「考え抜かれたもので動かされている、想像を超える世界。背筋が凍る」と内田氏──。
2013年10月5日、東京・渋谷の東京ウィメンズプラザ・ホールで行われたドキュメンタリー映画『ショック・ドクトリン』上映会後に、経済学者の中山智香子氏とTPPの危険性を訴えてきた内田聖子氏によるトークライブが行われた。『ショック・ドクトリン』は、惨事便乗型資本主義を描いたナオミ・クラインの同名書籍を、マイケル・ウィンターボトム監督らが映画化したもの。戦争や自然災害などの大きな危機に見舞われた際、人々のショック状態を利用して、新自由主義が世界を席巻していった歴史を紹介している。中山氏と内田氏は、震災、原発、TPPなど、3.11以降の日本で現在進行形のショック・ドクトリンについて話し合った。
- 登壇者
- 中山智香子氏(東京外国語大学大学院教授)
- 内田聖子氏(アジア太平洋資料センター事務局長)
新自由主義と民主主義は相容れない
冒頭、内田氏は「この映画を見ると、どんより重い気持ちになる。しかし、この映画の延長線上に、私たちの今がある」とし、「特定秘密保護法案が国会に提出される動きがあり、人々に情報を教えない、逆に情報を吸い上げて抵抗する者を取り締まる監視社会が、現実になりつつある」と危惧した。
『経済ジェノサイド : フリードマンと世界経済の半世紀 』(平凡社新書)の著者である中山氏は、ミルトン・フリードマンらによって提唱された新自由主義が台頭するきっかけは、チリのクーデター(1973年)だと説明。「虐殺や拷問が横行したピノチェト将軍の軍事独裁と、新自由主義でマーケットを開いた経済政策(チリの奇跡)とは別もの、と理解されていたが、実は一体なのだ。自由競争で国内のインフレ、失業、貧困が進み、反対者が増えると弾圧する構図は、そもそも民主主義に合わない」。
ショックという概念を再定義したナオミ・クライン
中山氏は「ナオミ・クラインは、拷問の電気ショックと経済的なショックを同質のものとして結びつけた」とし、「チリで成功した『ショックを与えて支配するやり方』が、その後、戦争における捕虜への虐待方法として定着し、21世紀にはアフガンやイラクでのアメリカの振る舞いと重なってくる」と強調した。
さらに、ソ連の崩壊について、「東側の共産主義世界の崩壊は、西側には歓迎された。しかし、ゴルバチョフは経済を段階的に開きたかったのに、G7に呼ばれて、援助がほしければ一気にショック療法でやれ、と迫られた。その後のソ連8月クーデターやエリツィンの台頭など、ソ連崩壊前後のわかりにくい状況は、ショック・ドクトリンの切り口できれいに理解できてしまう。それが怖いところだ」と述べた。
お祭りで国民を一体化して高揚させる
「この映画は、いろいろな『捉え直し』を提起している作品」という内田氏は、「私たちにとって、3.11の震災と原発事故は大きなショックだ。ただ、日本が特殊なのは、電気ショックではなく真綿で首を絞めるようにじわじわ支配され、感覚がマヒしていくこと。特に、東京オリンピック決定の狂喜乱舞は、なんなのだろう」と疑問を呈した。
中山氏が「お祭りで国民を一体化して高揚させるには、オリンピックは格好の材料。それに水を差すようなことを言えば、『非国民だ』と黙らせる」と話すと、内田氏は「秘密保護法や共謀罪も出てきた。オリンピックのために、世界一安全な国にするために、と。だが、法律ができれば、オリンピックのあとでも取り締まりは続く。まさに便乗型だ」と応じて、次のように続けた。
「オリンピック招致では、安倍首相が『福島第一原発の汚染水はコントロール下にある』と大ウソをついた。この発言を、世論調査では8割の人が『おかしい』と感じていながら、オリンピック決定は喜んでいる。われわれは、どういう精神状態なのだろう」。
「火事場を作れ」という人たち
内田氏は「TPP、秘密保護法、憲法改正、国家戦略特区など、日本の課題は山積み。政府の有識者ワーキンググループのメンバーは、実際に『これをやるには、火事場を作らないといけない』と発言している。まさに、ショック・ドクトリンの世界だ」と懸念を示した。その上で