「原発政策をどうするかという総論で国民的合意を得ることをせずに、各論である処分場建設の合意を得ようとした政府には、甘さがある」──。
2013年7月22日(月)14時から、岐阜市のハートフルスクエアで開かれた「高レベル放射性廃棄物学習会『日本での地層処分を考える』」で、舩橋晴俊氏(法政大学社会学部教授)は、「放射性廃棄物処分」という重大課題に克服の目処が立たないことの原因について、こう語った。
(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)
「原発政策をどうするかという総論で国民的合意を得ることをせずに、各論である処分場建設の合意を得ようとした政府には、甘さがある」──。
2013年7月22日(月)14時から、岐阜市のハートフルスクエアで開かれた「高レベル放射性廃棄物学習会『日本での地層処分を考える』」で、舩橋晴俊氏(法政大学社会学部教授)は、「放射性廃棄物処分」という重大課題に克服の目処が立たないことの原因について、こう語った。
■Ustream録画
・1/2(13:58~ 7分間)
・2/2(14:06~ 2時間25分)
舩橋氏は、昨年9月に日本学術会議が原子力委員会に提出した、高レベル放射性廃棄物処分の問題に関する「回答」の取りまとめ作業で、中心的役割を果たした社会学者。この日のスピーチは、まず、一昨年に起きた福島第一原発事故が、今、どんな意味を持っているかとの視点で展開された。
「日本社会の根深い欠陥が明るみに出た」とした舩橋氏は、広島、長崎、チェルノブイリ、福島で起こった「世界4大原子力破壊」のうち、3つが日本国内で起きたことを指摘。「私は単なる偶然ではないと考えている。日本は、1986年のチェルノブイリ原発事故や1999年の東海村JCO臨界事故から教訓を得なかった」と述べた。そして、チェルノブイリ原発事故後に、日本政府が出した公式見解の内容が、「日本の原発は技術力に優れているため、安全対策を見直す必要はない」とのトーンだったことを紹介し、「当時の日本政府の驕りが透けて見える」と批判した。
さらにまた、何人もの専門家が、福島第一原発事故の可能性を事前に指摘していたことにも触れ、「そこには(福島第一原発の原子炉メーカー)米GE社の技術者の発言も含まれていたが、どの警告もことごとく無視された。その根底には、日本が抱える社会科学的問題がある」と力説した。「福島第一原発の事故発生後、日本社会のあり方を抜本的に変えねばならないとの機運が、国民の間に高まった。しかし、昨日の参議院議員選挙の結果は、その機運がかなり後退してしまったことを印象づけた。日本は、福島第一原発事故からも教訓を得ない可能性がある」。
一方で舩橋氏は、「だが、あきらめるわけにはいかない。1970年代に世間の関心を集めた公害問題でも、社会変革を求める民意に蛇行があった」とし、「粘り腰の取り組みが大切である」と強調した。さらに、「災害・エネルギー政策の見直しとともに、日本の社会的意思決定過程にメスを入れることが急務だ」と訴え、原発差し止め請求をすべて棄却した裁判所、政府の息がかかった御用学者、大手メディアが電力業界から巨額の広告収入を得ている構図などを問題視した。
話題を放射性廃棄物処分の問題に移した舩橋氏は、日本学術会議が、この問題に取り組むことになった経緯について、「2010年9月に、原子力委員会から審議の依頼があったからで、当時、国民への説明や情報提供のあり方を巡り、原子力委員会が行き詰まっていた」と述べた。放射性廃棄物処分の事業は、2000年6月に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」という後ろ盾が存在していたにもかかわらず、処分場立地に向けた自治体からの応募すら行われていなかった。
依頼を受けた学術会議は、すぐに課題別委員会を設置。1年後の回答提出に向けて審議を開始した。舩橋氏は、その直後に委員会のメンバーに招かれ、「問題自体の設定を委員会で行うことを提言し、それが受け入れられた」と語った。その6ヵ月後に福島第一原発事故が起こり、半ば必然的に審議期間が延長された。「福島で起きた原発事故は、委員会の審議に安全重視の機運を高めた。原発推進の立場の理系メンバーからは、自己反省的な弁が聞かれた。社会紛争解決の視点での議論に長じた、社会科学系の有識者が会を主導する運びとなった」。
この日の講演で舩橋氏は、委員会では科学的知見の自立性が尊重され、そのことが文書に明示されたと強調した。「過去に、政府の審議会に参加した科学者らは、本当に科学的知見の自立性を守った発言をしてきたのか、といった疑念があった」。その上で、「放射性廃棄物処分のテーマは、総論賛成・各論反対(=処分場は必要だが地元に作るのは困る)にも至っていない」とし、「そもそも、原発に反対を唱えている国民が大勢いる中で、原発政策が推進されたことに無理がある」と力を込めた。「原発政策をどうするかという総論で、国民的合意を得ることをせずに、各論である処分場建設の合意を得ようとした政府には、甘さがある」。
2012年9月、学術会議は原子力委員会に6つの提言(回答)を提出した。まずは、1. 政策の抜本的見直し、2. 科学・技術的能力に限界があることの認識、3. 放射性廃棄物の暫定保管・総量管理を柱とした政策の再構築、を求めるもので、1と2は、廃棄物処分事業が難渋する理由を、国民への説明・情報提供の折の説得力不足に求めてはならず、10万年にも及ぶ超長期の地質安定性を日本全土の中から特定する力は、今の科学にはない、との意味を持つ。3の暫定保管(暫定処分)は、将来の再選択に可能性を開いておくもので、(埋蔵された廃棄物の)回収可能性を担保する。一方の総量管理は、原発政策を巡る大局的合意を国民から得るのが狙いのひとつ。放射性廃棄物の総量に上限を設ける(または総量が増えないように努力する)ということだ。
さらには、対国民での政策手続きを巡り、4. 負担の公平性の説得的提示、5. 多段階合意形成、の2つが提言され、6. として、この難題には長期的スタンスで取り組むことが必要、と盛り込まれた。舩橋氏は「学術会議の回答は、放射性廃棄物処理に関する新たな政策理念を提示しており、その前提として『科学の限界』の自覚がある」と語った。
舩橋氏は最後に、学術会議が未審議の領域である、暫定保管具体化のための自身の考えを披露し、「各電力会社の圏域内での対処が必要だ」とした。東京が福島に原発稼動を押しつけるといった「リスク外部化」の構造が、日本社会に横たわっている間は、「受益者の私的利益の追求が発生してしまう」との主張だ。各電力会社の圏域内に1ヵ所の暫定保管施設を作るとなると、日本国内に計9ヵ所の施設が誕生するが、これについて舩橋氏は、「フィンランドとスウェーデンは、それぞれ人口が450万人と950万人の中で施設を作ろうとしている。(人口の尺度では)決して多いことにはならない」との認識を示した。