2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、米国はインフレを抑えるために金融引き締めに向かった。年頭に1ドル=115円台だった円相場は5月中旬以降、米連邦準備制度理事会(FRB)の急速な利上げの影響を受けて円安が進行。9月に入ると1ドル=140円台前半まで下落し、24年ぶりの安値となった。
9月14日、日銀は為替介入の準備のため、市場参加者に相場水準を尋ねる「レートチェック」を実施。9月13日、14日の円相場は142円から144円の間で推移しており、3月上旬の1ドル=114円台から半年で30円下げたことになる。『日本経済新聞』は年間ベースの下落率について、変動相場制に移行した1973年以降で最大だと指摘した。
- 日銀が「レートチェック」 為替介入の準備か(日本経済新聞、2022年9月14日)
この急激な円安を受けて、2022年9月16日、岩上安身は東京都内のIWJ事務所で、エコノミストの田代秀敏氏へ緊急インタビューを行った。
田代氏は、9月8日に発表された国内総生産統計の2次速報(2022年4月~6月)について、国内総生産(GDP)と国内総所得(GDI)の値が開きすぎているのに、大手メディアは政府発表の数値とグラフしか掲載していないと、以下のように指摘した。
「新聞には、GDPの成長率の年率換算値が前期比(2022年1月から3月)で3.5パーセント増えた、めでたしめでたし、コロナ前の水準を回復した、と。でも、日本のメディアは政府が(プレスリリースに)発表してない数値は報道しないんです。
政府の統計には国内総所得(GDI)の数字もある。このGDIの成長率を、内閣府が指定している年率換算公式を使って計算してみると、なんとマイナス0.003パーセント(四捨五入して0.00パーセント)。3.5%増のGDPとGDIの数値の差が3ポイントも乖離するのは異常事態だが、(大手メディアは)誰もそれを指摘しない。
(国民は)みんな頑張って働いて、コロナ前の水準を上回った。でも、それに対する報酬は増えていない。その差の部分は外国に流出したと考えるのが妥当だ。簡単に言うと、『働けど働けど暮らしは楽にならず』なんですね」
石川啄木の歌集『一握の砂』から、有名な「はたらけど はたらけど猶(なお)わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」を引用して解説した田代氏は、その原因としてエネルギー資源価格の上昇や円安による交易条件の悪化を挙げた。
そして、液化天然ガス(LNG)輸出大国であるカタールが、東京電力HDと中部電力の火力発電会社JERAとの大型販売契約を打ち切ったことも大きな要因として指摘した。
岸田内閣は「新しい資本主義」を掲げ、2021年10月、第6次エネルギー基本計画を閣議決定し、「30年までに、液化天然ガスを使う火力発電の比率を27パーセントから20パーセント程度に減らす」と発表。2021年末、カタールは25年間続いた日本への液化天然ガスの大型販売契約を打ち切ったのである。
「日本が『使わない』と宣言しちゃったんだから、それは契約を切られますよ。それであわてて、岸田総理がカタールに行って直談判すると言ってたら、岸田さんは夏休みにゴルフ三昧やって、コロナに罹って、行ってないです」と田代氏は言う。
さらに、日本製の半導体などを中国に売らないことを盛り込んだ、経済安全保障推進法についても、「アメリカは喜ぶかもしれないが、日本の基幹産業が潰れてしまう。岸田総理は経済的センスがない」と痛烈に批判した。
岩上安身は、ロシアメディアの『RT』が、日本がロシア産液化天然ガスの購入を大幅に増やしたと報じていることを指摘し、次のように続けた。
「『日本財務省が今週発表した貿易統計によると、日本政府は8月にロシア産液化天然ガスの購入を大幅に増やした』。ひっそり、増やしてたんですね。『ロシアの日本への LNG 供給量は、前年8月比で、量で 211.2パーセント 増加』。2倍ですよ。『金額で380パーセント 以上増』。
これは、全然、日本のメディアは、報じてない話です。カタールに見放されそうになったから、もうロシアにすがってる」
田代氏は、ロシアのサハリン2からの液化天然ガスを切ったら、日本の地方のガス会社と電力会社の約半数が債務超過に陥るシミュレーションがあると述べ、「サハリン2のガスに一番依存しているのは、岸田総理の選挙区がある広島県の電力会社。(ガス輸入を止めたら)おそらく破綻するんじゃないか」と説明した。