2022年6月2日、翌日行われる「種子法廃止等に関する違憲確認訴訟」第7回口頭弁論に向けて、東京都千代田区の司法記者クラブで原告側弁護団が記者会見を行った。
同訴訟は、戦後、良質な農産物の種子を生産してきた「主要農産物種子法」(種子法)を国が廃止したこと(2018年4月1日)は、憲法25条の生存権の保障等に抵触するとして、全国の農家や消費者ら約1300人(その後順次増加)が国を相手取り、2019年5月24日に東京地裁に提訴したもの。請求内容は、「主要農産物種子法を廃止する法律」の違憲無効の確認、採種農家、一般農家、消費者が種子法にもとづく活動を行う地位の確認、原告への損害賠償(各1万円)を求めている。
IWJでは、これまで、種子法の問題について、同訴訟を呼び掛けた元農林水産大臣・山田正彦氏への岩上安身によるインタビューをはじめ、繰り返し報じてきた。
記者会見では、弁護団の山田正彦弁護士(元農林水産大臣)、池住義憲立教大学大学院キリスト教学研究科教授、平岡秀夫弁護士(元法務大臣)が登壇。
池住教授は裁判経緯について、最初の訴訟は「TPP交渉差し止め違憲訴訟」(2005年)で、2018年敗訴。しかし、裁判中に種子法が廃止となり、それはTPPとの関連で生じたとの判例が提示されたことを受けて今回の訴訟に至ったと説明した。
平岡弁護士は、翌日の口頭弁論で、3人の原告本人尋問(採種農家、一般農家、消費者)、と証人尋問(憲法学者、元農業試験場職員、農業経済学者)が行われるが、国はこれまで原告側主張に積極的反論をしてこなかったため、反対尋問を行うかは不明とした。
山田弁護士は、憲法25条の生存権にもとづく「食料への権利」として、安定的、持続的に、安全なものを国民は国から提供を受ける権利があると主張。憲法25条は国際法上で解釈すべきという有力学説を踏まえ、社会権規約(国際人権A規約)では安全なものを安定して持続的に提供すべきとされ、日本はこれを批准している。したがって、憲法25条の「食料への権利」を認めるべきであり、種子法廃止はそれに反していると指摘した。
IWJ記者は、以下の質問をした。
IWJ「今回は、国際法にも鑑みながらの違憲訴訟ということになりますけれど、最大の争点、論点は何になるとお考えでしょうか?」
山田弁護士「海外の国際法上の見地から25条は具体的に、権利として具体的に生存権を認めるべきだという学説がありますよね。それに対して、海外の社会権条約という中のやはり25条に、いわゆる安全なもの、害のあるものを国民に与えてはならないとか、そういうものが書き込まれているんです。
それを、証拠で我々は出しています。だから、かなり具体的な権利だという主張をしているところで、裁判所も国側に対して、『まともに反論しないと不利益を受けますよ』と言って、調書にも書き込んでくれました。それでなお一向に反論してきてないっていうのが現実です」
IWJ「つまり国側からの反論がきちんとなされるかどうかが、一つの論点、争点になりそうだということですね?」
山田弁護士「そうですね。多分反論はしてこないんじゃないかと思うと、先ほどNHKの方が言われたように、最終準備書面を我々も書いて、向こうも書いて、そして結審ということになるので、早ければ年内に判決という形になるんじゃないでしょうか」
池住教授「たいへんポイントを突いたご質問、ご指摘、ありがとうございました。
細かいことは省略いたしますけど、実は、この裁判を起こした直後に、裁判をなぜ起こしたかという提訴をわかりやすく書きまとめた『消された「種子法」』という小冊子を出しました。この中の第5章に、今ご質問をくださった国際法の動き、国際的にどういうふうに違反をしているのか、逆行しているのか、例えば小農の権利とか、国連の決議とか、そういう方向にどう逆行しているか、詳細のことに触れています。
この主張は既に出してありますけど。全部終わったわけではなくて、まだまだ主張したいこと、言いたいことはあるわけですけれど、国側との関係の中で、残念ながら応答がなくて、議論ができないということになっていると。そういう状況の中で明日を迎えるわけですね」
- 『消された「種子法」』(かもがわ出版、2019年11月)
IWJ「今回、損害賠償を求めるという形の裁判で、その種子法廃止を直接ひっくりかえすということではないのかな、と思うんです」
山田弁護士「そうじゃなくて、種子法廃止違憲確認訴訟、これが認められれば、種子法は無効になるわけです。種子法廃止法は無効になるわけです。で、種子法がもとに戻るって形になります」
IWJ「では、この3つの個別具体の事例(採種農家、一般農家、消費者)からひっくり返していって、それが廃止につながる…」
池住教授「正確に言いますと、これ、違憲確認を司法府に求めている、そういう裁判ですね。で、これが違憲確認されれば、それをなくすということは、法的には手続き上すぐに、イコールになるっていうことではいかないわけですが、当然、政府が、司法府が違憲とした法律をどうするかというのは、今度は立法府の責任で、世論の声を聞きながら対応するかという問題になってきます。
私たちは今、山田さんが言われたように、違憲が確認されれば、そういう方向にということを願っています」
IWJ「つまり、違憲性の確認が、ここで取れれば、法律の改定に、もう一回廃案をひっくりかえすということですね」
池住教授「これ、平岡さんからも。種子法廃止法がもう施行されてますから、2018年4月1日から。これを変えるためには、種子法を廃止したのをなしにするという法律にするのか、行政の何らかの手続きが必要になってくるということになりますか?」
平岡弁護士「いや、たぶんですね、これ第一審ですから、第一審で裁判が確定するっていうことはないと思いますけど。裁判が確定をしたらですね、これは違憲ということでありますから、種子法廃止法が違憲ということでありますから、直ちにその確定した時点で、廃止法が無効になって、元の種子法が生き返っちゃう、そういう位置づけになるだろうと。
新たに立法措置を講ずるということは必要ない。そうしないと、立法措置を講じない状態がずっと続いたら、いつまでも続いてしまうという、非常に不条理な状態が発生してしまいますからね。
ただ、まあ、いろんな違憲訴訟の形態がありますから。たとえば、夫婦選択的別氏制度みたいな、夫婦同姓が違憲であるという(判決が)仮に出たときに、じゃあそれをどう動かしていくのかというのは、具体的に法律ができないと、動いていけないということで。具体的に法律を作らなければ、実施ができないという、そういう違憲ていうのもありますよね。
この場合は違憲無効ですから、確定したら直ちに廃止法が無効になって、種子法が生き返るという、そういう状態になる」
山田弁護士「ただ一つ心配なのは、国側から主張しているのは、(県等による)種子条例ができたから、事実上、実害がないじゃないか、従来どおり、優良な種子が安定して提供されているということを、国側が主張している面はあるんで。
具体的な被害と、具体的な違法性について、今、弁護団としても、非常に苦心しながら、憲法学者の意見をもって争っていると」
IWJ「種子条例があるからいいじゃないかという国の主張は、まっとうだと思われますか?」
山田弁護士「ただ、おなじ種子条例ができている栃木県では、既に、種子の原価が3倍にあがっていますから。だから、農家にとっては、かなり負担が生じている。
で、栃木県では、かつて県が審査しておったものを、やめてしまったという。だから、優良な安定した種子が、品質のいい、これまでどおり農家の手に入らなくなり、かつ価格はどんどん高くなってきている。そういう主張を今我々はしているところです」
会見内容について詳しくは、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。