2025年8月4日、「岩上安身によるインタビュー第1200回ゲスト neutralitystudies.com主宰 京都大学大学院法学研究科・准教授パスカル・ロッタ博士(後編)」を初配信した。
インタビュー後編では、ウクライナ戦争に対して、欧州が、一部の国を除いて、全体的に、積極的であり、米国に従属的だという点から、検証を始めた。
「ノルドストリーム・パイプラインを、米国やノルウェーに破壊されたにも関わらず、なぜ、ドイツをはじめとするヨーロッパ人は、自分達が米英の罠にはめられていることを直視しないのだろうか?」という岩上安身の疑問について、ロッタ博士は、次のように述べた。
「とても難しい質問ですが、ただ一つ言えるのは、すべてはタイミングに関わっているということです。ノルドストリームに関しては、特にそうです。
ノルドストリームは、アンゲラ・メルケル(前ドイツ首相)が、『ドイツにとって必要だ』と強く主張したプロジェクトでした。彼女は、そのことでドイツ国内の対立者から批判を受けましたが、メルケルはそれを貫きました。
その後、彼女は政権を退き、ショルツが首相となりました。ショルツは、メルケルと対立する(メルケル政権時代の)野党の出身です。
それはともかく、彼はとても弱い人物でもありました。ショルツは、ワシントンで、ジョー・バイデン大統領が、『もし、プーチンがウクライナに侵攻すれば、ノルドストリームは失われるだろう』と発言した時に、その場にいた人物です。
『私達は、それを実現する方法がある』とバイデンが言った時、ショルツは、ただ黙って彼の隣に立っていました。
理由は、ひとつには、彼が弱い政治的存在だったこと、そしてもうひとつは、より強力な同盟国の意向に反対できなかったからです。
パイプラインが爆破されたのは、2022年の9月か10月だったと思います(※ノルドストリーム爆破事件が発覚したのは2022年9月26日)」。
ロッタ博士は、ドイツでは、ノルドストリームが爆破され、当初はロシアの仕業だとされたことによって、ロシアとの関係改善とパイプラインの再開を求めていた、ショルツ政権にとっての反対派の主張が弱まり、「新政権(ショルツ政権)は恩恵を受けた」「多くの人が、パイプラインがなくなったことに満足しているのが見て取れた」との見方を示した。
さらに、シーモア・ハーシュ氏によるスクープ報道のあとも、スウェーデンやデンマークが調査をやめてしまい、「現在のヨーロッパの公式見解は、当時のウクライナの将軍が命じた作戦のもと、数人のウクライナ人が、私物のボートに乗ってパイプラインを爆破したというもの」であり、「ゼレンスキーも知らなかった」という、欧州の権力者達に都合のいい「物語」になっていると、ロッタ博士は指摘している。
ロッタ博士は、ノルドストリームの爆破事件が、米国と共にロシアに対抗し、AfD(ドイツのための選択肢)のような右派など、ドイツ国内の反対勢力にも対抗したいと考える政権の権力者達にとっては、「政治的な助けになっている」との考えを示した上で、次のように述べた。
「ノルドストリームがなくなったことは、実際にこれらの権力者達にとって、有利に働いています。
私はこのタイミングが、ヨーロッパにおける権力構造の多くのことを説明していると考えています。
しかし、全体として、このタイミングは、ヨーロッパが米国の衛星国(サテライト)となり、ロシアに対抗するための武器として、戦略的インフラを犠牲にする覚悟があることを示した瞬間でもあります」。
このあと、インタビューでは、日本の右派勢力による、緊急事態条項への岩上安身の懸念について、ロッタ博士が、第2次大戦中の日本の政治状況や、ドイツ、イタリアなどとの比較などから、独自の見解を示した。
また、欧州の中でも、特に反ロシア的な強硬姿勢の強い、バルト3国やポーランドの歴史的な背景や、それでも欧州連合が、それぞれに大きく異なる国家的利益を背景に持ちながらも、結局は経済的な結びつきによって、維持され続けていることなどについても、詳しく語っていただいた。


































