排外差別デモで問われるべき罪とは? 「被害者は告訴も可能」 ~自民党改憲案についての鼎談 第5弾 2013.4.9

記事公開日:2013.4.9取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田)

特集 憲法改正前夜

※3月13日テキストを追加しました!

 2013年4月9日、都内で行われた自民党の憲法改正案についての鼎談の第5弾では、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」のヘイトスピーチ(差別的発言)デモをめぐって、法的な視点から議論が交わされた。

 東京の新大久保や大阪の鶴橋などで展開されている、在日コリアンが対象の排外デモは、事態が深刻さを増しているのに警察の対応は十分ではない、というのが、梓澤和幸弁護士、澤藤統一郎弁護士、岩上安身の共通見解だ。

 この鼎談から1年半近くが経過した2014年9月26日。外国人特派員協会での記者会見で、松島みどり法務大臣(当時)が口にした、「個人や団体を特定した行動でないと、そういう形(取り締りなど)は、なかなか難しい」との言葉が象徴するように、今の日本の法律では、名誉棄損罪や侮辱罪でヘイトスピーカーに罪を問うことは難しいのか──。

 鼎談でも、こうした現実が梓澤氏と澤藤氏によって示されたのだが、この種の差別的な動きが、内外におよぼす影響を憂慮する岩上安身は、社会や公権力が「絶対に許さない」という態度を見せない限り事態は悪化する、と危機感を示した。

■ハイライト

  • 出演 梓澤和幸弁護士、澤藤統一郎弁護士、岩上安身
  • 日時 2013年4月9日(火) 11:00〜
  • 場所 東京千代田法律事務所(東京都千代田区神田須田町)

排外差別デモに対して立ち上がった12人の弁護士

 岩上安身は、「先日、梓澤先生と澤藤先生は、在特会と同種の団体が繰り広げるヘイトスピーチデモに対し、法律家の立場から抗議し、東京都公安委員会への申し入れと人権救済の申し立てをする行動に出た。それは非常に喜ばしことだ」と話して、次のように口火を切った。

 「排外デモは今年(2013年)に入って、どんどん過激さを増している。従来の『朝鮮人は汚い、ゴキブリだ』というシュプレヒコールは、言うまでもなくひどい表現だが、今や東京の大久保では『皆殺しにしろ』『射殺しろ』といった暴言が当たり前のように吐かれている」

 さらに、岩上安身は、「大阪の鶴橋でも、中学生の女の子が拡声器で『虐殺をやる』と叫んだりしている。公権力がこういった状況を放置していることが、まったく解せない。安倍晋三政権の発足で、非常にきな臭い空気が日本社会に漂うようになったが、そういった空気が、デモに参加する若者らの群集心理と共鳴し合っているようにも思える」と続けた。

 澤藤氏は、「戦争を始める際、人々は自分の中に『狂気』を宿らせねばならない。つまり事前に、相手国への差別・排外主義的価値観を国民の間に植え付けることが必要になるのだ」と発言し、排外差別デモには不気味さを感じると表明した。

 そして、「人権に国境はない。誰もが平等に持っているものだ。が、自民党の改憲草案は、国の固有の歴史や文化を踏まえた上での人権論が展開されており、私はそこに危うさを感じている」と続け、「東京や大阪での、ああいったデモを許してしまう雰囲気は、極力、早期に是正さねればならない」と語った。

 梓澤氏や澤藤氏らによる、排外デモに関する申し入れの声明文は、3月29日に発表された。2人以外にも宇都宮健児弁護士や海渡雄一弁護士らが名を連ねており、澤藤氏は「総勢12人で立ち上がった」と述べた。

なぜ、あんなひどい行為が処罰されない?

 岩上安身が「ヘイトスピーチデモは、恐喝罪に当たらないのか」と口にすると、梓澤氏は、デモの現場を訪れた折に「良い朝鮮人も、悪い朝鮮人も殺せ」と書かれたプラカードを目撃したことを述べて、「デモが行われた場所では、実際に店舗運営がなされている以上、質的には、特定の朝鮮人に向かって『あなた方の命はない』と言っていることと同じだ。『そういった表現を、何度もしたら脅迫罪になるよ』という警告を、先の12人の弁護士が発して、申し入れの中でも、そのことに触れた」と説明した。

 そして、「最近は、デモを展開する若者たちの間で『そういう表現はやめよう』という意見も出てきた。つまり、彼らは、聞く耳を持たないわけではない」と指摘しつつ、「統一後の旧東ドイツでは、排外デモが放置されたがために、1992年と1993年に合計7人のトルコ人の移民が、放火により命を失っている。このまま大久保や鶴橋でのデモが続けば、日本でも同種のことが起こる可能性が出てくるのではないか。申し入れでは、警察に対して『相応の任務をとれ』と求めた」と梓澤氏は語った。

 岩上安身は、「排外デモに対して、『差別はやめよう』と抗議する市民グループ(カウンター)が存在する。だが、警察は、彼らに対しては『(デモ側を)挑発するな』と制止する。排外デモの過激なアジテーションは大目に見ているのに、だ」と、警察の対応への疑問を口にした。

 警察が排外デモを止めないのは、排外的な空気を日本社会に醸成する意図があるのではないか、と続けた岩上安身は、「戦争を遂行しようとしている政治の動きと、連動している印象がある」と言葉を重ねた。

憲法を改正されたら、市民の声は封じ込められる

 澤藤氏は、「憲法に書かれてあることと、現実の間に『かい離』があることは、誰でも知っている」とし、在特会と同種の団体に対し、警察が今の姿勢をとり続けるのであれば、「かい離」は許容の範囲を超えていくだろうと語る。

 その上で、「多数の人の人権を守るという、憲法に則った行動を警察にとらせるために、声を上げる権利がわれわれ市民にはある」と口調を強め、次のように話した。

 「大戦中には、それまで欧米に劣等感を抱いていた日本人が、いきなり『鬼畜米英』などと叫び始めた事実がある。誰かが煽って、日本に排外感情を広めたわけだ」

 日本が開戦体制に入ってしまったら、市民の力では警察権力を正すことは困難だ、と語る澤藤氏。市民は、今ならば憲法を後ろ盾に、排外差別デモを看過する警察に対して、「規範を守れ。そうでなければ法的手段を講じる」と迫ることができるという。

 岩上安身は「もし、憲法が改正されれば、(たとえ平時であろうと)市民の声が、警察に届かない日本になってしまうかもしれない」と危惧した。

 梓澤氏は、自民党改憲草案21条2項を取り上げて、「『公益および公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは、認められない』とあり、今後の日本には、お上に楯突く市民勢力を公権力が封じ込める、新たな大秩序が生まれる可能性がある」と警鐘を鳴らした。

「殺せ」と叫ぶ行為は罪になるのか

 そして、梓澤氏は「誤解のないように」と前置きした上で、先の弁護士12人の主張内容を改めて説明した。「われわれは、たとえば『殺せ』というメッセージに対し、特定の人たちに害悪をもたらすという理由から、直ちにそういう表現行為を一掃しろと主張しているのではない。その表現行為が、人権を侵害することが明確なケースでは、制止するための警察活動ができるのではないかと、提言しているのだ」。

 それを聞いた岩上安身は、「在特会のリーダーである桜井誠氏は、実際に『(在日コリアンを)ひとり残らず、なで斬りにしなければいけない』といったニュアンスの発言をしているが、これは罪にならないのか」と尋ねた。

 梓澤氏は「実際に(殺人などの)事件が起きたとして、その桜井氏が、その事件を起こす計画を事前に練っていたことが実証されれば罪になる」と説明した。

 「では、扇動行為は、どういう扱いになるのか」と、岩上安身がさらに質問すると、澤藤氏が「日本には、特定の人々への憎悪を煽動した者に適用されるドイツの民衆扇動罪のような法律はない。ただ、在特会は、京都や徳島で、威力業務妨害や侮辱罪で有罪判決を受けている」と応じた。

具体的な嘘をでっち上げたら名誉毀損

 名誉棄損と侮辱罪の違いについては、澤藤氏は「侮辱罪は、名誉棄損より刑が軽い」とし、梓澤氏が、その違いを次のように解説した。

 「嘘の事実をでっち上げて、その人の社会的評価を低下させることが名誉棄損。『あの政治家は何月何日に、妻以外の女性と性的関係を持った』などと具体的な嘘をぶち上げて、その政治家の信用を引き下げた場合などがそうだ」

 排外差別デモで言えば、スピーカーがある特定のAという在日コリアンに向かって、「お前は劣っている」といった暴言を吐いた場合は侮辱罪で、A氏が脱税をしていないのに「去年、Aは3億円脱税した」という具体的な虚偽を言って信用を低下させた場合は名誉毀損になるという。

 岩上安身が「誰が訴え出れば、へイトスピーカーを逮捕することができるのか」と訊くと、梓澤氏は「(威力業務妨害罪や脅迫罪が成立していれば)被害者でなくとも刑事告発ができる。むろん被害者は刑事告訴ができる。それで検察までいって不起訴になったら、(不起訴処分の妥当性を計る)検察審査会にかけることができる」と回答した。

被害者に「自分たちで気をつけて」と言う警察

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