韓国で住民登録番号制度の被害に遭遇!知らない間に私の名義でアダルトサイトが運営されていた!?〈シリーズ3〉 2016.2.19

記事公開日:2016.2.19取材地: テキスト動画独自
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(取材・記事 城石エマ)

 「あなたのIDで有害なサイトが運営されている」「なんだろうと見たら、それが全部アダルトサイトだった」――。

 日本で記者をする渡部睦美(わたなべむつみ)さんは、共通番号「先進国」の韓国で数年間生活をし、共通番号を悪用した被害に遭った。渡部さんは、2015年12月17日、IWJの取材に答え、被害に遭った当時のことを語った。

 韓国では、国民1人が平均4~5回の個人情報流出にさらされ、共通番号制度の見直しを迫られる。しかし、50年間以上制度を使い続け、日常の隅々にまで共通番号が浸透してしまった今、制度そのものをなくすことは不可能に近い。

 なぜ、そんな制度に韓国はどっぷり浸かってしまったのだろうか。

 日本のマイナンバー制度は、韓国の共通番号制度と多くの共通点がある。韓国で起きている様々な悪用被害は、他人事ではすまされない。「明日」の日本で起こる可能性がきわめて高い。

▲韓国で共通番号の被害に遭った渡部睦美さんインタビュー

「私は韓国・共通番号制度の被害者です!」――記者の渡部睦美さんと「共通番号いらないネット」世話人・白石孝氏がマイナンバー制度への深刻な危機感を語る!

 「住民登録番号を使用する日常生活が50年間続き、慣れた状況なので全面的に再検討することはなかなか難しい」――。

 韓国で取材を積み重ねてきた「共通番号いらないネット」世話人の白石孝氏は、このように語る韓国国会議員の嘆きを聞いたという。

 制度の見直しが難航する中、韓国社会での個人情報流出被害はどんどん拡大している。「共通番号いらないネット」世話人・白石孝氏と、韓国で生活体験があり、実際に悪用被害に遭った渡部睦美さんが、IWJの取材に応じて、韓国の現状を生々しく語った。渡部さんは、自分の番号がネット上で悪用された当時を思い出しつつ、そのように脆弱な制度さえ、慣れきってしまえば「生きていくうえで欠かせなく」なってしまう怖さを語った。

「あなたのIDで有害なサイトが運営されている」――ネット利用時に登録した共通番号が流出し、アダルトサイト運営者にされていた!

▲取材に答える渡部睦美さん(手前)と、「共通番号いらないネット」世話人の白石孝氏 東京・四谷にて

▲取材に答える渡部睦美さん(手前)と、「共通番号いらないネット」世話人の白石孝氏 東京・四谷にて

IWJ「渡部睦美さんにお話をうかがいたいと思います。渡部さんは、今、日本で記者をされています。2007年から2013年、韓国に実際に暮らし、韓国でも記者をされていました。本日は渡部さんに、韓国で暮らしていたときに番号付きの個人情報が漏れ、被害に遭われた時のお話をうかがってみたいと思います。

 共通番号いらないネットの白石孝さんにも同席していただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

 実際に被害が遭われたときの状況を教えてください」

渡部睦美さん(以下、渡部)「2009年頃のことだったんですけれども、韓国に、韓国内最大のポータルサイト『ネイバー』というのがあり、韓国人だったらだいたいみんな登録する。日本で言ったらヤフージャパンみたいなものです。

 そこに私も登録していました。登録するときは、顔写真付きの住民登録証をコピーして、向こう(ネイバー)に送らなければいけないんです。それを送ったり、あらゆる自分の個人情報を登録したりしないと、IDがもらえない制度です。

▲韓国のポータルサイト「NAVER」

▲韓国のポータルサイト「NAVER」

 ある日、『あなたのIDで有害なサイトが運営されている、と申告を受けたので、利用停止の措置を取らせてもらいます』という内容のメールが来たんです。初め、なんのこと言っているのか全然分からなくて、よく調べたら自分のIDでブログが3つくらいできていたんです。

 私はブログをやっていなかったので、なんだろうと見たら、それが全部アダルトサイトだったんです。私は日本人の名前で(ネイバーに)登録していたので、日本人が運営する日本のアダルトサイト(として運営されていました)。日本のアダルトビデオは韓国でも有名なので、それで動画の販売や会員登録の運営を勝手にされていました。

 それまで全然気づきませんでした。以前にもたしかに、Googleのメールに『(初めて利用するコンピューターから)アクセスしました』と、全然自分が行ったことのない場所からアクセスされていた、ということが何回かあったんですけど、あんまり気にしていなかったんです。そしたら、そういう(自分のIDでアダルトサイトが運営されているという)ことが起きていました。

 びっくりして、ID自体を閉じようと思ったんですけど、閉じるときに今度は『あなたを証明する番号もしくは何かを提出してください』と(ネイバーから)言われました。自分が個人情報を登録したことで漏れたのに、またさらに自分を確認するために、自分の情報をまた出さなければいけないというのがすごくイヤで、結局提出しなかったんですね。だから今でも私はネイバーが使えません。すごく不便なんですけど。

 そのような経験があったので、日本に帰ってきてから、個人番号制度が始まるということで、『これは大変なことになるな』と思い、すぐに白石さんに連絡をし、取材を始めました」

住民登録番号を使わないと、生活を放棄することになる――会社や銀行への提出、カードは常時携帯義務

▲インタビューに応える渡部睦美さん

▲インタビューに応える渡部睦美さん

IWJ「確認ですが、最初にネイバーを利用しようとしたときに、住民登録番号を入力したのでしょうか?」

渡部「そうです。

 日本でもインターネットショッピングするときに、楽天とか、ヤフーとか、みなさんID登録をするときに、日本人だったら名前や生年月日を偽って登録することも自由ですよね。IDを何個も持ったりもできます。

 でも韓国は、IDが一つしか持てないことになっていて、会員登録するときに必ずその住民登録番号が必要です。それを使わずに登録できるところというのはほぼありません。だから韓国で生活するためには、住民登録番号を使わないと、生活を放棄することになります。

 あらゆる場面で住民登録番号を使います。銀行や自分の働く会社にも見せます。私はアルバイトもしていたのですが、(自分の働く)全部の会社に自分の顔写真付きのカードをコピーして出さなければいけなません。だから、いろんなところに常に自分の情報をばらまいて歩くという感じです。

 住民登録カードは常に持ち歩いていなければならないので、身分証の代わりに見せる、ということはみんなやっていました」

 現在の日本と韓国の違いを、渡部さんは話してくれたが、これは「これまでの日本」が前提となる。マイナンバーが導入されてから、今後は徐々に韓国のようにあらゆる生活の場面でマイナンバーを提示し、「個人情報をばらまいて歩く」ようになっていくかもしれない。

被害に遭うまで気がつかなかった、共通番号制度の「脆さ」

IWJ「2007年から2013年まで韓国に暮らしていたということですが、被害に遭われたのは何年頃ですか?」

渡部「2009年くらいです」

IWJ「被害に遭う前(2007年から2008年)の2年間、カードを持ち歩いたりする中で、自分の個人情報が漏れているような感覚というのはありましたか?」

渡部「初めの頃はそんなになく、言われるがままに(番号を持ち歩いていました)。

 ただ、その当時、周りの人から『携帯を買ったら、ボイスフィッシングといって、知らない番号から電話がたくさんかかってくるはずだから、詐欺に気をつけて』と言われました。

 ボイスフィッシングというのは、日本で言えば、振り込め詐欺やオレオレ詐欺みたいなもので、すごくはやっていました。今でも、韓国ではすごく問題になっています。個人番号を聞き出して、銀行の情報を取り出したり、そのまま振り込ませたりということがありました。

 なんでそんなに横行しているのかな、とは思っていたのですが、韓国で生きていくには、番号制度に登録しないと生きていけないので、疑問を感じながらも番号を利用していました。

 2009年のこと(アダルトサイト運営のための個人情報不正利用)があってから、疑問が確信に変わり、『この(共通番号)制度は危ないなと思うようになりました」

あまりの被害の多さに、韓国政府は共通番号制度の見直しを検討するが、決定打はなし

渡部「(韓国では)ここ2~3年の間に、かなりの流出事件が起こって、韓国内でもそれが問題になり、今はサイトを利用するときに番号ではなく、I-PIN番号(※)というのを使います。I-PIN番号は変えることができます。たとえば被害にあったときにも、PIN番号を変えればいいんです。住民登録番号は変えることができないという問題があったので、I-PIN番号が出てきました。今では、サイト登録時や銀行口座開設時にも、会社への提出はちょっと分かりませんが、住民登録番号よりも、I-PIN番号を提出しなさいという動きが増えてきています。

※I-PIN(Internet Personal Identification Number):オンライン金融取引の際に利用する番号のこと。年1月29日よりスタートした。本人のパスポート情報を活用して、住民登録番号に代わる本人確認を行うシステムで、2006年に施行された。(在日本大韓民国民団HPより)

 いまだに住民登録番号を提出させている企業は、『あの企業やあのサイトは、(住民登録番号を)提出させているからダメだ』と言われている状態です。

 ただI-PIN番号も私は疑問を感じています。I-PIN番号もけっきょく、発行してもらうときには、銀行で『わたしがわたしである』ということを銀行に証明をしてもらわなければなりません。

 でも、もともと韓国で銀行口座を持っている人は、銀行に個人情報を登録しているから、その銀行から公認認定書をもらって、その公認認定書をもとにI-PIN番号を作るのです。けっきょくI-PIN番号も便利なものなのか、疑問があります。番号を変えられるということぐらいです、利点は」

白石「少し民間分野での規制をしようということで、(住民登録番号の)代わりに携帯番号を入力して、ショッピングするという制度を聞いたことがありますか?」

渡部「あります。何個か方法があって、携帯番号を入力すると、携帯電話に番号が送られてきます。その番号をインターネットで入力すると、I-PIN番号が発行される、というシステムがあります」

共通番号制度の危険性に対する認識が薄いと、被害はどんどん拡大――「便利さ」の甘言に騙されるな!

▲インタビューにのぞむ白石孝氏

▲インタビューにのぞむ白石孝氏

白石「(住民登録番号制度は)50年以上続いている制度で、最初は治安管理のために使ってきたけれども、それが行政でも使われて民間企業でも使われるようになって、今の若い人にとっては、生まれたときから番号が当たり前になっているわけです。

 韓国人の会社の同僚や友達からすると、番号とカードに対する感覚というのはどういったものですか?」

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