シリル・ラマポーザ大統領が率いる南アフリカ共和国が、2023年12月29日に、イスラエルのパレスチナ人に対するジェノサイドを告発する文書(申請書)を、国際司法裁判所(ICJ)に提出しました。
IWJは、翻訳ボランティアを募り、応募してくださった3名の翻訳ボランティアの皆さまに、南アフリカ申請書の全文仮訳を進めていただきました。
額田康子様:序文(第1章)、3章(A)、3章(C-1、2)、4章、5章、6章(A、B)
高木康夫様:2章、3章(B-1)、3章(C-3、4、5、6、7、8)
藤原かすみ様:3章(B-2、3)、3章(D、E)、6章(C、D、E)、7章、8章
(ご応募順)
みなさま、お忙しい中、この翻訳プロジェクトに精力的に取り組んでくださいました。ここに心より感謝の意を表します。ありがとうございました。
注も含めると、全体で20万字を超える和文になりました。これから、10数回に分けて、お届けします。(第2回)は、第3章(A)と(B-1)前半をご紹介します。
国際司法裁判所(ICJ)は、7月19日、「1967年以来占領されたパレスチナ領土」におけるイスラエルの56年間に及ぶ長い支配は「違法」であり、その領土での存在を「できるだけ早く」終わらせる義務があると判決を下しました。
しかし、ICJの判決など、全くなかったかのように、イスラエル軍は、ガザ地区におけるジェノサイドを激化しています。
7月24日付の『アルジャジーラ』によると、「過去8ヶ月間で『最も血なまぐさい』イスラエル軍の攻撃のひとつ」が、ガザ南部の都市ハーン・ユニスで行われました。少なくとも89人のパレスチナ人が死亡し、そのほとんどが女性と子供でした。250人が負傷しています。これは、イスラエルが大義名分として掲げるハマスとの闘争ではありません。
昨年の10月7日以降、イスラエルのガザ戦争で少なくとも、3万9090人が殺害され、9万0147人が負傷しました。
「ユーロ・メッド人権監視団」は、停戦が成立するという話が出るたびに、「イスラエル軍は、意図的にパレスチナ民間人の虐殺と大量殺戮の数を増やしている」「これは、イスラエルが、ここ数週間繰り返してきたように、圧力の手段として民間人の殺害や避難を利用して政治的脅迫を行っているという懸念を引き起こす」と報告しています。
「ユーロ・メッド人権監視団」は、すべての国に対し、イスラエルに対して強力な制裁を発動し、あらゆる政治的、財政的、軍事的支援を停止するよう求めました。
ハーン・ユニスの約15万人の住民は、1日で避難することを余儀なくされ、インフラがほとんどない地域に逃げました。
ハーン・ユニスでは、避難する時間がなかったために、食料も水もなく閉じ込められている人々がいます。誰も、彼らの支援のためにたどり着くことができず、誰も彼らを避難させることができません。
イスラエル軍は、ハーン・ユニスの東部に避難を勧告するビラを撒き、市内全域に狂気じみた砲撃を開始しました。ハーン・ユニスで唯一機能しているナセル病院は、輸血用の血液ユニットが不足しています。
『アルジャジーラ』は、「ハーン・ユニスの状況は悲惨だ。砲撃と空爆は続いており、空爆から逃れて、より安全な地域へ移動しようとしているパレスチナ人全員を、イスラエルのクアッドコプターが狙っている」と、報じています。
ヨルダン西岸地区でも、東エルサレムに入る検問所があるカランディアで、イスラエルの装甲車と兵士の大部隊が難民キャンプに侵入し、ムハンマド・マナスラさんの家族の家を爆破しました。イスラエルに対する攻撃を行ったとされる理由で、パレスチナ人の家族を皆殺しにする、集団的懲罰のひとつです。
カランディアの難民キャンプでは、16歳の少年が射殺されました。トゥバスでは、イスラエルの秘密占領軍が町を襲撃し、税関職員の23歳の男性が死亡し、同僚が負傷しています。トゥルカレム地域では、2名のパレスチナ軍が殺害されました。
また、ヨルダン川西岸地区からは、この1日で、少なくとも25人のパレスチナ人が逮捕されています。
『アルジャジーラ』は、過去12時間の間にパレスチナ人が4名殺害されたが、これはまだ始まったばかりだ、と報じています。
イスラエルのネタニヤフ首相は、米国議会で演説をするため、ワシントンに向かいました。ネタニヤフ首相に抗議する抗議者がワシントンDCに集まり、数百人が逮捕されました。
- Israel war on Gaza live: Khan Younis suffers one of its ‘bloodiest’ days(ALJAZEERA、2024年7月24日)
7月25日、米連邦議会での演説で、ネタニヤフ首相は、これは「野蛮と文明の衝突である」と言い、イスラエルが行っているジェノサイドを正当化しました。自らの野蛮さを認めるのかと思いきや、入植してきて土地を奪い、ジェノサイドを行っているイスラエルの側が「文明」で、一方的に被害を受け、犠牲を強いられているパレスチナ人が「野蛮」の側だというのです。『タイムズ・オブ・イスラエル』が演説の全文を掲載しています。
「我々は今日、歴史の岐路に立っている。我々の世界は激動の中にある。中東では、イランの恐怖の枢軸がアメリカ、イスラエル、そしてアラブの友人たちと対峙している。これは文明の衝突ではない。野蛮と文明の衝突である。死を賛美する者と生を神聖化する者との衝突である」。
ハマスやガザの人々、ヒズボラやフーシ派、その背後にいるイランは「野蛮」であり、「死を賛美する者」であり、自分たちは光輝ける「文明」であり、「生を神聖化する者」だと言い切るその発言は、自らを神に選ばれし者と狂信し、ガザの人々を、ナチスがユダヤ人をそう呼んだように、「人間動物」や「亜人間」と呼ぶ、強烈な差別感情に根ざしています。
ネタニヤフ首相は、イスラエルの戦いは神聖なものであり、米連邦議会を取り巻いている反イスラエルの抗議者たちは「悪の側に立っている」と、非難しました。
「残忍な敵を打ち負かすには、勇気と明晰さの両方が必要だ。明晰さは、善と悪の違いを知ることから始まる。しかし、信じられないことに、多くの反イスラエル・デモ参加者は、悪の側に立つことを選んでいる。彼らはハマスの側に立っている。彼らは強姦者や殺人者の側に立つ。(中略)この抗議者たちは、彼らとともにいる。恥を知るべきだ」
「善と悪」の極端な二元論は、ウクライナのゼレンスキー大統領もよく用いるレトリックです。世界にどちらか一方だけが100%正しく、どちらかが100%間違っているという関係などありません。「善と悪」の二元論を裏返して反対側から見れば、イスラエルが純然たる「悪」しか見えません。第三者の目で見れば、どうユダヤ人やイスラエル人を擁護しようとしても、彼らの行動は、「悪」そのものです。
ネタニヤフ首相は「中東では、イランが事実上、すべてのテロリズム、混乱、混沌、殺戮の背後にいる」と、イランを強く非難し、「イスラエルはイランの核兵器から米国を守っている」、と主張しました。
「イスラエルは、イランの核兵器開発を阻止するために行動する。(イランの核兵器は)イスラエルを破壊し、アメリカのすべての都市、あなたが生まれたすべての都市を脅かす可能性のある核兵器である。我々はあなた方(米国民)を守っているのだ」
ネタニヤフ首相は、第二次世界大戦時に、英国のウィンストン・チャーチル首相が米国に支援を求めた時の言葉「道具をくれれば、仕事を終わらせる」を引用して、イスラエルへの支援を訴え、イランの脅威に対抗する中東の安全保障同盟「アブラハム同盟」の結成を呼びかけました。
結局、米国が武器や弾薬を無制限に供給しなければ、イスラエルだけでジェノサイドを続けることもできません。米国の支援なしに、イランやヒズボラ、フーシ派にも対抗できません。
また、シオニストの真の目的、すなわち、パレスチナ人に残されたわずかな土地を、パレスチナ人を1人残らず虐殺するか、追放しながら、奪い取ることも完遂できません。
- PM’S SPEECH’OUR FIGHT IS YOUR FIGHT, OUR VICTORY WILL BE YOUR VICTORY’We’re protecting you: Full text of Netanyahu’s address to Congress(Times of Israel、2024年7月24日)
「ユダヤ人平和の声」の広報部長、ソニア・マイヤーソン=ノックス氏は、『アルジャジーラ』に、「武器禁輸が必要だ。米国によるイスラエル軍への資金援助と武器の供給を停止する必要がある。停戦が必要だ。それを実現する唯一の方法は、我々の武器が、大量虐殺に使用されないようにする恒久的な武器禁輸だ」と訴えています。
- Israel war on Gaza live: Khan Younis suffers one of its ‘bloodiest’ days(ALJAZEERA、2024年7月24日)
以下、南アフリカによる申請書の翻訳の続き(第2回)に入ります。
また、第1回は、以下より御覧いただけます。
III. 事実
A.序論
18. 2023年10月7日以降、イスラエルはガザ地区(以下「ガザ」という)に対し、陸、空、海による大規模な軍事攻撃を加えてきた。
ガザは約365平方キロメートルの細長い土地で、世界で最も人口密度の高い場所のひとつである[48]。
ガザには約230万人(約半数は子ども)が住んでいるが、イスラエルはこの地区に対して、近代戦史上「最も大規模な通常兵器爆撃」のひとつと評される爆撃を加えてきた[49]。
2023年10月29日までだけで、毎週約6千発の爆弾がこの狭い区域に投下されたと推定される[50][vii]。
わずか2ヶ月余りの間に、イスラエルの軍事攻撃は「2012年から2016年のシリアのアレッポ、ウクライナのマリウポリ、あるいは第二次世界大戦における連合国によるドイツへの爆撃に匹敵する以上の破壊をもたらした」[51]。
イスラエルがもたらした破壊はあまりに極端で、「衛星画像で見ると、ガザは今や以前とは違う色をしている。地表がまったく変わってしまった」[52]と、国連事務総長は、安全保障理事会議長に宛てた2023年12月6日付書簡で述べている[53][viii]。これに関連して、国連総会は2023年12月12日付決議ES-10/22「民間人の保護と法的および人道的義務の遵守」のなかで「留意」を表明した[54]。
「ガザ全域の民間人が、重大な危険に直面している。
イスラエルの軍事行動が始まって以来、1万5000人以上が死亡し、その40%以上が子どもであったと報告されている。その他にも数千人が負傷している。家屋の半数以上が破壊された。人口220万人のうち約80%が強制的に避難させられ、ますます狭い地域に押し込められている。
110万人以上がガザ各地のパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)施設に避難した結果、過密で不衛生になり、人々が尊厳を奪われる状況が生まれている。
避難する場所がなく、路上に身を置く人々もいる。戦闘のあとには爆発性の残存物が放置されており、居住不能状態だ。民間人を効果的に保護する手段がない。
ガザの医療システムは、崩壊しつつある。病院は、戦場と化している。36の病院のうち、部分的にでも機能しているのは、わずか14の病院だけだ。ガザ南部にある2つの大病院では、ベッド数の3倍もの人々が収容されているが、必須の物資や燃料が不足している。
そのうえ、そこには、家を追われた何千人もの人々が避難してきている。このような状況では、今後数日から数週間のうちに、治療を受けられずに亡くなる人が増えるだろう。
ガザに、安全な場所はない。
イスラエル国防軍による絶え間ない砲撃の中、避難所も生活必需品もなく、絶望的な状況のなかで、まもなく公共の秩序が完全に崩壊し、限られた人道支援さえも不可能になるだろう。伝染病の蔓延や近隣諸国への大量退去圧力など、さらに悪い展開となる可能性もある。
ラファを通じた物資の輸送は続いているが、十分ではなく、一時的な戦闘休止が終わって以降、搬入物資の量は減少している。端的に言って、私達はガザ内部で支援を必要としている人々に手を差し伸べることができない…。
私達は、人道システム崩壊の深刻なリスクに直面している。事態は急速に悪化しており、パレスチナ人全体にとって、そしてこの地域の平和と安全にとって、取り返しのつかない可能性のある破局へと進展しつつある。そのような結末は、何としても避けなければならない」[55]。
19. この書簡が出されて以降、被害の数値は、さらにはっきりと増大している。ガザのパレスチナ人死者は、少なくとも2万1110人にのぼり、パレスチナ人負傷者は5万5243人以上、その多くは重傷である[56]。
死者数には、7729人を超える子どもたちが含まれている[57]。この数字には、瓦礫の下で死亡していると推定される行方不明の女性と子どもたち4700人は含まれていない[58]。
子や孫や曾孫が一緒に暮らしていた大家族全員が消滅した。ガザの住宅の60%以上に相当する、35万5000戸以上の家屋が、損壊または破壊された[59]。190万人のパレスチナ人(全人口の約85%)が、国内避難民となった[60]。
イスラエルの命令によって、多くの人々がガザ北部から南方へと逃げたが、南部で再び空爆を受け、さらに南部か南西部に逃げるよう命じられた。避難先では、水も衛生設備も何の施設もないキャンプで、その場しのぎのテント暮らしを余儀なくされている[61]。
イスラエルがガザの病院を爆撃、砲撃、包囲してきた結果、36あった病院のうち現在機能しているのは13院だけで、その13の病院も部分的に機能しているに過ぎない。ガザ北部には、通常に機能している病院は残っていない[62]。
ガザの医療制度はほとんど崩壊しており、手足の切断や帝王切開を含む手術が、麻酔なしに行われたとの報告もある[63]。かなりの割合の負傷者や病人が、まったく治療にアクセスできないか、または適切な治療を受けることができない[64]。パレスチナ避難民の間では、感染症や伝染病が蔓延している。専門家は、髄膜炎、コレラその他の発生リスクを警告している[65]。
ガザでは、全人口が差し迫った飢饉の危険にさらされている。総合的食料安全保障レベル分類(IPC)にしたがえば、壊滅的なレベルと分類される食糧不足に晒されている世帯の割合は、過去最大となっている[66]。
専門家は、飢えと渇きによる静かで緩慢な死は、イスラエルの爆弾やミサイルによってすでに引き起こされている暴力的な死を上回る危険があると警告している[67]。
20. 国連総会は「ガザ地区における壊滅的な人道的状況とパレスチナ民間人の苦しみに深刻な懸念」を表明した[68]。国連安全保障理事会は「子供達に、より過酷な影響が及んでいる」と特に指摘した[69]。また2023年12月12日には、国連総会決議ES10/22のなかで、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)長官が、国連総会議長に宛てた2023年12月7日付の書簡に対して、国連総会は「留意する」と明確に表明した。この前代未聞の書簡の中で、長官は「(私が)遂行すべき任務の崩壊を…予測する」と述べ、「ガザとその人々の壊滅に終止符を打つ」よう求めている[70]。
B.背景
1. ガザ地区(以下「ガザ」という。)
21. ガザは、西を地中海、南をエジプト、北と東をイスラエルに囲まれた細長い土地である。東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区とともに、ガザは、1967年にイスラエルに占領されたパレスチナ占領地(「オプト」)であるが、1995年2月15日に南アフリカに承認され、2012年11月29日に、国連で非加盟オブザーバー国の地位を与えられたパレスチナ国の2つの構成地域の1つである[71]。
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