トランプによる唐突な米朝会談の中止発表と直後の撤回!「少々の揺さぶりでは南北平和への気持ちは崩れない」〜戦争の危機と国家間の駆け引きの中で韓国の市民は何を思うのか? 2018.5.31

記事公開日:2018.5.31 テキスト
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(取材・文:上杉英世)

 韓国と北朝鮮の両国首脳が手を携えて板門店(パンムンジョム)の軍事国境線を越えた、4月27日の歴史的な南北会談から1ヶ月後の5月24日、トランプ大統領が突如として、6月にシンガポールで予定されている米朝会談のキャンセルを発表した。

 しかし、その衝撃の中止発表からわずか2日後の5月26日には、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、電撃的な2度目の南北会談を開き、米朝首脳会談実現へ向けた意見交換を行った。

▲「警告 / アクセス禁止 この地域は軍事作戦地域につき民間人の出入りや写真撮影が規制されています。不正なアクセスをした場合、または不純分子と誤認された場合は射撃を受けることがあります。安全のためにアクセスを禁止しているので、ご協力ください」(軍事境界線よりイムジン河を望む 2018年3月 IWJ撮影)

 5月27日の午前10時には文在寅大統領が声明を発表し「金委員長が、一切の形式なしに会いたいという意向を伝えてきたので快諾した。今年4月の歴史的な板門店会談にも劣らず、友人の間での平凡な日常のように行われた今回の会談には、非常に大きな意味があった」と述べている。

 差し迫る米朝戦争の危機から、平昌オリンピックを機に一転して動き出した朝鮮半島の和平実現への動き、世界を驚かせた4月27日の板門店会談、そして、まさかの米朝会談キャンセル発言を受けた南北両首脳の迅速な対応。国同士の対応だけを見ていると、その慌しさに翻弄されてしまうが、韓国に住む人たちは、この間の事態をどのように見ているのだろうか?

 韓国の人々の思いを知るために、ソウル市在住のシム・ステファン氏、アキ・アン氏とイ・サンヒョン氏、そして滋賀県立大学准教授・河かおる氏にお話をうかがった。

軍事境界線のプロパガンダ用スピーカー撤去を開始したのは、南北和解実現の可能性を示している!

 今年3月の韓国長期取材の際に協力していただいた3人のソウル市民には、フェイスブックメッセンジャーを使っての取材を行った。まずは、通訳を務めてくださった、シム・ステファン氏に話をうかがった。

 シム・ステファン氏は、南北会談について、こう語った。

 「4月27日の南北会談は歴史的場面でした。あんなに早く実現するとは韓国の誰も思ってなかったと思います。若者の多くは、南北統一に関しては悲観的なんだけど、やっぱりみんな盛り上がっていましたね」

――5月24日にトランプが米朝会談をキャンセルした時は、どう思いましたか?

▲シム・ステファン氏(2018年3月20日 ソウル市・光化門にて)

 「4月の南北対談のあとで平和ムードが高まって、その状況を高く評価してたのに、『なんで今さら?』と思いました。トランプというのはもともとビジネスマンだから、国際外交をひとつのビジネスとして見てるのじゃないでしょうか? 今の状況がどう変わるのか慎重に見ないといけないとは感じています。でも昨日、2回目の南北会談をやったことには、今の状況を何とかしたいという韓国政府の強い意志を感じました」

――この2ヶ月の間、状況が慌ただしく動いていますが、戦争が終わる予感はありますか?

 「軍事境界線に南北両国が置いている、いくつかのプロパガンダ用のスピーカーの撤去が、5月に始まったんです。このことは、和解が実現できるということを表していると思います。今は、着実に前に進んでる感じがしますね」

トランプのキャンセル発言はショックだったが、2度目の南北会談実現で「また戻ってきたな!」と実感した

 続いて、兵役拒否者への支援や、「ソウル国際航空宇宙および防衛産業展示会」の現場で「武器監視キャンペーン」の非暴力直接行動をするなどして、韓国社会に戦争反対の声を届けている若者グループ「戦争のない世界」のアキ・アン氏に話をうかがった。

――4月27日の南北会談を見て、どう思いましたか?

 「すごく驚きました。本気でやればこんなにうまく行くのに、李明博(イ・ミョンバク)政権と朴槿恵(パク・クネ)政権のときにはできなかったので、本当にむかつきます」

――和平の動きが、こんなに早く進むとは思ってなかった?

 「すでに盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領時代の2007年に、南北会談とか様々な外交のためのベースは作られていましたから」

――それを李明博政権と朴槿恵政権がぶち壊したという感じですか?

 「なかなか進まなかった理由は、二つあると思います。ひとつは、李明博と朴槿恵を支持した保守系の人々は南北対話を望んでいなかった。ふたつめは、その時期には南でも、北朝鮮への敵対感情が高まっていた。そのふたつの理由から、南北対話が進まなかったのではないか、と思います」

▲アキ・アン氏(2018年3月15日 ソウル市にて)

――5月24日にトランプ大統領がキャンセル発言をして、26日には2回目の南北会談が行われるなど、状況がコロコロ変わっていますが。

 「トランプ大統領のキャンセル発言には正直驚きました。でも、和平に向けた状況は続いてると、すぐに気づきました。アメリカにとっては北朝鮮は国内政治で強力なカードだし、北朝鮮には普通の国家として国際政治に参加したいという長年の願いがあります。金正恩氏とトランプ大統領の利害が、そのように一致しているので、すぐに和平への動きに戻ると思っていました。それにしても、昨日の第2次南北会談には、本当に驚きました。驚きながらも『また戻ってきたな!』と実感しました」

金正恩委員長が話をする表情とか、文在寅大統領に接する態度を見て「すごくいい感じ」と思った韓国人はたくさんいる!

 その後、イ・サンヒョン氏にも話をうかがった。彼女は、先日配信した、歴史問題研究所や、サンヨン自動車での大量解雇に反対する断食闘争の取材をコーディネートし、現場では通訳をしてくださった。

――3月の取材では、誰に会っても南北対談のことを無条件に喜んでいたのが、すごく印象的でした。4月27日に金正恩委員長と文在寅大統領が軍事境界線を越えたのを見て、どう思いましたか?

 「二人が、互いに顔を見ながら話す姿がテレビに映った時、私も、一緒に見ていた知り合いも感動しました。その後に声明文が出て、その内容が、戦争を終わらせ、敵対行為をなくすようにするという内容だったので、本当にすごいな!と思いました」

――3月から、状況が良くなるという期待はあったと思いますが、4月の南北対談で、ものすごく盛り上がったという感じですか?

 「そうですね。北朝鮮に対しては悪い感情を持っている韓国人が多かったけど、金正恩の、話をする表情とか、文在寅に接する態度とかを見て、すごくいい感じだと思った韓国人はたくさんいました。ネットニュースのコメントとかを見ても『金正恩って、思ったよりナイス!』という感想がたくさんありました」

――2日前にトランプが一度、キャンセルを言った時は衝撃的だったと思いますが、その時はどうでしたか?

 「あれには腹を立てた人がたくさんいます。平和を壊すトランプに反対する、という青年のデモもありました」

――でも、すぐにまた南北会談があって、トランプも6月の米朝会談を予定通りやると言ってますね。韓国の人たちは今、どんなことを感じてるのでしょう?

▲イ・サンヒョン氏(2018年3月19日 ピョンテク市・サンヨン自動車工場にて)

 「トランプ大統領が、(米朝会談を)約束したにも関わらず勝手に(キャンセルを)決定するという姿勢には腹がたちます。やっぱり『力が強いからかな?』というのもありますし。

 でも私が思うのは、今までは、北朝鮮が敵だと考える人がたくさんいたけど、こんな局面になると、北朝鮮と大韓民国が仲間で、アメリカが平和に反対する敵じゃないか、と考える人がたくさん出てきたんじゃないかと思う。はっきり確認したわけじゃないですけど。とにかく、簡単には行かないだろうけど、和平への動きが再開したことは、すごくよかったなと思います」

南北会談への市民の高揚感と開催実現のインパクトは大きく、少々の揺さぶりでは「平和を取り戻そう」という気持ちは崩れない!

 朝鮮近代史が専門の河かおる滋賀県立大学准教授には、何度かIWJのインタビューにも登場していただいている。「キム・オジュンのニュース工場」という朝のラジオ人気番組などを欠かさずチェックし、ネットメディアを通じて韓国市民社会の動きをウォッチしておられる河氏に、3月から今にいたる状況が韓国のメディアではどのように語られているのかをうかがった。

――4月27日の南北会談はかなりのインパクトでしたが、韓国の人たちはどのように受け止めていますか?

 「3月に南北対談が決まってから、『遂に平和を手にできる』という強い高揚感に覆われていることが、番組のMCや番組に寄せられるコメントなどを通じて感じられました。もちろんこれまでの苦い経験から、ことが簡単には進まないのはわかっているけれど『一歩進んで二歩下がってでも、前進しよう』という気持ちが、韓国の多くの人に共有されていると感じます。

 両首脳が軍事境界線をまたいだ姿を見て、『これから、私たちがどんな未来を開いていくのか』という想像力が花開いた感じがありましたね。また、南の人が初めて、ライブで金正恩委員長を見たわけですが、彼が冗談を言ったり、疲れて眠そうな顔を見せる、などの姿を見て、多くの韓国人は彼にかなり親近感を抱いたようですね」

▲滋賀県立大学准教授・河かおる氏(2016年11月 IWJ撮影)

――しかし、5月24日のトランプ大統領による突然の米朝会談キャンセル発言は衝撃的でしたね?

 「『これから大変なこともあるだろうけど、なんとか進められそうだ』と思っていた矢先、しかも北朝鮮が核施設の爆破を実施した直後の、米国からの一方的なキャンセル発言でしたからね。『朝鮮半島の運命を自分たちだけで決められない』ことへの悔しさを、多くの韓国人があらためて感じたのではないかと思います。

 しかし、4月27日の南北会談の前から、市民の中での高揚感はものすごかったし、開催実現のインパクトも大きかった。この程度の揺さぶりでは、少なくとも南の人の『平和を取り戻そう』という気持ちは崩れないと思います」

――日本には、現政権をはじめとして、南北和平がうまくいかないことを望むかのような『それ見たことか』という冷笑的な空気がありますが、韓国ではそのような意見は見られますか?

 「例えば、保守政党である自由韓国党など、南北対話を『ショーだ』と言って冷笑する人々がいるのは確かです。しかし、多くの韓国人は、そのような態度に批判的です。平和への希望を抱く一方で、『ひょっとして、うまく行かないのではないか?』という不安を、本気で感じている人が多いと思います。

 トランプ大統領のキャンセル発言みたいな事があると、『こうなると思ってた』と冷笑的に言い出す人やメディアもありますが、『「こうなると思ってた」と言う奴は相手にするな』が、今、合言葉のようになっています」

 10回に渡る配信を先日終えた3月の韓国長期取材に関しては、順次、記事化していく予定なので、お待ちいただきたい。これからもIWJは可能な限り、既存マスメディアを通じてはなかなかわからない、国境を越えた市民レベルの実感をお伝えしたい。

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