2023年2月17日、午後6時半から、「日銀の金融政策は破綻し、アベノミクスも終焉! 物価は上昇し、実質賃金は低下! 今や日本は『衰退途上国』!? せめて破滅的な『増税軍拡』をやめて、米中『代理戦争』の罠から抜けよ!!」と題して、岩上安身によるエコノミスト・田代秀敏氏インタビューをIWJ事務所から生中継した。
田代秀敏氏は、2023年2月14日の『エコノミスト』に、「『ガラパゴス』日銀 市場機能をマヒさせた『看守』低金利慣れの財政に大打撃」という記事を発表され、「『現代貨幣理論(MMT)』が跋扈するのは、主要国では日本でだけ見られるガラパゴス現象」だと指摘、日本は今や「衰退途上国」であると述べている。
岩上「まず、『日本は衰退途上国となった』ということなんですけれども、ここからお話を願えればなと思います」
田代氏「日本の経済官僚のOBの方にお会いした時に『日本は衰退途上国だね』とおっしゃったのが、非常に印象的でした。そういう立場にあった人がそういうのだから、間違いはないですよね。つまり、国のお金の管理をずっとやってきた人が言うんですから。(中略)
どうして(衰退途上国なの)かというと、『中央銀行は政府の子会社だ』と、安倍晋三氏がはっきり言いましたよね。これはもう驚天動地の話で」
岩上「日銀の独立性を否定した」
田代氏「中央銀行の独立性というものが、先進国であるための条件なんですよね。そういう中央銀行の独立性がない国の通貨など、恐ろしくて使いようがないわけです。これがひとつ。
次に政府が財政規律を喪失。もう明らかですよね」
岩上「もう、やる気がなくなってしまった?」
田代氏「財政規律という言葉がいつ失われてしまったのか。もう、危機的な状況を通り越して、存在しているのが不思議なような状態の財政状態なんですよ。
ものすごい大盤振る舞いをすると。その仕方は、アメリカでもドイツでもどこでも増税をセットにするか、借金の返済計画を明らかにした上でやるわけですよ。企業もそうですよね。銀行からお金を借りる時、返済計画をきちんと出さないとだめです。そうでないと銀行はお金を出さないですよ、そんな会社には。
日本政府がやったのは、『とにかくそんなことは全部後回しだ』と言って、とにかくお金をばらまいてみる、と。どうしようかという時点で、今度は『もっと金を使う』と。
ヨーロッパの国でさえ、10年かけて軍事予算をGDPの1パーセント水準から2パーセントにすると、口で約束したのに」
岩上「ウクライナ紛争が起こって、アメリカがNATOの諸国に対して『自分たちでやれ』、『もっと軍事費を上げろ』という圧力をかけたことに対するアンサーとして出てきたものが1%から2%にあげると」
田代氏「でも、10年かけてるんですよね。ところが、日本はそれを5年でやるというから、ビックリして。そんなに日本の財政は余裕があったんですかと。しかも、それが、財源どうするかというと恐ろしくて、『これはファイナンスですか』というようなもの。あんなもの、もし企業が銀行に提示したら、もう2度と付き合ってくれないですよね。いつ電話しても『忙しいです』って言われて、おしまいになっちゃいますよ。
ほとんど予算の手当も何もないですよね」
岩上「『増税する』ことだけ分かってて。それも、選挙の後に出すからと、今から自民党は言ってるわけですよ。今年は政権選択の選挙はないわけです。来年なんだけれども、それまでに固めてしまって。どんどん調達は始まっていって、来年の選挙の前には、『増税の話はしない』。こういうことを公言しちゃうんですからね。
そして、選挙後に大増税をやって、この防衛費の軍拡を、ヨーロッパの水準から見ても、2倍(のスピードで2%に)到達させる」
田代氏「期間が2分の1ですから、スピードは2倍になるわけですよね。
恐ろしいことに、何もわからない人が言うならばともかく、政権与党の中でさえ、国会議員の中にこんなもの(現代貨幣理論、MMT)を支持する人がいるわけですよ。
現代貨幣理論、モダン・マネタリー・セオリー。こんなものが跋扈しているのは日本だけです。こんなもの、誰も相手にしません。実際、英語で出版されている経済学の雑誌をいくら検索しても、これを取りあげた論文は一本もないわけです。つまりもう、学問的に批判する価値もない、口にする価値もないと」
岩上「一時期、アメリカでブームになり、アメリカでのオカシオ・コルテスさんが飛びついたこともあって、注目を集めて。日本でも『れいわ』が、このMMTを掲げると。そして、極右も。自民党の極右派も、実はMMTが大好きで、軍拡をするにはこれ便利ですから。それから、ひたすら、『公共事業』という財政出動をするためにも便利。
この人たちは、何も考えてないですから、『れいわ』がそっちに行ってくれたことに大喜びしちゃってる。そういう場面が数年前ありましたけれども。
そういうことが、一時期ブームみたいになって、ステファニー・ケルトンみたいな、ブロンドの美しい女性学者が日本に来た時に、NHKをはじめ大騒ぎして、日本の大メディアが取り上げたんですけど。あれはもう、アメリカですら相手にされていない、ということですね」
田代氏「誰も知らない人でしょう? おそらく。アカデミズムの世界では、誰も彼女の名前も知らないので。こういうの(日本でだけMMTが跋扈しているのは)本当に『ガラパゴス』ですよね。日本でしか見たことないです、こんなこと。先進国では」
田代氏は、日本が「衰退途上国」である理由を、中央銀行の独立性がないこと、政府の財政規律が失われていること、MMTのような異端の経済理論が跋扈していること、という3点を上げて説明した。
田代氏は、与党をはじめとする国会議員の間にMMTがはびこり、「政権内部でこんなことを大声で言う人がいるというのが、びっくり仰天」だと付け加え、これだけを見ても「衰退途上国のリトマス試験紙があったら真っ赤になっている」と述べた。
岩上は、実は、MMTは「大増税でインフレを収束させる」と述べているが、日本のMMT支持者たちは、増税のことは言わない、と批判した。
田代秀敏氏は、2023年2月14日の『エコノミスト』に発表した記事で、1974年にインフレ対策として初めて本格的に赤字国債を発行して以来、日本は40年間以上、日本国債の金利はずっと下落基調にあり、例外はバブルの時だけだった、と指摘している。
田代氏は、「金利2%はまともな金利の下限」だと指摘、その2%を日本は1994年以来ずっと下回ってきたが、ついに昨年上昇に転じたことにふれ、もはや市場が日銀のコントロールできない状況に至ったと評した。
田代氏「実はポイントはここなんです。これは日本の国債の利回り、金利を時系列に沿って並べたものです。一番古い国債は、この1年物、5年物というのは、1974年から。
1974年というのは、赤字国債を本格的に発行始めたのがこの年なんですよ。
その前は、1965年。第1次東京オリンピックの次の年に発行して、これはさすがに『危ない』と思って、いったん封印したんだけど、第1次石油危機の時に起きたインフレーションの対策で、赤字国債を(1974年に)発行してから、財務省・大蔵省は国債の利回りを開示しています。(中略)
それを見ると、ずっと40年間、基本的には金利は下落基調なんですね。例外は80年代の終わりのバブル期です。バブル抑制のために、金利をどんどん引き上げていったんだけど、やっぱりバブル崩壊したあと、ものすごい勢いで引き下げてます。
御覧の通り、2000年になると、10年国債の利回りが2パーセントを下回っています。通常は、この2パーセントというのは、まともな金利の下限なんですよね。
サー・ウォルター・バジェットは、『ロンバート・ストリート』、イギリス、世界の金融の古典中の古典の本の中で、『ジョンブル、イギリスの男達は、大抵のことは我慢できるけど、2パーセントを下回る金利は絶対に耐えられない』と。なんと、その2パーセントを下回る金利を、日本男児は20年以上、耐え忍んでいる。すごい。
ところが、ついに、2021年の8月から押さえきれなくなった。ついにこれが上昇に転じました。
市場がついに、日本銀行がコントロールできない状態になっているわけですよね。日本銀行が突然、金利上昇を認めたのではなくて、市場に押し切られているわけです。
これは大変なことで、日本はほぼ40年間に渡って『金利は来年はもっと下がる』ということを前提に、企業も家計も、日本政府も運営されてるわけですよ。40年間だから1世代を超えてるわけですよね。一人の人間が仕事をやって引退するまでの期間をはるかに超えてやっているから、働いている人は誰も知らない、金利が上がる局面を」
岩上安身は、これを受けて、今の働き盛りの世代は、ずっとデフレの中で働いてきているから、インフレをまったくわからない、アベノミクスを含め、30年で組んだいろんな計画がこれから大きく狂い、負の遺産になってしまうのではないかと、述べた。
田代氏「アベノミクスと言われるものは、2013年に始まったので、ここでまた一段と金利が下がっています。裏返しで言うと、金利が下がっているということは、国債の価格は上昇しているわけです。
いや、こんなに財政状態が悪い国の国債価格が上昇するんだろうかと」
岩上「おかしいですね」
田代氏「それは要するに、無理やり日本銀行が無制限に国債を購入していくっていうことをやってるからですよね。
これは何もドキュメントはないけれど、合理的に考えて、黒田総裁がやったことっていうのは、実質的には日本国債の暴落を止めたんですよ。本来、その暴落を止めてる間に、財政を再建して。だから、かつては、プライマリーバランスを黒字化するということが明確な政治目標になってましたよね。いつの間にかそれも消えてしまった」
岩上「自民党が、それを言ってました」
田代氏「自民党でさえ言ってたのが、言わなくなってしまった。達成できる見込みがなくなったから。そういうことを受けて、マーケットは、『それじゃあ』と、国債を買わないで、売っているわけですね。そうすれば国債価格は下落しますから、自動的に国債金利が上昇していくというのがここに出てるわけです」
田代氏は、もはや「国債市場で本当の買い手が、日本銀行だけという状況になってきた」、法律上普通の銀行が国債を買ってそれを日銀が買うのだが、「普通の銀行がもう国債を買わないという事態が発生してしまった」、そのため国債の「取引不成立」が頻発していると指摘した。
田代氏「財務省も考えに考えて、『この価格でどうですか』と、モニタリングというか、意見を聴取して値段つけているんだけど、結局、オークションの日になると手が上がらない。午前中、手が上がらないから、金利をすこし上げる。つまり、国債の売り出し価格を下げるわけですね。
『これはどうですか』と多くの場合はそれで買ってくれるけど、それでも買わない事態が発生するんですね。で、それがもう今頻発してると。
実は植田和男先生が、日本銀行次期総裁に政府が指名するという報道が出た日、金曜日、あの日も10年国債、12年国債の取引は成立していないのです。
あれを見たら、それはちょっともう、日本銀行プロパーの方も財務省プロパーの方も、『俺が総裁になる』という方はいらっしゃらないですよね、怖くて」
岩上安身は、雨宮副総裁など、次期総裁に名前の上がった人もいたが、辞退したようですね、「実際は内部で誰もなり手がなかったんじゃないか、という報道もあります」と述べた。
田代氏「『火を噴いている船の船長になってください』と言われてるんですよね」
岩上「その火を噴いている船に、我々は乗っているわけですからね。たまらないですよね」
田代氏は、植田和男先生が日本銀行総裁になるということは画期的だが、特に画期的なのは、「おそらく戦前戦後を通じて日本銀行総裁に博士号をもった人が就任するのは初めて」だと指摘した。
田代氏は、世界標準では、中央銀行総裁というような極めて高度な仕事に就任するためには、その分野の博士号を持った人間が当たるというのは当たり前だが、日本では学部卒の人が順繰りに日本銀行総裁になっているから、世界から見れば「ワーカー」という認識しかなく、「相手にされていない」と述べた。
田代氏は、植田和男氏が次期日銀総裁に指名された日、『ニューヨーク・タイムズ』は、まったく一行も記事を出さず、代わりにイエール大学助教授とされる日本人男性(成田悠輔氏)が「高齢者に集団自死を求める」発言をしたことをすっぱ抜いた、と指摘した。
『ニューヨーク・タイムズ』は「彼(成田氏)は米国の学界でほとんど知られていない」と報じているが、日本ではここ数年、SNSなどで論客として持て囃されている「時代の寵児」といっても良い存在である。
『ニューヨーク・タイムズ』は、成田氏のツイッターの自己紹介「言ってはいけないと言われていることは、通常は真実です」を引用し、「彼は、社会的タブーを喜んで破ることに熱心な聴衆を見つけた、数少ない日本の挑発者のひとりである」と締め括っている。
- A Yale Professor Suggested Mass Suicide for Old People in Japan. What Did He Mean?(イエール大学教授が日本の老人に集団自殺を勧めた。彼は何を言いたかったのだろうか?)(The New York Times、2023年2月12日)
岩上安身は、成田氏の発言について、「ルフィ」を名乗る指示役が支配する強盗殺人グループと本質的には同じだと述べた。
岩上は、「ルフィ」らがその手段をエスカレートさせ、高齢者を標的にしたオレオレ詐欺から、ターゲットとした高齢者の家へ直接押し入り、強盗、殺人まで犯すようになった背景には、「我々若者は金がなくて苦しい思いをしている、老人達が金を持ってるから日本は良くないんだ。だから虐殺してその金を奪おう」という考えがあり、成田氏の思想は、「ルフィ」らと同じだと指摘した。
インタビューは休憩を挟んで続き、田代氏にアベノミクスと黒田日銀の政策が招いた現状、植田氏のキャリアと人脈について詳細に説明していただいた。
日本経済は「火を噴いている船」ともいうべき状況にありますが、さらに防衛費の倍増を急ぐ日本政府は進めようとしている。しかし、米国に隷属し、このまま米中対立に加担していくことになれば、まさに日本は「ウクライナ」化し、戦場となる。
シーモア・ハーシュ氏が「独露をつなぐ天然ガスパイプライン・ノルドストリームの破壊を計画したのは米国・バイデン政権で、ノルウェー海軍が協力した」というスクープは、それ自体が衝撃である。
それだけではない。米国・バイデン政権が爆破したノルドストリームは、米国の「同盟国」であるはずのドイツ経済を支える大きな力であった。ハーシュ氏のスクープが事実であれば、米国は自国の覇権、そして目先の中間選挙・大統領選挙のためには、同盟国をすら裏切るのも平気だということになる。
田代氏は、ハーシュ氏のスクープに米国がきちんとした反論をできないとすれば、「ドイツにとっては一番痛いところを突かれた」ことになる、同盟国にこのような破壊工作をするとなれば、「NATO加盟国にとっての最大の敵は米国ということになりますね」と述べた。
日本は米国に要請されるがままに、国内経済をさらに痛める増税をして防衛費を倍増し、自滅の道を進むのであろうか。米国がドイツに対して行ったのと同じように、マラッカ海峡やホルムズ海峡を封鎖し、同盟国である日本を締め上げたらどうなるのだろうか。