最悪の「ヘイトクライム」発生!相模原の知的障害者施設で19人殺害——容疑者は衆院議長公邸に「障害者は安楽死」求める手紙を持参した過去も 2016.7.27

記事公開日:2016.7.28 テキスト
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 あまりに凄惨なヘイトクライムが起きてしまった。

 7月26日午前2時45分頃、神奈川県相模原市緑区千木良(ちぎら)の知的障害者施設「津久井やまゆり園」(社会福祉法人かながわ共同会)に26歳の男が侵入。持っていたナイフで施設の入所者を次々に刺し、19人が死亡、26人が重傷を負った。警察庁によると、平成元年(1989年)以降、死者の数としては最悪の殺人事件だという。

犯人が残したメッセージ「世界が平和になりますように。Beautiful Japan!(美しい国、日本!)」

 逮捕されたのは、今年2月までこの施設で職員として働いていた植松聖(さとし)容疑者。植松容疑者は、26日午前3時頃、「自分がやりました」と1人で津久井署に出頭。持っていたカバンの中からは包丁やナイフなど計3本の刃物が見つかり、血液が付いていたものもあったという。

 Twitterには、犯行直後に植松容疑者のアカウントと見られる「聖@tenka333」によるツイートが残っており、「世界が平和になりますように。Beautiful Japan!!!!!!」という文言と「自撮り写真」が投稿されている。

 取り調べでは、「今回の事件に関しては、突然のお別れをさせるようになってしまって、遺族の方には心から謝罪したいと思います」と冷静に供述しているという。

 一時的に感情が高ぶったりとか、錯乱したりした上での凶行ではない。政治的・思想的な確信を伴った殺人であったことがうかがえる。翌27日朝に、身柄を横浜地検に送られた際には、車の中で笑みを浮かべながら報道陣を見回したとも伝えられている。

「重度障害者を殺す」勤務中にも示していた明確な「殺意」

 相模原市の精神保健福祉課によると、植松容疑者は同施設に勤務していた2月18日、施設職員に「重度障害者を殺す」などと発言。これを受けて施設は翌19日に津久井署に通報。津久井署員が面談した際にも、植松容疑者は「重度障害者の大量殺人は、日本国の指示があればいつでも実行する」などと話したという。凶行に至る自分の内部の殺人衝動に対し、「国家」による正当化を求めていたことがうかがえる。

 その後植松容疑者は、医療機関で診察した医師により「大麻精神病」「妄想性障害」と診断され、措置入院の扱いとなった。しかし、その後の診察で入院の必要性は消失したとされ、3月2日に退院している。植松容疑者のTwitterの壁紙には「マリファナは危険ではない」と記されており、大麻(マリファナ)を常用していた可能性も指摘されている。

 とはいえ、医師の判断で退院が許可されているところから、植松容疑者が重度の精神病患者である、とまではいえない。

大島理森衆院議長宛の手紙「私の目標は安楽死できる世界」

 また、植松容疑者は入院する前の2月14日と15日、東京都千代田区の衆院議長公邸に直筆の手紙を持参して訪れていたことが、これまでの報道により分かっている。手紙は大島理森衆院議長宛で、「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活および社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」などと書かれていた。

 ここまで見てきても明らかなように、植松容疑者の犯行は、「狂人が錯乱して刃物をふるった犯行」というよりも、政治的・思想的な「確信」(思い込み、狂信と言いかえてもよい)をもって、事におよんだ可能性が低いとはいえず、非常に深刻だ。

 これは、政治的なテロリズムだとさえいえる。神奈川県警は翌27日、容疑を殺人未遂から殺人に切り替え、横浜地検とともに動機や事件の経緯についてさらに調べを進めている。

想起されるナチス・ドイツの優生学思想、障害者虐殺の「T4作戦」

 知的障害者に対する「安楽死」と聞いて真っ先に想起されるのが、ナチス・ドイツが優生学思想にもとづいて行った「T4作戦」である。

 ナチスは知的障害者や精神疾患者を「民族の血を劣化させる、生きるに値しない命」だとして、各地の精神医療施設から提供されたリストにもとづき「処分者」を決定。「処分者」はバスでガス室へと移送され、殺害された。ナチス政権下で、8万~10万人の知的障害者・精神疾患者が殺害されたと言われている。

 まさに「悪魔の所業」とでもいうべき「T4作戦」だが、障害者に対する「安楽死」政策は、日本にとっても他人事ではない。

 2015年11月18日には、茨城県の教育委員である長谷川千恵子氏が、「妊娠初期にもっと(障害の有無が)わかるようにできないのか。(教職員も)すごい人数が従事しており、大変な予算だろうと思う」と発言し、大きな波紋を呼んだ。右翼の思想家の中に、「障害者の誕生は社会的・経済的な負担になるから、具体的な処置をとるべき」という思想が、育くまれてきたのである。

▲ナチスのポスター「この遺伝的欠陥を持つ人間の一生に6万ライヒマルクもかかる。それは他ならぬ君の金だ。考えろ」

▲ナチスのポスター「この遺伝的欠陥を持つ人間の一生に6万ライヒマルクもかかる。それは他ならぬ君の金だ。考えろ」

 「予算の削減」のために障害児の出産を「防ぐ」という発想は、ナチスの「T4作戦」に通じるものである。実際にナチスは、「この遺伝的欠陥を持つ人間の一生に6万ライヒマルクもかかる。それは他ならぬ君の金だ。考えろ」というポスターを街中に貼り、優生学思想を煽った。

煽られた偏狭なナショナリズムの帰結!「朝鮮人殺せ!」は、「障害者殺せ!」に転化する

 過去の歴史が教えるように、偏狭なナショナリズムは、マイノリティ(少数者)に対する物理的な「排除」へとつながる。

 2012年末に安倍政権が発足して以降、在日朝鮮人というマイノリティに対するヘイトスピーチが特に高揚したことからも分かるように、日本も「T4作戦」のとば口に立っているように思えてならない。「朝鮮人殺せ!」は、いとも簡単に「障害者殺せ!」にも転化するし、その逆もありうると考えられるからである。

 さらに、社会的「有用性」から生命に軽重の序列をつけるような考え方が広まり、万人に基本的人権、特に生存権があるという考えが空洞化していけば、生産活動からリタイアした高齢者や難病患者にも「安楽死」を求めるような社会的圧力が広まってくるかもしれない。LGBTのような性的マイノリティへの偏見・差別も強まる可能性もある。非常に危険である。

相次ぐ公人による差別発言も「許容」し続けてきた日本社会

 日本はこれまで、あまりにも差別に寛容すぎた。

 今、都知事選に立候補している在特会の元会長・桜井誠氏(本名・高田誠)は、コリアンタウン・新大久保で、「良い朝鮮人も悪い朝鮮人もいない。朝鮮人を皆殺しにしろ!」「日本が嫌いな韓国人、女でもいい、出てこい! 絞め殺してやるから出てこいよ!ぶち殺してやるから出てこい!」「犯罪朝鮮人を皆殺しにしろ!コリアンタウンを焼き尽くせ!」などと叫びながら大勢で練り歩いていた。

 「害悪の告知」を明白に行っている。これは脅迫以外の何ものでもない。

 警察は在特会のヘイトスピーチを止めるどころか、「表現の自由」を理由として、脅される一般市民や在日コリアンの方を守るのではなく、在特会のほうを警備しながら、彼らレイシストがコリアンタウンを練り歩くのに寄り添ってきた。

 都知事で、かつ差別主義者といえば、石原慎太郎氏の存在を忘れるわけにはいかない。

 石原慎太郎元都知事は、都知事時代の1999年9月、障害者施設を訪れ、「ああいう人というのは人格があるのかね」「おそらく西洋人なんか切り捨てちゃうんじゃないか」「ああいう問題って安楽死なんかにつながるんじゃないか」などと語っている。

 石原氏は障害者に対して「人格があるのか」と無知と差別にまみれた侮辱的な発言を口にしただけでなく、障害者について語る文脈で「安楽死」という言葉を口にしている。ナチスの障害者差別、組織的殺害を思い起こさせるのに十分である。「西洋人なんが切り捨てちゃうんじゃないか」とも言っているが、石原氏は「切り捨ててはいけない」とは言わない。

 こうした障害者差別の発言によって、石原氏は政治家として失脚したかといえば、そうではなく、彼はその後も13年にもわたって都知事に君臨し続けた。

 弱者への差別はしてはいけない、というモラルが、この何年かの間に急速にゆるんできている。このようなレイシストが首都の知事の座を長きにわたってとどまり続けたことと無関係だとは思われない。政治的リーダーの規範意識がおかしければ、その社会の規範意識は、やはりおかしくなってゆくものだ。植松容疑者はある日突然、出現したわけではない。

LGBT差別にナチス擁護…植松容疑者がフォローしていた高須克弥院長や百田尚樹氏ら差別主義者たち

 植松容疑者はツイッターで、日常的に差別発言を繰り返す有名アカウントを数多くフォローしていた。例えば植松容疑者がフォローしていた作家の百田尚樹氏は、「同性とセックスしたいという願望を持つのは自由だと思うが、そういう人たちを変態と思うのも自由だと思う」などとツイート(後に「思慮の欠いた」として削除)し、露骨なLGBT差別を展開している。

 同じく植松容疑者がツイッターでフォローしていた高須クリニックの高須克弥院長は、「ナチスが消滅してもナチスの科学は不滅」「ナチスの偉大さ」などとナチス擁護の発言を繰り返している。

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 ナチス擁護については、麻生太郎副総理の発言も忘れてはならない。

 2013年7月29日、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が代表を務める、民間のシンクタンク・国家基本問題研究所が開催したシンポジウムで、麻生氏は憲法改正について、「静かにやろうやと。憲法は、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていったんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口、学んだらどうかね」と発言。ナチスを肯定する発言に、世界から非難が集まった。

 改憲によって、まず緊急事態条項を導入しようとする安倍政権の動きは、この麻生氏の「ナチスの手口」を学んだものに他ならない。

 都知事や副総理など、公職にある者や大きな社会的影響力を持つ物が人種差別や障害者差別、LGBT差別、そしてナチスを肯定する発言をしても責任を問われず、社会的地位が揺らぐこともない。

 そんなことが続けば、公に差別を行っても罰せられることはないのだとみなす愚か者が増えてくることは、避けがたいことだ。

 日本は差別を許容する社会になりかけてしまっているのである。相模原での事件は、こうした社会的背景が生んだ、起こるべくして起こる事件だったのだといえる。

日本が差別を許容する社会である限り、第二、第三のヘイトクライムが巻き起こる

 安倍総理は26日、東京都内で開かれた会合であいさつし、事件について、「何の罪もない多くの方々が命を奪われ、大きな衝撃を受けている」と述べ、「今後、真相の究明、再発防止に全力を挙げていく」と強調した。

 安倍政権下で広がっている、偏狭なナショナリズムの高揚が今回の事件とどのように関係しているのか、十分に因果関係を解明していただきたい。

 この事件とその背後に広がる問題はあまりにも根深いものがあるといえる。断じて、突発的で猟奇的な犯人による凶行ではない。明確なヘイトクライムである。そして、日本が差別を許容する社会である限り、第二、第三のヘイトクライムが巻き起こるだろう。

 決して差別を許してはならない。日本社会は漫然とはびこる差別と徹底的に向き合い、あらゆる差別と決別しなければならない。

 差別も、安楽死という名の虐殺も、緊急事態条項も、ナチスの繰り返しに他ならない。ナチスの二の舞いを日本において許してはならない。

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「最悪の「ヘイトクライム」発生!相模原の知的障害者施設で19人殺害——容疑者は衆院議長公邸に「障害者は安楽死」求める手紙を持参した過去も」への1件のフィードバック

  1. 西遠寺 透 より:

    被害者を追悼しつつ、この犯罪の特徴をあげてみます。
    1)計画性
    事前に書いたという手紙と事件との違いは「保護者の同意を得ての安楽死」ぐらいである。
    2)差別意識
    差別には二重の意味がある。一つは誰でもいいという「無差別殺人」ではないという意味と、障害者だけを選択的に狙うという意味である。
    3)誇大性
    殺害を正当化する理由は、彼が事後に「世界が平和になりますように」とかいたことに尽きる。単純であるが自らの犯罪を「安楽死」「世界が平和になる」ことに誇大的かつ単純にむすびつけている。
    かつて心理学者リフトンはオウム真理教の犯罪を分析し教団が「世界を救うため、世界を破滅させる」確信(狂信)に駆られていたとした。
    この犯罪も大量殺人をめざす思想的信条が明確にあると思います。精神症状とくに妄想に駆られた犯罪とかたずけることはできません。

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