【特別寄稿】都知事選討論会でヘイトスピーチ禁止条例制定を明確に拒否した小池百合子都知事! ノンフィクション作家加藤直樹氏が暴く草の根右翼ネットワークと小池都知事ら極右政治家による歴史修正の策動! 2020.7.3

記事公開日:2020.7.2 テキスト動画
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(ノンフィクション作家 加藤直樹)

 7月5日に投開票を迎える東京都知事選。新型コロナウイルス感染症対策や東京五輪の開催問題に注目が集まるが、ヘイトスピーチ対策でも各候補者の主張は異なる。もちろん、もっとも注目すべきは「大本命」の小池百合子氏の言動である。

 2016年のヘイトスピーチ解消法「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」成立・施行から4年が経過し、川崎市ではこの7月1日に、ヘイトスピーチに対して刑事罰を科せられる「差別のない人権尊重のまちづくり条例」が施行された。

 6月27日に行われた、「Choose Life Project」による「わたしの一票、誰に入れる?都知事選候補に聞く10の質問 #都知事選候補討論会」では、討論会に参加した4人の候補者、れいわ新選組代表の山本太郎氏、現職の小池百合子氏、元日弁連会長の宇都宮健児氏、元熊本県副知事の小野泰輔氏に「10の質問」が投げかけられた。

 その中のひとつ、「罰則付きの『ヘイトスピーチ禁止条例』の制定を目指す?」との質問に対し、山本氏と宇都宮氏は○を、小池氏と小野氏は×をつけた。現職の都知事であり、再選の可能性がきわめて高いとされる小池百合子氏が「ヘイトスピーチ禁止条例」の制定に真っ向から「NO!」という意志を示したのだ。「ダイバーシティ(多様性)」というスローガンを掲げて都知事の座に着いた人物が、他方では排他的なヘイトスピーチを許容するという意志を示したのである。くだんの討論会では、さして力点が置かれなかったが、これは非常に重い事実だ。

 現職の小池百合子都知事が2016年に当選した翌年の2017年、毎年関東大震災の起きた9月1日に東京都墨田区の都立横網町公園で行われている「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」に追悼文を送付しないと発表したことはIWJでも大きく取り上げた。

 さらに東京都は昨年の追悼式典後、式典の実行委員会に対し、公園使用に関する条件を提示して、守れない場合は式典が中止されたり「不許可」になったりしても「異存ありません」との誓約書を書くよう求めている。これに対し、この誓約書は到底受け入れられないとして、実行委員会は従来通り無条件に、ただちに占有許可を出すよう求める声明を5月18日に発表した。

 小池都知事が2017年から追悼文送付を取りやめたことと、今年の追悼式典について実行委員会に公園の占有許可が出されていないことについては、前述の「Choose Life Project」による討論会でも取り上げられた。

 司会のジャーナリスト津田大介氏は小池都知事に「なぜ(16年は追悼文を出したのに)17年からこれをやめたのか。どのような歴史認識で行っているのか、はっきりお答えいただきたい」と質問した。

 小池都知事は「毎年、9月、3月、横網町の公園内の慰霊堂で開かれております大法要で、関東大震災、その先の大戦の犠牲となられた方々への哀悼の意を表しているところであります。大きな災害で犠牲になられた方々、それに続いて、さまざまな事情で犠牲になられた方。これらのすべての方々へ対しての慰霊の気持ちに変わりはございません」と、これまで通りの答えを繰り返した。

 これに対して津田氏は「であれば、なぜ一時は出していたものを、取りやめという形にしたのか」と重ねて追及。

 小池都知事は「いえ、それはですね、今申し上げましたように、さまざまな事情で犠牲になられた方、大きな災害で犠牲になられた方、その方々の、お気持ち、お心、ということで、哀悼の意を表させていただくのが、毎年9月、3月の慰霊堂での式であるということであります」と、全く答えになっていないことを繰り返した。

 さらに津田氏が「虐殺と自然災害のものを、一緒くたにして問題ないという認識ということでよろしいでしょうか」と迫ると、小池都知事は「慰霊をするという点で、この大法要での慰霊に合わせていただいております」と、またも答えをはぐらかした。

 これは「虐殺と自然災害のものを、一緒くたにして問題ない」と認めたも同然である。

 『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(2014年、ころから https://amzn.to/2Zk4PJn)、『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(2019年、ころから https://amzn.to/2Vmxk7J)などの著者で、1923年の関東大震災の際に起きた朝鮮人虐殺問題を追及し続けているノンフィクション作家の加藤直樹氏は、東京都が実行委員会に対して誓約書の提出を求めていることに対して、127人の知識人と1団体の賛同を集めた共同声明を取りまとめた。IWJは、この全文をサイトに公開している。

▲加藤直樹氏(2020年6月24日、IWJ撮影)

 小池都知事の追悼文取やめのきっかけは、2017年3月2日の都議会で行われた、自民党の古賀俊昭都議(故人)の質問だったと報じられている。古賀氏はこの時、工藤美代子著『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』という本を根拠に虐殺否定論を展開。追悼文送付取り止めを小池都知事に迫った上、朝鮮人犠牲者追悼碑を「日本人へのヘイトスピーチ」と糾弾して撤去を求めた。

 この古賀氏の質問や、東京都が追悼式典の実行委員会に誓約書の提出を求めている問題の背後には、女性極右ヘイト団体「日本女性の会 そよ風」の周到で悪意に満ちた根回しがあった。「そよ風」は、全国各地で日本の負の歴史の痕跡を消し去る歴史修正の活動を続けている草の根右翼である。

 「そよ風」とその周辺にうごめく草の根右翼ネットワークの悪意に満ちた歴史修正の活動と、それに加担する小池百合子東京都知事や自民党の極右政治家たちの関係について、加藤氏から「朝鮮人犠牲者追悼式典をめぐって何が起きているのか」と題したご寄稿をいただいた。

 なお加藤氏は、前述の著書『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』で、これらの虐殺否定論の悪意に満ちたトリックを一つ一つ丁寧に暴いている。また、6月24日にはこの著書をもとに講演を行い、IWJもこの講演を生配信し、録画を公開している。

 6月27日には加藤氏と同じく「そよ風」による「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」潰しの活動を追及しているジャーナリストの安田浩一氏が講演を行い、IWJはこれを生配信した。こちらの録画も公開しているので、ぜひ、あわせてご覧いただきたい。

▲第24回学習会 もうひとつの“慰霊集会”の真実――差別団体「そよ風」とその背景について ―登壇:安田浩一氏(ジャーナリスト)

(前文:IWJ編集部)

朝鮮人犠牲者追悼式典をめぐって何が起きているのか

加藤直樹(ノンフィクション作家)

 

都の「誓約書」要求の何が問題なのか

 東京・横網町公園は、関東大震災の死者を悼むために造られ、戦後は東京空襲の犠牲者もあわせて悼む場となった「慰霊の公園」である。

 この公園に、関東大震災時に虐殺された朝鮮人を悼む「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」が建立されたのは1973年のこと。建立したのは、文化人や宗教者、そして自民党から共産党に至る当時の都議会全会派の幹事長たちも参加する建立のための実行委員会だ。

 その後は毎年9月1日、40年以上にわたって、この碑の前で日朝協会を中心とする追悼式典実行委員会による「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」が、静かに行われてきた。

 この追悼式典が世の注目を集めたのは2017年のことだ。小池百合子都知事が、それまで歴代の都知事が行ってきたこの式典への追悼文の送付を取りやめたのである。それから3年間、小池都知事は追悼文を送っていない。

 そして今、この追悼式典をめぐって、またしても不穏な動きがある。昨年末、東京都建設局が、追悼式典実行委員会の公園使用申請に対して、公園使用についていくつかの条件を提示し、それらを守ることを誓う「誓約書」の提出を求めているのである。そこには、条件を守れない場合は、式典が「中止」されたり「不許可」になったりしても「異存ありません」との誓約も含まれている。

 示された条件の多くは常識的なもので、追悼式典が現に遵守しているものばかりだが、一方でどうとでも解釈できる曖昧なものも含まれている。

 追悼式典実行委員会は誓約書の提出を拒み、5月18日には抗議声明を発した。それによって事態を知った人々の間では抗議の声が広がり、3万人のネット署名、127人の知識人声明、さらには東京弁護士会の会長声明が出される展開となっている。

 常識的な内容の条件を求められているだけなのに、どうしてそこまで大騒ぎになるのか、誓約書なんか書いてしまえばいいじゃないか――と疑問に思う方もいるかもしれない。

 だがこの問題は、そう単純ではない。それを理解するには、この数年間の出来事を知ってもらう必要がある。

 実は東京都が申請に当たって誓約書の提出を求めているのは、追悼式典に対してだけではない。同じ日の横網町公園で2017年以降、独自の集会を開いている「日本女性の会 そよ風」に対しても、同様の要求を行っている。都の担当者は東京新聞の取材に対して、両者の間での「トラブル」を回避するために「公平に誓約書をお願いすることにした」とコメントした(同紙5月26日付)。

 目的はトラブル防止だという。だが実情を踏まえれば、この「誓約書」には、「不当性」と「危険性」が潜んでいる。

ヘイト活動家が集まる「そよ風」集会

 「不当性」とは何か。ヘイト活動家の集会とヘイトクライムの犠牲者を悼む式典を、同列に、しかもセットにして規制することの不当性である。

 「日本女性の会 そよ風」は、在特会やネオナチ活動家とも共闘関係にある排外主義右翼団体だ。代表の鈴木由起子(涼風由喜子)氏は、「日韓国交断絶国民大行進」と称する連続ヘイトデモを主催したこともある。「キレイゴトの持込は厳禁」と掲げるこのデモは、「朝鮮人ヲ一匹残ラズ殲滅セヨ」というプラカードが掲げられるような度し難いものだった。

 「そよ風」はさらに、2016年春から横網町公園の朝鮮人犠牲者追悼碑の撤去を求める行動を開始。翌17年からは、追悼式典と同日同時刻に意図的にぶつけるかたちで、彼らの集会「真実の関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」を毎年、開くようになった。

 石原町は震災当時、ほとんどの町民が亡くなる甚大な被害を出した地域である。ただし、「そよ風」は、震災で亡くなった石原町の人々を追悼しているわけではない。彼らは、単に石原町の震災犠牲者を悼む碑の「前で」集会を行うと宣言するだけで、石原町の犠牲者を慰霊するとは一言も言っていない。「慰霊祭」の中で石原町の犠牲者に具体的に言及されることは皆無だ。しかも石原町の町会にも何の断りもなく行われている。

 実際には、そこでもっぱら語られているのは、「朝鮮人が震災に乗じて略奪、暴行、強姦などを頻発させ、軍隊の武器庫を襲撃したりして日本人が虐殺されたのが真相です。犯人は不逞朝鮮人、朝鮮人コリアンだったのです」といった演説だ。

 言うまでもなく、当時、朝鮮人が日本人を虐殺したなどという事実はない。念のため書いておけば、関東大震災時に殺人、放火、強盗、強姦の罪で起訴された朝鮮人は1人もいない。一方で朝鮮人や朝鮮人と間違えた相手を殺傷して起訴された日本人は566人に上る。

 だが「そよ風」集会は、拡声器を朝鮮人犠牲者追悼式典の方向に向けて、こうした虚偽にもとづくヘイトスピーチを大音量で放送している。

▲「そよ風」集会の様子(19年9月1日)。拡声器を外に、つまり朝鮮人犠牲者追悼式典の方向に向けているのが分かる。

 つまり、「そよ風」集会の実態は、ヘイト活動家たちが虚偽にもとづいて虐殺=ヘイトクライムの歴史を否定し、その犠牲者を貶めるヘイトスピーチそのものの集会なのである。そうした集会と、ヘイトクライムの犠牲者を悼む式典をひとくくりにして規制するのは、あまりにも不当である。

目標は追悼式典と共に「不許可」となること

 さらにこの「誓約書」要求は、「不当」であるだけでなく危険でもある。「トラブル回避」「公平」の名の下に、「そよ風」集会と朝鮮人犠牲者追悼式典とを同時に「不許可」とするという判断につながりかねないという危険だ。実は、それこそが「そよ風」集会の狙いなのである。

 「そよ風」顧問の村田春樹氏は、それを次のように率直に語っている。

 「我々の当面の目標は、来年からは彼我両方の慰霊祭が許可されず、秋篠宮両殿下の静粛な慰霊祭のみが執り行われることです」

※(「そよ風」関係者ブログ、18年8月31日付記事)
http://blog.livedoor.jp/monnti3515/archives/1072439669.html

 「秋篠宮両殿下の静粛な慰霊祭」とは、横網町公園の慰霊堂で行われる東京都主催の本法要を指している。「彼我両方の慰霊祭」とは、「そよ風」集会と朝鮮人犠牲者追悼式典のことだ。

 つい最近の6月17日には、「そよ風」ブログに、友好団体の会長の激励の言葉として「対立を煽る式典は双方にとって無益だ。そよ風さんは双方の追悼式典がなくなるまで戦って欲しい」なる一文が掲載されている。

http://blog.livedoor.jp/soyokaze2009/archives/51921763.html

 つまり「そよ風」集会と朝鮮人犠牲者追悼式典の双方が「許可されなくなる」ことこそが、彼らの目的だと公言しているのだ。自ら「不許可」になることを目指す「慰霊祭」。これほど死者を愚弄し、冒涜する話があるだろうか。

 彼らはその目的をどのように達成するつもりだろうか。当然、双方の間で「トラブル」が起きるように挑発することだろう。

 現に、前述のように拡声器を追悼式典の方向に向けてヘイトスピーチを流したり、ヘイト活動家が追悼式典の敷地をこれ見よがしに横切ってみせたりといった行為が重ねられてきた。昨年はついに、横網町公園内で、「そよ風」に抗議する若者が挑発するレイシスト活動家と衝突して逮捕されるという出来事も起きた(念のために書き添えておけば、この出来事と追悼式典実行委は全く関係ない)。

 こうした「そよ風」の目的からすれば、「不許可」によって「双方の追悼式典がなくなる」可能性を切り開いてくれた今回の「誓約書」は、歓迎すべきものだ。

 「そよ風」は実際、この誓約書の登場を彼らの一定の勝利ととらえている。「40年間反日左翼だけの言論空間だった公園が、両論併記になった」「戦いは3年かかって緒についた」(2月21日、「そよ風」ブログ)というのである。

 「両論併記」とは何か。「軍や自警団によって朝鮮人が虐殺された」という認識と「朝鮮人が日本人を虐殺したのが真相」という主張の「両論併記」である。

 彼らは、何らかの「トラブル」の惹起によって朝鮮人犠牲者追悼式典を消滅に追い込むことを狙うことだろう。その次は、朝鮮人犠牲者追悼碑の撤去である。

小池都知事の追悼文送付取り止めと「そよ風」

 実は「そよ風」は、すでに過去に一度、東京都を思惑通りに動かすことに成功している。小池都知事の追悼文送付取りやめこそが、それである。

 2017年、小池都知事が追悼文の送付を取りやめたのは、それが彼女の極右的な思想性に整合する選択だったからと言えばそれまでだが、そのきっかけを与えたのは同年3月2日の都議会で行われた、自民党の古賀俊昭都議(故人)の質問だった。

 古賀都議はこのとき、朝鮮人虐殺の真相は震災下で凶悪犯罪を行う朝鮮人独立活動家たちに対する日本人自警団の反撃であったという趣旨の虐殺否定論を展開した上で、追悼文送付取り止めを小池都知事に迫った。さらに古賀都議は、朝鮮人犠牲者追悼碑を「日本人へのヘイトスピーチ」と糾弾してその撤去を求めている。

 古賀都議がこのテーマで質問をし、小池都知事に働きかけたのは、実は「そよ風」が彼に対するロビイングを行った結果であった。

 「そよ風」は16年6月、古賀都議のもとを訪れ、追悼碑撤去に向けた協力を確認している。その後、古賀都議は「そよ風」の集会に招かれ、虐殺否定論の演説を行った。こうしたアプローチの結果が、翌17年3月の古賀質問であり、その成果が、小池都知事の追悼文送付取りやめだったのである。

 その過程でも、「そよ風」の「慰霊祭」は大きな役割を果たしているのだが、長くなるので説明はやめておく。興味のある方は、『前衛』7月号に書いた拙論「朝鮮人犠牲者追悼式典をめぐる『そよ風』の策動と『虐殺否定論』の広がり」を読んでいただければと思う。

草の根右翼ネットワークの中に広がる朝鮮人虐殺否定論

 こうした行動を続ける「そよ風」のことを、特異な思想をもった小集団とだけ見るのは間違いだ。その後ろには、広範な草の根右翼ネットワークがひろがっている。

 最初に説明したように、「そよ風」は女性グループである。高級住宅街のご婦人方といった雰囲気の高齢女性たちが多いのが、在特会などと全く異なる点が気になるが、皆、本名ではなく活動名を使っており、どこから現れた人々なのかはよく分からない。

 だが、「そよ風」顧問として同会の活動に指針を与えている、元楯の会会員の村田春樹氏に焦点を当ててみれば、その背後には広大な草の根右翼ネットワークが見えてくる。

 たとえば日本会議との関係である。村田春樹氏の著書には、日本会議で常任理事を務めた百地章・日大名誉教授が帯に推薦文を寄せている。村田氏はまた、日本会議の中核をなす日本青年協議会の集会に呼ばれて登壇したこともある。このときは、日本会議の総帥ともいうべき椛島有三氏も同席した。

 あるいは全国的な草の根右翼団体「頑張れ日本!全国行動委員会」との関係だ。その結成大会(2010年2月)には、安倍晋三、下村博文、稲田朋美、赤池誠章(参議院議員、自民党文部科学部会会長)などの極右政治家がそろい踏みで登壇したのだが、村田氏は、この大会にも登壇している。「頑張れ日本!全国行動委員会」の役員たちとの関係も深い。

 つまり、「そよ風」は、村田氏を通じてこうした右翼運動のネットワークと結びついているのである。そしてこのネットワークには、与党の有力な極右政治家や地方議員たちも参加している。

 そしてこうしたネットワークの中では、「そよ風」と同様の朝鮮人虐殺否定論が相当に広がっている。前述の人物たちの中で言えば、たとえば百地章氏を著者として出された日本会議のブックレットのなかにも、工藤美代子の名前と共に虐殺否定論が主張されているし、赤池誠章議員は自らのブログの中で「『朝鮮人虐殺』という自虐、不名誉を放置するわけにはいかない」などと書いている。

 かつて日本会議国会議員懇談会に所属していた小池百合子氏や、日本会議地方議員連盟副会長を務めた古賀俊昭都議、さらには「新しい歴史教科書をつくる会」の副理事を務めたこともある工藤美代子氏その人をそのなかに加えることもできるだろう。

 「そよ風」による虐殺否定の動きは、こうした右翼運動潮流の中で起きているのである。

 最近では、「そよ風」の矛先は江戸東京博物館の朝鮮人虐殺関連の展示にも向けられている。博物館を所管する都生活文化局は「そよ風」の要求を突っぱねているようだが、このままじりじりと後退していく可能性も否定できない。石原都政に小池都政と、長年にわたって極右都知事のもとで働かされてきた都庁の官僚たちが、彼らのお仲間ともいえる草の根右翼の圧力に抗するのは、なかなか苦しいはずだ。

広がる抗議の声と東京都人権尊重条例

 一方で、冒頭に触れたように、こうした状況に抗議する声も急速に広がっている。

 5月18日に朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会が発表した「誓約書」要求の不当性を訴える声明は大きな反響を呼んだ。都庁前では約100人が集まって都に抗議し、ネット署名は3万人を超え、筆者が呼びかけた共同声明は127人と1団体の賛同を集めた。そのなかには30人以上の弁護士と60人以上の研究者、20人近くの宗教者が含まれている。

 6月22日には東京弁護士会が会長声明を発出。「誓約書」要求が「ヘイトスピーチを用いた妨害行為を容認、助長する効果をももたらしかねない」と、都を批判している。

 そもそも、追悼の日である9月1日に、「慰霊の公園」である横網町公園で、死者を冒涜し、民族差別を扇動する集会を行わせること自体が間違っている。東京都人権尊重条例は「不当な差別を許さない」と掲げ、実際にヘイトスピーチの規制を行っているはずだ。「虐殺犠牲者の追悼」と「死者の冒涜と民族差別」を等価な「両論併記」としている現在の東京都の姿勢に対して、多くの人が抗議の声を届けていく必要があるだろう。

▲追悼の花が手向けられた朝鮮人犠牲者追悼碑。

注:「そよ風」集会の様子は、こちらの動画で見ることができる。毎日新聞「静かな追悼の場にヘイトスピーチ」(7分)

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