緊迫する東アジア情勢(「IWJ通信」2月19日号 巻頭言より) 2013.2.19

記事公開日:2013.2.19 テキスト
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辞任に追い込まれた井戸川克隆双葉町町長

 2月3日(日)、辞任を表明した福島県双葉町の井戸川克隆前町長へのインタビューを行いました。福島第一原発事故後、役場機能ごと埼玉県加須市の廃校舎施設(旧埼玉県立騎西高校)に移転した双葉町。井戸川前町長の口からは、故郷への帰還を果たせぬまま辞任することになった苦悩が生々しい言葉で語られました。

また、この日のインタビューでは、国が建設計画を進めている汚染土壌の中間貯蔵施設受け入れについて、スクープが飛び出しました。大手マスコミは辞任の理由について、井戸川前町長が中間貯蔵施設を巡る国との協議に欠席し、町議会の不信を招いたため、と報じていました。しかし実際は、環境省側が、井戸川前町長との事前の約束を一方的に破っていたというのです。

 「今日は爆弾発言をしますよ」と前置きして語りはじめた井戸川前町長は、当時の細野豪志環境大臣が、2011年秋に行われた会合において、双葉町と隣接する大熊町の町長を同席させるという事前の約束を反故にしていたという内幕を明かしました。当時を振り返りながら井戸川前町長は「細野さんは条件を無視した。その時、この人は信用ならないと思った」と私に語りました。

 このインタビューの模様は、私がレギュラー出演しているラジオ番組・文化放送「夕やけ寺ちゃん活動中」の中で解説しましたので、インタビューとあわせ、是非、アーカイブをご覧ください。

福島県鮫川村では、高濃度放射性廃棄物焼却施設建設で大揺れ

 井戸川前町長のお話からは、放射能に汚染された土壌を処理する施設を、住民の同意がないまま建設を強行しようとする、政府と環境省の強引な姿勢が見て取れます。これと同様の構図を持つのが、震災がれきや高濃度の放射性廃棄物の受け入れをめぐる問題です。

 既存メディアではほとんど報じられていませんが、福島県鮫川村に高濃度放射性廃棄物焼却施設を建設しようという計画があります。IWJはこれまで、福島県在住の中継市民が中心となり、住民説明会や環境省への申し入れの模様を中継し続けてきました。

 14日(木)、IWJの佐々木隼也記者が鮫川村役場を訪れ、大樂勝弘鮫川村長へインタビューを行いました。村長は、近隣住民の不安に理解を示しつつも、建設事業の見直しをしない意向を示し、「一部の反対派をいかに説得していくかが私の役割」と断言しました。

 このインタビューから浮き彫りになったのは、鮫川村役場の見解と、環境省がこれまで行なってきた説明との食い違いです。IWJのホームページ上で、これまでの経緯を含め、佐々木記者が詳細なレポートをまとめていますので、是非、ご覧ください。

 このように、あの福島第一原発事故発災からまもなく2年を迎えようとしているにも関わらず、放射能をめぐる問題は一向に収束していません。

 2月7日、城南信用金庫の吉原毅理事長にインタビューしました。東日本大震災と福島第一原発事故後、「脱原発」を訴え、「企業としての最低限の良識」として、社内での節電や被災地への寄付などを行ったという吉原理事長。その理由として、信用金庫とは、そもそも町役場に生まれた金融機関であり、公共的な性格を備えているからだ、と私に説明してくれました。

 吉原理事長へのインタビューで最も印象的だったのが、城南信用金庫第三代理事長である小原鐵五郎の「お金は麻薬」という言葉でした。人は、お金を意識すればするほど自己中心的になり、その結果として、自らを支えているはずの社会を否定するようになる。

 その結果、相互扶助のメカニズムが働かなくなり、非常にやせ細った社会となってしまう。これはまさしく、現在、グローバルな規模で猛威をふるっている新自由主義への先見的で根本的な批判であろうと思います。

 今回のインタビューでは、世界を覆いつつある行き過ぎた資本主義を、「信金マン」のトップである吉原理事長がどのように見ているのか、長時間にわたりお話いただきました。是非、アーカイブ動画をご覧ください。

 他方、原発再稼働に関する新安全基準が急ピッチで作られつつあります。

 原子力規制委員会が7日、原発再稼働に関する新安全基準の骨子案をまとめ、国民からの意見募集を始めました。7月には法制化される見込みのこの新安全基準について、規制委員会の田中俊一委員長は「世界最高水準の厳しさ」と胸を張っています。

原子力規制委員会の新安全基準骨子案、意見公募はこちら

 この新安全基準について、一部の専門家からは「十分な安全確保につながらない」と疑問の声も出ているようです。また、15日(金)には、ロシア中部に隕石が落下するという事故が起こりました。負傷者1200人以上、被災した建物は4000棟にのぼり、チェリャビンスク州知事の発表によれば、被害額が3000万ドル(約28億円)を超える見通しです。新安全基準では、地震や津波、火山噴火、竜巻は考慮されていますが、隕石の衝突は確率が低いとして想定されていません。

 IWJは原子力規制委員会の発足当初から、会合と会見のすべてを中継し続けてきました。この問題は、今後も引き続き注視していきます。

原発ルネッサンスへの疑いと地球温暖化問題

 原発をクリーンエネルギーとして見直そうという「原発ルネッサンス」キャンペーンは、地球温暖化問題と表裏一体になって進められてきました。

 原発の危険性が露わになった今、地球温暖化問題にも検証を加える必要があると思われます。

 10日(日)、中部大学教授の武田邦彦先生と、クロストークカフェ「原発ルネッサンスへの疑いと地球温暖化問題」を開催しました。『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』や『偽善エコロジー』などの著書がある武田教授に、イギリスのサッチャーをはじめ、一部の政治勢力が温暖化キャンペーンを張り、原発を推進してきたという歴史を、実証的なデータをもとにプレゼンテーションしていただきました。

 会場からも多くの質問をいただくなど、科学と政治を横断するような、有意義な議論ができたのではないかと思います。この模様は、現在は有料のペイパービューとして公開しています。そちらを是非ご覧ください。

「2月10日 クロストークカフェ 武田邦彦×岩上安身」(有料2000円)はこちら

 さらに14日(木)には、横浜国立大学へと足を運び、同大学の伊藤公紀教授に、地球温暖化に対する懐疑論についてお話をうかがいました。この日は、150枚以上に及ぶスライド資料を用いて、約3時間30分にわたって解説をしていただきました。

 クライメートゲート事件や、ホッケースティック曲線の破綻、グレーシャーゲート事件など、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)をめぐるスキャンダルや、また私たちがテレビ・新聞から与えられ、当然と思い込んでいる地球温暖化問題の常識について、伊藤教授は、数々のデータに基づいた知見で異論を唱えられました。

 伊藤教授へのインタビューは、この回だけでは完結せず、近々、続きを行います。それまでに、質問やご意見のある方は、是非お寄せください。

 原発の事故の問題は、放射能による被曝や健康被害の問題だけにとどまりません。そこに「地球温暖化」というファクターを差し挟むことにより、政治問題として捉え返すことが可能になります。IWJは今後も、健康被害の問題、科学技術の問題、そして何より政治の問題として、原発を取材し続けます。

中国艦船がレーダー照射 緊迫する日中関係

 尖閣問題をめぐる日中の緊張が高まりつつあります。

 2月5日(火)、防衛省が緊急会見を開き、1月19日と30日の2回にわたり、海上自衛隊が中国海軍のフリゲート艦から、射撃管制用レーダーを照射されていたと発表しました(19日はヘリコプターに対し、30日は護衛艦に対して)。

 日本政府は中国政府に抗議し、大手メディアも「危険な挑発行為」だと中国を非難しました。たしかに、射撃管制用レーダーの照射は、実弾による攻撃のための「ロックオン」という意味合いを持っています。実弾の戦闘に即つながりうる、非常に危険な行為です。中国側の行動は非難されるべきですが、日本側も、中国側を挑発してきた側面は否めません。

 この問題を、もう一度振り返ってみます。

 尖閣諸島の領有権については、1972年の日中国交化宣言以降、日中双方ではこの問題をあえて先送りにする、すなわち「棚上げ」にするという合意が出来ていました。その合意を一方的に破ったのが、昨年4月16日の石原慎太郎前東京都知事による尖閣諸島購入宣言であり、野田佳彦前首相による尖閣国有化の断行です。

 実効支配しているのは日本側なのですから、「領土問題は存在しない」という態度で、中国に挑発されてもすずしい顔でいなしながら、守りだけ固めていればよかったはずでした。

 にもかかわらず、わざわざ波風を立て、中国を刺激し、反日デモが吹き荒れる事態となり、その結果、日本国内でも反中ナショナリズムが高揚しました。結果として、12月の衆議院総選挙では、自民党や日本維新の会など、改憲を唱える諸政党が多数の議席を獲得したのはご存知の通りです。

 このままエスカレートしていけば、その果てにたどりつくところは、戦争しかありません。それが国益につながるでしょうか?

 突っ張り続けてきた中国も、振り上げた拳をおろそうとする姿勢を見せ始めています。1月24日に、訪中した公明党の山口那津男代表に対し、中国政府の王家瑞中央対外連絡部長は「棚上げ」を提案しました。

 27日には、アメリカのワシントン・ポストも「尖閣問題は棚上げにすべき」という社説を掲載しました。

 しかし、自民党の石破茂幹事長は「尖閣諸島を棚上げする理由は存在しない」などと発言、2月1日には、安倍晋三首相が参議院本会議で「中国との間で解決する領有権問題は存在せず、棚上げすべき問題も存在しない」と、「棚上げ」を明確に否定しました。

 米国からも中国からも「棚上げ論」が出てきているのに、ひとり日本のみが、猪突猛進して、「棚上げ論を絶対に認めない」などと突っ張り続ける。このままでは、国際的孤立もあり得るのではないかと危惧します。

 日本側の対中強硬姿勢の背景には、米国が後ろ盾として存在する、という依存心があったはずですが、頼みとする米国側は、中国の顔色をうかがい、スタンスを変化させつつあります。安倍総理は、2月21日から訪米し、22日にオバマ大統領と会談する予定ですが、この席上、「集団的自衛権行使容認の話は出すな」と米国側から注文がつきました。

散々、日本側の背中を押し、「9条を改憲せよ」「集団的自衛権行使を容認せよ」「ホルムズ海峡に海上自衛隊の戦艦を出せ」と迫ってきたのは米国側であるのに、日中間の緊張が激化し、米国が紛争に巻き込まれる可能性が高まると、それはかなわないとばかりに、手のひらを返す。そんな米国の御都合主義には呆れるばかりですが、米国側の不実を責めているだけでは仕方ありません。

5日(火)に私がインタビューしたジャーナリストの春名幹男氏は、石原氏の尖閣購入発言の舞台を提供したヘリテージ財団にはエレーン・チャオ氏という中国系移民の政治家が特別研究員のポストについていることを指摘。ブッシュJr.政権の労働長官をつとめたこの女性政治家を通じて、多額のチャイナマネーが流れていると述べました。ヘリテージ財団のような右派のシンクタンクですらそのあり様ですから、あとは押して知るべしです。

 オバマ政権はいざとなれば日本よりも中国との関係を優先するだろうと述べました。

 そもそも、米国内の中国系米国人の数はすでに400万人。エレーン・チャオ氏にみるように、米国のエスタブリッシュメントのトップに食い込む人物も輩出しており、本国との結びつきも固く、経済力も政治力もあります。米国内ではチャイナ・ロビーは、今や、イスラエル・ロビーに次ぐ影響力をもつに至っている、と春名氏は分析しています。

 中国を相手に、いざ戦争などという事態になった場合、同盟国であるアメリカが日本とともに中国と戦ってくれるに違いないと信じて疑わないというのは、ナイーブ過ぎると言わざるを得ません。日米同盟に深入りし、頼みにしすぎることは、外交上、得策であるとは言えません。

北朝鮮が核実験を実施

 12日(火)、大きなニュースが飛び込んできました。12日午前11時59分頃に、北朝鮮が3回目となる地下核実験を行ったのです。15時過ぎに、北朝鮮は「以前よりも爆発力が大きいうえに小型化した核弾頭を使い、高い水準で安全に行われた」と実験の成功を宣言する一方、安倍総理やオバマ大統領をはじめ、世界各国からは相次いで非難声明が出されました。

 この事態を受け、翌13日(水)に、元防衛研究所所長で、小泉内閣、第一次安倍内閣、福田内閣、麻生内閣と、歴代の4内閣に仕え、内閣官房副長官補を防衛省史上最長の5年半つとめ、イラク戦争における自衛隊派遣を統括した経験を持つ元防衛省キャリアの柳澤協二氏へ急遽インタビューを行いました。

 北朝鮮が行った核実験について、柳澤氏は「いずれやると思っていた」と述べ、専門家の間では、ある程度は予想されていたことだと指摘しました。

 そのうえで柳澤氏は、外交を「自己認知を求める争い」と表現しました。尖閣諸島にしても従軍慰安婦に関する歴史認識にしても、現在、日本と東アジア近隣諸国との間で摩擦が生じているのは、「自らが大国になったことを認めてほしい」という、自己認知を求める争いが起きているからだ、と柳澤氏は述べました。

 外交とは、この自己認知のすれ違いを丁寧にすり合わせる過程であるとの柳澤氏の指摘に対し、私がヘーゲルの「認知をめぐる闘争」に言及すると、柳澤氏が「私はフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』でヘーゲルの議論を知りました」と呼応する一幕もありました。

 「フクヤマの言葉を借りれば、『歴史の終わりまで続く闘争』だということを考えなければいけない」と柳澤氏は述べます。憲法改正にしろ、「河野談話」の見直しにしろ、それを行うことが果たして、日本の国家像なり自己認知を東アジア諸国に示す際に賢明な選択肢であるのかどうか、しっかりと考える必要がある、ということです。

 柳澤氏は、現在『「国防軍」ー私の懸念』(かもがわ出版)という著書を、伊勢崎賢治氏と小池清彦氏との共著というかたちで準備されているということです。イラク戦争10周年目前の今年3月中旬に発売される予定とのことで、そのタイミングで、再度、お話をうかがえればと思っています。

 また、柳澤氏が副理事長を務める「地政学研究所」のシンポジウムも、今後、IWJとして取材する予定です。IWJは今後、安倍政権の外交政策を考えるためにも、安全保障や防衛の分野をこれまで以上に力を入れて取材していきます。

朝鮮半島に激震が走ったこの日、IWJは原佑介記者と石川優カメラマンの2名をソウルに派遣、「2013日韓未来への道を問う 国際フォーラム」の模様を現地から中継しました。

 この国際フォーラムは、かつて宮澤改造内閣の官房長官時代に従軍慰安婦問題についておわびの談話(いわゆる「河野談話」)を発表した河野洋平元衆議院議長が出席することもあり、高い注目を集めていました。是非、アーカイブ動画をご覧ください。

 原記者と石川カメラマンは、現地で北韓国大学院大学のヤン・ムージン教授にインタビュー。ヤン教授は北朝鮮情勢分析の専門家として、韓国のメディアにしばしば登場し、コメントをしています。

 教授は取材に対し「北朝鮮は今回の核実験を通し、金正恩体制は安全保障をおろそかにしないという意思表示を行った」と述べるとともに、「北朝鮮に対抗して、韓国も核を持たなければならないと主張する人たちは、物事の1つの側面しか見ていない」と批判しました。

 核に対して核で対抗することが無際限の核拡散につながるという懸念が、韓国国内にも存在することを示しました。

 総じて、韓国では北朝鮮の今回の核実験を落ち着いて受け止めているようです。ソウル街頭での一般市民へのインタビューも敢行しましたが、「怖い」と発言されたのは、20名中1名のみでした。

 また、「米国の核の傘」の下にあるという記載は、あまりポピュラーではないようで、質問をしても大半の人が、きょとんとして応答できない様子でした。

 今回のソウル取材の模様は、メルマガ「IWJ特報」でお伝えする予定です。

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 さらに14日の夜、IWJではお馴染みの孫崎享氏の御自宅へとうかがい、こちらも北朝鮮の核実験をうけての緊急インタビューを行いました。インタビューでは、北朝鮮の核の問題だけにとどまらず、尖閣諸島問題に対する安倍内閣の姿勢や、自民党の憲法改正問題など、日中米韓にかかわる幅広い話題について、約2時間お話をうかがいました。

 孫崎氏は、国境問題について、「多くの国は、国境の最前線に軍隊を張り付けることで安定を得ようとするが、実際には、緊張を生む」と述べ、ノルウェーは冷戦時代、対ソ連との関係を緊張させないため、あえて国境から150km離れた地点まで軍隊を下げた、という話を紹介されました。

 興味深かったのは、日露戦争に至ったのは、当時のドイツの外交戦略が大きい、という話でした。この外交秘史は、ほとんど知られていません。ドイツは、勃興する帝政ロシアの注意を欧州方面からアジアへそらすべく、日本とロシアの対応を画策し、イギリスに日本とドイツの同盟を持ちかけます。

 その後、ドイツ自身は土壇場ですり抜け、日本とイギリスのみの同盟となります。これが日英同盟です。当時、世界の最強国だったイギリスとの同盟が実現し、背中を押された日本は、極東の小国に過ぎなかったにもかかわらず、大国ロシアとの戦争に挑んできわどい勝利をおさめます。

 この戦争によって、日本は朝鮮半島における権益を確立し、ついには日韓併合に至ります。孫崎氏は、司馬遼太郎氏の国民文学的作品『坂の上の雲』で讃えられているこの日露戦争を、(日本にとっては)するべき戦争ではなかった、と主張します。

 戦費のため、多額の借金を抱え、さらなる領土拡大と戦争の拡大にのめりこんでゆく原因となったためです。朝鮮を植民地化しなければ、南下するロシアに日本まで併呑されていたという「通説」も、第一次世界大戦を目前にしていたロシアにはそこまで極東に深入りする余裕も意思もなかったと喝破しています。

 孫崎氏の手元には、イギリスが日露戦争について調べあげた膨大な記録があります。2月23日には、ニコニコ動画の孫崎チャンネルと共同で特別番組をお送りする予定ですので、こうした話題についても言及しようと思います。

 そして、16日(土)には、歴史学者で奈良女子大学名誉教授の中塚明氏のインタビューを行いました。中塚名誉教授は、『坂の上の雲』に代表されるような、日清・日露を戦った明治の時代を、満州事変から第二次世界大戦敗戦までの昭和と比較して「栄光の時代」と描き出す歴史観を、史実にもとづいて検証する研究を重ねてきた方です。

 これまで定説とされてきたこと、教科書で習ってきたことが事実と違っていたのは、そもそも一次史料となる旧日本軍の公刊戦史に捏造があり、事実が歪められてきたからだと、中塚名誉教授は指摘します。発掘された捏造される前の戦史草稿を読むと、日清戦争の発端が朝鮮の独立を目指したものではなく、朝鮮に対する領土的野心を秘めた日本軍の軍事行動であったことが明らかになります。

 インタビューでは、近代における日本の朝鮮への侵略行為を中心に、約3時間にわたりお話をうかがいました。

 日清戦争は、未だに多くの人が、「朝鮮を清国から独立させるための戦争」だったと思っています。しかし、1994年に福島県立図書館で発見された『日清戦史第二冊決定草案』によって、1894年7月23日に日本軍が朝鮮王宮を武力で占領し、国王を事実上、虜にしたことが明らかになりました。

 「突発的な衝突からはじまり、日本軍はやむを得ず応戦、王宮に入って国王を保護した(中塚明著『司馬遼太郎の歴史観~その「朝鮮観」と「明治栄光論」を問う』より)」とされていたのが、実は計画的な作戦行動だったことが立証されたのです。

 さらに、こうした事実が、陸軍参謀本部の部長会議で隠蔽され、改竄するように指示されていたこともその後判明しています。

 次に、中塚名誉教授は、「東学党の乱」を挙げ、「あれはジェノサイドです」と話されました。大本営が「朝鮮半島の西南の隅においつめて皆殺しにせよ(中塚明著『司馬遼太郎の歴史観~その「朝鮮観」と「明治栄光論」を問う』より)という方針を打ち出し、当時、陸軍参謀本部の川上操六参謀次長が「向後悉ク殺戮スベシ(これからは皆殺しにせよ)」と電報を打った事実などを説明され、「農民の犠牲者は、3万人とも言われるが、この事実について、日本人はほとんど知りません」と述べられました。朝鮮国王妃閔妃(ミンピ)の暗殺も、日本軍の計画的な犯行でした。

 尖閣諸島や竹島の領土問題、北朝鮮の核実験など、東アジアにおける緊張が高まっている現在であるからこそ、事実に基づいた正確な歴史認識が必要であり、そのためには、「栄光の時代」として潤色されてきた明治時代にまで遡って、巷間、流布されている「通説」「俗説」を検証することが大切ではないかと思われます。

自民党憲法改正案は「戦場」へと続く道か

 9日(土)には、私が発起人として名を連ねている「ロックの会」で、「IWJナイト」を開催しました。現在、私とIWJが追いかけている様々な問題の専門家の方々にゲストとして登壇していただきました。

 自民党の憲法改正案について、これまで3回に渡りインタビューを行った澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士にご登壇いただき、普段この問題になじみのない方にも分かりやすく解説していただきました。アルジェリア人質事件については、元同志社大学教授でイスラム教徒でもある中田考先生にお話をしていただきました。

さらに、国と東電による原発事故対応の現実については、双葉町の井戸川克隆前町長と映画監督の鎌仲ひとみさんに、昨年末に行われた衆議院選挙における数々の疑問については、実際に「日本未来の党」から出馬された三宅雪子さんと藤島利久さんにお話をしていただきました。

 2時間半という短い時間ではありましたが、豪華なゲスト陣と集まってくださった多くの方々のおかげで、非常に中身の濃いトークショーになりました。出席していただいた方々に、改めて御礼を申し上げます。

 これまで自民党の憲法改正草案については、「ロックの会」にもご登壇いただいた澤藤統一郎弁護士と梓澤和幸弁護士に、逐条でゼミナール形式のインタビューを行なってきました。12日(火)には『日本国憲法の誕生』などの著書がある獨協大学の古関彰一教授に、日本国憲法制定の背景や自民党の憲法改正草案などについての話をうかがいました。

 古関教授のお話で最も興味深かったのが、自民党の憲法改正草案には、宣戦を布告する主体が明記されていない、ということでした。

 国際法では、戦争は、国家元首が最後通牒を文書で相手国に送付することで開始されると規定されています。従って、例えば満州事変などは、国際法上の開戦の手続きを踏んでいないため、戦争ではなく「事変」と呼ばれます。

古関教授は、自民党が憲法案に宣戦布告の主体を記述していないのは、「意図的」ではないか、と述べられました。改憲後に、自民党政権が企図しているのは、戦争ではなく、宣戦布告なき「事変」ではないかというのです。この場合の「事変」とは、米軍に従属して、後方支援を行うことを意味しています。

 日本が太平洋戦争で行ったような、自国が宣戦布告の主体となるような戦争は、今後は起こらない。その代わり、アメリカ主導の戦争には、「事変」というかたちで柔軟に対応出来るようにする。自民党の憲法改正草案の真の狙いはこの点にこそある、という古関教授の指摘は、非常に示唆に富むものでした。

集団的自衛権行使を容認して、日本が戦争に巻き込まれた場合、その戦争はいかなるものになるのでしょうか。

 その手がかりとなるのが、10日(日)、渋谷アップリンクでのシネマトークカフェで上映した「アルマジロ」です。この「アルマジロ」という作品は、デンマークのアフガニスタン派兵に密着したドキュメンタリー映画です。

 冷戦時代に、米国を含むNATO(北大西洋条約機構)対ソ連を想定して、加盟各国は集団的自衛権条項(北大西洋条約第5条)を結んでいましたが、一度も発動していませんでした。冷戦崩壊後に、初めて集団的自衛権第5条を発動させたのです。

 この日は、かつて私がパキスタンとアフガニスタンの国境付近のトライバルエリア(タリバンの主体となっているパシュトゥン人の居住するエリア)で取材した際のエピソードや、冷戦終焉から、湾岸戦争、コソヴォ紛争を経て、9.11後の対テロ戦争に突き進んでいくNATOと米軍の軌跡についてお話ししました。

 「アルマジロ」では、「敵」が誰なのか、一般市民とテロリストの区別が判然としない「対テロ戦争」を戦う若い兵士たちの不安が活写されています。

 祖国から遠く離れた貧しい国で、何のために戦っているのか、という問いが、当事者である兵士だけでなく、観る者の胸に込み上げてきます。

 「集団的自衛権の行使」というテーマは、欧州だけでなく、中国との間で尖閣諸島をめぐって緊張の高まる現在の日本の情勢と重なりあいます。私たちは、今後も引き続きこの「アルマジロ」のような作品を取り上げながら、集団的自衛権のもとでの戦争の実態を検証していきたいと思います。

ニコニコチャンネル開設のご挨拶

 以上、ご紹介しました通り、先週、そして今週と、IWJは多くのインタビューを行いました。それらは、2月4日(月)にニコニコチャンネルに新しく開設した「岩上安身のIWJチャンネル」でも配信を行いました。このチャンネルでは、今後、現在のUstreamを使った配信に並行し、私のインタビューや、選りすぐりの過去の動画アーカイブを配信します。

 また、現在「まぐまぐ」で発行しているメルマガ「IWJ特報!」を、ePubファイルでお読みいただくことが出来ます。現在、同じくニコニコチャンネルで「孫崎享のつぶやき」を配信している孫崎享さんとのコラボレーション番組を準備中です。「岩上安身のIWJチャンネル」に、是非ご期待ください。

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岩上安身 拝

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━◆ 「巻頭言」は、IWJ通信からIWJ週報(仮)へ引っ越しを予定しています。
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 毎週、IWJの“いま”をお届けしているIWJ通信をいつもお読みいただきまして、ありがとうございます。IWJ通信の冒頭にて毎週のご挨拶をさせていただいている「岩上安身の 巻・頭・言」ですが、IWJ通信から、現在プロトタイプを制作中の新・有料メールマガジン「IWJ週報(仮)」へ引っ越すことを予定しています。

 IWJ通信では、IWJの新情報のお知らせごと・告知関連に特化してお届けしていく予定です。ご支援いただいているみなさまに、日々、新たな取り組みについてご報告して参りますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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 現在、IWJの中継コンテンツは週に数十本を超え、会員のみなさまのみならずスタッフでさえ、その集約が困難になっています。

 会員やサポーターのみなさまからも、週1~週3くらいの頻度で、テキスト化されたものが欲しい、との声を、これまで多くいただいてきました。

 そこで、今後はIWJが中継したものを記事化し、取材やリサーチを加え、再構成したものを有料メルマガで配信していこうと考えております。

 これまで、1月29日と2月7日の2回に渡り、定額有料会員のみなさまに、今後発行予定の有料メールマガジン「IWJ週報(仮)」のプロトタイプをお送りし、ご意見をうかがって参りました。

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 特に、以下の点に関してご意見を募集いたしました。

■タイトル
(仮)「 IWJ週報(日報)」、「IWJ新聞」など…

■発行日
毎週金曜日発行予定。現在週1~2で予定しておりますが、多い・少ないなど。(添付のプロトタイプは一週間分のまとめとなっておりますので、週2発行の場合は、量は少なくなります)

■配信形態
サポート会員には無料で配信(もしくはサポート会員用記事としてアップ)。別途、まぐまぐ等での有料メルマガ配信を予定しております。

■料金
まぐまぐの有料配信での料金は現在未定です。(参考:「IWJ特報!」840円/月)

■内容
現在、以下のようなコンテンツを用意していますが、「こんな内容を入れて欲しい」「こういうものが読みたい」など。

【コンテンツ予定】

・巻頭特集
「IWJ通信」でお届けしていた「岩上安身の巻・頭・言!」をリニューアルして、直近の一週間にIWJが取材したと世の中の動きをわかりやすくコンパクトにまとめます。

・IWJ記者の現場レポート
1000字程度の現場ルポを3本程度掲載します。

・ニュースピックアップー今週の中継からー
現場レポートの他に、その週に中継したものの中から注目のアーカイブをピックアップします。

・IWJライブラリー
過去の岩上安身インタビューを連載します。

・IWJカルチャー
文化チャンネルで中継したものをベースに、文化時評を載せていきます。
外部からの寄稿も受け付けます。

↓↓↓↓↓↓↓ その結果、

 皆様から、多くのご意見を頂戴致しました。本当にありがとうございました。頂戴したご意見の一部は、こちらのページでご紹介させていただいています。

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