「現在、政府は年間20ミリシーベルトを基準にしているが、1ミリシーベルトにし、人間の復興を目指す」──。原子力市民委員会が制作した『原発ゼロ社会への道――中間報告』を解説した竹村英明氏は、「法に裏付けられた方法で、原発の稼働を止める方策を考えたい」と訴えた。
後藤政志氏は「東電が、過酷事故を知りながら、その対処をしようとしなかったことが、最大の罪」と断じ、新規制基準については、「世界で一番厳しい規制だと言うが、発災の真相究明もしていないので矛盾する」と述べた。
2013年12月8日、愛媛県松山市にある愛媛県美術館講堂において、原子力市民委員会の意見交換会が行われた。原子力市民委員会が、10月に公表した、脱原発社会形成のための中間報告について、概要が説明されたのち、同委員会の委員で、元原発設計技術者の後藤政志氏らが、原発新規制基準の問題などについて語り、質疑に応じた。2014年春に、脱原発大綱をとりまとめる予定の原子力市民委員会は、中間報告をもとに、各地で意見交換会を行っている。同日、福岡でも意見交換会を開催。今後は2014年1月まで、八王子・大阪・札幌でも行われる。
- <出席者>
原子力市民委員会 後藤政志氏(元東芝 原発設計技術者)/菅波完氏(柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会事務局長、高木基金事務局)/竹村英明氏(エナジーグリーン株式会社取締役副社長)
- 武井多佳子氏(松山市議会議員)
- 資料 「原発ゼロ社会への道──新しい公論形成のための中間報告」
原発ゼロ社会へのキーワード
はじめに、原子力市民委員会委員の竹村英明氏が登壇し、同委員会にてまとめたレポート『原発ゼロ社会への道――新しい公論形成のための中間報告』の説明をした。
まず、原発による被害を書き出し、「法に裏付けられた方法で、原発の稼働を止める方策を考えたい」と述べ、安全性、公平性、公正さ、持続可能性という、4つのキーワードを挙げた。
次に、「第1章 福島原発事故の被害の全容と『人間の復興』」の内容の解説に移った。「現在、政府は年間20ミリシーベルトを基準にしているが、1ミリシーベルトにし、人間の復興を目指す」。そして、「第2章 放射性廃棄物の処理・処分」「第3章 原発ゼロ社会を実現する行程」「第4章 原子力規制はどうあるべきか』などの概要を話した。
回避する技術はない、原発過酷事故
次は、高木基金事務局の菅波完氏が、元東芝の原発設計技術者である、後藤政志氏に質問する形で進めた。まず、後藤氏は、福島原発事故の原因から答え始めた。「東電が、過酷事故を知りながら、その対処をしようとしなかったことが、最大の罪だ。想定外の津波だけのせいではなく、地震も要因だった」と、イラストを使ってわかりやすく説明した。
後藤氏は、スリーマイル原発と福島原発の構造的違いを説明したのち、新規制基準の変更点や、規制委員会の議論の無作為さを指摘。「世界で一番厳しい規制だと言うが、発災の真相究明もしていないので、矛盾する」と述べた。
地震にテーマが移り、後藤氏は「日本の活断層の多さと、その判断があいまいなこと。柏崎刈羽原発は、2007年の中越沖地震では、想定より4倍の大きな揺れを経験した。安全確保に完全はない。たとえば、世界最大の津波は高さ520m。日本では100mだった」と話し、「原発には過酷事故を確実に回避する技術はない」と指摘。さらに、自治体の原発防災指針、伊方原発再稼働問題、原発再稼働中止のための住民運動のやり方にも言及した。
過酷事故対策をいくらやっても、起きてしまう原発事故
休憩後、後藤氏、菅波氏、竹村氏、松山市議の武井多佳子氏が登壇し、寄せられた質問に答えていった。竹村氏は「原発稼働で、いくらお金を浪費するか。止めると、いくら無駄を省けるか。この点を訴えていきたい。また、特定秘密保護法とのかかわり合いでは、政権交代しても、(原発関連の情報が)秘密として隠されていってしまう」と答えた。
後藤氏は、空間線量の基準と信憑性、原子炉の5重の安全神話の嘘、炉心溶融物に関して、規制委員会の運営、新規制基準など質問に答えていった。「過酷事故対策をいくらやっても、起こってしまうのが原発事故だ。再生可能エネルギー以外に未来はない」と断言した。
菅沼氏は「現在は、原発稼働ゼロだが、原発で生活している人たちの問題、原発立地地域の活性化、代替エネルギーの問題、廃棄物処理、現場の技術の維持など、検討すべき課題が山積している」と発言した。
竹村氏が、再生可能エネルギーについて話した。「太陽光、風力、止揚水力、地熱などがあるが、日本では水力がもっとも有力になる。日本の再生可能エネルギー開発は、世界に比べて遅れをとっている。日本での、推進派と反対派の対立だけでは、先に進まない」と述べ、原発事故補償の現実や線量測定の真偽などについても話した。最後に、後藤氏が再び、原発の危険性を訴えて終会した。」