「韓国では、1960年代に、北朝鮮から武装集団が侵入してきた。その人たちを摘発するために住民登録番号が付けられた」――。
今年1月より運用が開始したマイナンバー制度。長年、共通番号制度への反対を訴えてきた、「共通番号いらないネット」世話人の白石孝氏は、共通番号制度の「先進国」韓国で、制度が導入された経緯をこのように説明した。
(記事 城石エマ)
「韓国では、1960年代に、北朝鮮から武装集団が侵入してきた。その人たちを摘発するために住民登録番号が付けられた」――。
今年1月より運用が開始したマイナンバー制度。長年、共通番号制度への反対を訴えてきた、「共通番号いらないネット」世話人の白石孝氏は、共通番号制度の「先進国」韓国で、制度が導入された経緯をこのように説明した。
記事目次
白石氏(当時「反住基ネット連絡会」)は、自身が韓国で重ねた取材に基づくドキュメンタリー作品をIWJに託した。2013年制作のこの作品は、『現地取材レポート~韓国の住民登録番号制度~頻発するプライバシー侵害、情報流出、なりすまし事件』と題され、韓国の学者や弁護士、活動家、記者、国会議員など、あらゆる方面の識者へのインタビューを収めている。この貴重な映像を、どう編集してもかまわないので、世間に広く、マイナンバーの危険性を伝えてほしいという。
ドキュメンタリー映像の中では、番号制度に不慣れな日本人の想像をはるかに超える被害実態が暴かれている。生涯不変の番号、強制付番、カードに番号印字、民間利用可能という、4条件を揃えた韓国の共通番号制度は、日本の制度と酷似している。ここで暴かれた被害実態は、将来の日本でも十分に起こりうる問題だろう。
深刻な被害に見舞われているにも関わらず、韓国では番号制度そのものに対する大きな反対運動は起きていない。2012年当時、韓国最大野党だった民主統合党のジン・ソンミ議員は、「番号を使用する日常生活が50年間続き、慣れた状況なので全面的に再検討することはなかなか難しい」と語る。被害を目の当たりにしながらも、それを止めることの出来ないジレンマは深刻だ。
以下に、『現地取材レポート~韓国の住民登録番号制度~頻発するプライバシー侵害、情報流出、なりすまし事件』を一部抜粋して紹介する。2013年制作にも関わらず、映像の中で語られる韓国での生々しい被害実態は、日本の将来像として十分想像可能だろう。番号制度の「効率性」にばかり注目される現状に、疑問がわいてくるはずだ。
なお、DVDに関するお問い合わせは、下記まで。
※白石孝氏(「共通番号いらないネット」世話人)
メール:kanseiwakingupua1950@yahoo.co.jp
電話番号:090-2302-4908
日本では2015年9月のマイナンバー法改正により、メタボ検診とマイナンバーのひも付けが決められているが、政府からは、2018年頃までに個人番号カードを健康保険証と一体化させる案も出ている。
「健康権実現のための保健医療団体連合政策室長」および聖水医院の院長を務めるウ・ソッキュン氏は、住民登録番号が医療データと結びつく怖さをまざまざと語る。
ウ・ソッキュン「私が実際に経験した例だが、病院にFAXで、『このような人が病院を訪れたことはないか』と問い合わせがあり、電話もあった。文書には、近くの他の病院名も書かれていた。検察関係者か警察かはっきりしないが電話で、次のような会話をした。
ウ『この人の残した連絡先があるか』
問い合わせ主『あなたに教える法的根拠があるのか。あるなら文書で送ってほしい。患者の個人疾病情報を提供する理由はない。他の病院と違って、なぜあなただけ問題視するのか?』
ウ『…このようなことが普通に行われている」
ウ氏は、さらに、恐るべき事実を明かす。個人情報の提供を求められた健康保険公団(日本の全国健康保険協会や健康保険組合に相当)の職員が、住民登録番号を使って個人の医療データベースにアクセスし、情報流出に関わっているという。
ウ・ソッキュン「毎年起きている事例として、健康保険公団職員が数十人懲戒される。無断で健康保険公団の個人疾病情報を検索したためだ。
例えば、結婚に際し、相手の家に精神病歴のある人がいないかという依頼や、ある家に性病歴等がないか、という依頼により、健康保険公団の医療データベースに不正アクセスして、数十名の職員が摘発されている。個人疾病情報データベースに住民登録番号が使用されているから起きる問題だ。
韓国の健康保険公団が、このような全国民データベースを持っていることじたい、大きな問題だ。データは本来、医療費の請求と支払いにのみ使われる資料であり、国民の健康のための公益研究に限定して使用される。このような目的にのみ使われていながら、住民登録番号と個人疾病情報が結びついた瞬間、大きな問題が生じる。
大統領一家の個人疾病情報は、健康保険公団のデータベースに入っていないが、大統領を保護するために、とされている。いずれは流出するのを国も認めているわけだ。
つづいてウ氏が明らかにしたのは、警察によって住民登録番号が個人の生体情報と強制的に結び付けられている実態だ。
日本政府の「マイナンバー制度利活用推進ロードマップ(案)」を見ると、2020年までに「個人番号カードもスマホも持たずに、予め本人確認のうえで登録した生体情報で代用も可能に!」とある。
白石氏によれば、政府の言う「生体情報」の一つが、2016年1月から始まる個人番号カードに付される「顔データ」だ。大手IT企業NECのサイトには、次のように書かれている。
「NECは、社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の開始に伴い、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)から、全国の地方公共団体(1743団体)の個人番号カード(ICカード)交付窓口で本人確認に利用される『個人番号カード交付窓口用顔認証システム』を受注しました」
個人番号カードの写真と、来場者の顔を照合するシステムということだが、照合のために膨大な数の個人の顔データが蓄積されていくだろう。
ウ・ソッキュン「韓国のファソン郡というところで殺人事件があった。警察は、被疑者として、タクシー運転手に目星をつけ、その地方のすべてのタクシー運転手の血液を採取した。警察が血液採取を拒否したものが犯人だという雰囲気を作り上げた。そして、検察と警察により、遺伝子データベースが作られている。
重犯罪者だけでなく、すべての被疑者の遺伝子情報を集め、住民登録番号に結びつけると、誰かを特定できる。データベースも永遠に残る。遺伝子データベースと個人IDを結びつけるのは、小説『1984年』のビッグブラザーを連想させる社会を作り出すことになる」
韓国のメディア専門誌『メディア・オヌル』記者のイ・ジョンファン氏と、「進歩ネットワークセンター」活動家で、自身も住民登録番号が流出したチャン・ヨギョン氏は、インターネット社会と個人番号が結びつくことで生じた問題を告発する。
韓国では、インターネットのサイト登録時に、「住民登録番号」を登録しなければならなかった。これにより、「実名」でインターネットを使う「インターネット実名制」がとられた。
相次ぐ個人情報流出を受け、イ・ジョンファン氏はこのインターネット実名制の憲法違反訴訟を提起。2012年8月に違憲判決を勝ち取り、制度の廃止に追い込んだ。
民間利用のなし崩し的な拡大が招く結果を、しっかりと認識したい。
イ・ジョンファン「インターネット実名制は、違憲判決が出て廃止された制度だ。何年か前、タレントが悪質な書き込みで自殺した事件があった。それがきっかけでインターネット実名制が導入された。実名で書き込めば、健全なネット文化が保たれるとして導入された制度だ。
しかし、導入されたあとも、悪質な書き込みは減らないどころか、むしろ増えていった。そして、導入後、個人情報流出事故が多発し、弊害が生じた。
メディアは個人情報を管理しなければならないが、個別のマスコミや小さなネットサイトが個人情報を収集し、管理することは困難な状況が多く生じた。そこに相当な費用を投入しなければならない。私たちは読者の住民登録番号を把握する必要性を感じていない。使う必要もなく、使ってはいけないものと認識している。住民登録番号をただ集め、サイトに保管しているだけだ。しかし、常にハッカーにより流出される危険性がある。
アクセスが数百の小さなサイトにも当然のように加入時に住民登録番号を要求する。サイト加入者も当たり前のように、住民登録番号を入力する。問題なのは、管理が脆弱なサイトから情報が漏れたとき、住民登録番号制度がない日本のような国では、アドレスやパスワードなどが流出するが、韓国では住民登録番号を中心に、すべての個人情報が一括して漏れてしまう」
共通番号によってとりわけリスクにさらされやすくなるのが、DV被害者や性暴力被害者らだ。韓国性暴力相談所で被害者らの支援に従事するムン・スギョン氏は、シェルターに逃げ込んだ被害者たちが、入所にあたり住民登録番号の提出を求められることで、加害者に個人情報を知られる恐怖に怯えていると訴える。
(…会員ページにつづく)
このDVDですが、IWJで販売できませんか?
共通番号「先進国」の韓国では、職員が故意に個人情報を漏洩!警察が生体情報と結びつけ!制度に慣れ過ぎたらもう後戻りはできない! 〈シリーズ2〉 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/287780 … @iwakamiyasumi
ここで語られるのは近い将来の日本の姿。ゾッとする未来だ。
https://twitter.com/55kurosuke/status/700279232845352960
2016年の2月も中盤に入り、私の元にも会社からマイナンバーを知らせる要請の通知が届きました。
マイナンバー制度への危機感はIWJの記事を読んで強く持っていますが、
現実問題としてマイナンバーを会社に教えなければ仕事にならないという
嫌な社会状況が構築されつつあります。
「マイナンバーは個人情報と紐付けられているので、できるだけ教えないほうがよい」と言われています。
一方で、「マイナンバーは会社が従業員の所得税を処理するために必要なので、 (扶養家族の分も含めて)
どうしても教えなければならない」とも言われています。
今は利用分野が限定されていても、将来的には分野が広がる予定であるならば、
一生変わらないマイナンバーを今簡単に開示するのは将来のリスクを背負うことにつながるように思えます。
(特に、就学中の学生のマイナンバーが本人の知らぬところで親の会社に提出されていた場合とか、
本人の意思とは無関係なところで潜在的リスクを負わせることになるとしか思えません。)
マイナンバーの提示を社員の義務とすることを社内規則化する会社も出ているそうですし、
何か「今からできる、できるだけリスクを抑えてマイナンバーと付き合う方法」を
専門家の方からご教示していただきたいです。