一連の原発運転差し止め訴訟の弁護団の代表であり、原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)の幹事長であり、『日本と原発』などの映画監督でもあるという、幅広いご活躍で知られる河合弘之氏の、岩上安身によるインタビューを4月14日午後6時半からフルオープンで生中継した。
映画『日本と原発 4年後』は、YouTubeで全編公開されており、4月14日現在、視聴数は16万6983回。河合氏は「大ヒットです」と微笑む。
- 映画『日本と原発 4年後』全編版(シーン別の頭出しができます)(映画「日本と原発」、2018年6月6日)
冒頭、東京新聞「この道」で2020年10月から2021年3月まで連載された、河合氏の自伝をご紹介いただいた。河合氏は満州生まれ、のちに中国残留孤児の国籍取得の仕事をして、いかに戦争のせいで悲劇が無数に起きているかを実感したと語った。
最初の話題は、政府が4月13日に決定した、福島第一原発「汚染水(トリチウム水、処理水)」の海洋放出問題である。岩上が「このコロナ禍と五輪のドサクサに紛れて、福島第一原発の『汚染水』の海洋放出を閣議決定!の愚、という話です」と切り出すと、河合氏は、今、なぜ放出する必要があるのか、全く理屈が通らないと応じた。
河合氏「この問題についてはモルタル固化による処分か、陸上保管かと。何で、今、ここで流さなきゃいけないのか全くわからない。というのは、福島第一原発の敷地の中にもまだまだ空地があるんですよ。その周りには無限大みたいに広い使えない土地があるわけですよ。放射能汚染によって。そこにタンクをもっといっぱい作って、そこに(汚染水を)入れておいて、安全になるまで様子を見ればいいんです。
そういうと、『いや、デブリを取り出してそれを保管する場所が必要だから、敷地内の空地は使えないんですよ』という。しかし、デブリを取り出して陸上に保管する時期っていつなんですか。今までデブリを1グラムぐらいしか取っていない。デブリは牛糞のように固まってあるわけではなく、ものすごい放射能を発散しながら、こういうところにへばりついているんですよね。それを全部取って、安全な形にして地上に保管するなんていうことはそもそも不可能だと思うし、やれたとしても50年、100年先ですよ。
50年、100年先のための空地を取って置くために、今、海に流すというのは、全く理屈が通っていない。見通しも立っていない(デブリ取り出しという)事業のために空地を取っておかなきゃいけないから、海に垂れ流さなきゃいけないというのは、論理的に矛盾している」
その上で、河合氏は、今回の海洋放出について、廃炉のプロセスのためにいったん決めた硬直的な方針を変えない日本独特の通弊のせいだと述べ、裁判も辞さない姿勢を示した。
河合氏「これは福島県民全体を敵に回すような政策だと思います。僕はこの垂れ流しを止めるための裁判的な措置、司法による本訴か、仮処分をやらなければいけない時期が来るんじゃないかと思っています」?
そもそも、デブリの取り出しについては、デブリを見つけて捕捉し、取り出すための一連の技術が確立されているわけでもなく、世界で成功した事例もない、「いつかできるだろうという空想」だと岩上が指摘。
河合氏「福島の人たちに対する心ない処置だなと思います。東京電力は自分で事故を起こしておいて、それによってできた汚染水をまだ福島の海に流し出すというのはどういう了見だと思いますね」
岩上が「気になるのは加藤官房長官は『処理水』と『汚染水』の違いを明確化したと。『汚染水』という言葉を使うなというアナウンスなんです。各メディアもそれにしたがって、『処理水』と書く。プロパガンダをやってるんですね。言葉狩りをやっているんですよ」と、日本経済新聞など「原発広告マスコミ」がやっている「言葉狩り」の実態を紹介した。
河合氏「原発の世界は皆それですね。例えば、原発の老朽化っていうのを『高経年化』と言え、とかね。ほんとうは『核発電』なんだけど、『原子力発電』に統一したり。一事が万事で、『言葉狩り』をやっているわけです。『処理水』というのと『汚染水』というのでは人々の嫌悪感が違いますからね。
何で経団連や日経新聞が原発を擁護するのかと。自然エネルギーでグリーン革命だ、第4次産業革命だと言った方が日本の経済にとって爆発的な恩恵をもたらすと思うのに。
オール福島が怒り出すんじゃないですか。過酷事故による汚染水を大量に垂れ流すなんで、海外でも事例がないこと」
河合氏は原自連の幹事長でもあるが、原自連は、会長が城南信用金庫相談役の吉原毅氏、顧問に小泉純一郎元総理と細川護煕元総理、副会長に中川秀直氏元自民党幹事長が名前を連ねる団体である。
河合氏「小泉さんは自民党の大ボスで、原発も推進したけどあれは悪かったと。脱原発にがんばると。『やろう』とツーカーの仲になった。汚染水も右も左もなくて、国の恥だからやめろと」
河合氏は、エネルギー問題には右派も左派もないと言う。反原発の団体も、自然エネルギーの団体も横のつながりが少ないため、みんなが集まる団体をつくった。原自連には、今、400くらいの反原発や自然エネルギーを推進する団体が参加しているという。
河合氏「僕は脱原発至上主義者だから、脱原発の人なら誰とでも手を組むんです。それが岩上さんと少し違うところだけど」
岩上「それはちょっと誤解が…。私は原発は国家安全保障上の最大の脅威だと思っていますから。愛国者なので」
河合氏「僕も愛国者です。なぜそんなに原発のことをやるんですかと、僕はよく言われるんですよ。僕は考えたんだけど、やっぱり愛国心ですね。この美しい日本、僕が生まれ育った日本だから、日本が大好きだからという郷土愛、愛国心で僕は脱原発運動やっているんだと」
次の話題は、「歴史的な判決」と河合氏が評価する、3月18日の「東海第2原発運転差止訴訟」であった。河合氏は弁護団の団長である。
岩上「東海第2原発運転差止訴訟で住民が勝訴しました。多重防護の5層目だけで止められるというのが画期的だと」
河合氏は、東海第2原発運転差止訴訟が画期的な判決である理由を5つあげた。
河合氏「あの判決は、それぞれの層が独立して判断されなければならないと。第5層の避難計画だけで『ダメだ』といったところが画期的です。避難計画を作ってる所が少なく、できてる所も実行性がないですねと。例えば、原発事故が起こるときは複合的な要因で起こることが多いんですが、大地震があったら車では逃げられないとか。
もう1つ面白いのは、この判決は『絶対的安全はない』という推進側の主張を逆手にとって、事故は起こりうるから第5層は大事だよねといったところ。
1層から4層は科学技術論争なんですが、5層目は科学技術論争はほとんどいらない。社会的な判断だから、裁判官が自信を持って、自分の頭で判断できる分野で差し止めをしたことがすごく大きい。
もう1つ、再稼働許可をするためには避難計画は入ってない。電力会社も避難計画は義務にはなっていないんですね。彼らの手の届かないところで止めたこと。だから、規制委員会や経済界、東電、政府も一切非難してない。技術的な判断じゃないから沈黙してる。
この判決は全国展開できる。ターゲットに入ってくるのは浜岡原発。柏崎刈羽、玄海など水平展開できる。歴史的な判決です。ここから流れが変わっていくだろうと思っています」
そして、河合氏は、原発の周辺地域における避難計画の難しさを指摘した。
河合氏「本当に住居と原発が近くにある。実際に逃げられないからね。PAZ(Precautionary Action Zone=予防的防護措置を準備する区域)、半径5km圏内から最初に逃げることになっている。そして30km圏内の人たちは、その人たちが逃げるまで待ってから逃げるという基本計画になっている。しかし、周辺の人が我慢できるわけがない。避難計画には無理があるんです」
一方、コロナの問題もあると岩上が指摘しました。避難所では、現状、感染対策のために窓を開けて換気をしなければなりませんが、放射性物質が入らないように隙間をテープで目張りすることも必要だという矛盾に陥ります。
河合氏は、コロナと避難の矛盾を問い、地元住民と差し止め訴訟を行い、3月17日に大阪地裁で敗訴している。
河合氏「コロナが去らない間は原発止めとけと仮処分を起こしたが却下になった。大阪地裁は多重防護の考え方を正面から否定してきた。その翌日に東海第2が出た」
3月18日の伊方原発の運転差し止め訴訟でも、広島高裁は住民側敗訴の判決を出しています。河合氏は反省点として「技術論争をやりすぎた。最悪な裁判官に当たった」と反省の弁。
この後、東海第2原発と伊方原発で正反対の判決が、わずか10分の違いで出された件について、樋口英明氏からIWJへの寄稿文を分析しながら、河合氏に解説していただいた。
樋口氏の寄稿文は、以下で読むことができる。
- 「私が原発を止めた理由」著者、樋口英明元裁判官が、IWJに緊急寄稿! 「東海第2原発判決と伊方原発仮処分異議決定について」(日刊IWJガイド、2021.03.19号~No.3109号)
樋口英明氏には、岩上安身が3月10日にインタビューを行っていますので、ぜひ御覧ください。
樋口氏は裁判官として、河合氏は弁護士として法廷に臨んできたが、河合氏は、樋口氏の寄稿文に対して「僕は樋口さんは100%正しいと思う。僕も含め、原発差し止めに関わる弁護士は考えを変えないといけないと思う」と述べた。
多くの有能な弁護士が、原告側が主張する難解な科学技術論争に囚われて勝負を挑もうとするが、それよりも樋口元裁判官がいうように、多忙で、3年単位で異動してゆく裁判官にもわかりやすい、常識的な論点で勝負をするべきではないかと河合氏は言う。
河合氏は、「よく誤解されるのだけれど」としながら、「脱原発弁護士は皆、手弁当でやっていることを理解してほしい」と訴えた。
河合氏「脱原発弁護士はみんな手弁当でやってることを理解してほしい。損害賠償系は別だけど、差し止め系の裁判は一切お金がない。勝っても国民にとっては利益だけど運動してる人も原告もお金をくれません。僕らはお金欲しいと思ってない」
儲けにもならず、裁判官次第で敗訴にもなる原発差し止め訴訟だが、河合氏は、もう自分たちの勝利は確実だと思うと明るい気持ちで取り組めるという。
河合氏「今や原発を動かす正当理由はほとんどなくなった。理由は今だけ金だけ自分だけ。東電なんか特にそう。原発の賠償のためにまた原発を動かすのは論理的に破綻している。自然エネルギーで弁償するのが人の道。世界は自然エネルギーをやらないと損だという時代に入ってきた。儲かるからやらなきゃ損という波は世界を巡ってる」
「日経新聞は自然エネルギーをやらなきゃダメだと言い出した。菅政権がグリーンデジタル革命やると言い、そこで大会社が自然エネルギーにバーッと行ってる。その流れは止まらない」
「僕らは必ず勝つんです。世界の流れはそうなってる。今や東芝にしても電力会社にしてもシフトしないと危ないと腹の底では思ってる。僕は政府が原発を買い取って原発を止めさせ、電力が自然エネルギーに向かう時代にしようじゃないかと」
最後の話題は「原発×戦争リスク」であった。
岩上「先生は自分は愛国者だと。樋口さんも保守的な人間だと。国家安全保障を考えたときにいかに原発が危険か、バカバカしいか」
河合氏「その観点から言うとミサイルの問題。1%の危険を排除するのが安全保障、防衛の原理で、防衛費を何千億と使うのに、一番危ないアキレス腱である原発を54ヵ所も作って何も議論しない。何やってるのと。
原発はテロリストのターゲットになるし、ドローンが発達してる。僕はミサイルの危険を理由に高浜原発の運転差し止めをかけて、負けてしまったけど」
岩上「判決では、原発に着弾するかどうかは明らかでないという」
河合氏「PAC3は原発を全然カバーしてない。よく無防備で他の所の防衛だとやってると。国防上の観点からも原発はマズい。竹田恒泰さんも反原発で、右翼だろうが左翼だろうが日本のことを本当に心配してる奴は絶対原発反対すべき」
岩上「先生は『原発は敵国のために用意した自滅のための核弾頭』だとおっしゃっていますね。
PAC3が守っているのは米軍基地なんです。毎年開催されている日米合同演習『ヤマサクラ』ですが、2011年の演習では、若狭湾で敵を迎え撃つというシミュレーションをしています。戦場『バトルフィールド』は日本列島全体です」
この後、安倍政権が認めてしまった集団的自衛権の行使と「原発×戦争リスク」、米中覇権争いが激化している現在の状況と日本が戦争に巻き込まれるリスク、4月11日に発生したイランのウラン濃縮施設の事故を引き起こした原子力テロのリスク、サイバー攻撃やドローン攻撃などについて河合氏と岩上が議論を交わした。
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