川内原発、揺らぐ規制委の判断基準、火山地質学者が審査のありかたを批判~井村隆介・鹿児島大准教授インタビュー(聞き手:原佑介記者) 2014.10.8

記事公開日:2014.10.12取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・原佑介)

 原子力規制委員会の「新規制基準」適合性審査を通過したことで、再稼働の最有力候補と言われている鹿児島県・川内原発。しかし、火山大国である鹿児島で、川内原発は、十分に噴火のリスクに備えているのだろうか。IWJは10月8日、鹿児島大学准教授で火山地質学者の井村隆介氏に話を聞いた。

 規制委は、「鹿児島のカルデラ噴火には約9万年の周期があり、現在、マグマが浅いところにあるという情報もない」として、巨大噴火リスクが「十分に低い」と判断しているが、井村氏の見方は違う。

 インタビューの中で井村氏は、「例えば阿蘇カルデラは、この約27万年の間に4回大きな噴火をしています。1回目と2回目の間は十数万年空いているんですが、2回目と3回目の間、3回目と4回目の間は2〜3万年しか空いていない」と述べ、噴火の周期は噴火リスクが低い根拠にはならない、と指摘。その上で、すでに巨大噴火を引き起こす量のマグマが充填されている可能性に言及し、規制委の主張に真っ向から異を唱えた。

■イントロ

  • 日時 2014年10月8日(水) 15:00~
  • 場所 鹿児島大学(鹿児島市)

※以下、@IWJ_AreaCh1での実況ツイートをリライトして再掲します

火山学の限界と御嶽山噴火から学ぶ教訓

IWJ原「今回の御嶽山の噴火は、戦後最悪の火山被害となりました。いまだに登山者の捜索は続いていますが、なぜ、ここまでの事態になってしまったのでしょうか。というのも、火山学者の皆さんは、現在の火山学問水準では噴火の予知は困難である、といいますが、それでも、もう少しどうにかならなかったのでしょうか」

井村先生「御嶽山の噴火は、火山学的には小規模な噴火でした。しかし、たまたま休日の昼頃、もっとも登山客が多いタイミングで起こってしまった。噴火予知・予測の問題もあったが、一番の要因は、側に人がいたことが大きいと思います。

 直前に地震があって、それを前兆としてレベルを上げられたんじゃないか、という話もありますが、直接、登山者に知らせたとしても、数分前に取れる行動は相当、限られてきます。巻き込まれた人は運が悪かったし、助かった人もたまたまだった、と考えるしかないのではないか、と思っています」

IWJ原「御嶽山の噴火から、どのような教訓を得られたと考えられますか? 今後、教訓をどう活かせばいいでしょう」

井村先生「確かに、直前にいくらかの現象があったので、そういう情報が、一般の方にもつかみ易くすることが大事だと思います。

 今回の噴火は、活火山ではどこで起こってもおかしくない現象です。登山に行く前には必ず天気予報を見るように、登山者の方が『地震が増えている』『しばらく前に噴火したんだ』という情報をつかみ易いシステムを作ることが大事だと思います。

 むしろ今まではラッキーで、たまたま噴火した時に天気が悪くて人が登っていなかった、あるいはオフシーズンだった、または昼ではなかった、というだけで、小さな噴火は度々起こっていたんです。よく調べたら、火山灰が出ていて噴火していた、ということは霧島山でもありました」

「巨大噴火の前兆はつかめる」という国の主張は信用できるのか

IWJ原「菅官房長官や規制委は、『御嶽山の場合、水蒸気噴火だったから予知が難しかった』として、川内原発に影響を与えるような超巨大噴火は、『前兆がつかめるので、審査は見直さない』という姿勢ですが、この姿勢はどうでしょう」

井村先生「今回も、2週間くらい前から小さな地震が増えていましたが、それがどうつながるかはわかりませんでした。あとからみれば予兆だった。もしこのままマグマ的な噴火に移行すれば、水蒸気噴火が前兆だった、ということになります。そうなれば、『マグマ噴火もわからなかった』ということになります。

 新燃岳の噴火はそうでした。2011年1月26日に新燃岳はかなり大きな噴火をしました。2008年から水蒸気噴火していて、それが噴火の前兆だったと火山学者は考えています。

 しかし、当時は新燃岳の水蒸気噴火は完全に寝耳に水で、微動が出てから『何かあったのか』と調べてみたら火山灰が出ていたので、『さっきの微動は噴火だった』とわかったんです。その後、2009年頃から急に新燃岳が膨張し始めたが、それが300年に1回の噴火に繋がるとは誰も思わなかった。

 そう考えると、マグマの噴火だからといって直前に必ずわかるものではありません」

IWJ原「予兆が起きてもキャッチすることが難しい、ということですね」

井村先生「キャッチしても、それが予兆であることを事前にわかることが難しい、ということだと思います」

IWJ原「規制委は、前兆が現れたら、空振り覚悟で原子炉を停止する、としていますが…」

井村先生「桜島周辺では今、地盤が伸びているわけですが、これを前兆だと考えると、鹿児島県の経済活動が止まってしまいます。今、1年間に0.01立方キロメートルのマグマが蓄積されていると考えられています。しかし、この状況だと原発は止めない、ということですから、『じゃあどこまで行ったら止めるの?』ということになりますが、そこは議論されていません」

IWJ原「チキンレースのようになっていきますね。いざ前兆をキャッチして『原発を止める』というときには、きっと『これは前兆なのかどうか』という議論が起こり、意見が対立すると思います。そのとき、安全側に立って判断してくれればいいが、そうなる保障もない。明確なラインが引けていない、ということが問題ではないでしょうか」

井村先生「カルデラ巨大噴火が想定されるとなれば、鹿児島だけでなく、九州南部の方々を全員、避難させなければいけない。前兆をキャッチできたら、原発よりも避難ことを考えてほしいと思います」

「300万人が即死」超巨大噴火の被害予想

IWJ原「カルデラが噴火した際に予想される被害とはどれほどのものなのでしょう」

井村先生「3万年前の姶良カルデラの噴火では、半径80〜100キロくらいまで火砕流が到達しています。半径100キロくらいとなると、200〜300万人くらいが影響を受けます。カルデラの予兆がわかれば、燃料を運ぶと同時に300万人を避難させなければいけない。そう考えると、『空振り覚悟』などと言われたらたまらない。300万人を逃がすことだけ考えたいのに、原発のことまで考えたら誰も対応できないと思います」

IWJ原「300万人を避難させるには、どれくらいの時間を要しますか?」

井村先生「1〜2週間では絶対に無理だと思います。200〜300万人というのは、直接、火砕流で亡くなる人の数です。その規模のカルデラ噴火が起きれば、日本中に火山灰が積ります。そうなると、東京でも『避難した』とはいえないような噴火になります。東京には数十センチの火山灰が降り注ぎます。3万年前の火山灰は、東北地方で数センチの厚さで火山灰が見つかっています。

 日本中が噴火に対して万全の体制で臨まなければいけないときに、原発があると、『放射能も来るかもしれない』という話が加わってしまう。川内原発はカルデラ噴火が起こった時に影響がある場所に存在する、ということが問われるべきなんだと思います」

IWJ原「原子炉を停止し、燃料搬出するまでには5年かかる、と言われていますが、人を避難させるだけでも難易度が高いんですね」

井村先生「だから空振りはなかなか許されるものではありません。日本中が目一杯カルデラ噴火に備えれば、日本中の経済活動も止まってしまう。ギリギリまで(原発を停止する、という)判断を我慢しなければならなくなると思います。原発を停めて燃料棒を運び出したというのに『みんなは今までどおりここに住んでいていいよ』とは言えないでしょう。確実に死ぬわけですから、予知・予測を含め、日本中が考えなければいけないと思います」

IWJ原「5年前に前兆をつかめる確率はどれくらいありますか?」

井村先生「全然わかりません。経験したことがないから。私たちは経験を重ねて将来予測をする、ということをやっていますが、経験したこともないのに前兆がどれくらい前に出るかなど、わかるものではない」

カルデラ噴火には「周期性がある」という欺瞞に異論

IWJ原「規制委は破局的噴火の可能性は低い、と言っています。その根拠は、『カルデラは9万年の周期で噴火しており、最近は3万年前に爆発したから、あと6万年くらい猶予がある』といったものです。これはあてになる理論なのでしょうか」

井村先生「まず、『9万年』の根拠をしっかり議論する必要があります。9万年の根拠は、周辺の加久藤カルデラ、小林カルデラ、姶良カルデラ、阿多カルデラ、鬼界カルデラの5つのカルデラを一緒くたにして『平均すると9万年です』としているんです。本来はカルデラごとに評価しなければいけない。

 例えば阿蘇カルデラは、この約27万年の間に4回大きな噴火をしています。1回目と2回目の間は十数万年空いているんですが、2回目と3回目の間、3回目と4回目の間は2〜3万年しか空いていない。仮に9万年間隔だとしても、活断層は12〜13万年前までに動いたものが活断層と認定されていることを考えれば、9万年だと、活断層の場合は完全にアウトになります。完全にダブルスタンダードになっています」

IWJ原「井村先生は産総研で活断層の研究もされていました。規制委の、火山と活断層の扱いの違いについてどう思われますか」

井村先生「私は火山と活断層両方見てきたので、『なんでだろう』と思います。数万年に一回しか動かないのなら、活断層だって(気にしなくて)いいだろうし、地震だってモニタリングすればいい、ということになる。火山については、福島の事故以降、とってつけたような基準をつけました。最初にもっと議論しておけば、こんなことにならなかったと思います」

IWJ原「貞観地震や宝永地震では富士山噴火が連動した、ということがありました。例えば東日本大震災のような巨大地震が川内原発周辺で起きた場合、それがキッカケとなって、加速的に前兆のないカルデラ大噴火が引き起こされる、ということはありえませんか?」

井村先生「マグマが準備されていれば、何かをキッカケに大噴火が起こる、ということはあると思います。もっと言えば、台風くらいでも気圧が下がることで噴火のキッカケになる、ということがあると思います」

IWJ原「仮に早い段階で予測できたとしても、何かキッカケ次第では横槍が入ったことになり、噴火が早まることもある、と」

井村先生「あります。活断層も周期性があるといわれていますが、3.11の影響で『こっちは応力がかかるようになり、こっちは解放された』ということがありました」

 3.11以降、地震や活断層の動きで新たな歪がかかったところで大きな地震が起きたりしているので、何かのキッカケで今までの方程式が崩れる、ということも普通にあると思います」

すでに超巨大噴火分のマグマは充填されている!?

IWJ原「仮に言われているように、3万年前に姶良カルデラが噴火していたとして、この3万年の間にどれくらいのマグマが溜まっていて、これが噴出したらどれほどの規模の被害になるのでしょう」

井村先生「例えば、VEI(噴火の規模)7の巨大噴火の場合、『数百立方キロ』のマグマが出るんです。VEI6だと『数十立方キロ』、VEI5になると『数立方キロ』で、桜島の大正噴火のときは『数立方キロ』のマグマが出たんです。『数百年に1回』の噴火の規模だと言われています。

 そうなると、年に0.01立方キロずつ、カルデラの下にマグマが蓄えられているので、もし3万年間、毎年0.01立方キロずつ溜まってきたのであれば、今、300立方キロ溜まっていることになる。ときどき『数十立方キロ』のマグマを出しても、誤差の範囲くらいですよね」

IWJ原「すでにVEI7の噴火の準備はできている、ということですか?」

井村先生「かもしれない。だから九電も規制委も、(噴火前に)急激な変化があるはずだというが、もう急速な変化が必要ない、ということになる。キッカケがあれば動いてしまうかもしれない。それを無視して『ドルイット論文』だけで進めているのが、現状だと思います。噴火直前の数十年前にマグマが急激に溜まるというのであれば、このあたりの噴出物を使って同じ手法で分析し、同じ結果になったという証拠を出すべきです」

年に1000回噴火を繰り返す「桜島」。巨大噴火の前兆か?

IWJ原「桜島の噴火が頻繁になっていますが、どうみていますか」

井村先生「僕が学生だった80年代中盤から後半、爆発の回数は今の半分くらいでしたが、出ていた火山灰は今の10倍くらいでした。なので、マグマは30年前のほうがずっと出ていたんです。当時は地盤の伸びも止まっていました。ようするに、噴出する分と下から供給する分のバランスが取れていたということです。大正噴火を起こして、地盤が縮んだ。昭和噴火で溶岩が出てまた縮んで、そのあと、ずっと溜まっていたんですが、その後は止まったんです。

 噴火活動が収まってくると、また地盤が伸び始めて、今は上からちょろちょろ出しているんですけど、伸びは依然として続いていて、あと数十年で大正噴火と同じだけの地盤の伸びに戻る、ということ。だから大正噴火に近いのが来るのではと備えています。

 だけど、注意しなければいけないのは、大正クラスの噴火は数百年に1回の噴火で、次の噴火も同じようにと考えているが、そうならなかったのが『東北』で、多くの人が数百年に一度くらいのが来ると思っていたが、突然千年に1回のものが来てしまった。私たちは数百年に1回の規模であればなんとか対応できるが、数千年に1回の規模の噴火がきた時には、『ごめんなさい』するしかない。次は、数万年前に1回のものがくるかもしれない。地震学も火山学も、今の科学ではわからないんです」

IWJ原「桜島の噴火はカルデラと連動しているのでしょうか?」

井村先生「それもわからない。数十年後にふり返って、『そうだったかも』というくらいの話です」

IWJ原「今、前兆を見逃している可能性もあるかもしれませんね」

井村先生「そうですね。後になって、『こんなに火山灰が降るようなところへ住み続けた鹿児島の人間は、リスクを許容していんだ』という話になるかもしれない」

地元・鹿児島県民の思い、井村氏が発言する理由

IWJ原「ここに原発・火山があることに関して、地元の人の声を聞くことはありますか?」

井村先生「聞きます。だからこそ表に出て話をしています。ただ、僕自身も稼働期間中にカルデラ巨大噴火が起きるとは思っていません。ですが、審査のありかたが問題なんです。『リスクはあるが電気代が上がるよりもいい』というならいい。しかし今は、『リスクがない』と言っているんです。彼らがそう言うことで、『鹿児島に住んでいても全然平気』となってしまっている。みんなあまり考えず、桜島の噴火を見すぎて、そんなに怖くないものと思っている。生活圏にないだけで、火口から2キロの範囲内では、御嶽山のようなことがいつも起こっているのに」

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