植松聖死刑囚の人物像に迫る中で見えてきた「強者が持つ被害者意識」。このことはヘイトクライム、ヘイトスピーチにも通底する!――8.1 津久井やまゆり園事件から5年~マイノリティの人権について考える 2021.8.1

記事公開日:2021.8.10取材地: テキスト動画
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(取材、文・山内美穂 文責・岩上安身)

 2016年7月26日深夜、神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に、元職員の植松聖(さとし)死刑囚(当時26)が侵入し、刃物で19人の入所者を刺殺、26人の入所者と職員に重軽傷を負わせた。

 日本中を震撼させた、戦後最悪のヘイトクライム、津久井やまゆり園事件から、丸5年が経った。

 2021年7月20日(火)には、神奈川県、相模原市、社会福祉法人かながわ共同会主催の追悼式が行なわれた。

 一方、8月1日(日)には、神奈川県相模原市のソレイユさがみにて、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」主催のシンポジウム「津久井やまゆり園事件から5年~マイノリティの人権について考える」が開催された。

 「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」は、障害当事者、津久井やまゆり園の元利用者の家族、障害者運動団体、施設関係者、学識経験者などから構成され、この事件を風化させることなく、考え続けていくことを目的とした団体である。

 IWJでは、これまでも会の主催するシンポジウムなどを取材してきた。会は、これまで一貫して、植松死刑囚の異常性だけを取り上げることなく、障害者を殺してもいいとする思想がどこで作り上げられていったのか? に着目し、社会全体で考え続けていこうと呼びかけてきた。

 東京パラリンピックに際しては、相模原市が聖火を、やまゆり園で採火する方針を立てたが、遺族や被害者家族などから中止の要望が相次いだ。

 2021年4月21日、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」メンバーが、採火の撤回と中止を求める、木村賢太郎・相模原市長宛の要望書を市職員に手渡した。

 同会の平岡祐二さんは要望書を読み上げ、「『聖火リレー』はナチスドイツがベルリンオリンピック(1936年)の演出効果のために発案実行したもの」「ナチスドイツは、植松死刑囚と同じ思想にもとづいて『T4作戦』を実行し、公式資料で7万人以上の障害者を殺戮した」「このことは、やまゆり園事件で誰もが想起させられた歴史事実」「その場所で『ナチス発案の聖火』の採火とは、身が震えるほどおぞましいこと」と指摘して、採火の撤回を訴えた。この模様は下記のIWJ記事で御覧いただきたい。

 この後、5月6日に相模原市は、やまゆり園での採火を撤回し、別の場所に変更する方針を明らかにした。

 シンポジウム当日、会場には19本のひまわりが用意されており、集会の始まりには、当会の世話人・杉浦幹氏の呼びかけにより、この5年の月日を風化させぬよう、参加者全員で19人の犠牲者の方々に黙祷を捧げた。

 登壇者には「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」の堀利和氏、在日2世で人権講師でもある李春浩(リ・チュノ)氏、「反差別相模原市民ネットワーク」事務局長の田中俊策氏が並んだ。

 今回の集会は、副題に「~マイノリティの人権について考える」として、障害者、在日外国人などの境界を超えて、社会の差別意識に焦点を当てることとなった。

▲左から司会の「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」世話人・杉浦幹氏、「反差別相模原市民ネットワーク」事務局長・田中俊策氏、在日2世で人権講師の李春浩(リ・チュノ)氏、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」の堀利和氏(IWJ撮影)

記事目次

■全編動画

  • 日時 2021年8月1日(日)13:30~16:30
  • 場所 ソレイユさがみ(神奈川県相模原市)
  • 詳細 Facebook告知
  • 主催 津久井やまゆり園事件を考え続ける会

「大森理森衆院議長(当時)宛の手紙に植松という人物のほとんど全てが書かれている」! 入所している470名の重度障碍者の抹殺を自分は「できます」と、植松は安倍晋三総理(当時)におうかがいを立てていた!

 堀氏は冒頭、植松死刑囚が事件を起こす前、当時の衆議院議長・大島理森氏宛に書いた手紙の内容に触れ、次のように見解を示した。

▲「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」の堀利和氏(IWJ撮影)

 「(植松が)自民党本部に手紙を持って行ったものの、断られ、その後、衆議院議長公邸を訪れ、手紙を職員に渡したという、このことに私はとてもこだわっている。この事件の植松という人物のほとんど全てがこの手紙には書かれている。

 手紙の冒頭に『私は障害者総勢470名を抹殺することができます』と、『できます』と書いてある。『します』とは書いていない。『できますよ』と、おうかがいを立てている。

 手紙の最後に『安倍晋三様にご相談頂けることを切に願っております』と書いてある。つまり『総理にご相談ください』と書いている。おそらく、そのように(※おうかがいを立て、許可を下してくれる存在に)、彼には安倍晋三氏が映ったのだろう」。

▲2017年10月21日、秋葉原駅前で、日章旗を持ち「安倍総理」コールをする人々に囲まれて、衆院選の自民党・山田美樹候補の応援演説をする安倍晋三総理(当時)。(IWJ撮影)

 

堀利和氏が考察する事件をめぐる「三位一体の原因説」! 自己愛性パーソナリティ障害、施設の実態、優生思想が作り出した極端でゆがんだ革命思想!

 また、堀氏は植松死刑囚が事件を起こした動機について、「三位一体の原因説」とする考察を述べた。

 第1の原因は、植松聖という個人的性格、「自己愛性パーソナリティ障害」によるもの。

 第2の原因は、津久井やまゆり園という入所施設の入所者に対する処遇の実態によって、「障害者は生きていても意味がない」という考えに変質していったというもの。

 第3の原因は、優生思想によるもの。

 「植松の優生思想は、ヒトラーというより、『人口論』の著者であるマルサスに近い考えを持っている。劣勢な人類、貧者、病人は自然淘汰されるべきであり、救済してはならないとした考え。植松は衆議院議長の手紙の中でも触れているように『保護者の同意を得て安楽死できる世界です』と書いている。

 一日中車イスに縛り付けられている入所者がかわいそうだと言いながらも、障害者は不幸をつくる存在だから、世界平和のために抹殺しなければならないという、極端でゆがんだ革命思想に傾倒していった。

 理解不能だが、その先の一歩に踏み込んでしまった。自らを革命家にまで高めてしまった、実のところは反革命だが」。

 堀氏はこう語り、この3つの原因が複雑に絡み合って、あの事件が起きたことを示唆した。

強者が持つ被害者意識、優越感と屈辱感の同時存在が弱者への暴力、排斥行為となって現れる!

 もう1つ、堀氏は重要な分析として、強者が被害者意識を持つ構造について言及した。

※本記事は「note」でも御覧いただけます。単品購入も可能です。
https://note.com/iwjnote/n/n85faf97f8f57

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