「こういう事態に都民をいかに守って、どういう医療を展開するか。命を守る、そこに一番の力点がある」
東京都医師会会長の尾崎治夫氏(※)は、2020年11月24日、東京都港区のIWJ事務所で行われたインタビューの中で、岩上安身にこう語った。
尾崎氏は、新型コロナウイルスの感染が広がりを見せた2020年初めから、1300万人が暮らす首都・東京の医師会会長として、精力的に感染防止に取り組んできた。
その発言・行動は決して、政府の方針に盲従する、というものではなく、医師の良心に従い、臨床の現場から、科学的知見に即して己の信じるところをはっきりと言う、というものだった。
2020年4月初め、東京都医師会は独自に「医療的緊急事態宣言」を出し、都民に外出自粛の協力を呼びかけた。
当時、厚生労働省はクラスター対策にこだわり、「37.5度以上の発熱が4日続く」などの条件でPCR検査のハードルを上げていたが、東京都医師会では、保健所を介さずに、かかりつけ医の判断でPCR検査ができる地域PCRセンターを40ヵ所設置し、7月には、かかりつけ医で直接、PCR検査ができる仕組み作りを始めた。
厚生労働省は、これを「後追い」するかたちで全国展開を進めている。
10月1日に東京都でもGoToトラベルキャンペーンが解禁されたが、その2週間後から感染者数は増加した。政府は、GoToトラベルと感染者数の増加に関連はないなどと、因果関係の打ち消しに躍起となっていたが、政府の姿勢に業を煮やした、東京都医師会は、11月の3連休直前の11月20日、緊急記者会見を開催し、「このままでは1ヵ月後、東京の新規感染者は1日1000人を超える。GoToトラベルは中断が望ましい」と警鐘を鳴らした。IWJはその模様を中継で伝えている。
実際、予想が正しかったのは東京都医師会の方で、予想の通り、東京では12月31日、新規感染者が初めて1000人を突破(1353人)し、政府の見通しの甘さが、明白になった。
岩上安身による単独インタビューでも尾崎氏は、「やはり、GoToトラベルは人の移動をかなり緩めた。国がお金を出して、『どんどん移動していいよ』という流れを作ったことを、政府は認識すべきだ」と、政府へ失敗について自覚を促すとともに、選挙の大胆な変更を求めた。
10月22日の会見で、2021年の東京オリンピックについて、「通常の体制で行うことは難しい」とコメントしたことについて、尾崎氏は、岩上の質問に答えて、「開催できないとは言っていない。やれるとすれば、無観客で、選手や役員に徹底的な検査を、という提案だった。そして、政府が言うように『コロナに打ち勝った証』のオリンピックならば、具体的に、どう打ち勝てるのかを示してほしい。タイムスケジュール的なものが何も出ていないことに、私は不安を感じている」と述べた。
自民党政権の方針とは異なる見解であっても、率直に口にする尾崎氏は、質はれっきとした自民党員である。時には、お仲間の自民党員から色々言われたりしませんか、という問いに対して尾崎氏はいささかも動じることなく、こう続けた。
「お前、おかしいぞ、と抗議の電話をいただいたり。反医師会行為だと。でも、私は政党のためじゃなく、都民を守るために生きてるので。自分の、正しいという判断に従って行動します」
この日の話題は、感染状況をめぐる今後の見通し、疲弊する医療体制への懸念、予防医療の重要性、コロナ政策の転換など多岐にわたり、最後に尾崎氏は、「やはり、国にしっかりやってもらうしかない。すでに国民は十分努力した。われわれも努力した。ここは、国がひと肌脱いでもらわないと」と力強く締めくくった。
※尾崎氏の「崎」の字のつくりは正しくは「立」に「可」。機種依存文字のため「崎」で代替させていただきます。