ロシアとウクライナとの紛争が長期化し、世界経済に与える影響が懸念される中、岩上安身はエコノミストの田代秀敏氏に、2022年5月5日、5月12日、5月20日、5月30日と4回にわたるインタビューを東京都内のIWJ事務所で行った。
ここでは一連のインタビューの最終回となった5月30日のインタビューの後半部分を、「米ドルの黄昏とアテナイ覇権喪失の教訓」と題してお届けする。
田代氏は、古代ギリシャ世界で起きたアテネ帝国の衰亡の歴史が、現在の覇権国家アメリカの姿と重なることを、多くの文献を示しながら解説していった。
大小さまざまな都市国家(ポリス)が存在していた古代ギリシャで、紀元前600年頃、初めて硬貨が出現し、それまで物々交換などで成り立っていた経済活動は激変した。小さな金属片に、人々が同じ貨幣価値を認めるには高度な知性が必要であり、田代氏は、「その時期に思考の大変革が起きていた」と指摘する。
貨幣価値を共有する広い交易圏ができあがり、ペルシャが侵攻してきた時にはアテネの海軍とスパルタの陸軍とで撃退する。そして、この「共通の敵」の脅威に備えて、紀元前478年、エーゲ海を囲む1000近くのポリスが、アテネを中心にデロス同盟を結成した。
だが、アテネは同盟国から集めた拠出金を管理するとして、パルテノン神殿の建設を始める。さらに、アテネのアッティカ通貨を国際通貨(つまり、基軸通貨)とするように同盟国に強制し、強大な海軍力をもってデロス同盟に君臨する帝国を築いた。
「民主主義」の祖と言われるアテネだが、同盟国を属国化し、抵抗するポリスにはきわめて過酷な仕打ちをしている。「拠出金を払わないと、アテネの海軍が攻めて来る。成人男性は全員処刑、女性と子どもは奴隷に。だから、払いますよね。何するかわかんないから」と田代氏は語る。
また、反乱を起こしたポリスの領土をアテネの下級市民へ割譲したため、戦争で儲かることがわかった市民たちは、ますます戦いを求めるようになった。直接民主制を実現させたアテネの民会(市民総会)においても、演説のうまい者が人々を煽動するようになったという。
田代氏は、古代ギリシャの戦争史の大家、ヴィクター・ハンセン元カリフォルニア大学教授がアテネを評した、「なにをしでかすかわからない気まぐれな民主制」「死をばらまく戦争屋」という言葉を紹介した。
基軸通貨を持ち、圧倒的な軍事力で同盟国を従え、民主制をしき、多くの戦争に明け暮れたアテネの姿は、現在の米国の姿に重なる。田代氏は、マーク・トゥエインの言葉を引き、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」と語った。