「姿を見せない支配者が『嫌イスラム』を演出、世界を計画的にカオス化している」──東京大学名誉教授・板垣雄三氏が語るイスラム世界の歴史と現在 2015.4.18

記事公開日:2015.5.8取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

特集 中東

※5月8日テキストを追加しました!

 「これまでの世界秩序は大きく変わった。匿名寡頭制が世界を仕切り、計算ずくで世の中を混乱させて、無法状態を作り出している」──。

 東京大学名誉教授でイスラム学者の板垣雄三氏の講演会「イスラム世界の歴史と現在―〈近代〉をとらえなおす」が2015年4月18日、京都市左京区の京都大学で開催された。

 現在を「21世紀型カオス」と呼ぶ板垣氏は、ここに至るまでの中東とイスラム、ヨーロッパをめぐる複雑な歴史を紐解きながら、「断末魔に覆われている世界から抜け出すためには、近代ヨーロッパを基準にした思想の根本的な転換が必要だ」と説き、具体的な道筋を示していった。

 「オイルショック、湾岸戦争、9.11同時多発テロなど、数年おきに中東関係の騒ぎが起きては急速に忘れられていく。だが、今は様子が違う。切迫した空気を感じている」と述べた板垣氏は、そこで行われているのは、新自由主義を世界に行き渡らせるためのショック・ドクトリンであり、嫌イスラム(イスラムフォビア)を偽旗・替え玉で演出して、カオスを作り出している、とした。

 板垣氏からは、公的な説明は、そもそも陰謀である、という大胆な意見も発せられた。

 「人々は、9.11はアルカイダが首謀者だという一連の公的説明を疑わず、逆にその公的説明に疑いを持つと『陰謀論者』にされる」

 さらに、「21世紀の政治は変質した。マスコミ、ソーシャルメディア、学校教育を利用し、虚偽や欺瞞のマインドコントロールで愚民化を進め、人々を操作している」と指摘した。

記事目次

  • 主催あいさつ・スピーチ 岡真理氏(京都大学大学院人間・環境研究科教授)
  • 講演 板垣雄三氏(東京大学名誉教授)
  • 日時 2015年4月18日(土)14:00〜
  • 場所 京都大学吉田南キャンパス(京都市左京区)
  • 主催 ルネサンス研究所/岡真理研究室

無差別殺人を「野蛮」と感じない、洗脳された私たち

 主催者あいさつに立った京都大学大学院教授の岡真理氏は、「今日は、さまざまな中東関係のイベントが目白押しだ」と声をはずませ、京都市内で公開が始まった綿井健陽監督のドキュメンタリー映画『イラク チグリスに浮かぶ平和』やイマジンアラブ展覧会など、アラブ関連のイベントを紹介。「いろいろな意味で中東が注目されている今こそ、板垣先生のお話に耳を傾けるべき時だ」と述べて、次のように続けた。

 「21世紀になったにもかかわらず、中東では、国際法や人権、国連が存在しないかのような出来事が起きている。日本では『イスラム国』による邦人人質事件で中東に目を向けた市民が多いと思うが、シリアでは2011年以降、悲惨な内戦で1000万人が難民となり、イラクでも2003年から10年以上、そういう状態が続いている」

 また、「イスラム国」は確かに野蛮だが、それとは比較にならないような蛮行を、イスラエルは70年にわたってパレスチナに行っていると指摘し、「私たちは、欧米の国々が近代的な装備で行う蛮行を、野蛮だと認識しない」として、このように言い重ねた。

 「8年も封鎖が続くガザでは、昨年(2014年)、逃げ場のない2000人以上の住民がイスラエルの爆撃で殺された。ドローンのような最新兵器による殺傷は『文明的』で、野蛮な行為ではないかのように見なすのは、まさにオリエンタリズム。野蛮とは常に他者のものであり、それを上回る野蛮さを行使するわれわれは『文明的』だ、という考え方だ」

 岡氏は、「野蛮を野蛮と感じない私たちは、西洋中心主義的に編成されている自らの歴史観や世界認識を、批判的に理解し直さない限り、今起きていることの恐ろしさは見えてこない」と訴えた。

顔を見せない少数派が世界を仕切る「匿名寡頭制」

 続いて登壇した板垣氏は、「オイルショック、湾岸戦争、9.11同時多発テロなど、数年おきに中東関係の騒ぎが起きては急速に忘れられていく。だが、今は様子が違う。この危機は特別ではないかという切迫した空気を感じている」と講演の口火を切った。

 板垣氏は、「世界の破局」「たった70年で忘れる」「はやく死ぬが勝ち」「混戦・乱戦」「共倒れ」「人類共滅」との過激なフレーズをスクリーンに映し出すと、「第二次世界大戦の受け止め方が、この70年で非常に変わった。誰が正しいのかわからない状態だ。今、中東は崩壊状態に突き進んでいるが、中東だけで済む話なのか。すべての国家は破綻に直面しつつあり、日本も今の形を維持できるとは思えない。どうやっても、世界全体が良い方向には進まないのではないか」と懸念を表明した。

 また、「イスラム国」のように仏像を壊したり、博物館や石油施設への破壊行為を行うと非難されるが、化石燃料を燃やして環境を破壊し、富を享受していることには、私たちは罪悪感を持たない、と指摘。「大気汚染を理由にして推進する原発は、核兵器とリンクする。オイルマネーを土台にした金融工学。そこ結びついたグローバル軍産複合体が、次々に戦争をやって経済を循環させている」と続けた。

 板垣氏は、世界の石油の埋蔵量を基準に世界地図を描きなおすと、サウジアラビア、イラン、イラク、リビアなどが世界を支えていく構図になる、という。「しかも世界は、戦争をやめられない経済構造になっており、G20やAIIBはドルの崩壊を見越しているのだろう。これまでの世界秩序は大きく変わる。テロを防いで人を守るのではなく、逆に計算ずくで世の中を混乱させる。それを動かしているのが匿名寡頭制(姿を見せない少数者による支配体制)で、グローバル軍産複合体とともに世界を仕切り、無法状態を作り出している」と警鐘を鳴らした。

21世紀型カオス──嫌イスラムを演出してさらなる混沌へ

 板垣氏は、現在の状況を「21世紀型カオス現象」と呼び、それは、新自由主義を世界に行き渡らせるためのショック・ドクトリンであり、嫌イスラム(イスラムフォビア)を偽旗・替え玉で演出して、混乱させている、と推察する。

 2001年の9.11同時多発テロ。2008年の北京オリンピックに合わせたようなグルジア・ロシア戦争、リーマンショック。2009年初頭のイスラエルのガザ攻撃と米オバマ大統領就任に合わせた停戦。2015年のパレスチナ国家承認の動きとイスラエル戦争犯罪提訴、その真っ只中で起きた「フランス版の9.11」シャルリ・エブド事件──。

 これらを列挙していった板垣氏は、現在の中東諸国体制、つまり、サウジやヨルダンなど国を分けて思考すること自体が、西洋列強が作り出した仕組みであり、20世紀の中東の歴史は、帝国主義による国分けのシステムと、それを突き崩す勢力とのせめぎ合いであったことを解説した。

中東問題を他人事として見る日本人の知的怠慢

 イスラム過激派組織の「イスラム国」は、サイクス・ピコ協定(1916年)で決められた中東体制を打破すると主張している。しかし板垣氏は、「英仏が地図上の国分けを決めたサイクス・ピコ協定より、第一次世界大戦の戦勝国によるサンレモ会議(1920年)のほうが重要。イスラエルの建国も含めた、現在の中東のあり方を決定しているからだ」と述べて、サンレモ会議(イスラエル問題)には触れようとしないところに「イスラム国」の意図を汲み取れる、とした。

 また、「サンレモ会議をまとめる重要な役割を果たしていたのは、実は日本だ。よく『日本は、中東では手を汚していない』などと言うが、そうではない」と語り、続いてアラブ民族主義とイスラム復興運動の説明に移った。

 「アラブ民族主義の運動は、1960年頃から石油の国有化などの資源ナショナリズムを押し進め、中東諸国体制を打ち破ろうと試みた。それに連動してアフリカ諸国の独立があり、PLO(パレスチナ解放機構)が発足し、英仏は中東から退場していく」

 1970年代に入ると、日本赤軍のテルアビブ空港乱射事件が契機になって、イスラエルの反テロ戦争が始まる。「ここでも日本が深く関わっている」と板垣氏は指摘し、日本人が「遠い中東のことはよくわからない」と言うのは知的怠慢であり、そういうネガティブな姿勢は道義的に許されない、と厳しく釘を刺した。

 また、イスラムの抵抗運動の中では自爆テロが「カミカゼ」と呼ばれ、日本の神風特攻隊が手本にされていることにも言及し、「ここでもまた、日本は無関係ではない」と強調した。

予感された地獄──計算して世界をダメにする動き

 1979年のイラン革命を境に、1980年代からは、イスラム復興運動が中東諸国体制を突き動かすものになり、皮肉なことに、それがアラブの国々の分裂を助長してしまった、と板垣氏は語る。

 「そんな中、欧米はパレスチナ問題について、紛争を平和的に解決するという『中東和平論』を持ち出した。一方、湾岸戦争では多国籍軍によってアラブ民族主義を叩く。また、アフガニスタンでのイスラム復興運動はソ連解体につながり、パキスタンの核問題はイスラエルの核保有をうやむやにした」

 欧米の両面政策は、ある時はアラブ民族主義のイラクのバース党を支持し、かたや、アフガニスタンではムジャーヒディーン(ジハードに参加する戦士)のイスラム復興運動を利用し、両者を対立させたという。

 板垣氏は、このような20世紀のアラブ民族主義やイスラム復興運動の流れに対応する中で、前述した「計算ずくで世界をダメにしていく」動きが予見されていたのではないかと述べ、自身の研究の中にも、そのような「地獄の予感」があったと振り返った。

 例としてレバノン内戦を挙げた板垣氏は、「当時、ベイルートでは道を挟んで撃ち合いをしていたが、1本隣の路上ではアラブ将棋に笑い興じる人たちがいた。殺し合いと笑いが同居する事態。こういうものは、匿名寡頭制の内部者を洗い出して排除すれば解決するとは思えない。もっと、人間の奥深いところの、罪の側面に起因するのではないだろうか」と言葉を継いだ。

イスラムフォビアのグローバル化、その背景とは

(…会員ページにつづく)

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“「姿を見せない支配者が『嫌イスラム』を演出、世界を計画的にカオス化している」──東京大学名誉教授・板垣雄三氏が語るイスラム世界の歴史と現在” への 3 件のフィードバック

  1. 矢車 より:

    板垣先生がこれほどの絶望的な認識を、どのようにして穏やかにお話出来るようになられたのかに、希望を見たいと思います。

  2. うみぼたる より:

    板垣先生の最新のお話をお聞きしたくて、前半を聞いていろいろと考えています。
    マレーシアの中に位置するようなシンガポール。このシンガポール軍をイスラエルが作ったとなると、シンガポールに集まるマネーはイスラエル軍に思いやり予算のように流れているのだろうかとか、中国の西側に位置する新疆ウィグル自治区は農地改良の指導をイスラエルが行っているとなると、中国とウィグルのトラブルはイスラエルが関与しているのだろうかとか。
    沖縄島ぐるみ会議の島袋氏がスコットランドの研究をされていましたが、米軍に占領されている状態での自治権の拡大は、上記の地域の問題(実際にどんな問題があるのかはわかりませんが)が心配になります。
    縮小型のフル・スペクトラム・ドミナンスの入り口に見えてしまうのですが、特区の行く末がこうなってはいけません。
    中東の混乱の二の舞をアジアが続けてはいけません。

  3. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「姿を見せない支配者が『嫌イスラム』を演出、世界を計画的にカオス化している」──板垣雄三氏が語るイスラム世界の歴史と現在 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/242959 … @iwakamiyasumi
    いま行われているのは、新自由主義を世界に行き渡らせるためのショック・ドクトリン。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/605849629096148994

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