2025年8月15日、「岩上安身によるインタビュー第1203回ゲスト エコノミスト・田代秀敏氏 第3弾(後編)」を初配信した。
米国のトランプ大統領は、7月30日、インドに対して8月1日以降、25%の関税を課すことを表明した。さらに、ロシアから原油を購入しているインドに対して、この25%の関税に、「2次関税」を上乗せする考えも明らかにしている。
インドは、BRICS加盟国であると同時に、中国包囲網を構成する「クアッド」の一員でもある。
この、トランプ大統領の嫌がらせのような関税政策に対し、インドは、予定していた米国製F-35戦闘機の購入の拒否を表明した。
米国からの圧力に屈しないインドについて、田代氏は、次のように語った。
「元々インドって、『非同盟』ということをうまく使って、何でもやってるわけ。
例えば、中国が主導している、アジアインフラストラクチャー投資銀行(AIIB)、あれも、最大の融資先はインドです。
インドの地下鉄なんかは、あそこ(AIIB)の金を使ってやってますよね。
だから、中国とインドが、何か敵対的関係であると、日本人にはそういうことを思いたがる人がいるんだけど、でも、インドっていうのは、『非同盟』という原則をうまく使って、取ってこれるお金はどこからでも取ってくると言っているだけなんですよね。
それは、結局、アジア開発銀行(ADB)が、結構インドに対しては、厳しいから、というのもあるわけです。
あと、インドで販売されてるスマートフォンは、圧倒的にほとんどが中国のメーカーです。インド製のスマートフォンって、インド人も敬遠しちゃうぐらい、お粗末なんですね。ボリュームゾーンのところを、中国のメーカーが取っちゃってるわけ」。
田代氏は、トランプ大統領の思惑とは異なり、インドは中国との関係が深いことを指摘して、こう述べた。
「はっきり言えば、インドからすれば、『金になるのかなと思ったら、どうもならないから、クアッドはもういいや』と」。
さらに田代氏は、トランプ大統領がインドに圧力をかける背景について、「クアッドは、バイデンの利権で作ったものだから、トランプにとっては『どうなっても知ったことではない』」のだろうとの見方を示した。
一方、『AP』は、7月29日、「トランプの関税は、米国の工場を圧迫し、コストを最大4.5%増加させる可能性があるとの新たな分析結果が示された」と報じた。
米国の世論調査では、トランプ大統領の支持率が、「2期目としては最低水準」の40%に沈んでいる。
こうした中、岩上安身による田代氏へのインタビュー第1弾で、「米中は、軍事的にもデカップリングはできない」と、田代氏が指摘したことを追随するように、6月7日付『日本経済新聞』が「中国政府は4月、レアアース磁石の原料となるレアアース7種類を輸出規制に加え、磁石の海外出荷を厳しく制限」したと報じた。
中国のレアアース産出量は、世界シェアの約7割、レアアース磁石では、中国が世界生産の8割超を占めている。
これについて田代氏は、次のように解説した。
「(この影響は)極めて大きくて、特にロボットですね。ロボットのアームの関節部分、ここに使うんですよ、ネオジム磁石というのを。
これは、なくてもできるかもしれないけれど、あるかないかで、コストも、精度も、全然違ってくる。
だから、これをやっていくと、アメリカの工場とかのロボットアームが壊れたら、どうしますか、ということになっちゃうんです」。
さらに、レアアース磁石は、最新鋭の兵器にも不可欠である。
田代氏は、「アメリカ海軍自慢の、(空母から固定翼の航空機を発射する)電磁式カタパルト」にも使われていると指摘し、次のように述べた。
「あれも、これ(レアアース磁石)がないとできないですよね。
すでにあるもので作ったとしても、故障したらどうしますか? カタパルトなしの航空母艦になる」。
一方、米国政府がデフォルトに陥る懸念があることに対し、民主党のエリザベス・ウォーレン議員は、5月30日に、「債務上限を廃止し、経済的破綻を防止すべきです。(共和党と)両党協力で法案を可決し、永久に廃止しましょう」と、トゥルース・ソーシャルに投稿した。
これについて、田代氏は、次のように解説した。
「アメリカは、法律で、債務上限があるんですね。『連邦政府は、ここまで債務を抱えていい』というのが。
でも、それが、すぐにいっぱいになるから、議会で大騒ぎになって、これ(債務上限)を引き上げていくと。
だけど、またその枠を全部使い切ってしまって、財務長官が、『そろそろ、債務上限を引き上げてくれないと、デフォルトしますよ』と脅して、それで、また引き上げる、ということを、ずっと繰り返してきたわけですね。
それを、このエリザベス・ウォーレンは、『債務上限があるから、いけないんだ』と。
これは、言っているのは怖いことです。
儀式的に、共和党と民主党で、何か激しい罵り合いのような論争をして、『放漫財政をやめろ』とか言って、それで最終的には、やっぱり債務上限を引き上げるということをやってきたわけです。
ところが、最近だんだん怖くなってきたのは、今の議会の状況で見ると、共和党の中でね、財政保守(規律)派が、2人か3人寝返ると、ダメ(法案が可決しない)なんですよね。共和党が多数と言っても、圧倒的多数ではなく、数議席の差ですから。
共和党内でも、トランプに対する交渉力として(寝返るかどうかということが)あるわけです。
そうなると、下手をすると、そういうことをやってるうちに、本当にデフォルトしちゃうという可能性が、なきにしもあらず、ですよね。
だからこれ、エリザベス・ウォーレンほど有名な、今さら知名度を上げる必要もないような、著名な、長年やっている上院議員が、こういうことを言うということは、怖くなってきたなと思う。
債務上限引き上げというのができなくなって、にっちもさっちもいかなくなって、マーケットでデフォルトが起きる。
つまり、アメリカは、次々と国債を発行して得た資金によって、自転車操業をしてるわけですよね。(中略)
今のアメリカの、伯仲した議席配分を考えると、どこかで、民主党内や共和党内で、少数派が、自分達のとんでもない要求を通すために、債務上限の引き上げに応じないと、本当にそれでデフォルトしちゃったということが、もう現実味を帯びているんじゃないかと思うんですね」。
あまり報じられていないが、米国債は、今年夏、つまり、今すぐにでも、デフォルトに陥るリスクがある。
「本当は、これは、とても大事なこと」だと強調した田代氏は、「ここがクラッシュ(デフォルト)したら、何が起きるのかと考えると、本当に恐ろしい」と、以下のように述べた。
「言えるのは、日本もそうだけど、アメリカもとても、大国(中国やロシア)を相手に、戦争ができるという状態じゃないわけですよ。
現状では、あの巨大な米軍を支えている軍事費を超える金額の、債務の利払いがあるわけ。元本じゃなくて、年間の利払いだけで、アメリカの年間の軍事費を超える。
で、たしか今、アメリカは、国債のオークション、入札の時期なんです。3年債とか、30年債とか、いろいろあるんだけど、それが、相当の金額なんですね。
それが未達になったらどうしようか、という話になっちゃうわけですね。
そういう時に、そんな、中国とことを構えるとか言っていたら、銀行は恐ろしくて、国債なんか買えない。
それくらいアメリカは、本当に財政危機なんですよ」。
このウォーレン議員の「債務上限の撤廃」という主張に、トランプ大統領も6月5日、賛同を表明した。
田代氏は「あのトランプでさえ、それくらい、ここをネタに、議会がわあわあ言う(攻撃される)のが恐ろしい」との見方を示し、「アメリカ国債がデフォルトする可能性が、もう現実の脅威になってきている」と指摘した。
インタビューの後半では、欧州で対ロシア強硬姿勢を強め、軍備を増強しているドイツについて、ロシアのプシコフ上院議員が、「ドイツ当局が『第四帝国』を創設する意図を有している」と指摘したことについて、岩上安身と田代氏が検証した。

































