中国のミサイルの脅威を言い立てながら、川内原発を再稼働する安倍政権の「矛盾」 ──「これで『国民を守る』なんて二枚舌」~IWJ×FFTV第2弾!(後編) 2015.8.16

記事公開日:2015.8.26取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

特集 3.11から11年!『ウクライナ侵攻危機』で、IWJが警告し続けてきた『原発×戦争リスク』が明らかに!
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 「山本太郎議員は国会で、川内原発に弾道ミサイルが直撃する可能性について質問した。政府は回答を拒否したが、戦争法案では、中国からミサイルが飛んで来るぞと脅している。本当に中国の脅威があると信じるなら、原発撤去を訴えないといけないはず」──。

 岩上安身は、安倍政権が中国の脅威を強調して安保法制を進める一方で、原発が被弾した際の対策もないまま、川内原発を再稼働させたことを、「戦争をやるのに被害を想定しないのはおかしい」と力説した。

 2015年8月16日、東京・港区のIWJ事務所にて、FoE Japanの満田夏花氏、フクロウの会の阪上武氏、原子力市民委員会事務局の水藤(すいとう)周三氏を迎えて、IWJとFFTVとのコラボ企画第2弾「桜島は序章に過ぎない!? 『充電』された姶良カルデラの脅威! 日本全土を襲う巨大噴火と川内原発再稼働の『愚』」が行われた。

 後半は、原発の高経年化対策の不備、川内原発再稼働をめぐる意思決定プロセスの問題、そして現在、国会で審議中の安保法制とアメリカの覇権戦略という視座から、「原発×戦争リスク」について論じていった。

 阪上氏は、原発推進と戦争法案には政策の矛盾があると指摘。「本当に原発を稼働させるなら、周辺国との平和を確立することが大前提だ」と述べ、 満田氏は、「原発推進の人たちは、安保法制でも、中国と北朝鮮の脅威を信じて、安倍さんに共感してしまうのではないか」と懸念を示した。また、水藤氏は、再処理工場や高速増殖炉の危険性に触れて、「そのリスクを無視して、『国民を守る』なんて二枚舌です」と断じた。

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■ハイライト

■全編動画
【1部】

【2部】

【3部】

  • ゲスト 満田夏花氏(FoE Japan)/阪上武氏(フクロウの会)/水藤周三氏(原子力市民委員会事務局)
  • 日時 2015年8月16日(日)17:00〜19:00
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

再稼働のスケジュールに合わせる原子力規制委員会

岩上安身(以下、岩上)「原発の高経年化対策制度及び運転期間延長認可制度のテーマに移ります。ある原発メーカー技術者は、再稼働は絶対無理と言い切った。常識的に考えても、ずっと止めていたものを動かすなんておかしい、と。しかし、公表できないと言われてしまいました」

阪上武氏(以下、阪上・敬称略)「川内原発は老朽化の問題もあります。1号機は32年目になりました。国の制度では、高経年化対策制度で、30年目と40年目に検査することになっています。まず、30年目に電力会社で劣化を調べ、長期保守管理計画を策定します。

 国がそれを審査し、保安規定の変更申請に盛り込んだものの認可を受けます。認可された段階で30年目を迎え、その先の保安検査で変更を反映させなければならない。国がそれらをチェックするシステムになっています。

 申請は1年前にやらなければならず、現在、特例措置で半年前でもいいとされ、九電は半年前に出したが認可が間に合わず、8月5日に認可された。30年を超えてしまった理由は、新適合審査が同時並行で進んでいたこと。もうひとつは、540ガルから620ガルに引き上げられた基準地震動の変更だった。規制庁は原子炉の停止時の評価を出すように指示。それで認可するとし、再稼働するなら補正申請を改めて提出させることにした。

 川内原発は半年前、運転を前提とした申請をした。つまり、停止時の申請を飛ばした。規制庁は無認可との警告を発せず、30年をまたぐ前日、『条文には30年前までに申請をすればよいとある。だから、法令を満たしている』と判断した。このように、九電の都合に合わせて解釈を変えてしまったのです」

原子炉等規制法違反でも誰も咎めない

阪上「それならば、事業者は申請だけをすればよく、内容は関係なくなってしまい、認可制にした意味がない。さらに、基準に抵触する可能性もある。高経年化対策実施ガイドでは、長期保守管理を運転開始後30年を経過する日に始める、と決まっている。そうなると、認可を受けていない違反状態になるわけだが、その指摘もない。

 菅直人氏が、無認可で再稼働はありえるのかと尋ねると、規制庁は、高経年化対策の充実のための手続きを定めたもので、運転を妨げるものではないと答えた。老朽化した原発を運転をすると、中性子が当たって脆くなり、力が加わり腐食が進むのですが……。

 規制庁は、九電の手助けをしているとしか思えない。原子炉等規制法(保安規定)にも、『運転を始める前に認可を受けなければならない。変更する時も同様』と明記してあるが、規制庁は、『これはスタート時のことだ』と言って逃げている」

岩上「メチャクチャに詭弁を弄していますね。誰か、裁判にしないんですか」

満田夏花氏(以下、満田・敬称略)「私たちが騒ぎ立てたので、彼らもヤバいと思い、8月5日ギリギリにスピード審査で認可したんです。このままでは裁判に負けると思ったのでしょう」

阪上「再稼働については、30年をまたぐ前日に、『保安活動は引続き行なわれている。中性子脆化と低サイクル疲労では急激に悪化することはない。引続き、冷温停止状態が続くと判断』と。彼らは、原子炉が止まっていれば無認可でもいいと思っている。

 田中俊一委員長は、稼働するなら、補正申請をすれば適合性審査をするのでいい、という見解だった。規制庁の中でも、表向きは『認可と運転は関係ない』と言いながら、内実はマズいと思っているのではないでしょうか」

岩上「形式的な話だけではなくて、実際問題、検査をしたら、脆弱な部分や金属疲労などが見つかる可能性はある。検査とは、そのためにやるんでしょう。早期発見すれば、それはそれで安心できる。悪いところを治せばいいのであって、いい加減にやられては困りますよね」

原発も、原子力規制委員会も、規制庁も、劣化している

阪上「認可がすべて終わったと報道されたあと、鹿児島の高木章次さんが老朽化の認可が残っていることを見つけ、県庁に申し入れをして問題になりました。私たちも規制庁に指摘して、再稼働をストップさせようとしたら、規制庁はバタバタと認可を出してしまった」

満田「審査は、九電自身がするので甘くなる。それを規制庁が鵜呑みにして、認可したということです」 

阪上「7月3日、基準地震動を変えたので、再検討しなければならないのですが、現場検証もなし、外部有識者の意見聴取もなしで、認可を出した。実際、資料を検討すると危ないところがある。主蒸気及び主給水系統配管のエルボー部(分岐部位)などの劣化です。これが破損すると炉心冷却に影響する。

 耐震安全性評価では、資料を精査すると、甘く見積もっているのがわかります。それでもギリギリの値です。似たような場所が他にはないのか。実測した値なので誤差はないのか。予測値とのバラツキも考慮したのか。規制庁に聞くと、限界値1よりも低いことを確認した、と答えただけです。

 今回、より大きな地震動(SS2)を設定したが、全部はチェックしていない。九電は従来の540ガル(SS1)で検査をして、厳しいところだけチェックし、残りは2016年7月までに終わらせる、と。再稼働に間に合わせるための審査なのは明らかです。

 規制庁は本来、そういうことを見逃してはいけないはずだが、すべて電力会社に合わせている。規制庁の腐敗。火山の審査でも、彼らは『判断基準について、学術的正しさは判断しません』と開き直ってしまう。また、『火山ガイドなんて厳格に守らなくてもいいんです』とか、規制当局の人間が言ってしまうんです。原発も、規制も劣化しています」 

岩上「法的安定性は関係ないんですね。原子力メルトスルー委員会、と言わざるを得ない」

九州電力に舐められている原子力規制庁

水藤周三氏(以下、水藤氏)「高経年化実施対策ガイドの時は、ひどい答弁でした。ガイドに違反していると指摘すると、『ガイドはあくまでも方針なんで、違反するしないは関係ない』と答えています」

阪上「高木さんが、30年をまたいで認可が下りていないことに対して、九電に聞くと、『罰則規定がありませんから』と。完璧に規制庁は舐められているんです。また、規制側も一緒になって手助けしています。

 美浜3号機の破砕帯のことで、高経年化に関連するスキャンダルがありました。2015年4月6日の、活断層の判断の有識者会合で、石渡明委員は、『後期更新世以降に活動した明確な証拠はない。しかし、絶対に動いていないと否定するような根拠もない』とした。

 2日後、規制委員会の定例会合で、田中委員長は『活断層の証拠はない』とだけ述べ、その後、強引に適合性審査に入った。ガイドでは、活断層がないことが判断基準です。破砕帯が活断層ではないと、有識者会議で確定したかのように誘導したのです。

 なぜ、こんなに急ぐかというと、美浜3号機は2016年で運転40年。関西電力は60年まで延長したい。40年目は認可が遅れてしまうと動かせない。だから、規制庁はとっとと審査に入ったんです」

岩上「しかし、ひどいですね」

聞く耳を持たない、責任は取らない、鹿児島県

岩上「ここからは水藤さんに、『川内原発再稼働をめぐる意志決定の問題』というテーマで話していただきます」

水藤「ずいぶん都会だな、というのが薩摩川内市の第一印象です。九州新幹線も通っている。六ヶ所や泊原発などは過疎地でした。薩摩川内市の財政は原発関連収入が低く、財政比率は13.1%。泊村は77.5%、女川は65.7%、六ヶ所村は60.1%です。

 でも、薩摩川内市の人たちは、原発がないと財政的にやっていけないと思っているのではないか。2014年11月の世論調査では、全国で6割の人が再稼働反対です。鹿児島県民は59.5%が反対。賛成36.8%。ところが、若い人は賛成が多い。残念です」

満田「30代の男性は、原発が経済に影響すると思っているのではないでしょうか」

水藤「伊藤祐一郎鹿児島県知事は、2014年4月4日、(再稼働に)地元同意が必要なのは薩摩川内市と鹿児島県のみ、と発言。周辺自治体は関係ないという」

岩上「とにかく再稼働ありきですね。先ほどから問題になっている地震、噴火を考えたら、周辺自治体だって影響があって大変な問題でしょう」

水藤「鹿児島県、薩摩川内市、九電との間に結んだ安全協定書に、事前協議の項があり、地元同意の根拠になっています。一方、いちき串木野市、阿久根市など周辺自治体の協定書では、事前に説明すればいい、となっています。

 しかし、いちき串木野市では、『実効性のある避難計画がない中での再稼働に反対する署名』1万5000筆(人口3万人)が1週間で集まった。だが伊藤知事は、県外の被害に対する責任は負わないと発言。さらに、『福島原発事故で、福島県知事が責任を取ったのか』という言い方をした。

 怒った水俣市の市民団体が、鹿児島県庁に抗議をした。水俣市は、出水市の避難者約6600人の受け入れ先になっています。規制委員会は、公聴会の要請があれば検討をするとしたが、伊藤知事は『県として要請しない』と断言した」

岩上「聞く耳を持たない。責任は取らない。すごい人を知事に選びましたね。鹿児島県民は自業自得かもしれないが、宮崎県や熊本県はそうはいかない。この知事は、一般人に7000ページの資料は読めないから公聴会は開催しない、とも言ったとか。ずいぶん県民をバカにした人だ」

説明したくない姿勢が見えた「説明会」

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水藤「私たち原子力市民委員会は、薩摩川内市で公聴会を自主的に開催しました。一部の人たちの合意手続きで、再稼働が決まることへの批判が多かったです。2014年8月、伊藤知事は『当面、原発再稼働は必要だから動かしてくれ』という、国の責任も明確にした文書を国に要請しました。

 大飯原発の再稼働は民主党政権が決めたが、国は、今回の再稼働では政府の判断はしない、と鹿児島県に説明した。伊藤知事はそれでは困ると、文書を求めた。それで、小渕経産大臣(当時)の名前で文書を提出。マスコミは『事故時は、政府に責任』と書きました。

 しかし、『政府は関係法令をもって責任をもって対処します』とある。つまり、福島原発事故程度の法の枠内、との意味。いかなる責任も負う、ではない。規制庁の住民説明会は5回あったが、ネット中継は禁止、託児所不備などで不満の声が多く上がりました」

岩上「多くの人に理解されたいのだったら、ネット中継は不可欠です。できるだけ、多くの人に説明したくなかったのでしょうね。また、住民説明会では、避難問題、再稼働の是非に関する質問には取り合わなかったという。どういうことですか」

満田「新基準適合性審査の説明会、ということなのです」

岩上「住民の関心度の高い、避難計画や再稼働に関する質疑は対象外とされ、『質問は審査内容に限定するもの』と開会前に繰り返しアナウンスした。警備・国防政策、テロ対策の質疑には、職務上の権限がない、と。戦争法案の審議中なのに、ひどい話だ。説明会では、最後に地元の実力者が、『これで疑問が払拭した』と発言したのですね」

水藤「その人は、九電の下請け会社の会長です。また、当日のアンケートには、『(説明が)理解できたかどうか』という設問があった。つまり、説明内容は理解できたが、原発には反対だという意見が、あいまいになる。結果的に6割の人が、『理解できなかった部分がある』と回答したが、県は『おおむね理解が得られた』とした。

 1回だけ、鹿児島県、経産省、内閣府、九電が出席する説明会がありました。入場できるのは5回の説明会すべての参加応募者のみとして、入場整理券を送付。また、先着順で入場できない場合もある、とも明記していた。それでも、反対者ばかりが出席していました。市民団体が自主的に公開討論の場を作り、九電と鹿児島県に参加を要請したが、彼らは来なかった。双方向の議論をする気が感じられない、象徴的な出来事でした」

岩上「福島原発の事故が起こり、多くの人が原発の危険を知りました。同時に、原発を抱え込む社会体制の怖さ、危険性にも気づかされた。しかし、不都合に目を向けたくない人や、そこから利益を得ている人は、原発を肯定してしまう。『民主主義が機能していない』と伊藤周平鹿児島大学法科大学院教授は言っていますね」

たった1通の再稼働賛成の陳情を採択して「地元同意」

水藤「伊藤知事によって、薩摩川内市、鹿児島県の『再稼働に同意』のレールが作られていたわけです。10月28日、薩摩川内市臨時議会を開催し、1通だけの再稼働を求める陳情を採択、再稼働反対の陳情を否決しました。市議会議員が福島視察をして報告会を持ってほしい、という陳情も、時間がないと否決した。ショックでしたね。県議会も市議会も、反対する議員の表明はちゃんとしていますが、賛成議員はほとんど意見表明をしませんでした」

岩上「1通だけの再稼働の陳情を、採択したんですか。住民の意志を否決するなんて、なかなかできないですよ。現地も見に行かないで。原発立地の土地って、すごいですね」

満田「鹿児島県議会では、反対議員の意見はとても感動的だったが、賛成議員は登壇しませんでした。再稼働をする理由を言えなかったんですね」

水藤「県議会では、本会議の前日の11月6日、原子力安全対策特別委員会があって、再稼働反対陳情28件、地元同意拡大を求める請願3件を否決。開会から14時間後、1通の再稼働賛成の陳情を採択して閉会。その時、賛成議員も何人か発言しました。翌日の本会議では、再稼働反対の3議員が意見表明をし、賛成議員はひと言も発せずに再稼働賛成が採択され、鹿児島県議会での『地元同意』になりました」

満田「委員会では賛成議員も何人か発言したが、議員同士の議論ではなく、行政側に質問をする形。反対派は再稼働の安全性、福島原発事故の教訓、使用済み核燃料、貯蔵プール不足などを質問し、賛成派は経済、地球温暖化の影響などを聞いていた」

岩上「(原発推進の主張では)地球温暖化のイデオロギーは確実に出ますね。最近、ナオミ・クライン氏が人為的な地球温暖化説を支持していて、私は驚いて、伊藤公紀横浜国大教授にインタビューをしました。科学的ではない状況ですね」

南海トラフが動くと、九州も動く

水藤「県議会で、反対派議員が『工事計画の審査も終っていない段階で、同意判断をすべきではない』と重要なことを指摘している。高浜原発では、西川一誠福井県知事が同意を延ばしているが、それは国からもっと(交付金などを)搾り取ろうということでしょう。11月7日、県議会の傍聴席は満席だと、BBCやロイターが報じました」

岩上「路傍の声を可視化することは重要です。ある市民は、『行政が県民の声を黙殺しようとするのが、原発再稼働と同じくらい怖い』と言う。原発を抱え込む怖さに気づいています」

水藤「周辺自治体では、いちき串木野市と日置市が(自分たちを)地元同意に加える意見書を採択。姶良市議会では、川内原発廃炉を求める決議を採択しました。姶良市は鹿児島市のベッドタウンで、比較的新しい住民が多い市です」

岩上「この人たちは、火山との複合災害より、福島原発事故のような状況を危惧して反対したのですね。この辺りは地震は多いのですか」

阪上「九州南部でも東側の方が多く、原発側はそれほどありません」

水藤「鹿児島県北西部地震(1997年)の時、川内原発に被害があったと言われていたが、計器の故障でデータが出せないということで、うやむやになりました」

岩上「南海トラフも動くと言われていますが、その時、川内原発はどうなるんですか」

阪上「南海トラフが動くと九州も動くので、当然、地震動の評価もやらなければならないが、九電は、周辺の活断層の方が影響が大きいとして、手をつけていません」

岩上「南海トラフ地震の場合、浜岡原発と伊方原発が危険だと言われています。浜岡には6000本の使用済み核燃料があって、この2つの原発で何かあれば、西日本はやられてしまう。そこに川内や玄海が加わったら大変ですね」

阪上「高浜原発と大飯原発の裁判でも指摘されていますが、地震動を作るのに平均図を元にしていたり、基準になる入倉式が過小評価だと批判されています。今、想定している地震動の2倍は必要とも言われています」

県民、周辺自治体を完全無視の鹿児島県・伊藤知事

水藤「1月7日、伊藤知事が周辺自治体との地元同意に関して、『理解や知識の薄いところで一定の結論を出すというのは、錯綜するだけで賢明なことではない』と発言しました。つまり、日置、いちき串木野、姶良の市民は無知だから、意見を聞いてもムダだ、と」

岩上「うわぁ、エリート意識丸出しですね。伊藤知事って、いったいどういう人なんですか?」

水藤「伊藤知事は鹿児島出身で、東大法学部卒。自治省役人から県知事になった人で、島津の氏族の出らしい。以前は、名刺に『士族』と書いてあったそうです(笑)。

 私たちは、何度も地元の自治体担当者に、公聴会への参加、意見交換などを申し入れました。いちき串木野市、薩摩川内市は対応してくれたが、鹿児島県は『知事の会見、議会答弁がすべて。質問には答えない』と不思議なくらい頑で、完全に対話を拒否。一番ひどかった」

満田「県民に対しても同様の対応で、一切答えないんです。県行政は、県民に応えるのが義務だと思うのですが。びっくりしました」

水藤「周辺自治体は、いろいろな形で抵抗しています。30キロ圏内の出水市、避難先の伊佐市、肝付町、屋久島町、南種子町、宮崎県高原町、熊本県水俣市、荒尾市、大津町は、九電に説明会開催を申し入れたが、九電は断わりました」

岩上「50キロ圏内には天草までもが入ってしまう。説明責任は当然ありますね。この伊藤知事へのリコール運動はないんですか」

水藤「リコールをしたのですが、うまくいきませんでした」

原発がミサイルで狙われる日──「原発x戦争」

岩上「では、テーマを『原発と戦争リスク』に移します。山本太郎議員が、川内原発に弾道ミサイルが落ちたらどうするのか、と国会で質問をしました。安倍政権は、アメリカに言われて集団的自衛権を通すために、中国の脅威を強調し、法案の必要性を訴えています。

 櫻井よしこさんなどは、『中国は東シナ海のガス採掘施設を弾道ミサイルの発射台にする』と言うが、ありえない。中国本土からアメリカに届くミサイルが、すでにあるんですから。無理矢理、戦争と結びつけようとし、北朝鮮のミサイルも煽り、集団的自衛権で(自衛隊が)スーダンに行く、と。共産党の小池晃議員は、その自衛隊のスケジュールを入手して、政府を糾弾しました。日本の守りを手薄にしてどうするのか。

 山本太郎議員は、7月29日、参議院平和安全特別委員会で、川内原発に弾道ミサイル直撃の可能性について質問した。規制委員会は、『規制により対処すべきものではない』とし、政府は回答拒否。でも、戦争法案は、中国からミサイルが飛んで来るぞと脅している。ミサイルに狙われたら困るのが原発だが、政府は対策を答えられない。もし、現実に撃ってきたらどうするかと聞かれて、安倍総理は、『自衛隊と米軍が協力し、イージス艦とPAC3の2段階で迎撃する』とした。でも、それなら個別的自衛権で十分。集団的自衛権は不要です。

 川内原発が被弾したら、最大でどの程度、放射性物質が放出するのか。田中委員長は、『対策は想定していない。われわれの責任ではない』と回答。安倍総理は、武力攻撃にはいろいろな状態があり、一概に答えられない、とはぐらかした。

 もし、原発に被弾した場合、何キロ圏まで避難計画を策定すべきかと、山本議員が尋ねると、大庭誠司内閣審議官は、『さまざまな想定があり、特定の定量的な被害は期していない』と言う。つまり、何も考えていない。戦争をやるのに、被害を想定しないのはおかしい。政府としては、原発への被害はあると思っている。戦争になってからモニタリングをして、実態を把握するという。それでは遅いでしょう。

 避難計画は、うっすらとしかないということで、山本議員は、『周辺住民には、一度、被曝していただく、ということですね』と念を押した。安倍総理は、武力攻撃による原子力災害の対処については、国民保護基本指針に基づき、『5キロ圏内は直ちに避難。30キロ圏内は屋内避難』だと述べた。戦争なのに、屋内退避ですよ? 大規模な放射性物質の放出の時は臨機応変に対応する、と言っています」

阪上「普通の原子力防災指針に、『武力攻撃』という文言を加えただけですね」

満田「つまり、こういう事態を想定していないか、答えられないから、とりあえず、原子力防災指針に沿って話しているとしか思えませんね。バカバカしく聞こえます」

岩上「ヒューマンエラーによる災害は原発を中心に起こるが、ミサイルは同時多発的に着弾する。その時、どうやって逃げるのか。それらを踏まえた、国民のための安全保障の計画があるのだったら、本当に中国の脅威があると信じる人ほど、原発撤去を訴えないとおかしい。原発推進、中国の脅威、集団的自衛権の必要性を論じる人は重なっているが、まったくおかしい」

却って国民の危険性を高める安保法制

岩上「ホリエモンが賛同する池田信夫氏は、『相手は原発なんて狙わず、大都市を撃つ』と言うが、なぜ、1ヵ所だけを狙うと決められるのか。また、ミサイルは命中精度が悪いとも言うが、今は多弾頭だ。原発の電源設備をやられることだってある」

満田「国民を守る安保法案と言うが、むしろ、国民の危険性を高めている。原発は電力のために始めたが、あとからいろいろな理由が出てきて、それも怪しくなった。安保も原発も、それで利益を得る人たちのためでは、と疑わざるを得ない」

岩上「アメリカに追従して自衛隊がスーダンなどに行かされ、日本周辺の防衛がおろそかになる。それが利益追求の人たちの目的なら、彼らは、実は中国や北朝鮮の脅威など信じていないことになる。何もしなくても平和は守られると信じるお花畑の人たちと同じ」

満田「原発推進の人たちは、安保法制でも、中国と北朝鮮の脅威を信じて、安倍さんに共感してしまうのではないでしょうか」

岩上「だとしたら、なぜ、個別的自衛権で守るべき、としないのか。2010年、尖閣の中国漁船衝突事件の時、私は民主党の岡田外相に、『中国の軍隊が尖閣奪取に来たら、どうするのか。米軍は日本を守るのか。日米同盟の意味は何なのか』と質問した。岡田外相は、『第一時的に自衛隊が出動する。米軍は出動しない』と答えた。つまり、アメリカは中国との戦争には巻き込まれたくない。だけれども、沖縄に基地は置いておきたい、と勝手なことを言っている。

 そんなに危険だと言うなら、アメリカをあてにしないで、日本は自前で守らなければならない。まず、原発を撤去するとか。集団的自衛権は絶対ダメ。今の日本は財政赤字で大変です。だから、自国で守っていればいいんです」

満田「だけど、なぜか、野党の議員もそういうことは言いませんね」

岩上「今回、山本議員が質問したら、みんなオタオタして、何も考えていないことがわかった。だから、戦争を前提にした国民の安全確保などの、避難計画・指針を本気で自分たちで考えなければいけないんです。『中国と揉めておけ、そのかわりに集団的自衛権だ』というアメリカの指示通りに全部やっているから、まったく整合性がありません」

ミサイル攻撃には、原発すべてがノーガード

岩上「2009年の古いデータになりますが、中国の弾道ミサイル、中距離ミサイルの増勢状況は、アメリカに届くミサイルだけでも、2009年のデータで100発近くある。嘉手納、三沢、横田基地に届くのが、弾道弾80発、巡航ミサイル350発です。その後も増強しているのは事実で、原発は撃てるのです。

 PAC3で撃ち落とせると先述したが、半径30キロしかガードできません。大阪も、川内原発も、他の原発もノーガード。六ヶ所村を撃たれたら北半球は終わります。元内閣官房副長官補の柳澤協二氏も、『PAC3では撃ち落とせない。あれは実用ではなく、政治的なシンボルだ』と明言しています。

 平時なら、それでもかまわないですが、今は有事です。出雲地方や、原発銀座の若狭湾に中国軍が上陸する想定で、日本全土を戦闘地域にする『ヤマサクラ61』という日米共同演習(2011年7月1日)がありました。アメリカでは海軍大学教授までもが、『日本列島を制限戦争の舞台にする』とはっきり言っています。

 ここで海上自衛隊のプロモビデオを上映しますが、何が矛盾するかと言えば、この映像には、海自と陸自しか現れない。島を制圧するようにも見えるますが、現代戦は、まず制空権です。なのに、戦闘機攻撃を考えていない」

阪上「原発には三菱、東芝、日立などのステークホルダーが多く、防衛産業もほぼ同じ企業です。原発も武器も、海外に出て行って利益を得ようとしている。それを深く考えず、『アメリカの要請だ、今、儲かる』というだけでやっている。理屈も何もない」

岩上「企業が儲けるのは当然だが、これを続けていると、国家として存立しなくなる。だとしたら、ストップして調整するのが国の役目。もし、武器輸出をして、集団的自衛権も行使するなら、中国、ロシアと徹底的に平和を約束するべきです。それなら合理性もある。だが、目の前の国と仲違いして、地球の裏側に自衛隊が行ったり、武器を売ってしまう」

原発の唯一の目的──日本の核武装

岩上「米国の戦略家のクリストファー・レイン氏は、オフショア・バランシングという、漁父の利を得る戦略を唱えています。同盟国との応分の負担、と言いますが、実際やっていることは同盟国への負担の移動、肩代わりです。アメリカは中国とうまくやって、もし、中国が攻めて来るような素振りを見せたら、日本を鉄砲玉にして中国と戦わせるつもりです。

 これは、アメリカが欧州でやってきたことです。欧州に中距離核ミサイルを配備して、ロシア対欧州・ドイツで、ユーラシアを舞台に戦わせる構想と同じ。ロバート・ゲイツ国防長官が、2012年3月、ウエストポイント陸軍士官学校で、『オフショア・バランシングが次の戦略だ』と演説しています。レイン氏は、『国際政治システムはアナーキーであるが故に、生き残りが国家の最優先事項だ。誠実な同盟はない。あるのは無誠実な同盟のみ』などと述べている。アメリカは、ユーラシア大陸に覇権を作らせないために、今、ウクライナで、その攻防をしています。

 その源流はイギリスにあります。スパイクマンは、『バランス・オブ・パワーにおいて永久の友好国はなく、昨日の友は、今日の敵』と述べ、モーゲンソーは、『自己の戦争を他国にやらせ、大陸を支配するためにヨーロッパを分裂させた』と指摘する。イギリスは、ヨーロッパの潜在覇権国を封じ込めるため、常に外側で傍観し、バランシングを行なって、『不誠実な白い鳥』と言われた。アメリカは、それを太平洋と大西洋の両方でやる。TPPもTIPPも、その流れの中にあります。

 1930年代、アメリカはアジアへ軍隊を派遣せず、日本の満州国拡大に際して、中国、ソ連、フランス、イギリスに、バック・パッシング(=別の国を使って脅威を押さえること)をやった。ナチス・ドイツのソ連進攻にともない、日本が潜在的覇権国として台頭しかけた時に、アメリカは直接介入(バランシング)を敢行。ドイツと日本の台頭を阻止するため、戦争につながりました。レイン氏は、『依然として日本は警戒の対象だ』と言っています。

 さらに、レイン氏は、『中国の台頭は阻止できない。アメリカは、東アジアの中国覇権を許し、日米同盟を破棄して、日本の核武装を認めろ』と主張している。だから、原発の唯一の目的は、日本の核武装なんです。

 一方で、ケリー国務長官は2014年3月、日韓の核武装に懸念を表明している。複雑なシナリオがいくつかあって、どっちに転ぶかわからない。尖閣諸島の領有権に関し、アメリカは中立の立場を崩していない。日中間の対立を煽り、漁父の利を得る戦略です」

「アメリカのために血を流します」と尻尾を振る日本

岩上「へリテージ財団の上級研究員ブルース・クリングナー氏は、『日中間の対立は、米国にとって絶好の機会』と述べました。日本は、中国脅威論の下、秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、辺野古基地建設、TPPなど、タカ派的安全保障政策を実行している。

 アメリカは、『韓国をもっとケアしろ』と言っているが、安倍さんは、これだけは聞き入れない。こういう背景で、軍事的危機があるにもかかわらず、川内原発が再稼働した。かつ、火山が爆発しそうな状況です。どう思いますか」

満田「安倍さんは、国民を守るためと言いますが、明らかに集団的自衛権は国民のリスクを高めています。日本の国民を守るなら、原発を廃止し、外交力を高めるべき。お金がないのに、なぜ、アメリカの肩代わりをしなくてはならないのか」

阪上「原発推進と戦争法案には政策の矛盾がある。本当に原発を稼働させるなら、周辺国との平和を確立することが大前提です。尖閣諸島も棚上げ論でうまくやってきたが、米国にとって、ただの岩が政治的に使えるものになってしまった」

岩上「尖閣諸島は、台湾も領有を主張していることを忘れているし」

阪上「棚上げ論はすごくよかった。しかし、これまで築き上げてきた日中友交を一瞬のうちに叩き壊した。米国は、中東などで戦争ばかりやってきて、もうお手上げという時、日本が尻尾を振って、『基地を提供します、血も流します、何でもします』と寄って来た。本当に何やってんだか、という感想です」

岩上「本当にポチです。少なくとも自分で考えているなら、政策の整合性は筋が通るように作ります。これでは、戦前よりひどい。戦前の大日本帝国は、自国の国益をどん欲に追求することでの統一感はあった。今は完全にバラバラです。最終的には、自分たちをボロボロにしてしまう」

原発と戦争、両方なくすことが一番

阪上「規制委員会でも新規制基準を作る時に、外敵の攻撃を議論しました。航空機によるテロ対策も議論したが、ミサイル攻撃と言ったとたん、自分たちが考えることじゃない、と笑い話の雰囲気になる。だから、何も考えていないんです」

岩上「しかし、政府は隣国の脅威を過大に見積り、戦争は起こりえると言っている。それをヘラヘラ笑えるとは正気ではない」

阪上「国会でも、ミサイルを撃ち込むことは言っても、撃ち込まれることについては何も言わない」

水藤「六ヶ所再処理施設のPR課に行った時、『ここは日本で唯一、航空機墜落の対策ができている施設だ』と女性職員が話してくれました。他の原子力施設では対策がないんですか、と聞き返すと、ハイと答えました。これが日本の実態でしょう。六ヶ所再処理施設では、天井のコンクリートを厚くしていました。それでも想定が甘い。航空機墜落の対策は、非常に問題視されていているにもかかわらず、他の原発には何も施されていません。

 もう動かないとは思いますが、高速増殖炉もんじゅは、ナトリウム漏れを起こしたら一発で終わり。配管の破損で水が漏れ、ナトリウムに触れたら大爆発です。再処理工場や高速増殖炉は、プルトニウム製造の兵器工場です。そのリスクを無視して、『国民を守る』なんて二枚舌ですね」

岩上「国際法上、原発施設は狙ってはならないことを知らないのか、と批判してくる人がいます。だが、核施設への攻撃は、イスラエルがイランでしたように、現実にある。もし、日本が核兵器を持つとなったら孤立して、物資が入らなくなり終わりです。

 核の抑止力と言うが、そこに至るまでに、相手は核を持たせないよう、先に叩きに来る場合もあり得ます。国連では、日本に敵国条項が残っている。安保理決議に関係なく、中国やロシアが、正々堂々と日本を攻撃できるんです。地下工場などで核兵器を作って隠し持っているならわかるが、こんなに原発を海岸線に並べて、どうするのか。核兵器を作るのも間に合わない。今は、けっこう分水嶺ですよ。

 これで憲法を変えられると、反対運動もできなくなります。言論、集会、結社の自由もなくなって、私たちも、こういう番組ができなくなるんですよ。NHKしか見るものがなくなってしまう。話は元に戻りますが、何はともあれ、マグマ溜まりです」

満田「確かに火山は恐ろしいですが、温泉や美しい風景など、火山活動からの恵みもあります。だから、鹿児島の人たちは、桜島を愛して住んでいるわけですが、そこに原発という恐ろしい余計なものがあるんです」

岩上「毎年8月になると、広島、長崎の原爆の破壊力を思い知らされます。しかし、現在の核兵器で一番破壊力のある爆弾は、1発で5万キロトン。広島や長崎の3300倍です。姶良カルデラの大噴火のイメージを連想させます。天災は防ぎようがないですが、人災は止めてほしい。原発と戦争の両方なくせるのが一番いいと思います。今日も長くなりました。皆様、長い時間、ご視聴ありがとうございました」

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「中国のミサイルの脅威を言い立てながら、川内原発を再稼働する安倍政権の「矛盾」 ──「これで『国民を守る』なんて二枚舌」~IWJ×FFTV第2弾!(後編)」への1件のフィードバック

  1. 仲秋 澄長 より:

    IWJがいくら多弱を応援したところで、所詮は多弱なんです。
    訳もなく多弱ではないのですね。

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