2020年7月24日の日刊IWJガイドで紹介したように、京都市に住む一人暮らしの50代のALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者から「安楽死」の依頼を受けたとして、宮城県と東京都の医師2人が、この患者の自宅で患者に薬物を投与して殺害しました。京都府警が23日、この2人の医師を嘱託殺人の疑いで逮捕した。
逮捕されたのは大久保愉一(よしかず)容疑者と山本直樹容疑者。山本容疑者側の口座に被害者女性の側から150万円前後が振り込まれていたことも確認されたと言う。

▲大久保愉一容疑者(名取市_おおくぼ呼吸器内科・メンタルクリニック・ホームページより)
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大久保愉一容疑者の妻は元自民党の衆議院議員
逮捕された医師の1人、大久保愉一容疑者の妻の三代氏が元自民党の衆議院議員だということがわかった。
三代氏は自身のブログで「詳細も全容も、一切知らされておりません。夫からも何も聞いておりません」と逮捕容疑について何も知らなかったと弁明し、謝罪した。
また三代氏は「夫は私に隠れてバイトに行っていました」と、大久保容疑者がアルバイトで医療行為を行なっていたことを明らかにしている。
三代氏は最後に「残務整理を終えたら、夫とは離婚します」と記している。
「たとえALS患者が『死にたい』と言っても、それをうのみにして死なせてはだめだ」ALS協会副会長・増田英明氏
また日本ALS協会副会長の増田英明氏が、今回の事件について京都新聞で語った。増田氏は2005年にALSの疑いがあると診断され、2006年に人工呼吸器を装着、在宅生活を送っている。
増田氏は、たとえALS患者が「死にたい」と言っても、それをうのみにして死なせてはだめだとし、「私たちの団体には、彼女のように生きることに迷う人たちがたくさんいます。そういう人を前にして苦悩する家族や支援者もいます。生きることよりもそうじゃない方が楽なのかもしれないと傾きそうになりながら、必死に生きています。彼女を死に追いやった医師を私は許せません。私たちが生きることや私たちが直面している問題や苦悩を、尊厳死や安楽死という形では解決できません。生きてほしい、生きようと当たり前に言い合える社会が必要」と訴えた。
増田氏の言葉は重要なことに気付かせてくれる。たしかに、「死にたい」という言葉は、高齢でなく、重い病にもかかっていない、若い健康な人でも、生きていく上で苦しい出来事があれば、ふと口をついて出ることもあるだろう。それが、難病患者や高齢者、障害者だった場合、周囲が「死にたがっているのだから、死なせてやろう」とうのみにして、実際に死に追い込んでゆくなど、あってはならないことだ。
1995年横浜地裁判決による「積極的安楽死」4要件とは
今回の事件について京都府警は、被害女性の症状が安定しており死期が迫っていなかったとして、「安楽死とは考えていない。安楽死か否かを問題にする事案ではない」と強調している。
昨日2020年7月24日の日刊でもお伝えした、東海大学病院安楽死事件の際の1995年の横浜地裁判決による「積極的安楽死」4要件は以下の通り。
1.耐えがたい肉体的苦痛があること、
2.死が避けられずその死期が迫っていること、
3.肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと、
4.生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があることである。
つまり今回の事件は、安楽死の要件に当てはまらず、「嘱託殺人」という犯罪としての「殺人」と考えられるということだ。逮捕された医者が「高齢者は社会の負担」と考える優生思想の持ち主であったと報道されていることも重大な問題だ。
松井一郎大阪市長のツイートに批判の声!「優生思想」信奉者の「嘱託殺人」事件に「便乗」して「尊厳死」を呼びかけ!?
にもかかわらず、大阪市の松井一郎市長は、「維新の会国会議員のみなさんへ、非常に難しい問題ですが、尊厳死について真正面から受け止め国会で議論しましょう」と、この「殺人事件」に「便乗」して驚くべき発言をしている。
尊厳死は日本で法制化されておらず、国会議員が「尊厳死について議論しよう」とは、法制化の可能性を追求することに他ならない。そもそも優生思想の持ち主が引き起こした「嘱託殺人」事件を、尊厳死法制化のきっかけにしようとすること自体、間違っている。
あたかも、「殺人行為」を肯定し、こうした「殺人」を誰かが今後行っても、罪を問われない社会にしよう、と言わんばかりだ。松井氏にとって尊厳死と優生思想の結びつきは自然なことなのだろうか? 京都府警の「安楽死か否かを問題にする事案ではない」という認識に、不服があるというのでしょうか!?
松井氏のおぞましいこのツイートに「いいね」が7000件以上ついていることにも愕然とする。

▲松井一郎市長(IWJ撮影)
れいわ新選組・舩後靖彦議員「『死ぬ権利』よりも、『生きる権利』を守る社会にしていくことが、何よりも大切」
昨日2020年7月24日の日刊IWJガイドで、重度のALS患者でもあるれいわ新選組の舩後靖彦議員が「『死ぬ権利』よりも、『生きる権利』を守る社会にしていくことが、何よりも大切です」と見解を発表したことを紹介した。
舩後氏は、「安楽死を法的に認めて欲しい」「苦しみながら生かされるのは本当につらいと思う」という考え方が「難病患者や重度障害者に『生きたい』と言いにくくさせ、当事者を生きづらくさせる社会的圧力を形成していくことを危惧」していると発言している。
尊厳死によって「死ぬ権利」を追及しようという松井氏の発言は、当事者を「生きづらくさせる社会的圧力」に直結するものではないだろうか。
立憲民主党の蓮舫議員も以下のようにツイートをした。
「優生思想と安楽死。この事件の続報からは、とてもじゃないが『尊厳死』の議論を始めようとはならない」
「津久井やまゆり園」での事件から丸4年
明日の26日で障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から4年になる。日本社会をゆるがした「やまゆり園」の事件は、大西つねき氏の「命の選別」発言から、今回のALS患者「嘱託殺人」事件など、一連の事件と密接に関連し、私たちの社会がはらむ根深い問題を示している。
IWJでは「津久井やまゆり園」の事件を数多くのコンテンツで取り上げてきた。この機会にこちらのコンテンツもぜひご覧いただきたい!