市民シンクタンクとして、今年4月に発足した原子力市民委員会が、このほど「原発ゼロ社会への道──新しい公論形成のための中間報告」を公表した。
これは、同団体が2014年春までに作成する予定の「脱原子力政策大綱」の前段的意味合いを持つもの。その序章には、「この中間報告では『大綱』の7割程度の主要な論点について、大筋で理解していただけるものと信じる」とあり、日本国民の本音ベースでのコンセンサス「原発ゼロ」を受け止めることができるのはわれわれ、との自信がうかがえる。
2013年11月30日、新潟市中央区の新潟駅万代口ガレッソホールでは、その「中間報告」をベースに、原子力市民委員会が「意見交換会」を開いた。市民委員会のメンバーによる中間報告の要旨説明はもとより、新潟県原子力安全対策課の担当者も、柏崎刈羽原発を抱える自治体の立場でスピーチを行った。後半では両者が意見を取り交わし、去る7月に施行された、原発を巡る「新規制基準」への不満を、共通のものとして表明した。今後、同様の意見交換会が、福岡、松山、八王子、大阪、札幌で行われる予定。
- あいさつ、趣旨説明
- 原子力市民委員会からの中間報告の説明
要旨説明 舩橋晴俊氏/各委員から 吉岡斉氏・満田夏花氏・伴英幸氏
- 新潟県から、県の考え方と施策の説明
井内康夫氏(新潟県原子力安全対策課 課長補佐)/意見交換
- 一般参加者からの発言/原子力市民委員会からの回答・まとめ
- 出席者
- 原子力市民委員会 舩橋晴俊氏(法政大学社会学部教授、原子力市民委員会座長)/吉岡斉氏(九州大学副学長、元政府原発事故調査委員会委員、原子力市民委員会座長代理)/伴英幸氏(原子力資料情報室共同代表)/満田夏花氏(FoE Japan理事)
市民委員会座長の舩橋晴俊氏(法政大教授)が、「中間報告」の概要を説明した。「われわれ委員会は、政府が推進する原発政策に体系的な対案を示し、『脱原発』は日本にとり、必要かつ可能であることを主張していく」とした舩橋氏は、まず報告書の序章に示されている、同委員会の「考え方」について語った。
「われわれは『法律』に基づく原発停止が必要、と認識している」と力を込めた舩橋氏は、「政権が変わるごとに、原発政策の土台部分が変わるのはよくない」と指摘し、政治と脱原発の分離を強く訴えた。舩橋氏は、中間報告では、そのための判断基準として、1. 安全性、2. 公平性、3. 公正さ、4. 持続可能性、の4つが挙げられていると報告。それぞれに対し「生命の価値、健康の価値が優先する」「地方の原発が発電した電力を、原発を持たない東京が使うといった、不公平を容認すべきではない」「原発政策の議論に地域住民が(必要な情報公開・共有を前提として)ちゃんと参加できることが大切」「持続可能な日本をつくるには、脱原発が必要」といった解説を施した。
日本中から原発が消えても残る「核のゴミ」問題
中間報告の第1章(福島原発事故の被害の全容と「人間の復興」)は、福島の現状を再確認する内容。舩橋氏は「福島第一原発事故は収束していない。8月に発覚した汚染水漏洩はレベル3だ」と述べ、この章では「被曝を避ける権利」の重要性が強調されている、とした。
「(第2章で扱われている)放射性廃棄物の処理・処分は、日本が脱原発に舵を切っても避けられない問題」──。続けて、こう指摘した舩橋氏は「委員会はこの問題を、どのように管理し対処するかについて、きちんと議論している。それをせずに脱原発を提言しても、真の提言にはならない」と言明した。「たとえば、プルトニウムを『資源』だとする原発推進派が存在するが、委員会はこれを、安全に管理すべき『放射性廃棄物』に位置づけている」。
原発ゼロに向けての地ならしが必要
第3章(原発ゼロを実現する行程)では、原発ゼロ社会の実現の前に、さまざまな障害が発生することを想定し、(脱原発の法的バックボーンとなる)『エネルギー転換基本法』の策定の必要性が説かれている。「また、原則として、電力会社に原発事故の全責任を負わせる方向へと『原子力損害賠償制度』も見直されるべき、といった、われわれの見解も紹介している」。
第4章(原子力規制はどうあるべきか)では、現実論を展開。「委員会は『即時原発ゼロ』が最善と信じるが、今の日本には、現に原発が存在しており、それが再稼動する可能性がある」と述べた舩橋氏は、次のように力説した。「であれば、そういう状況下で『原発を巡る規制基準をどうするか』という議論が必要になってくる。原子力規制委員会がまとめた『新規制基準』には欠陥がある。旧基準が形骸化・後退している部分も目立つ」。
クリアな最終報告を目指して