「改正憲法が必要ということにはならない」「結局は国家からの制約が押し寄せてくる」──。今回で第7回目を迎えた「自民党の憲法改正草案についての鼎談」で、澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士から、自民党改憲案についての批判が相次いだ。
2013年5月9日(木)11時から、東京都内にて「自民党の憲法改正案についての鼎談 第7弾」が行なわれた。憲法は、大きく「人権」と「統治機構」という2つに分けられる。これまでの鼎談では、人権についての条項を議論してきたが、今回初めて統治機構に関する条項に踏み込んだ。
(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)
「改正憲法が必要ということにはならない」「結局は国家からの制約が押し寄せてくる」──。今回で第7回目を迎えた「自民党の憲法改正草案についての鼎談」で、澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士から、自民党改憲案についての批判が相次いだ。
2013年5月9日(木)11時から、東京都内にて「自民党の憲法改正案についての鼎談 第7弾」が行なわれた。憲法は、大きく「人権」と「統治機構」という2つに分けられる。これまでの鼎談では、人権についての条項を議論してきたが、今回初めて統治機構に関する条項に踏み込んだ。
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サポート会員 新規会員登録単品購入 550円 (会員以外)単品購入 55円 (一般会員) (一般会員の方は、ページ内「単品購入 55円」をもう一度クリック)冒頭で、岩上安身が「国民栄誉賞授与式で、安倍首相が背番号96を背負った審判姿を披露したり、自民党は押せ押せムードだ。一方、公明党の9条改憲へのジレンマが見え始め、加憲という言葉を使い始めた」と前置きし、憲法記念日の5月3日に各メディアが実施した、憲法改正に関する世論調査の数値を報告した。
澤藤弁護士は「自民党は、改憲の発議要件、改憲のハードルを下げる96条先行改憲を目指したが、筋違いだ、本末転倒だ、と批判があり、むしろ96条先行改憲への懐疑論が出始めてしまった」と語った。
梓澤弁護士は「変えたほうがいい、という設問があいまいで、賛成数が多くなるのはわかるが、第96条の、国会議員の3分の2の賛成を、2分の1の賛成に変えるか、と具体的に尋ねた場合、反対が増えてきた」と情勢の変化を語った。
岩上は、維新の会の平沼赳夫代表代行が「立憲主義、平和主義、基本的人権、国民主権など、憲法改正の限界を議論することにした」と語り始めたことについて、両者に意見を訊いた。
梓澤弁護士は「誰が憲法を決めるのか、という大前提がある。憲法制定権者というが、主権者の国民が憲法を決めて、権力者を縛る、という性質を持つものが憲法だ。それを変えたら、もはや憲法とは呼ばない。ゆえに、96条改憲はできないという解釈は、憲法学上、かなり有力な論拠になっている」と96条先行改憲の是非を説明した。
続けて、澤藤弁護士も「憲法が憲法でなくなることは、憲法改正の限界を超えている。では、憲法たる所以はというと、基本的人権、国民主権、平和主義の3本の柱。憲法改正の手続きもこれに準ずる。では、どういう場合に、発議要件を変えることができるのか。納得できる議論ができるか、できないかに尽きる。やはり、硬性憲法であるべきで、立憲主義の土台は簡単に変えてはならない、というポリシーは守るべき」と持論を展開した。
梓澤弁護士は、アメリカ議会の安倍首相への右翼化への懸念を書いた新聞記事を見せた。岩上は、それに呼応し、国内でのヘイトスピーチの激化と、政府の対応について話し、「しかし、ヘイトスピーチを問題視するあまり、言論統制につながってはならない。バランスある対応も必要だという意見も、一方では出始めている」と述べた。
本題に入り、まず、憲法39条に関して、「個人の自由主義の象徴にあたるので、変えようがないのではないか。連合国側は、東京裁判で事後法で裁いたのではないのか」と岩上が言うと、澤藤弁護士は「それは一理ある」と答え、解釈論を述べた。また、岩上が「アメリカが行った大空襲や原爆などのジェノサイドを、戦争犯罪として問うことはできないのか」と言うと、梓沢弁護士は、「サンフランシスコ条約で、日本は対米賠償請求権を放棄したことになっている」と話し、澤藤弁護士は「近年は、個人の請求権まで放棄したことになるのはおかしい、という考え方もある」と説明した。
第40条に関しては「特に変更なし」とした。ただし、冤罪について、両弁護士は、布川事件、ネパール人マイナリ氏の東電女性社員殺人事件、袴田事件、名張毒ブドウ酒事件などを例に挙げ、その危険性を訴えた。
続いて、第4章国会に進んだ。「近代憲法は、人権部分と、統治の機構に分かれている。かつ、その統治機構は三権分立、人権を侵害させてはならない、という大原則で作られている」と澤藤弁護士は前置きし、第40条から43条に関して、「ここでは二院制が課題。今回のねじれ国会は、衆参両議院の存在価値を再確認できたのではないか。一時の激情からの過ちを防げたのではないか」と話した。
次に、第44条の逐条に移った。議員及び選挙人の資格について定めた第44条で、自民党の改憲草案には、その資格を「障害の有無」によって差別してはならないことが新たに盛り込まれている。澤藤弁護士は「憲法13条(人としての尊重等)と14条(法の下の平等)の精神からいえば、障害者差別があってはならないのは当然」とした上で、「現行憲法で十分に手当てができる」ことから、「このために憲法改正が必要だということにはならない」と指摘した。
さらに、梓澤弁護士は、13条や21条(表現の自由)などで、現行憲法の「公共の福祉」という言葉が、自民党草案では「公益及び公の秩序」と変えられていることから、「軍を中心に据えた体系であることを踏まえると、44条で障害者差別をしてはならないと謳っても、安心はできない。人権と国の関係からいえば、結局は障害者にも、国家から制約が押し寄せてくる」と自民党改憲草案全体の危険性を訴えた。
ここで岩上が「改憲を『変更不可』と、『部分改憲』または、公明党の言う『加憲』のように、2つに分けて検討することはできないのか」と質問。澤藤弁護士は「硬性憲法の性質を保つならば、ハードルを下げるべきではない。たとえば、44条の障害の有無は、現行憲法を変えずに、立法行政で手当てすれば済む問題だ」と答えた。
また、梓澤弁護士が、ある新聞記事に掲載された、評論家の東浩紀氏と学生たちが、自分たちの憲法を提案する、というネット活動を紹介。岩上は、「明治初期の、自由民権運動のようなことが起これば、それは面白い」と応じ、両氏にそれぞれの憲法案を訊いた。澤藤弁護士は「自分が憲法を作るとしたら、天皇制の廃止を言い、国民の、真の民主主義国家をつくる」と答え、梓澤弁護士はフランス憲法を例に挙げ、「国民の抵抗権を織り込む」と語った。
第47条について、澤藤弁護士は自民党草案の「この場合においては~」以降の加筆部分について反対した。特に「『総合的に勘案して』は、国民の意志を制約しかねない」とした。梓澤弁護士は、第49条の国会議員の歳費に絡めて、「弁護士も政治家も、先生と呼ばれるべきではない。もっと地道な職務であるべきだ」と述べた。
岩上が、第50条の国会議員の不逮捕特権について尋ねると、澤藤弁護士は「三権分立の解釈による。警察などを含む行政権が強いので、立法権を侵害することのないように、必要なのだ」と解説した。
第53条(臨時国会)については、澤藤弁護士が、この鼎談シリーズの開始以来、初めて「合理的だ」と褒めた。そして、第54条に「衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する」の一文が加えられたことについて、「現行憲法では、第7条か、54条での解釈によって判断していたものを明文化した」と解説した。
新憲法第63条の2に、「ただし、職務の遂行上特に必要がある場合は、この限りではない」と付け加えていることについて、澤藤弁護士は「例外規定を作って、立法軽視に感じられる」と述べた。
最後に、第64条(弾劾裁判所)に関しては、澤藤弁護士が「国会と裁判所の問題だ。弾劾裁判は、現在までに10件ほどあり、罷免もあったので形骸化してはいない。裁判員には国会議員がなるが、良識があれば誰でもできる」と述べた。
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澤藤さんと岩上先生が改悪草案第47条の人口比例選挙を褒めていらっしゃったので、残念に思います。
実は条文の「各選挙区は、人口を基本とし、」の箇所にこそ、経団連と経済同友会の意志が反映されています。
経団連は「希望の国、日本」(www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/vision.pdf)という展望を発表しています。この84頁に「教育・啓蒙活動を通じ、政党政治・政治参加の重要性に関する国民意識を高めるとともに、一票の格差を含め、政治制度改革を進めていく必要がある。」と記されています。「教育・啓蒙活動」とは具体的には、「一人一票実現国民会議」(www.ippyo.org のリンク先に、この「御手洗ビジョン」があります)を組織したり、大手メディアによる猛烈なキャンペーンを仕掛けることだと、私は考えます。また次の88頁には「経団連は、2010年代初頭までに憲法改正の実現をめざす。」とも書かれています。
経済同友会にも「投票価値の平等(「一票の格差」是正)実現Webサイト/経済同友会の取り組み」(www.doyukai.or.jp/kakusa/torikumi.html)という、怪しい記事があります。
次に、地域代表選挙が実現している国々の憲法の条文をお示しします。
アメリカ合衆国憲法第17修正第1節は「合衆国の上院は、各州から二名ずつ六年を任期として、」とあり、一票の格差(私に言わせると「地方重視指数」)は約65倍(65点)で御座います。
スイス連邦憲法第150条(全州議会の構成と選挙)第2項は「OW, NW, BS, BL, AR, AI の各カントンは、それぞれ一名の議員を選出し、その他のカントンは、それぞれ二名の議員を選出する。」とあり、一票の格差は約40倍で御座います。
ブラジル連邦共和国憲法第46条は「連邦元老院は、州及び連邦直轄区を代表し多数決で選挙された議員で構成される。」と定められていて、一票の格差は約85倍で御座います。
スペイン国憲法第69条第1項は「元老院は地域代表の議院である。」と定められていて、一票の格差は約150倍(自治州議会による指名(人口比例)との並立制なので調整されますが、日本の場合と同じく無視しています)で御座います。
特にスペインは独裁政権に対する反省から地域主権国家に発展しているので、将来の日本にとって参考になるでしょう。
そして欧州議会は、地域代表と人口比例の中間の「逓減比例」で選挙されています。
リスボン条約第9a条第2項には「市民の代表は漸減的に比例し、加盟国当たり六名を最小閾値とする。加盟国は九十六議席を越えて配分されてはならない。」とあり、一票の格差(実は「地方重視指数」)は凡そ11倍(11点)で御座います。