2012年、韓国で公営放送局 #MBCを始め、KBS、YTNなどの大手メディアがストライキに突入した。
ストは、#米韓FTAをめぐり、国民に不都合な事実を隠そうとメディアに介入する李明博(イ・ミョンバク)政権と、権力に迎合したメディアに対し、プロデューサーや記者らが公正な報道を求めて立ち上がったものだ。
メディアを解雇されたジャーナリストたちの一部は、独立メディア「ニュース打破(タパ)」を立ち上げ、李明博政権とそれに続く朴槿恵(パク・クネ)政権の言論弾圧と闘った。
韓国でのストの発端は、米韓FTAの報道規制だった。これに対し、日本では、大統領選挙を来年に控えたトランプ大統領が再選を果たすための手段としての貿易戦争で、ツケを押しつけられ、#日米FTAという不平等条約の締結が突き付けられている。
日本政府は、TAG(日米物品貿易協定)という言葉を捏造して、FTAの本質をぼかし、ごまかしてきた。嫌韓キャンペーンや文在寅大統領が法相に指名した、韓国の「玉ねぎ男」こと、チョ・グク元民情首席秘書官の数々の疑惑報道でテレビや新聞が賑わっている間に、FTA交渉は日本を売り飛ばす形で確実に進展し、9月下旬に締結される予定になっている。日本のどれだけの国民がこの事実に気が付いているのか?
MBCを解雇された元プロデューサーの #チェ・スンホ氏が監督したドキュメンタリー映画 #「共犯者たち」(2017年)は、昨年(2018年)日本でも公開され、話題を呼んだ。現在も上映が続いている。
その映画「共犯者たち」に何度も登場する元MBC記者で、全国言論労働組合の広報局長 #イ・ヨンマ氏が、8月21日逝去した。
岩上安身は2012年 4月4日 、ストライキ中のMBC内でイ・ヨンマ氏にインタビューを行っている。
韓国のメディア事情に詳しい滋賀県立大学の河かおる准教授は、IWJにこのインタビューの再配信をうながした。
IWJでは現在、このインタビューを再配信するため、動画の字幕をより正確なものに付け直している。再配信に先立ち、文字起こししたインタビュー全文を以下に公開する。異常なまでの嫌韓を煽る現在の日本のテレビ局と、公正な報道を求めて時の政権と対峙する韓国のテレビマン達との彼我の差をぜひともご覧になっていただきたい。
ストライキを主導した嫌疑で解雇された!? イ・ヨンマ氏、不当解雇で訴えも
岩上「今、私は文化放送(MBC)に来ております。ここは、労働組合の事務室の会議室です。MBCの周りには労使双方のスローガンが張られています。労使が真っ向から対立しているのがよくわかります。
全国言論労働組合のPR局長のイ・ヨンマさんです。よろしくお願いします。イさんは記者を解雇されたのですか?社員も解雇されたのですか?事情を教えてください」
イ・ヨンマ氏「もうMBCの社員ではありません。MBCでは私の記録はありません。解雇された理由としては、このストライキを主導した嫌疑を受けています」
岩上「それは不当解雇だとして訴えていますか?」
イ氏「はい、不当だと考えているので、再審を請求しました。3月5日に一度解雇され、それに対して再審請求をし、その結果が3月20日に出て確定しました。それも解雇でしたので法的な訴訟を起こすか、他の対処を調べているところです」
岩上「準備中なんですね。再審というのは会社側に対して?」
通訳「会社側ですね」
政府与党と親しい人間が社長になる構造!ストライキで公正な放送を勝ち取りたい
岩上「このストライキはいつから、何を目的に始まったか教えてください」
イ氏「MBCのストライキの最大の目的は、『公正放送争取』(公正な放送を勝ち取る)です。
現政権になってから、特に現社長になってからMBCのニュースと時事番組は公正性が大いに損なわれました。過度に政権に偏向した番組になっています。政権が敏感になる事案、財閥、既得権層、検察などに対する批判的な視角がニュースからなくなりました。
その意味で、公正な放送を勝ち取ることが最終的な目標で、その公正な放送を損なった主犯格である現社長の退陣がまず実現すべき目標です」
岩上「社長の名前は何ですか?」
イ氏「金在哲(キム・ジェチョル)です」
岩上「いつ就任されたのですか?」
イ氏「もう2年になりました。2010年3月からです」
岩上「李明博さんのシンパなのでしょうか? もとはどういうことをしていた人でしょうか?」
イ氏「もともとMBCの記者で、地方の系列会社の社長を歴任しました。元々政治部記者出身で、以前から李明博大統領とかなり親しい関係を持った記者でした。大統領がため口をきくほど親しい間柄です」
岩上「金在哲社長は放送委員会、ですか、そこから選ばれたんですか?」
イ氏「MBCは社長を選任するシステムが少し複雑なんですが、MBCの社長を選任する機構として放送文化振興会があります。
MBCは株式会社で、筆頭株主の放送文化振興会が70%の株を持っています。残りの30%の株はチョンス奨学会の所有です。従って、MBCの社長は事実上、放送文化振興会が任命することになるのですが、放送文化振興会に政府与党の息がかかりやすい構造になっています。
つまり放送文化振興会の理事は9人で構成されていますが、その中の6人は政府の与党から、残り3人は野党から推薦されることになっています。従って実質的に政府与党が誰かを社長にしようとすれば、それがそのまま貫徹してしまう構造です」
岩上「チョンス奨学会のチョンスとは人の名前ですか?」
イ氏「朴正熙の『正』、陸英修(朴正熙の妻)の『修』をとって、『正修(チョンス)』です」
李明博政権に入ってから大きく損なわれた公平性!新聞社が放送を所有できる「メディア悪法」廃棄も求める
岩上「公正な報道というのは、社長の選任構造がこのようになっていると、常に政権批判はできないということになるわけですか?つまり、李明博政権になって特別歪んだということではないという気もするのですが、いかがですか?それとも李明博政権は特別、報道に対して圧力をかける姿勢があるのでしょうか?」
イ氏「李明博政権になってからですね。以前、たとえば李明博政権の前の盧武鉉政権、その前の金大中政権の時は…。そうですね、MBCが今、2012年度にストライキをしていますが、目標は『公正放送争取』です。
ところでこの『公正放送争取』を目標にストライキを行ったのは直近でも1996年です。MBCの労働組合が1987年に創立されて、1988年度に最初にストライキをしました。その後、1996年まで何度もストライキをしました。その当時の目標は『公正放送争取』です。社会が民主化するにつれ、公営放送が一定の位置づけを獲得していきますよね。1997年に金大中が大統領に当選するわけですが、それ以後、「公正放送争取」を目標にストライキをしたことはないんです。
ところが、2012年度、16年ぶりに「公正放送争取」を目標にストライキをしたんです。それほどに、李明博政権に入ってから、特に今の金在哲社長が送り込まれてから、公正性が大いに損なわれたということです」
岩上「1987年から1996年までは賃金の値上げなどを目的にしたストライキはなく、『公正な報道を求める』という同じスローガンでストライキをしたんですか?」
イ氏「MBCの歴史上、賃金問題などでストを起こした前例がありません。
2つの目的があります。1つは、『公正放送争取(公正な放送を勝ち取ること)』もう1つの理由は、メディア悪法廃棄。または、民主的な放送法を勝ち取ること、その2つが、いつもストライキの理由でした。
MBC労働組合では、今回11回目のストライキですが、李明博政権に入ってからは5回目です。つまり、11回のうち5回がこの政権になってからです。
5回のうち3回はメディア悪法制定反対のスト。残り2回目は現・金在哲社長の退陣を要求するストです」
岩上「それぞれいつ行われたか教えてもらえませんか?」
イ氏「2008年に2回、正確に覚えてないのですが、春と、12月の2回と、2009年の初めに1回で、このストはメディア悪法反対のものです。
メディア悪法とは、朝・中・東(三大日刊紙の朝鮮日報、中央日報、東亜日報のこと)が総合編成チャンネルの放送局を作るという法律です。これに反対するストライキをしました。
その次のストは、2010年4月。これは当時の厳基永社長の任期が残っているのに政権が追い出して今の金在哲社長を任命したとき、任命に反対するストライキを39日間しました。そして今回、1月30日から、金在哲社長の退陣を要求するストライキをしています」
岩上「メディア悪法はなぜみなさんは悪法と呼んでいるのですか?どうして批判しているんですか?」
イ氏「まず、朝・中・東は新聞社ですよね。その新聞社が放送を所有することをはじめて可能にした法律でした。
しかしそれは朝・中・東だけに許可されるだろうということは誰もがわかっていました。つまり、事実上、朝・中・東に特別な恩恵を与える法案だということで、反対をしていました。
朝・中・東は、親政府のメディアです。前々から放送に進出したがっていました。しかし、その朝・中・東が新聞でも3分の2以上を占めているので、その新聞社が放送まで掌握する場合、世論の独占・寡占が形成されると」
李明博政権が進める韓米FTA その偏向報道をきっかけにストライキ突入
岩上「今回のデモの目的も同じ『公正報道』ということですよね。社長退陣を掲げて。FTAに関しては掲げていないんですか?」