マティス国防長官の辞任書簡をIWJが仮訳掲載!~トランプ大統領が独断で決めたシリアからの米軍撤退にマティス国防長官が反発し、辞任へ! マティス氏を支持する声にいら立ったトランプ氏は退任を2ヶ月前倒しに! 2018.12.29

記事公開日:2018.12.29 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(仮訳:尾内達也、記事構成:IWJ編集部)

特集 中東

 米国は、2018年12月19日にシリアから米軍が完全撤退することを発表。翌20日には、マティス国防長官の辞任が発表された。

 トランプ大統領はシリアからの米軍撤退を選挙公約に掲げていたが、周囲から反対されていた。マティス国防長官やポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官らは「シリアからの米軍撤収は中東地域から手を引くことを意味し、敵国の影響力を高める」と反対を表明していたとされている。

▲ジェームズ・マティス氏(wikipediaより)

 19日の撤退発表は国家安全保障会議(NSC)の決定もなく、トランプ氏の独断で決められたとのことだ。

 トランプ大統領は12月14日のトルコのエルドアン大統領と電話会談中、エルドアン氏からIS(イスラム国)がほぼ打倒されたことを理由に、シリアからの米軍撤退を求められた。その米軍撤退要求に対し、「ならば自由にやってくれ。こちらはもうやめた」と、トランプ大統領はいら立ちながら言い放ったと報じられている。

▲レジェップ・タイイップ・エルドアン・トルコ大統領(wikipediaより)

 20日のマティス氏の辞任は、トランプ大統領の独断によるこのシリア撤退決定が決め手となったとされている。

 辞任に際しマティス氏がトランプ大統領にあてた書簡を、国防総省は公表した。そこには、「あなたはより自分の考えに沿った国防長官を持つ権利がある。私は身を引いた方がいい」と書かれていた。

 マティス氏はトランプ大統領のNATO加盟国への批判や在韓米軍縮小の姿勢に対立していたといわれている。

▲ドナルド・トランプ米大統領(wikipediaより)

 さらに12月23日、退任の日時が、2019年1月1日になったと、トランプ大統領がツイッターで発表した。マティス氏自身は、トランプ大統領にあてた書簡の中で2019年2月28日まで任務にとどまると表明していたので、2ヶ月前倒しになったことになる。

 これについてウォール・ストリート・ジャーナルは、国防総省の幹部の証言として、「マティス氏に同情的な声や、同氏が書いた辛辣な内容の辞表を支持する声が民主・共和両党から公然と出ていることを受け、いら立ったトランプ氏が退任前倒しの決断を下した」と報じている。

 米国の安全保障政策の中で重要な役割を担っていたマティス国防長官の辞任と合わせての米軍のシリアからの完全撤退は、中東のみならず世界全体で、軍事的な不安定要因となる可能性を持っている。米国の同盟国のみならず、ロシアや中国も警戒感を強めているようだ。

 これに関連して、岩上安身は以下のようにツイートしている。

 「シリア撤退の続編は、東アジアでも起こりうる。韓国の新聞は、早くも在韓米軍撤退の可能性に言及。日本の新聞は、在日米軍の撤退の可能性には全く触れない。まだ『新冷戦』への備えを、などと書いてる新聞も。米中間は今後も摩擦が続く。問題は日米同盟が自明の大前提ではないこと。早く気づくべき」

IWJは、マティス国防長官の辞任書簡を仮訳し、下記に掲載する。

マティス国防長官の辞任書簡をIWJが仮訳掲載

以下は、マティス国防長官の辞任書簡の仮訳テクストである。

親愛なる大統領殿
2018年12月20日

 私は我が国の第26代国防長官の職務を果たす栄誉に浴してまいりました。私は国防長官として、国防省スタッフと協力して、我が国市民と我が国の理想を守るという職務に奉仕できたのです。

 私は、国家防衛戦略に記された重要な目標のいくつかについて、この2年間で達成された進展を誇りに思っています。その進展とは、国防省の財政基盤を健全なものとし、我が軍の即応性と致死性を改善し、国防省のビジネスプラクティスを改革してパフォーマンスを上げたことです。我が軍は、紛争に勝利し米国の地球規模の強い影響力を維持するのに必要な能力を提供し続けています。

 私が常に抱いてきた一つの中心的な信念は、国家としての我々の力は、我々の独自で包括的な同盟とパートナーシップの力と密接不可分だということです。米国は自由世界の中で依然として必要不可欠な国家ですが、強い同盟を維持しなければ、そして、同盟国への敬意がなければ、我々は我々の利益を守ることはできませんし、市民と理想を守るという役割を効果的に果たすこともできません。大統領閣下と同じように、私も当初から米軍は世界の警察官になるべきではないと言ってきました。その代わりに、我々は米国の国力の持てるあらゆるツールを用いて共同防衛を提供しなければなりません。それはたとえば、我が国の同盟国に対して効果的なリーダーシップを発揮することです。NATOの29か国の民主国家は、9.11の米国攻撃の後、我々とともに戦う道を選んでくれました。74か国からなるISIS打倒連合はその最たるものです。

 同様に、我々はこうした諸国に対して、はっきりとした断固たる態度で向き合わなければならないと思います。こうした諸国の戦略的利害が、ますます我が国の利害と緊張関係を孕むようになってきたからです。たとえば、明らかに、ロシアと中国は、その権威主義的なモデル―他の国に対する経済・外交・安全保障の意思決定に対して拒否権を行使できる―を基準にして世界を構成し、隣人である米国や我が国の同盟国を犠牲にして自らの利益を追及しようとしています。だからこそ、我々は米国の国力の持てるすべてのツールを用いて共同防衛を提供しなければならないのです。

 同盟国には敬意をもって接するべきだという私の意見と、悪意あるアクターおよび戦略的競争者については現実的に考えるべきだという私の意見は、40年以上にわたるこの問題への私の没頭によってつかみ取ったもので、そういうものとしてお伝えしています。我々の安全保障や繁栄、価値にもっとも資する国際秩序を推進するためにできることはすべてやらなければなりません。我々がこうした努力の中で強くなれるのは同盟国との連帯があってこそ、なのです。

 大統領閣下は、この問題についても別の問題についても、あなたの意見により合う意見を持った国防長官を持つ権利がありますので、私は国防長官を辞任するのが正しいと思います。私の在職期間は2019年2月28日までですが、この日程は後任を指名・承認するのに十分な時間であるばかりでなく、議会のポスチャーヒアリングや2月に開催されるNATOの防衛大臣会合など、来るべきイベントにおいて、国防省の利益を適切に表現し守ることのできる十分な時間でもあります。さらに、この日程なら、9月の統合参謀本部議長の異動の前に、新しい国防長官への完全な移行が上手く行われ防衛省内の安定が確保できるでしょう。

 215万人の軍人と732,079人の国防省職員のニーズと利益に対して、絶えず国防省がひたむきな注意を向け、軍人とスタッフが米国人民を守るという24時間休みない重要な使命を果たすことができるように、スムーズな移行ができるように最善を尽くすことを誓います。

 国家と我が軍に仕える機会をいただけたことを心より感謝します。

ジェイムズ・マティス

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です