「科学の基礎は疑うこと。疑わなくなったら単なるドグマです」――CO2削減を主張するナオミ・クライン氏の論拠に疑問 〜岩上安身によるインタビュー 第567回 ゲスト 伊藤公紀氏 前編 2015.8.5

記事公開日:2015.8.11取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根)

特集 地球温暖化と原発ルネッサンス

※8月20日テキストを追加しました!

 「ナオミ・クライン氏は、気候変動を(新自由主義に対抗する)材料、手段としてしまった。現実に起こっている竜巻、ハリケーン、洪水がその証拠だと言うが、それは勇み足ではないか」――。

 新自由主義の批判者で、『ショック・ドクトリン』などの著作で知られるカリスマ的なジャーナリスト、ナオミ・クライン氏が、岩波書店『世界』2015年5月号のインタビューで、人為的な地球温暖化説を支持し、「気候変動は明らかで、将来にわたって気温変化を2度以内に抑えなければならない」と主張している。これに対し、横浜国立大学の伊藤公紀教授は、「彼女が得ている基本情報はどこまで正確なのか」と疑問を呈した。

 2015年8月5日、横浜市保土ケ谷区の横浜国立大学で、岩上安身による、横浜国立大学環境情報研究院の伊藤公紀教授へのインタビューが行われた。伊藤氏は環境物理化学、環境計測科学の専門家で、CO2による地球温暖化説に異議を唱えている。

 伊藤氏は、「温暖化はCO2だけが原因ではない」と断言し、気候変動は、太陽風や紫外線、月の潮汐力も影響していることを説明。それらが複雑に絡み合い、北極振動、北大西洋振動、エルニーニョ、南方振動、海底の地形までもが作用し合って気候変動が起きていると述べ、そのメカニズムを解き明かしていった。

 岩上安身は、「『グローバリズムで地球は一律にまずくなった、万国の労働者よ、温暖化で団結せよ』というスローガンは、違うのですね」と感想を口にした。

 また、伊藤氏は、クライン氏が主張する「気温変動は2度以内」の根拠になったのは、映画『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)で描かれた「温暖化すると淡水がメキシコ湾流に増え、海洋大循環が止まり、ヨーロッパが寒冷化する」という説ではないかと推察し、「これは間違い。そもそも、海洋コンベアベルトの存在自体が怪しい。もう古い理論です。ブイを海底に放った実証実験では、結果はそうならなかった」と指摘した。

 インタビューの最後に、「科学の基礎は疑うことだ」という物理学者のリチャード・ファインマンの言葉を紹介した伊藤氏は、「疑わなくなったら、単なるドグマ(硬直化した信念)です。そこのところが、ナオミ・クライン氏に欠けていたのが残念だ」と語った。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2015年8月5日(水) 15:00~
  • 場所 横浜国立大学(横浜市保土ケ谷区)

本当に地球は温暖化しているのか? その原因は確かなのか?

岩上安身(以下、岩上)「2014年、地球温暖化を議論し、政府に提言するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の会議が、横浜で開催されました。そこでは、地球温暖化の原因は人為的なもので、CO2削減が必要だと言われています。そのための資金を出しなさいということで、日本はたくさん出しています。

 ところで、そもそも地球は本当に温暖化しているのか、その原因は確かなのか、いろいろな疑問も出ています。それでも今のところ、IPCCは温暖化人為説で進んでいます。そこで、横浜国立大学環境情報研究院の伊藤公紀教授に、改めてお話をうかがいたいと思います。

 まず、『ショック・ドクトリン』で有名なカリスマ的ジャーナリストのナオミ・クライン氏が、『世界』(2015年5月号)で、温暖化人為説を支持しました。彼女は一級の知識人、ジャーナリストですが、世界人類が手を繋いで温暖化を防がなければいけない、と主張しています。

 一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは『地球は寒冷化している』と書きました。ただし、この新聞はいい加減で、株価を動かすために寒冷化と温暖化を交互に利用しているとも思えます。

 そして、日本は愚かしいことに、戦争と原発再稼働のどちらも進行しようとしている。こういう危機的状況なので、代替エネルギーのことなどもお聞きしたいと思います」

伊藤公紀氏(以下、伊藤・敬称略)「まず、ナオミ・クライン氏の意見は太陽変動と寒冷化の可能性がテーマですね。岩波書店の『世界』5月号のクライン氏のインタビュー『いのちか、金か──気候変動市民運動の展望』は、基本情報がどこまで正確なのか、疑問に思います。惨事便乗型資本主義を批判する彼女は、『新自由主義を止めるには、気候変動がいい材料になる。気候変動は明らかで、将来にわたって気温変化を2度以内に抑えなければならない』と主張しています。

 社会を持続するならモラルが必要です。貪欲資本主義からモラル資本主義へ。日本には、経営に哲学を取り入れた石田梅岩の石門心学があった。アマルティア・センは経済学と倫理学を結びつけノーベル賞を受賞しました。ところがクライン氏は、気候変動を(新自由主義に対抗する)材料、手段としてしまった。現実に起こっている竜巻、ハリケーン、洪水がその証拠だと言うが、勇み足の印象です。アメリカの竜巻は1970年代の発生数が多い。竜巻は寒い時期に多いんです。上空と地表の温度差が原因のひとつです」

竜巻もハリケーンも増えていない現実

岩上「当時のアメリカは、ドルショックやベトナム戦争末期で、そのあとインフレ、それから新自由主義になった。そんな混乱で、竜巻にはあまり関心がなかったのかもしれませんね」

伊藤「1975年4月28日のニューズウィーク誌には『寒冷化する世界』という記事があり、148個の竜巻異常発生を指摘している。気温低下は竜巻の発生原因になり、干ばつ、洪水、長い乾期、凍結、モンスーンの遅れを引き起こし、局所的な気温上昇の原因にもなるという内容です。これは今の気候に似ていますね。

 また、今、竜巻が多いと言われる理由は、弱い竜巻も合わせて数えているからです。さらに、アメリカでは竜巻狩りという観光もあって、観測網も発達し、竜巻の実数が50年前より増えてしまうんです。データはちゃんと読まないと怖いですね。

 そして、ハリケーンも150年間の記録では増えていない。今が異常とは決して言えません。ハリケーン発生のシミュレーションでは、予想される数は増えています。しかし、海表面の温度の扱い方で違ってくるのです。高分解モデルといい、海表面温度のサンプル密度を上げ、海域の温度差、場所の違いなどを計算に入れてシミュレーションすると、ハリケーン発生は将来もあまり変わりません」

太陽の活動、特に紫外線が影響するハリケーン

伊藤「ハリケーンは太陽の活動、特に紫外線が影響することがわかってきた。紫外線がオゾン層を温め、紫外線強度がオゾン層を生成し温めることがわかっている。上空10km以上の成層圏下部と、その下の対流圏上部の気温に作用する。紫外線が強いと、地上との温度差が減り、ハリケーンは弱くなるんです。紫外線が弱まるとオゾン層の温度が下がって、地表との温度差が広がります」

岩上「オゾンホールから紫外線が降り注いで皮膚ガンになると言われますが、紫外線はオゾン層生成もしているんですね。ところで、オゾン層って何ですか」

伊藤「オゾンは酸素が3つ結合した分子で、簡単に言うと毒なんです。でも、塩素殺菌より発ガン性がなく、殺菌にも使う。紫外線が強くなるとオゾンが増え、10年周期くらいで増減します。毎秒風速44メートルのハリケーンで、太陽の極大極小で、毎秒13メートル(実測)の差があるという論文があります」

岩上「つまり、太陽活動で紫外線が増えると気温が上昇し、地表との温度差が減り、ハリケーンの威力は弱まる。温暖化でハリケーンが増えているというのは、今の研究からは、嘘になるということですね」

伊藤「そうですが、やや複雑なので、クライン氏にはわかりにくいのかもしれません」

岩上「それと、アメリカ社会で、グローバリズムに反対するような左翼的立場を取ると、そのドグマからはみ出すのは難しいのかもしれない。思い込みもあるでしょうし」

CO2削減より、自然の驚異に対応する社会づくりを

伊藤「洪水や干ばつについて、インドの研究者が『温暖化で簡単に片付けるな』と主張しています。モンスーンと干ばつの平均値の変動には意味がない。われわれの社会が自然の驚異にいかに対応するか。社会の脆弱性が問題だということです」

岩上「私たちのイメージでは、温暖化すると洪水や干ばつが増えると考えるが、そんな簡単なことではないのですね。洪水には洪水への対策。干ばつにはその対応を持たなくてはならず、一方向だけで考えるのは勘違いなんですね」

伊藤「人為的な点を挙げると、バングラデシュやパキスタンなどでは、灌漑の影響が大きい。乾いていた場所に大きな湖などを作るからです。そこからの水蒸気がモンスーンまで変えてしまう。そういう人為的な影響はあるが、CO2ではありません。

 自然現象では、エルニーニョ、大気の南方振動、ユーラシア大陸の降雪量、約2年で変動している成層圏の風の向きなど、自然変動が複雑に絡み合ってモンスーンなどに影響する。それを、CO2が原因と言うのは無理なんです」

岩上「それは自然現象なんですか。何に基づくのでしょうか」

伊藤「振動とは大気の変動のことで、赤道付近の上空に風が吹いていて、26ヵ月周期で西、東に入れ替わる状態です。また、雷雲が大気を振動させ、上の大気が呼応して動くという不思議な現象もあります。でも、実験で再現できる機械的なメカニズムなので、複雑系でもカオスではありません。だから、CO2を減らしたからどうなるかより、社会を洪水や干ばつに強くするためにお金を使った方がいいのです」

自然変動はひとつの原因だけでは解明できない

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  1. 大川久美子 より:

    伊藤先生の講義、久しぶりです。すごく嬉しかったです!
    お体心配です、どうぞ大事になさってください。

    先生の講義をお聞きすると、地球ってその天体自体が生き物なんだな、と思います。
    46億年も生きてきた生き物なんですね。
    しかも、周囲にある様々な天体の影響を受けながら生きている。

    地球も人間も変わらないんですね。

    ヒトのことも宇宙のことも、自然のことをまだ科学はすべて解明していません。
    科学万能で、ヒトが自然を理解し征服できる、という傲慢に気づけたら、もう少し自然に優しくなれるのに。

    一方で、 ”今のところの”ヒトの英知を結集した科学のデータについて、そのリテラシーを学び、恣意的な扇動に引き込まれない知性も持ち合わせたいなと思います。

    海外では、多くのインディペンデントメディアやオルタナティブメディアが、この温暖化についての様々な疑義を報道していますが、日本では、きちんとデータでこのことに触れて報道している方は本当に少ないですね。

    IWJ、ぐっじょぶ!! 会員になってよかったです。 これからもがんばりましょう!

    伊藤先生~~、また講義をよろしくお願いいたしま~~す。
    ほんとに、お大事になさってください

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