5月22日、岩上安身は日本共産党の山添拓参議院議員にインタビューを行った。山添議員は参議院憲法審査会の幹事であると同時に、法務委員会の委員でもある。
当初、インタビューでは国民投票法と入管難民法の二つの「改悪案」についてお話をうかがう予定であったが、時間の都合で22日は入管難民法問題について詳しくお話しいただき、国民投票法問題については、次回のインタビューでうかがうことになった。
今国会に提出されていた「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」、いわゆる入管難民法改正(改悪)案は、名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが今年3月6日に死亡したことを契機に注目され、多くの世論の反対によって、5月18日に廃案が決まった。
そもそもこの法案は、長崎県の大村入管で、ハンストによってナイジェリア人男性が餓死した事件がきっかけであった。山添議員は次のように経緯を説明した。
「今の時代にこうした形で餓死したことに、多くの人が衝撃を受けました。これを契機に、入管での非人道的な扱いにスポットが当たり、これは改善しなきゃいけないとなった。
長期収容を改善するといことが、今度の法改正の出発点だったのである。
有識者による専門部会が設置されたんですけど、そこでの議論は、長期収容を改善するということの前に、送還忌避者なんだと。つまり、本国への送還を拒んでいるものだという位置付けをして、どうやったら本国に帰らせることができるかということに軸足を置いた法改正が出てきた」
山添議員は「餓死事件を起こしておきながら、その状況を改善しない。もちろん長期収容の実態を改めるような制度改正でもありませんでしたし、むしろ入管の権限を強化して強制送還を拒めば刑罰を課す、そういう法案だった」と述べ、「焼け太り」と批判した。
岩上安身が「背景にあるのは治安権力の強化ではないか?」と問いかけると、山添議員は「元々入管の職員というのは、戦前の特高警察などから引き継がれた。元は内務省の管轄だったわけですね。だから、治安の考え方から戦後の入管行政が出発しているということは、はっきりしていると思います。それが戦後の憲法のもとでも改善されることなく引き継いでいる」と答えた。
山添議員は「外国人、特に不法滞在と位置付ける外国人を、人権の共有主体としては見ていない。まともな衣食住を提供することではなく、(本国に)返すまで収容しておくということに力を注ぐことが治安維持だという考え方のもとに入管行政が行われてきた」と指摘した。
「17人が入管で亡くなっていると法務省から言われています」と明らかにした山添議員は、「毎年のように死亡事案が繰り返されているということは、死亡に至らないけれど、ひどい人権侵害があるということをうかがわせる」と述べ、「刑務所以下だと思う。刑務所であっても(病気になれば)必要な措置はされる」と批判した。
3月に亡くなったウィシュマ・サンダマリさんは、DV被害を警察に届けたことから在留資格がなくなってしまっていることが明らかになり、「不法滞在者」として入管に収容された。
山添議員は3月16日の法務委員会で「(DV被害から逃れようと警察に助けを求めたウィシュマさんは)DV被害者。まず何よりも保護されるべき存在」だと追及した。「ウィシュマさんの希望について寄り添うことが大事だった」という山添議員は、ウィシュマさんの死について、「入管で死亡したということは入管に一義的な責任がある」と指摘している。
「上川(陽子法務)大臣は国会で『お悔やみ申し上げます』とは言うが、一貫して謝罪しない」と指摘した山添議員は、「責任があると思っていない」と批判した。
さらに、入管内部の監視カメラ映像の公開を拒否し続けている入管に対して「よっぽど見られると困るものがあるのではないか」と語った。
「ウィシュマさんのご遺族が、『私たちが貧しい国の出身の人間だからこういう扱いをするのか』と、問われていました。『アメリカ人だったら同じようにするのか?』と言われていたのも印象的であった。
特に、安い労働力として使う、技能実習と銘打ったり、あるいは外国人留学生の名で受け入れたり、特定技能もそうだと思いますけど、労働力として受け入れるにあたってはどんどん受け入れるけど、ひとたび働き続けられなくなるや否や、在留資格がなくなり、オーバーステイになり、不法滞在として、排除の対象になる」
そう語る山添議員は、「そもそも根底に、外国人に対する差別や偏見の認識が、制度的にも社会的にも作られている」と指摘した。
最後に山添議員は、今後の参院憲法審査会での国民投票法案審議につて「6月9日をめどに、与党側は(採決を)考えている」と述べながら、「その短い期間にどれだけ世論を広げて、国民投票法案はもちろん、それと一体に、その先に見据えている改憲の危険性、たくらみの不当性をいかに多くの人と共有し、広げていくことが問われている」と訴えた。
「入管法もギリギリまで頑張って止めることができた。国民投票はそれとは違った政治状況もありますが、しかし、世論が広がれば国会の運びは大きく変わりますので、決して諦めることなく追及していく」と、決意を表明した。