トランプ米大統領が米国時間の6月20日、イランへの軍事攻撃をいったん承認した後、攻撃直前に中止を命じた。
IWJが23日、複数の報道をまとめたところ、以下のような経緯となった。
イランへの軍事攻撃は、米国の無人偵察機「グローバルホーク」がイランに撃墜されたことに対する報復が目的で、イランのレーダー施設やミサイル発射施設などが標的となる予定だった。無人偵察機の撃墜場所を巡っては、イランが「領空内」と主張しているのに対し、米国は「国際空域」だったと主張している。
▲無人偵察機「グローバルホーク RQ-4」(Wikipediaより)
イランはグテーレス国連事務総長宛ての書簡で、米国による、この領空侵犯を提訴した。一方、米国はホルムズ海峡でのタンカー攻撃に関して、イランが行ったという証拠もなく、イランが認めていないにもかかわらず、イランを一方的に非難し、国連安保理の開催を要請した。国連では24日(日本時間25日)、安保理の臨時会合が開かれる見通しである。イランは安保理には出席できないが、イランの友好国である常任理事国のロシアや中国は拒否権を持っているため、米国の主張が通る見込みは薄いだろう。
トランプ大統領は150人の犠牲者が出ると聞いて攻撃を止めたとツイート、ワシントン・ポスト紙は死者数を把握した上で攻撃命令を出したとの政府当局者の話を報道
トランプ大統領は攻撃中止命令を出したことについて、21日、ツイッターで「昨夜、3か所への報復攻撃でどれくらいの死者が出るのかとたずねると、将軍は150人だと答えた。10分前に攻撃を止めた」と明かし、その後のNBCのインタビューにも「私が(作戦を)進めろと言えば恐らく30分以内に150人の死者が出ていた」「それは好ましくなかった。釣り合いが取れているとは思えなかった」と語っている。
▲ドナルド・トランプ米大統領(Wikipediaより)
トランプ大統領が直前まで犠牲者数を知らされていなかったとも取れる内容だが、ワシントン・ポスト紙では、政府当局者の話として、トランプ大統領は実は150人の死者が出ることを把握した上で報復攻撃の準備を命令していたと報じている。ワシントン・ポスト紙の報道が正しければ、トランプ大統領のツイートは事実ではない、ということになる。
また、トランプ大統領はNBCに米軍の爆撃機が「上空に待機していなかった」と語っているが、ニューヨーク・タイムズ紙は複数の政府高官の証言として「すでに攻撃対象に向かっていた」と報じており、ここでも食い違っている。トランプ大統領はNBCに「攻撃の最終的な承認は与えていなかった」とも語っている。
イラン攻撃に積極的だったのはポンペオ国務長官、ボルトン国家安全保障補佐官、ハスペルCIA長官
イラン攻撃を巡っては、トランプ大統領が政権幹部を集め、20日朝から計4回の協議を開いたと、ワシントン・ポスト紙が報じている。AP通信やニューヨーク・タイムズ紙によると、ポンペオ国務長官、ボルトン国家安全保障補佐官、ハスペルCIA長官らが攻撃に賛成する一方、ダンフォード統合参謀本部議長ら国防総省幹部や、議会有力議員らが慎重な対応を求めたとのことだ。
▲マイク・ポンペオ米国務長官(Wikipediaより)
▲ジョン・ボルトン米国家安全保障補佐官(Wikipediaより)
▲ジーナ・ハスペルCIA長官(Wikipediaより)
一方でトランプ大統領は20日昼、無人機撃墜について「イランは大きな過ちを犯した」としながらも、「おそらく、イランの軍上層部の1人あるいはそれ以外の人物が誤りを犯し、問題の無人機を誤って撃墜したのかもしれない」と、記者団に語り、イランの最高指導者の判断ではない可能性を示し、決定的対立を回避する姿勢をも示した。
また、ロイターは、トランプ大統領がオマーンを通じてイランに攻撃を通告しながら、「自分は攻撃に反対だ」として協議に応じるよう呼びかけたという、イラン政府関係者の証言を伝えている。イランはトランプ大統領のこの呼びかけを断ったとのことだ。しかし、イラン最高国家安全保障評議会のスポークスマンは、「米国からのメッセージは受け取っていない」と、このロイターの報道自体を否定している。ここでもまた、食い違いが見られる。
中止ではなく延期!? トランプ大統領が「命令撤回は誤報」とツイート!
トランプ大統領は23日、ツイッターで「誤報が広がっているようだが、私はイランへの攻撃命令を撤回したとは言っていない。現時点で前へ進めるのを止めたのだ」と発表している。
ツイートが事実ならば、米国のイラン攻撃の可能性はまだ続いているということになる。
ニューヨーク・タイムズ紙は、米国がタンカー攻撃や米無人機撃墜への対抗措置として、イランに対してサイバー攻撃を行っていたとも報じている。
米政権内でもイラン攻撃を強硬に主張するグループと抑制的なグループが存在し、トランプ大統領が強硬派をダシに使ってイランを交渉の場へ引き出そうとしたとの見方もあるようだ。また、トランプ大統領は中東からの米軍の撤退を掲げて大統領選に勝ったため、次期大統領選挙への影響を考えてイラン攻撃を思いとどまったとの見方もあるようだが、いずれも憶測の域を出ていない。
ロシアはイラン支援を表明、サウジは米国のイラン攻撃に期待か!?
以下は、各国の反応である。
英国は武力衝突を避けるため、外務省の高官が23日にイランを訪問すると発表。ロシアのリャブコフ外務次官は21日、石油輸出や金融分野でイランの取引を支援する用意があるとコメントしている。
▲セルゲイ・リャブコフ ロシア外務次官(Wikipediaより)
サウジアラビアのムハンマド皇太子は21日、トランプ大統領と今後の対応について電話協議したが、内容は不明とのことだ。サウジやアラブ首長国連邦(UAE)などイランと対立する中東の湾岸諸国は、タンカー攻撃をイランの犯行であると、米国に追随する主張をして、米国による強硬な対応を期待していた。
▲ムハンマド・ビン・サルマーン サウジアラビア皇太子(Wikipediaより)
参照:
米・イラン開戦で日本は巻き込まれる!? 2015年の安全保障関連法成立で「存立危機事態」なら集団的自衛権行使可能に!
日本国民として一番気になる点は、米国とイランの間で戦争が始まった場合、日本が巻き込まれる可能性はどうなのか、ということだろう。
IWJは22日、防衛省へ取材を試みたが、当直の職員は「土曜日なので報道室の担当者がいない」と、取材への対応を断った。
岩屋毅防衛相はタンカー攻撃を受け、6月14日の記者会見で、攻撃主体が特定されていないことと、エネルギー供給が途絶えるという「日本の存立危機事態」には当たらないとの判断から、「この事案で部隊を派遣する考えはない」と表明した。
▲岩屋毅防衛大臣 (2018年10月12日IWJ撮影)
ペルシャ湾からホルムズ海峡を通過してオマーン湾に至るシーレーンは、米中央軍第5艦隊を軸に米軍や湾岸諸国などで構成する多国籍軍が警戒に当たっている。
ポンペオ国務長官は、タンカー攻撃事件後に、中国、韓国、インドネシア、日本がホルムズ海峡の航行の自由に依存して経済的利益を得ていると主張して「自国の経済に与える真の脅威を理解すべきだ」と語っている。
2015年の安全保障関連法成立に際して、安倍総理はホルムズ海峡の機雷封鎖を繰り返しアピールした。米国とイランが開戦してホルムズ海峡が封鎖され、石油の輸入が滞って備蓄が枯渇する事態になれば、日本の「存立危機事態」として集団的自衛権の要件を満たし、ホルムズ海峡に機雷掃海のため自衛隊を派遣することが可能になる、と考えられる。
また、ペルシャ湾情勢が日本の平和・安全に重要な影響を与える「重要影響事態」に認定されれば、タンカーの護衛に当たる米艦船への給油など、後方支援活動も可能となる。
海上自衛隊の山村浩海上幕僚長は18日の記者会見で、海上自衛隊が派遣される可能性について、「政府の決定にもとづき行動するものだ」と答えている。