在日コリアンが多く住む京都府宇治市のウトロ地区で、住宅や倉庫など計7棟が焼け、貴重な地域の史料が消失する放火事件が2021年8月に発生した。史料は2022年4月に開館する「ウトロ平和祈念館」で展示予定だった。
容疑者は約1か月前にも韓国民団愛知県本部と韓国学校に放火を行った疑いで起訴されており、連続した「ヘイトクライム」の可能性が高いとされる。
事件を受けて2021年12月26日、「ウトロでの放火事件を許さない ヘイトクライムのない社会をめざす市民集会」が、京都の同志社大学で開催された。全国・海外へも配信され、会場200人、オンライン250人(うち韓国20人)が参加した。
本記事では、IWJが取材した集会の模様をお伝えする。また、IWJが事前に集会事務局に問いかけた「『ヘイトクライム』を国会論戦の場に出してはどうか」等の質問と、事務局の回答をご紹介する。
ヘイトクライムに関しては、2022年3月16日深夜に発生した福島県沖地震直後にも、『朝鮮人が井戸に毒を投げた』等のヘイトデマのツィートが行われ、立憲民主党の有田芳生参議院議員がこれに対する注意を呼びかけた。
実は有田議員は、直前16日の参院法務委員会で、ウトロ地区の放火事件を取り上げて、京都府知事や政治家の責任を指摘、ヘイトクライムへの認識を法務省人権擁護局に問いただしていた。これらの詳細を下記日刊IWJガイドでお伝えしているので、あわせて御覧いただきたい。
▲京都府宇治市のウトロ地区の街並み(2009年11月3日)(Wikipedia、Abasaa)
7棟を焼き、貴重な歴史資料を焼失したウトロ地区放火事件は、連続する「ヘイトクラム」の一環ではないか!?
2021年12月26日に、京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会と同志社コリア研究センター、同志社大学人文科学研究所第8部門研究の主催で「ウトロでの放火事件を許さない ヘイトクライムのない社会をめざす市民集会」が開催された。
この集会は、京都の同志社大学の会場とZoomを介して全国・海外へも配信された。会場参加200人、オンライン参加250人(うち韓国から20人)が参加した。
日刊IWJガイド2021年12月19日号でもお伝えしたように、在日コリアンが多く住む京都府宇治市伊勢田町ウトロ地区で2021年8月30日に起きた放火事件の容疑者が、12月6日に逮捕された。12月27日には京都地検が容疑者を「非現住建造物等放火」の罪で起訴した。
この火災でウトロ地区の住宅や倉庫など計7棟が焼け、地域の歴史を伝える資料が焼失した。
容疑者の犯罪歴から、この放火事件がたんなる刑事事件ではなく、差別動機にもとづいて朝鮮半島にルーツを持つ民族集団を狙った「ヘイトクラム」だった可能性が非常に高くなった。
逮捕された有本匠吾容疑者は、2021年7月24日にも名古屋市にある韓国民団愛知県本部とその隣の韓国学校の雨どいや芝生に放火した疑いで10月に逮捕され、器物損壊などの罪で11月に名古屋地検に起訴されている。
2021年8月に放火されたウトロ地区は、1940年から日本政府が推進した「京都飛行場建設」に動員された朝鮮人労働者たちの飯場跡に形成された集落である。
有本容疑者は、2021年7月24日、8月30日と、短期間に連続して朝鮮半島にルーツを持つ民族集団を狙った「ヘイトクラム」を実行した可能性が高いのだ。しかも、このヘイトクライムは時間を追うごとにその被害が深刻になっている。
▲ウトロ地区では2016年から家屋が取り壊され、市営住宅を建設、住民が入居した。写真は市営住宅1期棟(2018年1月2日)(Wikipedia、Suikotei)
「司法行政は卑劣なヘイトクラムの動機を解明、起訴すべき! 社会の沈黙は被害者を孤立させ差別に加担」と主催者!
2022年4月に地区の歴史を紹介する交流施設「ウトロ平和祈念館」がウトロ地区に開館するが、この放火によって、倉庫に保管し展示を予定していた生活用品や住民運動などで使った看板40枚なども焼失してしまった。
「ウトロでの放火事件を許さない ヘイトクライムのない社会をめざす市民集会」を呼びかけた京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会は、この集会の開催趣旨を次のように述べている。
「(前略)本件は、朝鮮半島にルーツをもつ特定の民族集団に対する差別動機が非常に強く疑われる事件であり、そうであれば、これは重大なヘイトクライム事件です。
人命を危険にさらし、ウトロの歴史を証明するかけがいのないものを一瞬にして奪い去った、卑劣なヘイトクライムです。司法行政機関は事件の動機を周到に解明し、ヘイトクライムの危険性に即して起訴すべきであり、刑事司法はヘイトクライム根絶をめざして積極的に対応すべきです。
(中略)
ウトロ放火事件を前にして、わたしたちの社会が沈黙することはヘイトクライムの被害者を孤立させ差別に加担することを意味します。捜査の進展が報じられないかなか、放火事件を許さずヘイトクライムのない社会をめざす声を上げなければならないと考え、緊急集会を企画しました」
ウトロ地区で「在特会」等のヘイト行動頻発! 7年間で13回も!
この集会で驚いたことの一つが、2008年12月から2015年5月までの7年間に起きたヘイト行動が、京都のウトロ地区だけで13件もあったということだ。
たとえば、2008年12月14日には、「桜井誠とウォーキングツアー in ウトロ」が、「在日特権を許さない市民の会」(通称「在特会」)の主催でウトロ地区で行われた。
同日には、ウトロ地区の最寄り駅である近鉄京都線の「大久保」駅前にて、「史上初! 京都ウトロ抗議行動」が「在日特権を許さない市民の会」主催・「主権回復を目指す会・関西」の協賛で行われた。
▲【在特会】桜井誠とウォーキングツアー in ウトロ」(ニコニコ動画、2008年12月15日)
▲【在特会会長/桜井誠編】京都ウトロ地区・在日不法占拠を許すな!」(ニコニコ動画、2008年12月15日)
こうした在特会などのヘイトデモ、ヘイト集会の動画を観ると、その歪んだ排他的・差別的な心性に気分が悪くなってくる。
「動機が差別と嫌悪なら、在日同胞たちには日常が破壊される恐怖と不安を抱かせる」と韓国市民団体「KIN(地球同胞連帯)、ウトロ祈念館のための市民会」が声明文!
「ウトロでの放火事件を許さない ヘイトクライムのない社会をめざす市民集会」では、ウトロから、主催者から、そして海外から、多くのスピーチやメッセージが寄せられた。
この中で、韓国市民団体である「KIN(地球同胞連帯)、ウトロ祈念館のための市民会」は、12月15日に声明文を出し、次のように指摘している。
「インフラが整備されておらず、家屋が密集したウトロ地区での放火事件はとても大きな被害が出る可能性もあり、地区住民の生命と財産を脅かす非常に深刻な犯罪です。
また、複数の看板など地区の歴史が見られる遺物が消失し、同胞の歴史を保存するための努力が取り返しのつかないほどに毀損されたことは痛恨の極みです。
最も重大なことは、今回の放火が同胞に対する差別と憎悪に基づく『ヘイトクライム』と疑われることです。
もしその動機が差別と嫌悪なら、在日同胞たちには日常が破壊される恐怖と不安を抱かせる悪な犯罪です。
このような状況で、ウトロ地区の精神とウトロ平和祈念館は、その役割がとても重要であることが再確認される。差別の歴史を連帯の力で克服したウトロ地区の経験は、『ヘイトクライム』によって毀損されてはいけない大切な資産です。
ウトロ平和祈念館が日本の市民と在日同胞が、韓日の市民と同胞が一緒に交わる大きな広場、広い家になるよう、皆が共に知恵と力を集めてくださるのを強く訴えます」
京都府警と京都地検に「差別に基づくか徹底的に捜査」と「厳正に起訴及び求刑」を求める外国人人権連絡会の声明に153団体が賛同!
さらに、外国人人権法連絡会は、12月21日、「ウトロの人々と連帯しヘイトクライム根絶をめざす声明」を発表し、その中で、民主主義社会に関する重要な指摘を行っている。
「ヘイトクライムの本質は、歴史的、構造的に差別されてきた属性を有する人々に対する迫害であり、その被害は直接攻撃された人のみならず、その属性を有する人々を日常的な恐怖、屈辱感、絶望感に陥れます。
また、社会にその属性をもつ人々を差別し攻撃して構わないとの雰囲気が醸成され、暴力や排除、さらにはジェノサイドへもつながり、民主主義社会を破壊します」
まさに、関東大震災のときの朝鮮人大虐殺を引き起こした差別的な心性と同質のものが、ウトロ地区放火事件には存在する可能性が非常に高いのだ。その意味で、極めて深刻な犯罪と言わざるを得ない。
外国人人権連絡会は、声明を次のような訴えで結んでいる。
「今回の事件について、京都府警及び京都地検に対し、差別に基づくものであるか徹底的に捜査し明らかにすること、ヘイトクライムであった場合には、その重大性に相応しく厳正に起訴及び求刑を行うことを求めます。
また、内閣総理大臣、法務大臣、京都府及び宇治市の首長、議員らが直ちにウトロを訪れ、住民の被害を聞き、被害を放置しないこと、ヘイトクライムの危険性が高く決して許さないと宣言することを求めます。
そのような行動が人種差別撤廃条約の定める責務にかなうものです。そして、ヘイトクライム対策を含む人種差別撤廃政策及び法整備を緊急に行うことを求めます。
私たちは、ウトロの人々を孤立させず、被害回復及び再発防止に向け、また、ヘイトクライムの根絶のため共に闘うことを全国の皆さんに呼びかけます」
この声明には、2021年12月25日時点で、国内の153団体が賛同を表明している。
このウトロ放火事件は、差別構造を再生産し有本容疑者を作り出した日本社会全体が加害者であり、即、その構成員は次の別の差別のターゲットになり得るという問題として、当事者意識を持てるかどうかが、問われているように思われる。
ウトロで育ち、いても立ってもいられなくなったとこの集会に参加した韓国在住の弁護士、クー・リャオンさんは「一番怖いのは社会の無反応です」と述べている。
IWJが「『ヘイトクライム』を国会論戦の場に出しては」と問いかけ!
IWJは、この集会に先立ち、集会事務局に次のような質問を行った。
※本記事は「note」でも御覧いただけます。単品購入も可能です。
https://note.com/iwjnote/n/nd020bc605bd9