「火山学者は口をそろえて『巨大噴火でも水蒸気噴火でも、予知は困難。予知できたとしても、その時期や規模はわからない』と言います。規制委員会は、ガイドラインを作る段階から火山の専門家を呼ぶべきだった。もうひとつの問題は、たとえ噴火が予知できても、核燃料を運び出すのに少なくても5年かかること」──。FFTVの満田夏花氏は、川内原発の再稼働について、火山噴火の影響があまりにも軽く見られていると危機感を表明した。
FFTVとは、福島老朽原発を考える会(フクロウの会)と、FoE Japan原発チームによる動画サイトである。福島原発事故や子どもたちの被曝問題に取り組む両者がタッグを組み、原発、エネルギー問題などを中心に、さまざまなテーマで毎週火曜に動画配信を行っている。2012年の夏のスタート以来、配信数はこれまでに104回を数えている。
2014年10月8日、東京都内のIWJ事務所にて、IWJとFFTVとのコラボ企画「IWJ×FFTV(実験版) 満田夏花・福田健治・岩上安身」が行われた。満田夏花氏(FoE Japan)、福田健治氏(弁護士)、岩上安身の3名が、川内原発再稼働と火山リスク問題、メディアの使命、国際的な原子力災害補償の枠組みであるCSC条約の裏側などについて語り合った。
火山学専門家不在のまま作成された火山影響審査ガイド
岩上「鹿児島に記者が飛んで、インタビューをしている。火山学の専門家は口をそろえて『予知はできません』と言っている。『そんな水準にはない』と。にも関わらず、『できる』という前提で再稼働してしまおうという話が進んでいるんですよね」
満田氏「原子力規制委員会は、火山噴火の影響を考える火山影響審査ガイドを、火山の専門家を入れずに作った。川内原発の審査を続けていたのですが、ついぞ火山の専門家をヒアリングに呼ぶことはなかった。九電のヒアリングはものずごいたくさんしてるんですが
火山影響評価ガイドには3つのステップがあって、まず立地をみる。これがステップ1。巨大な噴火が起きて、火砕流が到達して、原発が壊滅的な打撃をうける可能性が十分に低いか。もし低くなければ、立地不適とし、廃炉にする。
ステップ2は、モニタリングで前兆現象を捉えて、ステップ3として対処方針を立てる。対処方針とは、原発を止めて、燃料を運び出すということ。火山の専門家はまず立地からしてダメ、と言っている。運転期間プラス燃料が保管されている期間をあわせた運用期間中、火砕流が襲うリスクは、十分ある、とは、そこまでは言っていないが、低くない、と。
今一番問題になっているのは、桜島を含む巨大な姶良カルデラ。そこは二万九千年前に巨大噴火を起こしている。原発から数キロのところに、火砕流の痕跡がある。火砕流が届く可能性があるということは、最終的に九電も認めている。菅官房長官が『火砕流は届かない』と発言していますが。何を根拠にそんなことを言い出すのだろう。
火山影響評価ガイドを作る時、唯一意見を聞かれた東大の中田節也先生も、噴火予知連の藤井会長も、火山学者は軒並み、口をそろえて『巨大噴火であろうと、水蒸気噴火であろうと、予知を行うのは困難だ』と言っている。予知できたとしても、それが何日後に起こるのか、何年後に起こるのか、何十年後に起こるのか、分からないと言っている。そこがすごく重要なんです。
過去に、パプアニューギニアだったと思うが、予兆があって、その後何十年も静かだった。そしてある日、突然噴火が起こった火山がある。要は噴火の余地は困難で、しかも、時期や規模はわからない、ということは、火山学者の意見の一致しているところではないか」
岩上「御嶽山が噴火したとき、予兆がなかったから山に登ってたわけでしょう。ある日突然噴火が起こって、噴石がバラバラと落ちる、そして火砕流が流れるということが起きるんだと僕らは今回痛感したわけですよね。その後、政府が言ったことは『いや、今回は水蒸気爆発だから。マグマ性の噴火じゃないから、違うんだ』。そしてマグマ性の噴火だって分かるって素人が言ってるわけですよ。
こないだ田中原子力規制委員長の会見がありました。うちも中継をしました。『素人だけど、火山学の専門家じゃないですけど。専門家に一切聞いてないけど、(予兆は)わかります』と言っている。どういうことなんだ」
満田氏「彼は科学を放棄している。専門家を呼ぶべきだと思います。ガイドラインを作る時点から専門家を入れるべきだったんです。もうひとつの問題は、カルデラ噴火が起こった時、人は逃げられるかもしれないが、原発を止めて、核燃料を運び出すのにどれくらいかかるのか。田中さんご自身が五年とおっしゃっている」
福田弁護士「このやり方自体は、今後裁判のなかで問題だっていう話が出てくると思う。基準自体もおかしいし、基準の使い方もおかしい。そのなかで、再稼働は違法じゃないかという話も出てくると思うんです。
大きく分けて(裁判の)ルートは2つある。再稼働の許可を出したのがおかしいというのは行政裁判。この前の大飯の差し止め裁判は、基準云々ではなく、民事裁判。あの判決の面白いところは、いわゆる規制基準的なものは一切相手にしなかったこと。
国がつくっている規制基準に合致するように頑張ってるのになにがいけないんだ、というのが間違いなく電力会社の固定観念。大飯の判決はそれをバッサリ切った。基準がどうかじゃなく、危険かどうかなんですよ、と。あのパラダイム転換は大きかった。危険性そのものを見る、ということ」
人の避難対策の不備、核燃料の搬出対策の不備
満田氏「県民の皆さんが、公開討論を実現する会というのをつくって、県や九電に呼びかけて、地震と火山と避難について、反対派と推進派の専門家の討論をやろうとした。それが9月6日。結局、県も九電も答えず。現実的に九電が何を考えてるかわからないんですが火砕流が到達するまでに核燃料を運び出すことになっているんですが、そんなことが(笑)」
岩上「火砕流が到達するまで5年かかるっていう想定なんですかね?。前兆現象が起こると、九電は専門家を呼んで、これが巨大噴火に繋がるかどうかを検討する。繋がるとなれば、燃料の搬出計画の更新を、それから策定すると。前兆現象がなにかも分かっていないのですが。
第二次安倍改造内閣がこないだ発足した時、大臣のひとりが、もし事故が起こったら国が責任を持って面倒見ますみたいなことを言ったわけです。どんな責任を取れるんですかね?
井村隆介(鹿児島大学准教授)さんが、姶良カルデラが一番大きな爆発をした時、半径80キロから100キロくらいまで火砕流が行くっていうんですよ。200万人から300万人くらいの人が影響をうけるだろうということですよね。
火山って、台風でも影響受けるらしいですよ、井村先生いわく。デリケードなんですよ。台風のせいで噴火が起きちゃったら、もうたまったもんじゃないですよね。そこで原発の災害があったら……」
満田氏「安倍首相は地元のご理解が必要だって言っているんですが、地元の市長、鹿児島の県議会と知事がいいっていったら、通っちゃうんです」
岩上「鹿児島の県議会は、原発再稼働賛成なんですよね」
満田氏「明確に反対している人は一人か二人ですね。彼らが市民の同意も必要だとかカッコつけなければ、あっという間に再稼働通っちゃんです。(意見を聞いても)市民の中には、顔と名前さらして反対といえない人もいるわけですよ。
この体制に反旗を翻した自治体もいて、南のいちき串木野市、日置市が地元同意に俺達もいれろと。隣接した風下の町で、住民は3万人くらいなんですけど、もう一万五千人くらいの方が署名に名を連ねているんです」
加入が予定されるCSC条約(原子力損害の補完的保障に関する条約)
<ここから特別公開中>
福田弁護士「例えば東電が事故を起こして、賠償金を払う時、一定額を超えたら、国が作っている基金からお金を払ってあげましょうというのが、CSC条約(原子力損害の補完的保障に関する条約)。
CSC条約には裏の意図がある。加入国が、一定の条件を満たす賠償制度を作って下さいということになっている。絶対責任、責任集中原則。事故を起こしても、東電が責任を負ってくれる。メーカーは心置きなく原発を作れる。無限責任をもつ日本とは違い、他国では賠償責任には上限がある。480億円を超えた場合、基金から助けてあげる、という制度。もう一つ、裁判管轄権を事故発生地に集中するということ。
この条約に加入する公式の理由として、『賠償制度を作ってくれればお金を少し出しますよ、でも480億円の有限責任で良いですよ、メーカーの責任は問えないようにして、裁判は事故発生地でやってくださいね』ということ。途上国で事故が起きた場合、日本人が被害を受けた時、補償を受けられるかは、かなり微妙」
岩上「深刻なモラルハザードが起きる。地球大で危ない状況になるんじゃないですか」
福田弁護士「有限責任が国際基準ですよ、日本くらいですよ、無限責任は、という議論につながっていく危険性がある」
岩上「今ある原発だけじゃなくて、これから新しい原発を作っていこうという話(のための議論)ですよね」
福田弁護士「将来的に新たな事故が起こった時、持たないわけですよね。(東日本大震災時の事故では)東電の賠償は国が丸抱えで、有限責任は原発推進家たちの悲願」
岩上「原発の賠償はもう(これまでのようには)しないから、という理屈ですよね」
福田弁護士「『こんなめちゃめちゃな賠償はできないですよ。これでは原発を合理的に運営していくことができないですよ』といって、『上限をカットして下さい、アメリカだってそうじゃないですか』。ということ」
戦災による原発リスクを顧みない安倍政権
岩上「絶対責任とは天災(による事故)であっても賠償しなくてはならないが、戦争はどうなんですか」
福田弁護士「今の日本の制度では、戦争を例外にするということはなかったと思います」
岩上「安倍政権がやっていることは、一方では原発を再稼働、輸出する、他方、戦争できる国にしよう、というもの。集団的自衛権行使を考えている時、リスキーな原発を抱えているというのは、どういうことなのか。原発かける戦争、というリスクについて考えていて、いろんな人に質問するが、よくわからないといわれる。戦災の補償は国家としてしないわけで、支配層、エリート層はそうしたリスクを考えていないのでしょうね。戦争になったら野となれ山となれで、先の戦争では原発がないんですよ。今度起こったらどうするんですか」
福田弁護士「(それゆえ戦争は)起こせない、ということになるんじゃないですか」
岩上「歯止めになるならいいのですが」
満田氏「自分が任期にいる間は責任を問われないとか、そういう短期的な発想で、原発を推進する、輸出をする、条約にも加入する。一私企業の都合が悪くなったら国が非常に手厚く守る」
岩上「やってる人間も真面目に考えていないでしょ。従来型のナショナリズムであれば、国がぼろぼろになるというような事態は絶対に避けなければという発想があったと思う。グロ-バル資本主義になると、国家も、人もどうでもよくなる。(事故が起きたら)核のゴミ捨て場にすればいいじゃないという合理性」
福田弁護士「ここで議論している自民党の人々にとって、福島の失われた国土は痛くも痒くもないのだろう。ナショナリズムという意味がちがうのではないか」