「今後やはり、マイナンバーカード、利用も拡大していくと思います。まあ徐々に、今のところは、法定された事務にのみ使いますけれども、今後ですね、やはり、より便利なカードになるように、ということで、さらに検討が進んでいくと思います」――。
マイナンバー法が施行されて、はや1カ月、通知カードの通知が始まり2週間が経った2015年11月6日、総務省の高市早苗大臣が定例記者会見を行った。高市大臣は、11月4日時点で、43都道府県、515市町村で、約1116万通の通知カードが郵便局に差し出されたと発表し、「概ね、予定通り順調に進捗している」と述べた。
この間、マイナンバーに対する国民の不信感を掻き立てるニュースが続いた。日本郵便によると、11月6日現在、全国で8件の誤配達が発生した。配達ミスの続発を受けた総務省は、11月2日、日本郵便の高橋亨社長を呼び出し、ミスの再発防止を要請。しかし、その後もミスは絶えず、11月5日には石川県珠洲(すず)郵便局と三重県伊勢郵便局で、配達に関するミスが発生した。
「とにかくこれは、マイナンバー制度そのものに対してですね、不安を惹起させかねないものです」
配達ミスについて質問された高市大臣は、それまでの笑顔から打って変わり、語気を強めてこのように答え、ミスの続く日本郵便に対する「いらだち」を見せた。
しかし、相次ぐ配達ミスに対し、総務省独自の対策はあるのかと問われると、「(日本郵便に)しっかりとした注意ポイントを再徹底していただくということを求めたい」と述べるにとどまった。具体的な対策は、高市大臣からは何も示されなかった。
10月20日の記者会見では、「万が一問題が起きた場合には、やはり総務大臣が責任を負うべきものだと思っております」と明言しといた高市大臣だが、急速にトーンダウン。実際に問題が起きれば、なすすべもなく無為無策。結局、「現場を叱責」で責任転嫁しておしまい、ということらしい。
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問題への対処や責任の所在をあいまいにしたまま、しかし、利用拡大には前のめりな姿勢を崩さない。「今後やはり、マイナンバーカード、利用も拡大していくと思います」とした冒頭の高市大臣の言葉は、それを如実に表している。
この日の記者会見では、各社からマイナンバーに関する質問が相次いだ。IWJ記者は「通知カードの誤配達対策」に加え、「マイナンバーの利用拡大にともなう政府・企業の癒着」について質問した。
マイナンバーをめぐる政府と企業の癒着については、10月に厚労省職員が、マイナンバーのシステム構築を担う企業から100万円の贈収賄を受けていたことが発覚した。
総務省は今後、マイナンバーの利用を民間企業にも拡大していくにあたり、「利用申請をした企業に対し、高市大臣が承認を与える」としているが、これは、政府と企業の癒着を再発させかねないのではないか。
故意の情報漏洩であれ、過失の情報漏洩であれ、官庁は不祥事が起こらぬよう、業者を監督する責任がある。しかし、その官庁と業者が癒着をしていれば、行政の監督は甘くなり、当然、取り扱われる国民の個人情報は危機にさらされる。
癒着の可能性について高市大臣は、「政府の人間と、特にその業務を委託した、もしくは発注した業者との癒着、これはもう、許されないことだと思っております」と高らかに表明はした。しかし、総務省について尋ねられると、「総務省の中にも同様の案件がないか、ということでしたけれども、それは幸いにして、確認されないということでございました」と他人事のように述べ、今後の利用拡大に向けては、「公務員は襟を正して、国民からいかなる疑念も持たれないように、対応していくべきだと考えております」と、一般論でかわし、国民の身にふりかかるリスクについては、言及しなかった。
マイナンバーの利用を拡大していきたい一方で、通知カードの配達ミスの続発や、厚労省の汚職事件により、国民の間に不信感が広がる現状を受け、マイナンバー推進の旗振り役・総務省の高市大臣からは、「焦り」が感じられた。