大手メディアも報じない、地元福島の住民もほとんど知らないうちに、とてつもない施設が福島県内につくられようとしている。福島県いわき市の西側に隣接する人口4000人の鮫川村に、1キロあたり8000ベクレルを超える「高濃度」の放射性廃棄物の焼却施設がにわかに作られようとしているのだ。大手マスコミも、地元メディアも、独立系メディアも、ほとんど取り上げようとしない。IWJはひとり問題が発生した時から追い続けてきた。この施設の建設をめぐって、近隣自治体を巻き込んで反対運動が巻き起こっているのは、以前ブログ記事で報じたとおりである。(岩上安身)
2013年2月14日、IWJは鮫川村役場を訪れ、大樂勝弘鮫川村長へインタビューを行った。村長は、近隣住民の不安に理解を示しつつも、建設事業の見直しはしない意向を示し、「一部の反対派をいかに説得していくかが私の役割」と断言した。
環境省側と食い違う村長の説明
焼却施設建設の経緯について、大樂村長は、「もともとはJAEA(日本原子力研究開発機構)の勧めで、自分が2012年1月から進めてきた話」と語り、環境省は「自分の話に乗っただけ」と、同省に責任はないと強調した。
福島第一原発事故後、除染のための仮置き場が村内になかなか見つからないという状況に頭を悩ませていた村長は、減容化(事前に、焼却、破砕、圧縮などを行い、廃棄物を最終的に処分する容量を少なくしておくこと)の必要性を感じていた。そんな折、2012年1月にJAEAから小型の焼却炉を勧められた。JAEAからは、「大熊町と飯舘村で安全性が実証済の焼却炉で、焼却能力は200kg/時で環境アセスもいらず、50~70万ベクレルの放射性廃棄物を燃やしても、0.7ベクレル程度しか大気中に放出されない」という説明があり、村長もその安全性を確信したという。
しかし、焼却炉は2億円と高額であり、再度紹介された三共の中古のものでも1億円と、村で出せる金額ではなく、導入を躊躇していたという。
村長の話によると、環境省が村を初めて訪れたのは2012年3月23日。鮫川村が行なっていた村民への牛の飼料の無償提供事業について実態調査に来た際に、環境省の福島さんが「何かお困りのこと、お手伝いできることありませんか」と言ってくれたため、「村長から」焼却炉の相談を持ちかけたという。(※1)
しかし、これは環境省側の説明と食い違う。
2013年2月9日に行われた、(鮫川村に隣接する)茨城県北茨城市の住民説明会の場で、環境省は、東日本全体にある8000ベクレル以上の「指定廃棄物」をどう処理するかを、個別に各自治体を訪問し「ご相談」をするなかで、鮫川村に相談したところ、村内で検討後、村側のご理解の得てやることになったと、導入の経緯を説明している。
住民への説明が遅れた理由は「施設がとても安全で、住民への確認が不要だから」!?
「村長から相談を受けた」環境省は、一旦持ち帰り、2012年4月24日に「何とかなりそうだが、設置場所はどこなのか」と回答をしてきたという。そこで、村内の区の総会(説明会)を開いたが、参加した区長はすべて高齢者であり、若者の意見を聞けなかったことが失敗であり、今回の告知不足につながったのだろうと村長は語る。
村内の住民説明会が初めて行われたのは、2012年12月25日。11月15日に工事が着工してから1カ月も経ってからのことである。ここまで説明会が遅れた理由について村長は、「JAEAの説明では、とても安全な施設であり、みなさんに確認する必要があるほどの焼却炉だとは思わなかった」と釈明した。
安全性に疑問を抱きつつも、どんどん事業は進める
近隣住民などの反対や、炉の危険性を指摘する声などにより、村長自身、「もしかして危険があるかもしれないなと思い始めている」という。バグフィルターに関しても、東京のある関連メーカーの人間から、「決して安全ではなく、燃えやすい」という指摘を受けたことを明かした。
しかし、村長は「線量が比較的低いうちのような村が一歩前に出ないと、福島県の復興はない。鮫川で安全性が実証され、今度はいわきでやってみようというふうにどんどん減容化が進めば、必ず福島県の復興はあると思う」と、事業継続の意思を崩さない。
安全性への懸念の声については、「焼却開始後」に、議会議員や村民からの一般公募で20人規模の監視委員会を設置し、厳重に監視していくという。前述の北茨城市の住民説明会で同市の豊田市長が、「結果が出ていないのに安全だと言えるのか」と事業見直しを求めていることについては、「もし焼却炉に不測の事態があった場合でも、1万ベクレルくらいの、本当に線量の低い、(村の中では)すぐそこにあるものが(狭い範囲に)散らばるくらいだから問題はない」と語る。
「すでに村民の大半の同意は得ている」
インタビューで村長は「村民への理解が得られるまでは焼却は中止する」と何度も強調する。しかし、「村民の理解」とは「村民の大半の同意」と意味するのか、という問いに対し村長は「いやいや、私は村民の大半の同意があると思ってますから。せいぜい一部の、1割に満たない人が白紙撤回を求めているんでしょう。この1割の人をいかに説得するかが私の役割だと思っている」と語る。
また、反対の声が高まっているいわき市や北茨城市など、近隣自治体への同意の必要性については、「同意を得る(必要がある)ような焼却炉だとは思っていない」となどと否定した。
構造的な懸念は「メーカー側の責任」
この日立造船の焼却炉には、調整がしにくい、環境省が独自検査をしていない、放射性物質の監視装置が付けられていない、など、構造的な部分で多くの懸念の声があがっている。
これに対し村長は、「バグフィルターの安全性をどうやって理解してもらうかは、日立造船や技術者の責任。メーカー側の責任で、しっかり安全性の説明をしてもらいたい。ただ、環境省が自分で確認をしていない焼却炉を、地方に斡旋するとは思えない」と語る。
浮かびあがる多くの疑問点
インタビューでは、前述した点を含めて、環境省側の説明と食い違う点がいくつかあった。
また、この日の18時より行われた、鮫川村における農林業系副産物の焼却実証事業に係る説明会でも、出席した村長と環境省の担当者に対し、多くの批判と懸念の声があがり、また様々な問題点や矛盾点が明らかになった。
こうした点を含めて、より詳細なレポートは、メルマガ「IWJ特報!」(まぐまぐとニコニコのブロマガで発行)などで、また改めてお伝えすることにしたい。