略通信調整官ジョン・カービー氏は12日、「米軍をイスラエルに駐留させる意図も計画もない」と述べ、「『この紛争を拡大させるのは良いアイディアだ』と考えるかもしれない、ヒズボラを含む他のあらゆる主体に対する抑止力として機能すること」が目的だと、米国の姿勢を説明しました。
- US sends second aircraft carrier to east Mediterranean to deter Iran, Hezbollah(The Times of Israel、2023年10月15日)
- US sending second carrier strike group, fighter jets to region as Israel prepares to expand Gaza operations(CNN、2023年10月14日)
- US sends second aircraft carrier to Israel’s aid(RT、2023年10月15日)
14日付『CNN』は、英国防省は14日までに、スナク英国首相が、イスラエルとハマスとの交戦を受けて、戦闘艦船と偵察機を地中海東部に派遣するよう指示したことを明らかにした、と報じました。
英国軍の派遣は、「イスラエルを支援し、地域の安定と事態の悪化を阻止するための措置」だとされています。
すでに13日から英空軍機による偵察飛行がはじまっており、今回送り込まれる偵察機はP8機、艦船は「ライムベイ」と「アーガス」の2隻だということです。
- 英、地中海へ戦闘艦船と偵察機派遣 イスラエル支援で(CNN、2023年10月14日)
イスラエル軍は、すでにレバノンを拠点とするヒズボラと国境地帯で交戦状態に入っており、戦闘が地域紛争にエスカレートする可能性が指摘されています。
13日付『タイムズ・オブ・イスラエル』によると、イスラエル軍は、同日、無人機・大砲・戦車によって、レバノンの標的を攻撃したと発表しました。この攻撃は、ヒズボラの無人機攻撃や発砲によって国境警備のバリアが破壊されたために行われたということです。
15日付『タイムズ・オブ・イスラエル』によると、14日午後、ヒズボラは、係争中のドブ山地域(レバノンでは「シバ農場」)のイスラエル軍陣地にロケット弾と砲弾を集中砲火しました。
イスラエル側は、ヒズボラがイスラエル国内のどこにでも攻撃可能な精密誘導ミサイルを含む約15万発のロケット弾とミサイルを保有していると推定しており、「当面の最も深刻な脅威」だと考えています。
- IDF strikes Hezbollah posts on border as terror group, Iran threaten to join war(The Times of Israel、2023年10月13日)
- Iran’s FM warns Israel to stop Gaza attacks or risk ‘huge earthquake’(The Times of Israel、2023年10月15日)
ドイツのショルツ首相は14日、ネタニヤフ首相と電話会談し、「ヒズボラの参戦を回避することが重要だとの認識で一致した」と、『共同通信』(14日)が報じています。
- ヒズボラ参戦「回避を」 独イスラエル首脳が電話(共同通信、2023年10月15日)
しかし、地域紛争に発展するリスクは拡大しています。
15日付『タイムズ・オブ・イスラエル』によると、シリアからイスラエルにロケット弾が発射された数時間後に、イスラエル軍がアレッポとダマスカスの空港を報復攻撃し、アレッポ国際空港を機能停止に追い込みました。
シリア国防省「午後11時35分頃…敵国イスラエルは、地中海方面からアレッポ国際空港を狙って空爆を行ない、空港に損害を与え、使用不能にした」
シリア国防省は、イスラエルが3日間で2回、アレッポ空港を爆撃したと非難し、この攻撃は「イスラエル占領の犯罪的手法を裏付けるものである」と述べ、「パレスチナ人民に対する犯罪」だと表明しました。
イスラエル外務省の高官は、「イラン政権が、北方戦線を開くために戦略兵器をシリアに、あるいはシリア経由で移動させようとしている」と述べ、イランが対イスラエルの第二戦線を開くことを阻止するための攻撃だと説明しています。
- Syria accuses Israel of bombing Aleppo airport for second time in 3 days(The Times of Israel、2023年10月15日)
戦線が北部に拡大すれば、イランが参戦し、アラブ諸国と、イスラム系テロ組織などが動くかもしれません。
14日付『CNN』は、イランのアブドラヒアン外相が同日までに、イスラエルによるガザ地区への「戦争犯罪と人道対策の封鎖」が続くのなら、新たな戦端が開かれる可能性があるとの見方を示した、と報じました。
アブドラヒアン外相は、訪問先のベイルートで、記者団からの質問に応じ、「ガザやパレスチナへの戦争犯罪と人道対策を損ねる包囲網が続くのなら、抵抗運動を担う他の勢力が(参戦の)決定を下すことはあり得る」と答えました。
アブドラヒアン外相は、ヒズボラ幹部のハッサン・ナスララ氏、レバノンのハビブ外相とも協議し、「レバノンの安全保障はイランの安全保障でもある」との考えを表明しました。
- イラン外相、イスラエルと「新たな戦端開く可能性」に言及(CNN、2023年10月14日)
イラン政府は、「新たな戦端が開かれる」だけではなく、イスラエル軍が地上侵攻を開始すれば、イランが介入する可能性も示唆しました。
15日付『タイムズ・オブ・イスラエル』の別の記事によると、アブドラヒアン外相は14日、「ヒズボラはあらゆる戦争シナリオを考慮しており、イスラエルはガザ攻撃をできるだけ早く中止すべきだ」と述べ、「ヒズボラが戦闘に参加すれば、戦争が中東の他の地域に拡大する可能性があり、そうなればイスラエルは『巨大地震』に見舞われるだろう」と警告しました。
『アクシオス』は、イラン政府が国連を通じてエルサレムに対し、「イランはイスラエルに対して、イスラム組織ハマスが実効支配するガザ地区で地上戦を開始した場合、イランは何らかの行動を取る」というメッセージを送ったと報じました。
イラン国連使節団は『X』に、イスラエルの「イスラエルのアパルトヘイトによる戦争犯罪と大量虐殺を直ちに止めなければ、事態は制御不能に陥り、広範囲に及ぶ結果を招くことになる」と投稿し、警告しました。
アブドラヒアン外相は、14日、カタールの首都ドーハで、ハマス指導者のイスマイル・ハニヤ氏と会談しました。『ロイター』が14日付で報じました。
アブドラヒアン外相は、ハマスによる奇襲攻撃を、イスラエルによるパレスチナ領土占領を後退させた「歴史的勝利」であると称賛し、「協力を継続することで合意した」と、ハマスが声明で明らかにしています。
- Hamas, Iran leaders agree to ‘continue cooperation’ after attack on Israel(Reuter、2023年10月14日)
アルカイダも、ハマスを称賛する声明を出しました。
14日付『テレ朝News』によると、国際テロ組織「アルカイダ」は、ハマスの奇襲攻撃を称賛し、「あなた方を孤立させないよう同胞に団結を呼び掛ける」と声明を出しました。
(アルカイダ総司令名のSNS上の声明)「イスラム地域のあらゆる場所で、大使館や艦船といった米国の施設などを攻撃しろ」。
また、「裏切り者」のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、モロッコ、バーレーンを攻撃対象にするべきだと訴えたということです。
- 国際テロ組織アルカイダがハマスを称賛する声明 米国施設などの攻撃呼びかけ(テレ朝News、2023年10月14日)
14日付『RT』によると、パキスタン最大の宗教政党、ジャミアット・ウレマ・イスラム(JUIF)のマウラナ・ファズルール・レーマン代表は、同党の創設者を追悼する集会で「イスラム諸国が我々の通行を許可すれば、我々は最前線での戦いに参加する用意がある」と表明しました。
レーマン氏は、「イスラエルは、その残忍さで抑圧の限界を超えた」と述べました。ハマスの指導者のひとり、ハリド・メシャール氏がビデオリンクで参加し、集会(ムフティ・マフムード会議)は、「パレスチナ連帯集会の性格を帯びた」と、『RT』は報じています。
レーマン氏は、先週、ハマスのイスラエル攻撃を「歴史的成功」と評価し、奇襲攻撃が「イスラエルの防衛システムとその傲慢さを破壊した」と称賛しました。
- Pakistani party pledges to join Hamas ‘on the frontlines’(RT、2023年10月14日)
シリア、レバノン、イラン、パキスタンなどで、次々とハマスを支持する声が上がってきました。これまで、米国を後ろ盾にして傲慢な振る舞いを続けてきたイスラエルに対して、共通の怒りを抱くアラブ世界が動くと、イスラエルは中東で孤立します。
サウジアラビアはすでに、米国が仲介して進めてきたイスラエルとの和解交渉を停止しています。
14日付『共同通信』はイスラム協力機構(OIC)は14日、ガザ情勢を巡って、18日にサウジアラビア西部のジッダで、緊急閣僚会合を開くと発表しました。サウジアラビアが開催を要請した、ということです。
- サウジ、イスラエルとの正常化交渉を凍結 ロイター報道(日本経済新聞、2023年10月14日)
- イスラム機構、18日に緊急会合 ガザ情勢巡り、サウジで(共同通信、2023年10月14日)
(「ハマスの奇襲攻撃から8日!(その2)」に続く)
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