「『ARC21』も『クアッド』も特定の国を念頭に置いたものではない」!? 日米首脳会談共同声明で「中国の脅威」と「自衛隊の強化」を明言しながら、クアッドとARC21に関しては「中国包囲網」とは言わない奇妙な不自然さ!~5.25 岸信夫防衛大臣会見 2021.5.25

記事公開日:2021.5.26取材地: テキスト動画
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(取材・浜本信貴 文・IWJ編集部)

 5月25日、防衛省で行われた岸信夫防衛大臣記者会見に参加したIWJ記者は、日米豪仏共同訓練「ARC21」と、日米豪印の中国包囲網「クアッド」に英仏独蘭のEU4カ国が実質的に参加することについて、質問した。

IWJ記者「『ARC21』ならびに『クアッド』についてうかがいます。

 この5月11日から17日まで、自衛隊は、日米豪仏共同訓練『ARC21』を行いました。今後、フランスの他、ドイツ、英国、オランダ各国も軍艦派遣を表明しており、日米豪印の中国包囲網『クアッド』に英仏独オランダが加わったかたちです。

 岸大臣は5月11日の記者会見で、この『ARC21』について、『特定の国を念頭に置いたものではない』とお答えになりました。しかし、日米首脳会談の共同声明でも、中国の脅威を名指しで指摘し、自衛隊の強化まで約束しているのですから、そのような弁明はかえって不自然に聞こえます。中国を念頭に演習を行ったことは明らかであり、その前提に立って質問いたします。

 端的にうかがいますけども、中国包囲網『クアッド』とは、いったい何を行うものなのでしょうか? 何を目的として、欧州諸国の軍隊まで集結し、合同演習を行うのでしょうか?

 海上自衛隊幹部学校のホームページには、海幹校戦略研究という論文が多数掲げられています。その中には、米国防大学のトーマス・ハメス博士や、米海軍大学トシ・ヨシハラ教授らが提唱するオフショア・コントロール戦略の話がたびたび出てきます。ハメス博士とヨシハラ教授は2014年には海上自衛隊幹部学校に来校されてもいます。

 そのオフショア・コントロール論では、チョークポイントと呼ばれるマラッカ海峡を封鎖して、中東のペルシャ湾岸から中国に至る石油ルートを遮断する戦略が語られています。

 『インド太平洋』を一体として中国包囲網を形成する構想を最初に主導したのは安倍晋三総理ですが、現在のクアッドの目的と戦略は、このオフショア・コントロール論と重なり、中国への石油を遮断する海上封鎖網を形成することにあるのでしょうか? そのためインド洋において海外領土をもつフランスが熱心に参加し、インド洋のシーレーンも制圧するということになるのでしょうか?」

岸防衛大臣「私も繰り返し申し上げているわけですけれども、この、『ARC21』等々、お話ございました、こういったものは、中国を念頭に置いたもの、あるいは中国包囲網というものは考えておりません。あくまでも、我が国の防衛に資するこうした共同訓練ですね、自衛隊の練度を向上させるため、また、国際関係、国際協力、まあ、こうしたことを深めていくために行なっているということであります。

 あの、『クアッド』についてもですね、地域の平和と安定のために、4カ国の間で、様々な意見が密に交換されると、こういう状況であります。ですから、どこの国、具体的な国を念頭に置いて行われているものではないというふうに解釈して欲しいと思います」

 岸防衛大臣のはぐらかしは、いくらなんでも度が過ぎる。どこの国の防衛大臣もこんなに「仮想敵国」について口を濁すことはしないはずだ。

 最新の2020(令和2)年度の防衛白書にも、中国を分析した節の中で、中国の軍事動向を「わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」(p.58)と呼び、一方、米国を分析した節の「インド太平洋地域への関与」の中では「日米豪印4か国の協力」(p.48)が記されており、各国の軍と、合同演習まで行っている。「具体的な国を念頭に置いて行われているものではない」とは、どういう意味なのだろうか。

 本当に、どこの国かも念頭にない、ぼんやりとした合同演習をやっているならば、国防に資すこともなく、単にカネの無駄遣いだから、即刻、やめるべきだ。

 そうではない、中国包囲網として、ここまで大々的に軍事演習までしておきながら、「中国包囲網」です、と言い出せないとしたら、これは、中国政府からの反発を恐れている、ということになる。

 中国は日本最大の貿易相手国。言葉で「中国を包囲している」ともいえない程、中国の反発に脅えていて、実際に中国が軍事に一足飛びに行かなくても、経済的制裁を発動するだけで、日本経済は大きな影響が出る。日本製品は購入しない、とされるだけで、日本経済は瀕死の状態に陥るだろう。

 クアッド・他の面々も同様だ。フランスの輸出を支えている数々のハイブランド製品を世界一購入しているのは中国人。ドイツ車を世界一購入しているのも中国人。両方とも中国は今後買わない、と言ったらどうなるのか。その中国市場に、中国と正面から敵対しない国々の商品が売られ、マーケットを奪われるだろう。

 そんな経済的なマイナスを考えて、「中国包囲」と口にできないのならば、最初から「勝負」あった、というべき腰抜けぶり、ということになる。いったい何のための軍事デモンストレーションだったのか、効果はあったのか、さっぱりわからない。少なくともこの中国への気のつかい方から、中国がひるみはしなかったであろうことだけはわかる。

 中国外しの「インド太平洋」ではなく、むしろRCEPのように中国を入れた安定した「インド太平洋」を構築した方が、安全保障にも合理的で安上がりではないだろうか。安定し、平和な東アジア・太平洋・インド洋の実現は、各国の兵器産業が、商売のタネがなくなるとして、地団太を踏むかもしれませんが、それ以上に大きなメリットがあるはずだ。

■全編動画

  • 日時 2021年5月25日(火)16:20~
  • 場所 防衛省 A棟 第1省議室(東京都新宿区)

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