脱原発社会を目指す市民シンクタンク「原子力市民委員会」(座長・舩橋晴俊法政大教授)は、3月2日、青森市民ホールで意見交換会を開いた。
昨年10月に発表された「原発ゼロ社会への道(中間報告)」をたたき台にして、参加した市民から意見を吸い上げることが狙い。司会を務めた原子力市民委の茅野恒秀氏(岩手県立大准教授)は、客席に向かって、「今日は委員と直接、議論を交わしてほしい」と呼びかけた。
意見交換会は、この日で16回目を数える。委員会は、この4月末を目処に「脱原子力大綱(第1次)」を発表する予定であることを伝えた茅野氏は、「意見交換会で集められた各地の市民の声を、この大綱づくりに反映させていきたい」と語った。
なお、この日の意見交換会では、青森県六ヶ所村にある再処理工場で計画されている「核燃料サイクル事業」の廃止の議論に、だいぶ時間が割かれた。参加者した市民らは、原子力市民委が掲げる「廃止」に賛成を表明。ただし、すでに六ヶ所村に持ち込まれている「核のゴミ」の取り扱いを巡っては、「村からの搬出」を正論とする発言も飛び出した。
※13時半からの意見交換会の模様を、19時過ぎより録画配信しました。
- 司会 茅野恒秀氏(岩手県立大学准教授)
- 原子力市民委員会 説明
吉岡斉氏(座長代理、九州大学副学長、元政府原発事故調査委員会委員)「脱原子力政策大綱の構成(予定)」
伴英幸氏(第2部会、原子力資料情報室共同代表)「核燃料再処理政策の転換」
志津里公子氏(第2部会、地層処分問題研究グループ事務局長)「放射性廃棄物の処分について」
- コメント
浅石紘爾氏(弁護士、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団)/大竹進氏(青森県保険医協会会長)/今村修氏(元衆議院議員、原水禁青森)/古村一雄氏(青森県議会議員)/澤口進氏(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会代表)/三上武志氏(青森県反核実行委員会)
- 意見交換
まず、原子力市民委で座長代理を務める吉岡斉氏(九州大副学長)が、同委員会について説明した。「結成は昨年の4月で、委員は皆、現政府の原子力政策を変えねばならない、という使命感を抱いている。代替的な政策案を提出することが目的だ」。
吉岡氏は、放射性廃棄物の処分について具体的な策を示していくことも、この委員会の重要な役割、と強調。「核のゴミの処分では、どの選択肢を選ぶにせよ、われわれ日本人に『楽な道』は用意されないが、極力、一番ましなものを選びたい。現政府は、それをやらないだろうから、われわれがそれをやる」と力を込めた。
さらには、原子力市民委のゴールは「原子力大綱」を発表することではないとも述べ、「大綱は、その内容を数年単位で見直していく予定だ」とした。
「原発新規制基準合格=再稼働OK」ではない
原子力市民委の中間報告の概要説明は、引き続き、吉岡氏が担当。2011年に起きた福島第一原発事故の、被害の全容について書かれている第1章について、こう説明した。
「現地調査を行うなどして、福島の現状把握に努めた。現政府の基本姿勢は『住民の早期帰還』だが、被災地の放射線量はまだ高く、そのやり方には無理がある。われわれは、章のタイトルに『人間の復興』という言葉を入れた。被災地域の産業復興を優先するのではなく、原発事故で被害を受けた、すべての住民の生活復権が実現する復興こそが望ましい、と主張している」。
中間報告には、「現行の追加被曝線量年間20ミリシーベルトを見直し、より安全性を重視した避難基準を設定し直すべきである」との記述がある。
吉岡氏は、4章で取り上げられている、原子力規制委の「新規制基準」の問題性にも言及した。「現在、休止中の原発の、新基準に則った審査が実施されており、今後は、審査に合格するケースがぽつりぽつりと出てくるだろう。安倍首相は、合格した原発から再稼働させる構えだが、(従来の安全規制では最上位だった原子炉立地審査指針が削られているなど)われわれは新基準が非常に不十分なものと認識している」。
その上で、「新基準の問題性は脇に置くにせよ、新基準さえ満たせばいいという話にはならない」と口調を強め、「(その原発の立地地域に)『防災計画』が立てられるかといった、非常に重要なテーマが残っている」と訴えた。
脱原発で核燃料サイクルが不要に
原子力市民委第2部会の伴英幸氏(原子力資料情報室共同代表)は、中間報告の第2章「放射性廃棄物の処理・処分」に絞って解説。「この章の中には『核燃料サイクル』の問題も含まれる」と指摘した伴氏は、「脱原発政策を採用すれば、再処理で生まれるプルトニウムと回収ウランが、放射性廃棄物になる」とその理由を語り、次のように強調した。
「2章でのわれわれの主張には、再処理政策の即時転換があり、それは、青森県にある六ヶ所再処理工場の核燃サイクル事業の廃止を意味する。同工場に運び込まれた放射性廃棄物に関しては『暫定貯蔵』を行い、負担公平の観点で移管先を見つけていく。今ある廃液状態のものはガラス固化した上で、処分方法が決まるまで、同工場内に貯蔵する方針だ」。
日本原燃と青森県への国の対応については、「日本原燃は清算されることになるが、国は、再処理政策を推進してきた以上、説明責任を果たさねばならない」とし、「青森県知事を説得するのは、国の役割だ」と言明した。
伴氏と同じく第2部会に所属する志津里公子氏も、放射性廃棄物処理に関する委員会の考え方について話した。「使用済み核燃料の当面の扱いは、各原発敷地内での保管となる。ただ、水が入ったプールでの暫定貯蔵は安全面に問題があり、早急に乾式貯蔵にシフトすべき、というのがわれわれの認識だ」。
志津里氏は、放射性廃棄物処理の最終処分については、将来の、画期的新処理技術の誕生の可能性を考慮し、採用する地中処理技術に可逆性(=地中に埋めても必要であれば地上に戻せる)を持たせることが肝要とも語った。
核のゴミと発生者責任
続く第2部では、参加者からの、原子力市民委の「中間報告」への意見発表が行われた。
浅石紘爾氏(弁護士、核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団)は「核燃サイクル事業は、被曝リスクや環境汚染、さらには高コスト体質、軍事転用リスクといった面で廃止されるべきもの」と述べ、委員会の主張への同意を表明。「地元には『核燃マネー』が入ってこなければ困る、という依存症的事情がある。委員会は、六ヶ所村の核燃サイクル事業の廃止を掲げるのであれば、打ち出す政策には(事業停止後の地域振興がイメージできる)『アメとムチ』的な要素が必要になってくるのではないか」と訴えた。
また、放射性廃棄物の暫定貯蔵については、木村元青森県知事が1998年に、電力会社と「再処理事業が困難な場合は、使用済み核燃料を施設外に運び出すこと」との覚書を結んだことを紹介しつつ、「核燃サイクル事業を止めるのであれば、発生者主義の観点から『元の原発施設へと、核のゴミを戻すべきだ』との主張に、それ相応の正当性が生じてくる」とも指摘した。
他方、古村一雄氏(青森県議会議員)からは、「すでに、六ヶ所再処理工場に持ち込まれている核のゴミについて、中間報告は『使用済み核燃料の貯蔵に関する法定外普通税の課税を貯蔵期間にわたって継続することができる』としており、思わずほっとした」との意見が出された。
青森は「永続的苦難」を強いられる?
暫定貯蔵の「場所」を巡っては、茅野氏が補足的説明を行った。「われわれは、放射性廃棄物を六ヶ所村から運び出すことを念頭に置きながら、この中間報告書を執筆した」とした茅野氏は、「ただ、(発生者主義で)各原発に戻すにしても、そこには『合意形成』が必要だ」とした。その上で、「さらに言えば、合意が得られても、その後に、各原発の受け入れ体制の整備という手順を踏まねばならず、それが終わった段階で、ようやく、六ヶ所村からの搬出が可能になる」と言葉を重ねた。
「われわれは、その搬出実現までの期間を『当面』と定義づけた。ただし、その期間が長引いてしまえば、青森の負担がどんどん大きくなってしまうので、その期間をあらかじめ定めるために、青森県と電力会社が『協定』を結ぶ方針を立てた」。
なお、原子力市民委は、放射性廃棄物を戻す先を、発生源となる原発施設内に限定していない、と茅野氏。「むろん、これも合意形成が必要になる話だが、われわれは、各電力会社の管内まであり得ると考えている」とのことだ。
核燃料と使用済み核燃料の違いについてよく分からないですが、どちらも危険なものであることは同じと認識しています。以前アメリカから300キログラム或は300トンのプルトニウムの返還を要求された時には、「ラッキー」と思いましたが、それはその後返還されたのでしょうか? 危険な核物質を増やすことはもちろん反対ですが、今ある核物質をどう管理するのか、利用による新たな被ばくとお金の無駄遣いを止めて、どうやって今ある核物質をできるだけ安全に保管するかについて注力すべきと考えます。六ヶ所村に運び込まれた核物質は元の原発に戻した方が良いのか、そこで地震があろうと火山が爆発しようと安全に保管するにはどうしたら良いのか、科学者はそちらの方に注力を注ぐべく、日本の原子力政策の転換を図るべきです。そのために、原発再稼働を企む電力会社に融資をしたり、そういう電力会社の株を所有している銀行名を公表して、預金者が銀行への圧力をかけていくことも必要になるでしょう。核兵器や原発を作ったり使用したりする会社に融資するまたは会社の株を持っている銀行にはお金を預けない活動をする必要が、日本でもあると考えます。