2012年に「公正放送争取」を求めてストに突入した韓国MBCの局内で、岩上安身が全国言論労働組合広報局長イ・ヨンマ記者にインタビュー! 2017年映画『共犯者たち』出演で注目されたイ・ヨンマ氏は2019年8月に若くして癌で逝去! 2012.4.4

記事公開日:2012.5.3取材地: | | テキスト動画独自
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(IWJ編集部)

※ただいま全編特別公開中!
 2019年9月6日、テキストを追加しました。

 2012年、韓国で公営放送局 #MBCを始め、KBS、YTNなどの大手メディアがストライキに突入した。

 ストは、#米韓FTAをめぐり、国民に不都合な事実を隠そうとメディアに介入する李明博(イ・ミョンバク)政権と、権力に迎合したメディアに対し、プロデューサーや記者らが公正な報道を求めて立ち上がったものだ。

 メディアを解雇されたジャーナリストたちの一部は、独立メディア「ニュース打破(タパ)」を立ち上げ、李明博政権とそれに続く朴槿恵(パク・クネ)政権の言論弾圧と闘った。

 韓国でのストの発端は、米韓FTAの報道規制だった。これに対し、日本では、大統領選挙を来年に控えたトランプ大統領が再選を果たすための手段としての貿易戦争で、ツケを押しつけられ、#日米FTAという不平等条約の締結が突き付けられている。

 日本政府は、TAG(日米物品貿易協定)という言葉を捏造して、FTAの本質をぼかし、ごまかしてきた。嫌韓キャンペーンや文在寅大統領が法相に指名した、韓国の「玉ねぎ男」こと、チョ・グク元民情首席秘書官の数々の疑惑報道でテレビや新聞が賑わっている間に、FTA交渉は日本を売り飛ばす形で確実に進展し、9月下旬に締結される予定になっている。日本のどれだけの国民がこの事実に気が付いているのか?

 MBCを解雇された元プロデューサーの #チェ・スンホ氏が監督したドキュメンタリー映画 #「共犯者たち」(2017年)は、昨年(2018年)日本でも公開され、話題を呼んだ。現在も上映が続いている。

 その映画「共犯者たち」に何度も登場する元MBC記者で、全国言論労働組合の広報局長 #イ・ヨンマ氏が、8月21日逝去した。

 岩上安身は2012年 4月4日 、ストライキ中のMBC内でイ・ヨンマ氏にインタビューを行っている。

 韓国のメディア事情に詳しい滋賀県立大学の河かおる准教授は、IWJにこのインタビューの再配信をうながした。

 IWJでは現在、このインタビューを再配信するため、動画の字幕をより正確なものに付け直している。再配信に先立ち、文字起こししたインタビュー全文を以下に公開する。異常なまでの嫌韓を煽る現在の日本のテレビ局と、公正な報道を求めて時の政権と対峙する韓国のテレビマン達との彼我の差をぜひともご覧になっていただきたい。

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■ハイライト

■全編動画

ストライキを主導した嫌疑で解雇された!? イ・ヨンマ氏、不当解雇で訴えも

岩上「今、私は文化放送(MBC)に来ております。ここは、労働組合の事務室の会議室です。MBCの周りには労使双方のスローガンが張られています。労使が真っ向から対立しているのがよくわかります。

 全国言論労働組合のPR局長のイ・ヨンマさんです。よろしくお願いします。イさんは記者を解雇されたのですか?社員も解雇されたのですか?事情を教えてください」

イ・ヨンマ氏「もうMBCの社員ではありません。MBCでは私の記録はありません。解雇された理由としては、このストライキを主導した嫌疑を受けています」

岩上「それは不当解雇だとして訴えていますか?」

イ氏「はい、不当だと考えているので、再審を請求しました。3月5日に一度解雇され、それに対して再審請求をし、その結果が3月20日に出て確定しました。それも解雇でしたので法的な訴訟を起こすか、他の対処を調べているところです」

岩上「準備中なんですね。再審というのは会社側に対して?」

通訳「会社側ですね」

政府与党と親しい人間が社長になる構造!ストライキで公正な放送を勝ち取りたい

岩上「このストライキはいつから、何を目的に始まったか教えてください」

イ氏「MBCのストライキの最大の目的は、『公正放送争取』(公正な放送を勝ち取る)です。

 現政権になってから、特に現社長になってからMBCのニュースと時事番組は公正性が大いに損なわれました。過度に政権に偏向した番組になっています。政権が敏感になる事案、財閥、既得権層、検察などに対する批判的な視角がニュースからなくなりました。

 その意味で、公正な放送を勝ち取ることが最終的な目標で、その公正な放送を損なった主犯格である現社長の退陣がまず実現すべき目標です」

岩上「社長の名前は何ですか?」

イ氏「金在哲(キム・ジェチョル)です」

岩上「いつ就任されたのですか?」

イ氏「もう2年になりました。2010年3月からです」

岩上「李明博さんのシンパなのでしょうか? もとはどういうことをしていた人でしょうか?」

イ氏「もともとMBCの記者で、地方の系列会社の社長を歴任しました。元々政治部記者出身で、以前から李明博大統領とかなり親しい関係を持った記者でした。大統領がため口をきくほど親しい間柄です」

岩上「金在哲社長は放送委員会、ですか、そこから選ばれたんですか?」

イ氏「MBCは社長を選任するシステムが少し複雑なんですが、MBCの社長を選任する機構として放送文化振興会があります。

 MBCは株式会社で、筆頭株主の放送文化振興会が70%の株を持っています。残りの30%の株はチョンス奨学会の所有です。従って、MBCの社長は事実上、放送文化振興会が任命することになるのですが、放送文化振興会に政府与党の息がかかりやすい構造になっています。

 つまり放送文化振興会の理事は9人で構成されていますが、その中の6人は政府の与党から、残り3人は野党から推薦されることになっています。従って実質的に政府与党が誰かを社長にしようとすれば、それがそのまま貫徹してしまう構造です」

岩上「チョンス奨学会のチョンスとは人の名前ですか?」

イ氏「朴正熙の『正』、陸英修(朴正熙の妻)の『修』をとって、『正修(チョンス)』です」

李明博政権に入ってから大きく損なわれた公平性!新聞社が放送を所有できる「メディア悪法」廃棄も求める

岩上「公正な報道というのは、社長の選任構造がこのようになっていると、常に政権批判はできないということになるわけですか?つまり、李明博政権になって特別歪んだということではないという気もするのですが、いかがですか?それとも李明博政権は特別、報道に対して圧力をかける姿勢があるのでしょうか?」

イ氏「李明博政権になってからですね。以前、たとえば李明博政権の前の盧武鉉政権、その前の金大中政権の時は…。そうですね、MBCが今、2012年度にストライキをしていますが、目標は『公正放送争取』です。

 ところでこの『公正放送争取』を目標にストライキを行ったのは直近でも1996年です。MBCの労働組合が1987年に創立されて、1988年度に最初にストライキをしました。その後、1996年まで何度もストライキをしました。その当時の目標は『公正放送争取』です。社会が民主化するにつれ、公営放送が一定の位置づけを獲得していきますよね。1997年に金大中が大統領に当選するわけですが、それ以後、「公正放送争取」を目標にストライキをしたことはないんです。

 ところが、2012年度、16年ぶりに「公正放送争取」を目標にストライキをしたんです。それほどに、李明博政権に入ってから、特に今の金在哲社長が送り込まれてから、公正性が大いに損なわれたということです」

岩上「1987年から1996年までは賃金の値上げなどを目的にしたストライキはなく、『公正な報道を求める』という同じスローガンでストライキをしたんですか?」

イ氏「MBCの歴史上、賃金問題などでストを起こした前例がありません。

 2つの目的があります。1つは、『公正放送争取(公正な放送を勝ち取ること)』もう1つの理由は、メディア悪法廃棄。または、民主的な放送法を勝ち取ること、その2つが、いつもストライキの理由でした。

 MBC労働組合では、今回11回目のストライキですが、李明博政権に入ってからは5回目です。つまり、11回のうち5回がこの政権になってからです。

 5回のうち3回はメディア悪法制定反対のスト。残り2回目は現・金在哲社長の退陣を要求するストです」

岩上「それぞれいつ行われたか教えてもらえませんか?」

イ氏「2008年に2回、正確に覚えてないのですが、春と、12月の2回と、2009年の初めに1回で、このストはメディア悪法反対のものです。

 メディア悪法とは、朝・中・東(三大日刊紙の朝鮮日報、中央日報、東亜日報のこと)が総合編成チャンネルの放送局を作るという法律です。これに反対するストライキをしました。
 その次のストは、2010年4月。これは当時の厳基永社長の任期が残っているのに政権が追い出して今の金在哲社長を任命したとき、任命に反対するストライキを39日間しました。そして今回、1月30日から、金在哲社長の退陣を要求するストライキをしています」

岩上「メディア悪法はなぜみなさんは悪法と呼んでいるのですか?どうして批判しているんですか?」

イ氏「まず、朝・中・東は新聞社ですよね。その新聞社が放送を所有することをはじめて可能にした法律でした。

 しかしそれは朝・中・東だけに許可されるだろうということは誰もがわかっていました。つまり、事実上、朝・中・東に特別な恩恵を与える法案だということで、反対をしていました。

 朝・中・東は、親政府のメディアです。前々から放送に進出したがっていました。しかし、その朝・中・東が新聞でも3分の2以上を占めているので、その新聞社が放送まで掌握する場合、世論の独占・寡占が形成されると」

李明博政権が進める韓米FTA その偏向報道をきっかけにストライキ突入

岩上「今回のデモの目的も同じ『公正報道』ということですよね。社長退陣を掲げて。FTAに関しては掲げていないんですか?」

イ氏「FTAに対しては今回直接的な関係はないのですが、例えば、韓米FTAが昨年の11月末に国会で通るんですが、反対のデモがありました。MBCはその当時、反対デモの報道自体をしませんでした。FTAに対する賛成、良い面だけを報道し、悪い面は落として放送しません」

岩上「つまり偏向報道と言う中に、このFTAに対して非常に偏向報道があったということですね。社長退陣要求というのは、間接的な李明博政権批判になっていると思うのですが、李明博政権が強力にFTAを進めていることに対する批判が間接的には含まれているとみてよいのでしょうか?」

イ氏「間接的ではなく直接的に関係ありますね。

 偏向報道の事例をいくつかあげますと、代表的な事例では、昨年10月26日にソウル市長の補欠選挙(※1)がありましたが、その時に与党側に有利なことばかり報道して、野党側に有利な報道はしませんでした。

 反対に、野党側の候補には不利な疑惑報道は非常に熱心にしましたが、与党側の候補の疑惑は報道しなかったり、縮小報道したりしました。後になってイシューが大きくなったら仕方なく報道したりとか。

 これに対して私たちが会社側に問題提起をしたら、金在哲社長は報道に問題があったと認めはするんですよ。

 次に問題になったのが、先ほど話した韓米FTA報道です。

 反対デモなどの報道をせずに、偏向報道をするので、私たちがまた会社側に問題提起をしますよね。問題がある、深刻だといって、報道本部長、報道局長、政治部長を問責しろと。責任者に対して問責をしろと求めたんですが、会社側が拒否しました。そして結局、韓米FTA報道を契機にストライキにまで至ったというわけです。

 先ほども言ったとおり、政権に対して少しでも批判的だとか、政権に不利なこと、そういうことは全て落としてしまうわけですよね。再発しないようにするとは言うが…。

 昨年の11月、韓米FTAが国会で通ったその日に3人の問責を要求したのですが、拒否されました。(問責は)労使の団体協約上、労組から要求できるようになっています。ソウル市長選挙の時と、韓米FTAの時、2回の問題が起きて、問責を求めた場合、(団体協約上)社長はそれを受容することになっています」

岩上「この3人は歪んだ報道の責任者だということですね?」

イ氏「そうです。その後も他の不公正報道の問題が生じて、社会部長と編集部長の問責も追加で要求して結果的には5人になりました」

岩上「しかしその問責は行われなかったということですね?」

イ氏「はい。一切、対話をしませんでした」

岩上「労働組合が経営陣に対して問題提起したと。それで、中間管理職に対して問責を行ったと」

イ氏「はい。この(団体協約での)問責の規定は、非常に強い規定です。1996年に公正放送を勝ち取るためのストライキをした時に勝ち取った団体協約の条項です」

社会問題に対して意見を述べる芸能人「ソーシャルテイナー」達を追い出した社長

岩上「公正放送とおっしゃっていますが、公正報道でしょうか。どちらがみなさんの言葉として正しいでしょうか?」

イ氏「2つともあっていると思います。報道というと普通はニュースを意味しますよね。ニュースに関する問題点もありますが、『PD手帳』という時事教養番組があり、そういう番組でも偏向的な問題が出てきたので少し大きくとらえて公正放送にしました」

岩上「では、以前は公正報道と言っていたのを公正放送に広げたんですね?」

イ氏「その二つの言葉を交えて使っていました」

岩上「英語でいうとFair Broadcastingか、Journalismか」

イ氏「違いがあるのかなぁ。フェアジャーナリズムになりますかね」

岩上「じゃあ、公正報道といっても間違いではないですよね。公正放送と公正報道の両方を求めていると言ってもいい」

通訳「公正報道だと意味が狭くてニュースだけになりますが、もう少し広げたものが公正放送だと思います」

イ氏「(ニュースにとどまらないという意味で)一つ例を挙げると、ラジオやテレビ番組で社会的なイシューについて言うことを言う芸能人達をソーシャルテイナーと呼びますがそのソーシャルテイナーを全て現社長が追い出しました」

岩上「例えば?」

イ氏「キム・ミファ」

▲キム・ミファ(Wikipediaより)

通訳「女性のお笑い芸人です。ポッドキャストの司会の一人です」

イ氏「キム・オジュン」

通訳「ポッドキャストのメンバーの一人です。インターネット新聞の社長です」

イ氏「ユン・ドヒョン」

▲ユン・ドヒョン(Wikipediaより)

通訳「ミュージシャンです」」

イ氏「キム・ヨジン」

▲キム・ヨジン(Wikipediaより)

通訳「女優です」

日本人も知っている韓流スター、チャン・ドンゴンやペ・ヨンジュンもソーシャルテイナー?

岩上「スクリーンクォーターの制度に反対して映画俳優、たとえばチャン・ドンゴンが立ち上がったという話はありますが、こうしたソーシャルテイナーの中に韓流スターがいますか?」

イ氏「韓流スターとは言えないですが、この中で選ぶならユン・ドヒョンですかね。他の3人は韓流を広げるのではなく国内で活動している芸能人なので」

岩上「韓流スターと言った時は、海外で人気があるということが定義に含まれるんですね。チャン・ドンゴンはソーシャルテイナーには含まれないですか?」

イ氏「チャン・ドンゴンはちょっと違いますね」

岩上「ただ反対運動に参加した芸能人と」

通訳「もともと社会的な思想を持っている人ですね」

イ氏「影響力はあると思いますが、自分から社会的なことで発言はしないですね」

岩上「チャン・ドンゴンはもちろん、ペ・ヨンジュンとか、韓流スターは日本で大変人気があります。そういうスターがFTAに反対をしている、そのFTAとTPPが同じようなものだとわかったら、日本の大衆も今は関心がないんですが理解してくれる、耳を傾けてくれるのではないかなと思ってるんです。そういう人たちに取材する機会ってありますかね?」

イ氏「直接的に活動する芸能人は聞いたことはないですが、映画監督の中ではいます」

岩上「例えば?」

イ氏「そうですね、すぐ思い出せませんけど、私は映画監督のことはよく分からないのですけれども、クォン・チリン監督とか、FTAに反対する監督は結構いて、何かやってました」

選挙に影響があるから駄目だ!? アメリカ出張して制作した韓米FTA番組を報道規制

岩上「なるほど。話を戻して、こうした不公正な報道を公正にするという要求、スローガンとしてはわかるのですが、具体的にはどういうことでしょうか?例えば、FTAのことをちゃんと取り上げるとか、具体的に何かありますか?」

イ氏「とりあえず社長に退陣してもらうのが第一です。例えば公正報道をしてくれというのは、『PD手帳』という番組で韓米FTAに関して報道すると。これが私たちの社会にどのような影響があるのか、1時間の尺の番組で集中的に取り上げるということになりました。それでPD(プロデューサー)がアメリカまで出張して制作したんですよ。ところがそれをオンエアさせないんですよ」

岩上「それはいつのことですか?」

イ氏「最近のことです」

岩上「いつオンエアされるはずだったんですか?」

イ氏「私が聞いたところでは、3月中旬に放送する予定で取材をしていました。それを取材していたプロデューサーは、社会的な問題意識が特別強いプロデューサーではありませんでした。労働組合のメンバーでもありません。

 今、スト中ですが、ストライキの期間中でも放送しなければならないので、(組合員ではない)そのプロデューサーが、アメリカまで行って韓米FTA問題を取材したら、これはかなり深刻なことだと。これを報道しようとしたのですが、放送されませんでした。総選挙(※2)に影響があるから駄目だと」

岩上「この『PD手帳』の番組がオンエアされなかったのは大変な問題だと、先ほどイ・ガンテクさん(※3)も言っていました。この『PD手帳』の事件がストライキの直接的な原因なのでしょうか? それとも関係ないのでしょうか?」

イ氏「この件(韓米FTAを扱った番組の件)はストライキ中に起きたことですが、すでにストの前でも『PD手帳』の問題はかなり深刻でした。例えば、検察総長の人事検証をしようとしたのに、させなかったりだとか」

検察総長がクリーンな人物かを調べた検証報道もお蔵入り!

岩上「検察総長自身の人事?それとも検察総長が部下を任命する人事?」

イ氏「検察総長になるには、国会で人事聴聞会をします。その人事聴聞会に先だって、検証をするわけです。与野党の国会議員もするし、マスコミもするし。以前から私たちはずっとそうしてきました。それなのに、今回、それをさせなかった。例えば、不動産の投機の疑惑はないのかとか。偽装転入疑惑はないのかとか。兵役はきちんと済ませたかとか」

岩上「偽装転入とは何ですか?」

イ氏「実際に住んでいる所と住民登録上の住所が違うということです大体、不動産の投機のための手段です」

岩上「それは主にどういう疑惑があるんですか。不正な財産を持っているということになるわけですか。脱税の疑惑があるという意味ですか?」

イ氏「偽装転入の目的は主に2つあって、不動産投機と子供の学校が挙げられます。

 不動産投機の場合は不正な財産を取得するためです。例えば、自分はソウルに住んでいるのに田舎に登録上の住所を持っているとします。農地を買うためには農民じゃないといけないので、田舎に住んでいるようみせるため住所を移し、そしてその土地が開発されると利益を得ることになります」

岩上「ちょっと脱線して申し訳ない。ありがとうございます。そういうことを調べると。検察総長がクリーンな人かどうかを調べると」

通訳「検証自体ができなくなりました」

岩上「『PD手帳』で取材はしたけど放送できなかったと」

イ氏「韓米FTAの件は取材を全部したのに放送させなかったという問題で、この検察総長の人事検証のほうは取り掛かることもできませんでした」

岩上「これは具体的には誰ですか?」

イ氏「現在の検察総長です。ハン・サンデです」

岩上「これはやはり李明博大統領が指名されたんですか?」

イ氏「当然です」

岩上「いつですか?」

イ氏「昨年の夏だと思います」

韓米FTAを取材規制、取材できても報道できない。MBC史上最も長いストライキ

岩上「その『PD手帳』の問題が燻っていたということですね。話が変わりますが、『PD手帳』以外でも、韓米FTAを推進しているとどういうマイナスが起こるか、そういうことを取材していて放送できなかったような事例がありますか?」

イ氏「まずニュースではそのような取材ができないようになりました。『PD手帳』でも昨年に一度取材に取り掛ろうとしたのですがストップがかかりました」

岩上「それはどういう話ですか?」

イ氏「同じことです。韓米FTAが締結された場合に私達の社会に及ぶ影響を取材しようとしたわけです。当然、良くない、否定的な側面が浮き彫りになるだろうと。そういうことを憂慮して、(取材を)させなかったわけです。

 ところが昨年の年末、時事教養局長が変わり、今年は新しい取材が許可されました。しかしそれすら、もうすぐ総選挙なので放送は出来ないと」

岩上「その取材がOKになったのが今回の番組ということですね」

イ氏「3月の中旬に放送しようとしていた『PD手帳』の番組ですね」

岩上「『PD手帳』やMBCだけでなく、他のマスコミもFTAを報じようとするときに同じ壁にぶち立っているのではないかと思いますが。その点はいかがでしょうか?」

イ氏「その通りです。MBCがストライキに入って今日で56日目になりますが、MBC史上こんなに長いストライキはありませんでした。MBSがストを始めてからKBS、YTN、聯合ニュースが続いてストに入りました。ほとんどの他のマスコミでも事情は同じだと思います」

岩上「いちばん最初にやりだしたのは国民日報?」

イ氏「そうですね、国民日報が先にやりましたね。国民日報の場合は文字通り社長の問題がいちばん大きなイシューで、公正放送の問題をイシューとして打ち出したのはMBCが始めてです」

社会部長、国際部長、ドラマ部長…史上初めて管理職もストに参加!20年前の軍事政権時代に後退した公正性

岩上「ストライキをすると現実にはどういうことになるんですか?番組は流れない?どういう状態になっているのですか?」

イ氏「ニュースは時間を大幅に減らして放送し、『PD手帳』は放送されずに他の番組に変更しています」

岩上「『PD手帳』は週1回ですか?」

イ氏「週に1回です」

岩上「PDはどういう意味ですか?」

イ氏「プロデューサーです。ドラマプロデューサーとバラエティプロデューサーなどもありますが、私達には時事教養プロデューサーがいます」

岩上「プログラム・ディレクターではない」

イ氏「はい」

岩上「MBCには社員が何人いて、組合員は何人で、そのうち何人がストに参加しているのでしょうか?」

イ氏「MBSの社員数は約1600人です。その中の1000人くらいが労働組合に入っていますが、ストが始まってから組合員は50人くらい増えました。ストに参加している人は初日570人でしたが現在は770人に増えたので、770人が働いていないことになります」

岩上「強制ではないんですね。組合員でも」

イ氏「強制的にはできません(笑)」

岩上「このストはどうなるでしょうか? 見通しは」

イ氏「そうですね(笑)、私達が勝つと思います。社長は出ていって。

 MBCの歴史上、今まで一番長くストをやった期間は50日間で、その記録を破ったのが今回のストです。その50日ストは1992年度のストでしたが、その記録を20年ぶりに日々更新しています。それを可能にしている最も大きな原動力は、組合員の自発的な参加です。今もどんどん参加者が日々増えています。ストライキが始まって以来、史上初めて補職幹部(管理職)の参加がありました。30人ぐらい」

岩上「役職? とういう人たちですか?」

イ氏「例えば社会部長、国際部長、ドラマ部長などですね。そういう人たちが、自分達はもうこれ以上、金在哲のもとでは仕事ができない、ストに参加するといって、補職(役職)を投げうったのです。もう部長はやめると。週末メインニュースのアンカーも今はアンカーを辞めてストに参加しています」

岩上「つまり管理職ですね。すごく危機感が高まっていると。それはなぜなのでしょうか。これまでといちばん違うのは何でしょうか? 公正報道を求めてきたのはこれまでも同じだったと思いますが、ストが長引くほどみなさんの危機感が強いのは」

イ氏「今まで公正放送をこれほどひどく毀損したことはありませんでした」

岩上「つまり軍事政権みたいだということですか?」

イ氏「そうです。私たちも実際よく言うんですよ。20年前の(チョン・ドゥファン)軍事政権時代に後退したみたいだと。

 20年前、全斗煥政権時代に笑い話で『テン全ニュース』というのがあるんですが、今、ほとんどそのレベルにまで戻ってしまったと思っています。韓国では毎日夜9時にメインニュースがあってテン(時報の音のこと)という音と同時に『全斗煥大統領は…』とニュースが始まるので『テン全ニュース』と言います」

社長の選任構造を変え、上層部からニュースや時事問題に干渉できないシステムを強化するべき

岩上「今日も集会が開かれていると思いますが、みなさんの要求と同じようなものなのでしょうか?」

イ氏「必ずしもそういうわけではありません。市庁の前でやっている集会はFTAに反対するもので、こちらの主張は、FTAに反対している側も賛成している側の声も公平に放送できるようにしたいということです」

岩上「それはみなさんの主張?それとも視聴者側の主張?」

イ氏「政府が賛成している側を沢山報じているので、こちらとしては反対をしている側の声を多く取り上げれば、よりバランスが取れると思います」

岩上「社長が退陣して新しい社長が来たらそれで問題は解決するでしょうか? それとも社長を任命するシステムを変えなければならない?」

イ氏「いちばん大きな問題は、社長の選任構造自体を変えなければならないと思います。今の社長が辞めても、結局、(実質的に)政府が任命するならまた同じように偏向的な人が来る可能性が現時点では高いです。ですので、最大目標は、社長の退陣ではなく、「公正放送争取」だとお話したのです。システム自体を変えないと」

岩上「どういうことを要求しているのですか。どういうふうにシステムを変える?」

イ氏「具体的に説明するのが難しいですが、2つの方法があります。1つは社長の選任過程の中で政府の意向を最小化するように、社長選任構造を変えるということですね。

 2つ目は、任命されてもその社長が内部でニュースや時事番組などに干渉できないように牽制する装置を強化することです」

岩上「公正報道を実現するというのは大変抽象的なスローガンなのですが、具体的には何をみなさん要求するんですか。例えば先ほどの『PD手帳』の未放送の番組を放映させろとか、FTAについての取材をちゃんとさせろとか。そうした要求項目は入っているのでしょうか?」

イ氏「『PD手帳』やFTAに関しては、具体的な要求事項には入っていませんが、社長が変われば自然に解消される問題だと思います」

岩上「業界全部のストライキではないと聞いていますが、このストが、他のメディアに拡がっていくことはあるのでしょうか。たとえば、朝・中・東とか。そこの労働組合もあると思うんですけど」

イ氏「朝・中・東はストはできません」

岩上「なぜ?」

イ氏「私企業なので不可能です」

岩上「労働組合はあるのでは?」

イ氏「労働組合自体がすごく弱いです。私企業だから、上の人に目を付けられたら一生、昇進などに影響があるので無理だと思います」

岩上「では広がっていかないと」

イ氏「今ストをやっているところは、MBC、KBS、YTN、聯合ニュース、全て政府が社長選任過程に直接的な影響を及ぼす放送局と基幹通信社です」

岩上「YTNや聯合ニュースもそうなんですね」

イ氏「聯合ニュースは国家基幹通信社です。YTNはケーブルテレビなのですが、実質的に国家が所有しています」

岩上「わかりました。ありがとうございます。みなさんがFTAの問題などをどんどん報道できるように祈っています。その問題が日本に届いて日本でもちゃんと考えられるようになったらいいなと思います」

(※1)昨年10月26日にソウル市長の補欠選挙:
 政府与党のハンナラ党の現職・呉世勲市長の辞任に伴って行われた補欠選挙。ハンナラ党の羅卿瑗候補(現・自由韓国党の院内代表)と、無所属の朴元淳候補が争った。朴元淳候補が圧勝で当選し、以後、2回の選挙でも当選し、現在3期目。

(※2)
2012年4月11日の第19代国会議員総選挙。全300議席中、朴槿恵氏が率いる与党セヌリ党が152議席を得、改選前よりは議席数を落としたが過半数を確保した。

(※3)
TPPの先行モデル・米韓FTAに抗議する韓国メディア 岩上安身によるイー・カンテク全国言論労組委員長インタビュー in ソウル 2012.3.25

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