自民党の憲法改正案を総括 「現行憲法の精神をすべて覆すもの」 ~自民党の憲法改正案についての鼎談 第12弾 2013.6.18

記事公開日:2013.6.18取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

特集 憲法改正|特集 前夜

 2013年6月18日(火)15時より、東京都内で「自民党の憲法改正案についての鼎談 第12弾(最終回)」が行われた。澤藤統一郎弁護士、梓澤和幸弁護士、岩上安身の3名が、これまでの総括を行った。澤藤弁護士は、自民党案との比較として、1890年に施行された「大日本帝国憲法」の憲法発布勅語と比べ、「自民党案の精神と非常に似ている」と指摘し、「憲法論で天皇を論じるとき、天皇を神聖なものとしてはならない」と述べた。

■イントロ

■ハイライト

  • 出演者 澤藤統一郎弁護士、梓澤和幸弁護士、岩上安身

 冒頭、岩上が、現行憲法の第10章最高法規から、逐条解説を始めた。自民党の改憲草案では、現行憲法97条の基本的人権を信託した文言を削除して、98条を101条にしている。まず、それについて、澤藤弁護士が、大日本帝国憲法を例に挙げて、「この改憲案は、まったく性格を変えている」と指摘した。

 梓澤弁護士が続けて、「ポツダム宣言を受諾した過程で、国体護持(天皇に主権・統治権があるという国の形態)を守った憲法草案を、日本はマッカーサーに提案した。しかし、マッカーサーはそれを突き返し、現行憲法が成立したという経緯だった。今回、自民党が97条を削除したことは、その否定された国体護持を彷彿させる」と述べた。

 澤藤弁護士は「自民党は、97条を重複だから削除した、と言うが、まったく違う。この憲法の性格を決めている条文を消すことは、先祖帰り。大日本帝国憲法と同様、万世一系の天皇が統治する世界で、おまえたち国民は憲法を守れよ、ということだ」と述べた。それに続けて、岩上が「国柄=国体か」と問うと、澤藤弁護士は「保守派が使うときは、『国柄=天皇を戴く国家』。国体思想では『天皇がこう言ったから正しい』となり、『天皇制』ほど、為政者にとって便利なものはない。これを、自民党をやりたくて仕方ない」と話した。

 岩上は「ここまでになると、国体護持はカルトだ」と述べ、梓澤弁護士は「この思想が、支配者の内面に浸透して、人格を作っていることが危険。それが自分たち自身では、気づかない。これが、国の一部の人であればいいが、全体を従わせるのは、とても危ない」と懸念を表明した。

 98条2項に関して、梓澤弁護士は「憲法と法律の間に、国際条約をおくのが通例。憲法の大原則の精神である国民主権、人権を考慮すると、憲法に反する国際条約は、正されなければならない」と解説し、澤藤弁護士が「一審、伊達判決(砂川事件)が、行政協定に基づく刑事特別法の裁判であった。基地の中に入ったことを争った裁判で、『刑特法は行政協定に基づき、行政協定は安保条約に含まれ、安保条約は憲法9条に反する違憲な条約だ』と弁護団は訴えた。伊達判決はそれを認めた」と、国際条約の優位性の是非について、説明した。

 次に、岩上が「現行憲法は、『第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ』とある。改憲案では(憲法尊重擁護義務)102条で、『全て国民は、この憲法を尊重しなければならない』となる。しかし、天皇の憲法の尊重義務を削除している」と指摘した。これに対して、澤藤弁護士は、この文言に呆れ返り、「まともな憲法議論にならない。自民党は保守でもなく、ナショナリズムが偏狭に現れた、極右政党だ」と痛烈に批判した。

 そして、梓澤弁護士は「なぜ、天皇と摂政を省いたか、というと、畏れ多いから、というのが自民党の答えだ。憲法を論じる資格はない。天皇および摂政を、憲法擁護理論から外したのは、軍人たちが天皇の名において反憲法的なことを行なう場合に、天皇は無答責(責任を問われない)な存在なので、その陰に入れば何でもできるようになるからだ。公権力を縛るものが憲法。武装力をもった軍人たちが、その陰に隠れると、空恐ろしくなる。将来、日本をどこに連れて行こうとするのか」と危惧した。

 澤藤弁護士は「大日本帝国憲法の憲法発布勅語では、『朕カ現在及将来ノ臣民ハ 此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ』。主権者たる天皇が、臣民に対して押し付けたのが大日本帝国憲法。それを逆にして、権力を握る人を縛るために発布されたのが、現行憲法だ。人類普遍の原理に立ち戻った、純粋な憲法理念を持つ現行憲法を、打ち砕いたのが自民党改憲案だ」と批判した。

 岩上は「『国体』という言葉を作ったのは、江戸後期の思想家、会沢正志斎(あいざわせいしさい)。当時、キリスト教に対抗して編み出されたのが、国体だった。それが、吉田松陰など、勤王の志士たちに受け継がれ、征韓論などにつながっていった」と解説した。

 続いて、梓澤弁護士は「『全て国民は、この憲法を尊重しなければならない』からは、徴兵制が読める」と話し、以前にも述べた、石破茂自民党幹事長の、軍事法廷発言を取り上げた。その上で、「問題は、憲法の縛りがなくなったら、徴兵制を作ることも憲法違反ではなくなることだ」と述べた。

 岩上は第11章補則を説明し、「自民党改憲案では、附則(施行期日)に変わっている。手続き的なことを説明しているとしか読めないが」と言うと、澤藤弁護士は「現行憲法100~103条は、改憲案では、付則とし、憲法外にしてある。つまり、手続き的には改正だけど、新しい憲法を作ったことをごまかすため。天皇の名によって裁判をした裁判官、天皇の輔弼(支援)機関としての内閣が、また現れてきて、とても変だ」。

 梓澤弁護士が「公共の福祉(現行憲法)と公の秩序(改憲案)は、対立している。改憲案は、国民の幸せを考えていない」と言うと、岩上が「アフラックの儲けは5兆円だという。それだけあれば、今の日本の医療費は無料にできる、とも言われている。今でも新自由主義なのだから、それを憲法に書き込むよ、戦争もできるよ、アメリカに付いていくよ、ということだ」と補足して逐条解説を終え、両弁護士に、補足があるかを尋ねた。

 澤藤弁護士は「現行憲法の3本の柱、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重で、一番大切なのが、基本的人権の尊重。これが憲法で、一番の大事な精神。それは、平和でなければ全うできない。国家を作ると権限が強大になってしまうので、それを運用する厳格なルールを敷いた。そして何を目指すか。それは『国民の福利』だ。それを壊すのが新憲法だ」と、持論を展開した。

 梓澤弁護士は「自民党は、この憲法の意図を、明確に語るべきだ。情報公開を広く行ない、『これで付いて来るか』と国民に是非を問えばいい。高校生に、この憲法を読んでもらって、主人公になってもらいたい。普通の人が、普通に夕餉の食卓で語って、発信者になってもらいたい」と話した。

 岩上は「石破幹事長の敵基地攻撃論がある。その背景には、秘密保全法がある。これは、国家に対してロボトミー手術をするようなものだ。改憲と秘密保全法はセット。この憲法は、復古調でいながら、米国の言いなりの国家を意味しているのではないか」と分析した。

 梓澤弁護士は「秘密事項は、一定限度あってもいいが、最小限にすべき。国民の不幸につながる秘密保全法。国民の幸福につながるのは情報公開だ。政府は、秘密保全法案を秋の国会に提出するという。15年前の国家機密法の時は、メディアが大反対をして潰した。今回はまったくそれがないので、市民メディアも総動員で阻止しなければならない」と警鐘を鳴らした。澤藤弁護士も、15年前の国家機密法反対活動の思い出を語った。梓澤弁護士が最後に、マーチン・ルーサー・キング牧師の演説「私には夢がある」の中のフレーズを紹介し、自分のメッセージとした。

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