2021年5月21日(金)午前10時45分頃より、法務省にて上川陽子法務大臣定例会見が開かれた。まず上川法務大臣から3件の報告がなされた。
ひとつは、昨年11月に国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会より、カルロス・ゴーン氏に対する日本政府の措置が恣意的拘禁に当たる旨の意見公表があったことに対してである。日本政府は、その意見には事実誤認が多く含まれていることを指摘し、作業部会に、日本の立場を伝える文書を送付したとのことである。
続いて、子どもをいじめや虐待から救うための「子ども人権SOSミニレター」の配布が行われること、最後に法務省関連官署・施設での新型コロナ感染症の感染状況の報告があった。
その後、会見参加記者と上川大臣との質疑応答が行われた。
東京新聞の望月衣塑子記者は、「昨日の参議院本委員会はウィシュマ・サンダマリさんのご遺族が傍聴されておりました。保安上の観点から監視ビデオの公開に対して否定的な大臣の発言に対して、妹のワユミさんは『法務大臣は本当に申し訳ないと思ってるんでしょうか。日本はアメリカ人でも、日本人に対しても同じような対応をするのか、小国のスリランカ人だからこそ、これらの差別的な対応をするのではないか』と批判をされておりました。この点について大臣の受け止めをお願いいたします」と質問した。
これに対して上川大臣は、以下のように回答した。
「あらためて、被収容者の方々の命を預かる入管施設におきまして、収容していらっしゃる方が亡くなられるということは、あってはならないことだというふうに思っております。おひとりおひとりの命を預かるという立場で、こうしたことにいたったということに対して、大変重く受け止めさせていただいているところでございます。
亡くなられた方の体調が時々刻々変わる中にありまして、様々な思いを持っていらっしゃったのではないかということを思い浮かべると、本当にこの状況の中で、苦しい思いをされて亡くなられたんだというふうに思っておりまして、心からのお悔やみを申し上げる次第であります。
お一人の命が亡くなられているということでありまして、この入管施設におきまして、この対象に対してどのように、病院の方々や、また外部の病院、院内の診療所におきまして、対応してきたかということについて、事実をしっかりと把握することが重要であるというふうに思って、調査チームを設定をし、なるべくこの事実関係についての真相究明をしっかりするようにと指示をしてまいりました。
客観性と公正性が何よりも大事であるということでございまして、そういう意味で、第三者の方にも入っていただく中で、しっかりと事実を究明していくと、こういう姿勢で、中間報告もなるべく早い時期にお出しするようにということで指示をし、また様々なご指摘を受けたことにつきましてもさらに掘り下げをしながら、この事実を真正面から曇りのない状況で見て行くと、こういう姿勢が大事であるということを、重ねて申し上げたところでございます。
遺族の方にお会いをするということについては、法務大臣として今のように指示をしているなかで、という思いもございまして、しかしコロナ禍におきまして、この日本の国にご訪問されて、14日間からの隔離の中で、その後お姉さまのお姿にお会いをし、そしてご葬儀をなさったという、その事を考えると、私も同じ年頃の娘を持っておりますので、特にお母様のお気持ちは、胸が張り裂けそうな、と申し上げた時もありましたが、いまもまったく同じ思いであります。
今、望月記者の方から私が、国籍とか、そういうところについて、違うようなご発言がありましたけれども、そういうとらえ方はまったくしておりませんので、今のようなご質問をされるとなかなかどうお答えしていいかわかりませんが、私自身は海外の経験もありますし(そこでは)自分自身もマイノリティーで、病院で入院したことがありますが、一人の命に向き合う時に、まったくそういうことは考えたこともありませんので、ちょっと、ご質問のところに、ご本人たちがそうおっしゃるとするならば、そういう思いを持ってらっしゃるとするならば、それはそういうことではない、ということをお伝えできたらな、と思っております。
今、客観的な調査をしている段階でありますので、しっかりとした調査を指示をしておりますし、なるべく早くお伝えできるように、そして最終報告の結論につきましても、しっかりと説明責任を果たすということでありますので、それをしっかりとしてまいりたいというふうに思っております」。
IWJ記者は、以下の質問をした。
「二点、お聞かせ下さい。ウィシュマ・サンダマリさんの実態をとらえた監視ビデオ映像の開示を、ご遺族が求めていらっしゃいますし、それから支援団体の方ですとか、野党も求めております。大臣は真相究明、そして透明性をもってこの問題に関して取り組むとおっしゃいましたが、ビデオが今後この問題に関して、批判的な厳しい目を持ってる人達に向けて公開される、開示されるということも望ましいとお考えでしょうか。
もう一点、さきほど望月記者からご指摘がありましたけれども、現在入管に関して、日本全国で苦境にある、拘留されたり行動の制限を受けている方々がいらっしゃいますが、それを現場で対応されている職員の方々や、それぞれの場所では、さきほど大臣がおっしゃったような、国籍やそれぞれの日本に来られた事情による差別や蔑視や冷遇がないということが、そのすべての職員の方々や働く人の意識に反映されているとお考えでしょうか。
この二点、お聞かせ下さい」。
これに対して上川大臣は、以下のように回答した。
「まず一点目のことでございますが、この点につきましては最終報告に向けまして、今努力をしているところであります。様々な事実、またエビデンス、こういうことにもとづきまして、客観、公正にしていく、という状況でございますので、そのことについてなるべく早い時期にお出しができるようにしている状況でございます。
ビデオの開示についての状況でございますが、収容施設の設備の状況、職員の状況等を撮影したものでございまして、保安上の観点からその取扱いにつきましては、非常に慎重な検討を要するもの、というふうに思っております。
また、死亡に至る状況を撮影した映像でございまして、亡くなった方の名誉や尊厳のことという観点からも、慎重な配慮を要すると考えております。
さらに先程ご指摘ありましたが、最終報告に向けまして第三者の方に調査をしていただいているところでございますので、公正、客観性というかたちの観点の中でも、今のような取り扱いが極めて重要であるという視点でございます。
先入観なくご議論いただきたいというふうに思っておりますので、私は、第三者を含めた最終調査と、そしてそれにもとづきまして、しっかりと説明責任を果たしていくことが大事ではないかと承知をしているところでございます。
二点目のところでありますが、人権意識というのは、なかなかこういう時に、何かことがあった時にですね、深く考える機会になるかと思います。今まさにあのご指摘いただいたように、こうした質問が出る、ご意見が出るということについては、私は思いもよらない質問でございますので、確かにあの心の持ち方は、一人一人の心の持ち方でありますので、意識の一番深いところに関わるというのが、この人権の意識そのものであるというふうに思っております。
こうした施設におきまして、命を預かっていることでありますので、ひとりひとりの命にしっかりと向き合うべきであると。これはどの法務省の職員も、共通して持つべきことであると思っております。
日本の社会全体の中でも、人権の問題につきましては、どういう状況で、こういう問題が出てくるのかというのを、本当は、ことは起きてはいけないと思いますが、いろんな場面がありました時に、それについて考えていくということ、この積み重ねしかないというふうに思っています。とりわけ、命を預かる入管の施設でございますので、職員の方たちはそのおひとりおひとりとしっかり向き合って対応していく、ということが必要であるというふうに思います。
おひとりおひとりが、どんな心の持ちようで動いてらっしゃるのか、ということについては、人権と、おひとりおひとりの存在を大事にしながら対応していくべき事柄、と私は思っております」。
会見の詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。